炭酸カルシウム – Wikipedia

炭酸カルシウム(たんさんカルシウム、calcium carbonate)は、組成式 CaCO3 で表されるカルシウムの炭酸塩である。

貝殻やサンゴの骨格、鶏卵の殻、石灰岩、大理石、鍾乳石、白亜(チョーク)、方解石、霰石の主成分で、貝殻を焼いて作る顔料は胡粉と呼ばれる。土壌ではイタリアのテラロッサに含まれる。

実験室では、水酸化カルシウム水溶液に二酸化炭素を吹き込むことで合成する(石灰水による二酸化炭素の検出原理)。

Ca(OH)2+H2CO3⟶CaCO3+2H2O{displaystyle {ce {Ca(OH)2 + H2CO3 -> CaCO3 + 2H2O}}}

Ca2+(aq)+CO32−(aq)⟶CaCO3{displaystyle {ce {Ca^{2+}(aq) + CO3^{2-}(aq) -> CaCO3}}}

(1) 焼成: 石灰石を高温で焼成することで脱炭酸し、生石灰を得る

CaCO3⟶CaO+CO2{displaystyle {ce {CaCO3 -> CaO + CO2}}}

CaO+H2O⟶Ca(OH)2{displaystyle {ce {CaO + H2O -> Ca(OH)2}}}

Ca(OH)2+H2CO3⟶CaCO3+2H2O{displaystyle {ce {Ca(OH)2 + H2CO3 -> CaCO3 + 2H2O}}}

[2]。他方、欧米では溶液法によって生産されることもある。

錠剤の基材、チョーク、窯業、農薬[3]、肥料、飼料などに用いられる他、填料としてゴム、プラスチック、接着剤、シーラント、紙、塗料、インキなど広範な工業分野で利用されている[4]。製紙では塗工紙向け顔料のほか、炭酸カルシウムを主原料にした紙も日本で開発されている[5]。研磨作用を利用し消しゴムや歯磨剤にも配合される。

化粧品原料、食品添加物としても使用が認められている。食品添加物としては栄養強化(カルシウム強化)を目的として乳飲料、即席麺等に添加される他、食感改善を目的として菓子やパン[6]、水産練り製品[7]等に添加される。

医薬品としては、胃酸過多に対して制酸剤として使われている。サプリメントとしてはpHアルカリ化用途に[要追加記述]販売されている。

無色結晶または白色粉末であり、中性の水にほとんど溶けないが、塩酸などの強酸と反応して、二酸化炭素を放出する。

CaCO3+2HCl⟶CaCl2+H2O+CO2{displaystyle {ce {CaCO3 + 2HCl -> CaCl2 + H2O + CO2}}}

[8]。
CaCO3↽−−⇀Ca2+(aq)+CO32−(aq),{displaystyle {ce {CaCO3 <=> Ca^{2+}(aq) + {CO3}^{2-}(aq),}}}

 Ksp=3.6×10−9[mol/L]2{displaystyle K_{textrm {sp}}=3.6times 10^{-9},{textrm {[mol/L]}}^{2}}

加熱することにより酸化カルシウムと二酸化炭素に分解する。二酸化炭素の解離圧が1気圧に達するのは 898 ℃ である。

CaCO3⟶CaO+CO2{displaystyle {ce {CaCO3 -> CaO + CO2}}}

CaCO3+CO2+H2O⟶Ca(HCO3)2{displaystyle {ce {CaCO3 + CO2 + H2O -> Ca(HCO3)2}}}

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結晶構造[編集]

カルサイト構造の模式図

固体結晶には常温常圧で最安定なカルサイト(三方晶系菱面体晶のもの、(方解石として産出)および準安定相であるアラゴナイト(直方晶系、霰石として産出)、不安定なヴァテライト(六方晶、ファーテル石)の構造多形が存在する
[9][10]。三方晶系の格子定数は a = 6.36 Å、α = 46.4°であり、斜方晶系では a = 7.92 Å、b = 5.72 Å、c = 4.94 Å である[11]

屈折率は三方晶系では通常光線に対して 1.6585、異常光線に対して 1.4864 の複屈折を示す。斜方晶系では 1.681(a軸に平行)、1.685(b軸に平行)、1.530(c軸に平行)と3軸不等である。

室温で塩基性の水溶液から炭酸カルシウムを析出させるとカルサイト結晶が生じるが、高温で析出させるとアラゴナイトが析出する。また、中性付近の溶液からだと最初はヴァテライトが析出する。

また、天然に産出する含水塩としてモノハイドロカルサイト CaCO3·H2O およびイカ石 CaCO3·6H2O が知られている。

コンクリーション(ノジュール)[編集]

自然界では、主にかつて海だった場所で、炭酸カルシウムを成分とする球状の岩石がしばしば見つかり、コンクリーション(Concretion)あるいはノジュール(Nodule)と呼ばれる。中に化石を含むことが多い。これらは海洋生物が死んで砂や泥に埋まると、その死骸から出た酸が海水中のカルシウムと反応して炭酸カルシウムを形成し、岩石として成長したと推測されている[12]

脚注・出典[編集]

  1. ^ Wagman, D. D.; Evans, W. H.; Parker, V. B.; Schumm, R. H.; Halow, I.; Bailey, S. M.; Churney, K. L.; Nuttal, R. I.; Churney, K. L.; Nuttal, R. I. (1982). “The NBS tables of chemical thermodynamics properties”. Journal of Physical Chemistry Ref. Data 11 Suppl. 2.
  2. ^ 白石恒二、1914年、日本特許第26117号。
  3. ^ 神戸賢 (2016). “新しい浮皮軽減剤クレント”. 柑橘 68: 16. 
  4. ^ 長谷川博 (1973). “軽質および極微細炭酸カルシウム工業の現状”. 石膏と石灰 122: 33. 
  5. ^ 【フォーカスワイド】世界を変える素材力/石灰石が紙・容器に サウジ政府も関心/TBM、100%バイオ由来材料も『日経ヴェリタス』2018年9月30日(10面)2018年10月26日閲覧。
  6. ^ 『ファミマとサークルKサンクスが「牛乳一本分のカルシウム入りパン」発売 伊藤忠が材料納品』SankeiBiz』2013年10月10日。2019年4月4日閲覧。
  7. ^ 千葉亮 (2016). “新規炭酸カルシウムの水産練り製品への応用”. 月刊フードケミカル 32: 53. 
  8. ^ 中原昭次、小森田精子、中尾安男、鈴木晋一郎『無機化学序説』化学同人、1985年。ISBN 978-4759801187。
  9. ^ Jamieson, J. C. (1953). “Phase equilibrium in the system calcite-aragonite”. J. Chem. Phys. 21: 1385. 
  10. ^ Plummer, L. N. (1982). “The solubilities of calcite, aragonite and vaterite in CO2-H2O solutions between 0 and 90oC, and an evaluation of the aqueous model for the system CaCO3-CO2-H2O”. Geochim. Cosmochim. Acta 46: 1011. 
  11. ^ 『化学大辞典』 共立出版、1993年。
  12. ^ Generalized conditions of spherical carbonate concretion formation around decaying organic matter in early diagenesisScientific Reports volume 8, Article number: 6308 (2018) 2018年8月16日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]