狂犬病(きょうけんびょう、英語: rabies)は、ラブドウイルス科リッサウイルス属の狂犬病ウイルス (Rabies virus) を病原体とするウイルス性の人獣共通感染症である[1]。すべての哺乳類に感染しうる[2]。水などを恐れるようになる特徴的な症状があるため、恐水病(きょうすいびょう)または恐水症 (きょうすいしょう、英: hydrophobia) と呼ばれることもある。実際は水だけに限らず、音や風も水と同様に感覚器に刺激を与えて痙攣などを起こす。 毎年世界中で約5万人の死者を出しているウイルス感染症であり、一度発症すると99.99%以上の確率で死亡する。後述の通り生存例もきわめてまれにあるが、後遺症が残る。狂犬病による死者の95%以上はアフリカとアジアで発生している[1][3]。感染した動物に噛まれた人の40%は、15歳未満の子供であった[1]。ただし、狂犬病はワクチンによって予防できる疾患でもあり、ヒトからヒトへの伝播がなく、大流行につながる恐れもないことから、感染症対策の優先度は低くなる傾向がある[4]。ただし、ヒトからヒトの感染は狂犬病に感染した患者がほかの人に噛みついたり、患者から採血し終わったあとの針を誤って医療従事者が刺したりしてしまえば感染はあり得るので、可能性はきわめて低いがゼロではない。 日本では、1956年のヒトとイヌ、1957年のネコを最後に撲滅されている(近年の輸入例については後述)。感染症法に基づく四類感染症に指定されており(感染症法6条5項5号参照)、イヌの狂犬病については狂犬病予防法の適用を受け(狂犬病予防法2条参照)、ウシやウマなどの狂犬病については、家畜伝染病として家畜伝染病予防法の適用を受ける(家畜伝染病予防法2条及び家畜伝染病予防法施行令1条参照)。 日本では、咬傷事故を起こした動物は、狂犬病感染の有無を確認するため、捕獲後2週間の係留観察が義務づけられている。係留観察中の動物が発症した場合はただちに殺処分し、感染動物の脳組織から蛍光抗体法で、狂犬病ウイルス抗原の検出を行う[5]。 症状(ヒト)[編集] 潜伏期間は、咬傷の部位によって大きく異なる。咬傷から侵入した狂犬病ウイルスは、神経系を介して脳神経組織に到達して発病するが、その感染の速さは、日に数mmから数十mmと言われている。したがって顔を噛まれるよりも、足先を噛まれる方が、咬傷後の処置の日数が稼げることとなる。脳組織に近い傷ほど潜伏期間は短く、2週間程度。遠位部では数か月以上、2年という記録もある[6]。 前駆期には風邪に似た症状のほか、咬傷部位皮膚の咬傷部は治癒しているのに「痒み」や「チカチカ」などの違和感[7]、熱感などがみられる。急性期には不安感、恐水症状(水などの液体の嚥下によって嚥下筋が痙攣し、強い痛みを感じるため、水を極端に恐れるようになる症状)、恐風症(風の動きに過敏に反応して避けるような仕草を示す症状)、興奮性、麻痺、精神錯乱などの神経症状が現れるが、脳細胞は破壊されていないため意識は明瞭とされている[8]。腱反射、瞳孔反射の亢進(日光に過敏に反応するため、これを避けるようになる)もみられる。その2日から7日後には脳神経や全身の筋肉が麻痺を起こし、昏睡期に至り、呼吸障害によって死亡する。 典型的な恐水症状や脳炎症状がなく、最初から麻痺状態に移行する場合もある。その場合、ウイルス性脳炎やギラン・バレー症候群などの神経疾患との鑑別に苦慮するなど診断が困難を極める[9]。恐水症状は、喉が渇いていても水に恐怖を感じてしまうため、苦しむ動物や人間は多い。 狂犬病を発病したイヌ 一般には感染した動物の咬み傷などから唾液とともにウイルスが伝染する場合が多く、傷口や目・唇など粘膜部を舐められた場合も危険性が高く、感染コウモリが住む洞窟内での飛沫感染もある[10]。狂犬病ウイルスはヒトを含むすべての哺乳類に感染し、昔は感染源のほとんどがイヌであった。近年はネコやコウモリ、サル、アライグマ、イタチ、アナグマ、タヌキなど、イヌ以外の野生動物が感染源として増加している。通常、ヒトからヒトへ感染することはないが、角膜移植や臓器移植によるレシピエント(移植患者)への感染例がある[11]。 リッサウイルス属に属するウイルスは、遺伝子解析、血清型の分析から、下記の7つの遺伝子型 (Genotype) に分類される[12][13]。
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