アストゥリアス州 – Wikipedia

アストゥリアス州(アストゥリアスしゅう、西:Principado de Asturias、アストゥリアス語:Principáu d’Asturies)は、スペインを構成する自治州の一つ。原語名はアストゥリアス公(Príncipe de Asturias)の領土を意味する。アストゥリアス州はアストゥリアス県1つからなる一県一州の自治州である。州都はオビエド。

イベリア半島の北部に位置し、東はカンタブリア州、南はカスティーリャ・イ・レオン州、西はガリシア州に接し、北岸はカンタブリア海に面している。

地勢[編集]

アストゥリアス州の地理の特徴は、起伏の多い海岸線と、内陸の険しい山地である。海岸線は長く、多くの砂浜、入り江、海岸洞窟がある。険しい崖に区切られた美しい砂浜は、リゾート地となっている。山地では、登山、ハイキング、スキー、ケイビングが楽しめる。

州の西から東に連なるカンタブリア山脈は、南のレオン県との自然県境になっている。山脈のうち州東部の部分は、ピコス・デ・エウローパ(直訳では「ヨーロッパの頂」)と呼ばれ、最高峰は2,648mのトレセレド山である。この地域は、アストゥリアス、カンタブリア、カスティーリャ・イ・レオンの3州にまたがるピコス・デ・エウローパ国立公園として保護されている。

気候[編集]

アストゥリアスを含むスペイン北部の気候は、中央部や南部に比べて変化に富んでおり、エスパーニャ・ベルデ(緑のスペイン)と呼ばれる。夏は温暖で湿度が高く、晴天が多いが雨も降る。冬は厳しくはないが、急激に冷えることもある。内陸の山地では11月から5月まで雪が降る。年間の降水量は900mm程度で、内陸ほど増える。

人口[編集]

世界遺産のひとつ、サン・ミゲル・デ・リーリョ教会

アストゥリアスはカンタブリアとともに、険しい地形のためにローマ時代、西ゴート時代を通じて中央の実効支配の及ばない地域であった。8世紀初頭にイスラム勢力に征服されたが、718年ごろに伝説的な王ペラーヨがコバドンガの戦いで初めてイスラム軍を破ったといい、のちにこの勝利がレコンキスタの出発点と見なされるようになった。ペラーヨを祖とするアストゥリアス王国はカンガス・デ・オニス、のちにオビエドを首都とし、10世紀にレオンに遷都してレオン王国となった。

1388年、カスティーリャ王フアン1世は、王子エンリケ(エンリケ3世)に「アストゥリアス公」(Príncipe de Asturias)の称号を与えた。これが、カスティーリャ王国、のちスペイン王国の王位継承者の称号となり、現在のレオノール王女まで続いている。

19世紀からは炭鉱の開発が進み、鉱工業が発展した。20世紀前半には、アストゥリアスは労働運動の牙城となった。1933年にスペインに右派の政権が誕生すると、1934年10月に労働者が「アストゥリアス革命」を起こしたが、のちに独裁者となるフランコ指揮の政府軍に鎮圧された。

アストゥリアスは19世紀の県制度導入によって「オビエド県」となっていたが、1978年憲法によって自治州制度が導入されると、1981年12月30日に一県一州としてアストゥリアス自治憲章が承認された。一県一州となったのは、レコンキスタの出発点という歴史や、産業発展に対する自信によっている。

アストゥリアス州の公用語はカスティーリャ語[8](スペイン語)だが、アストゥリアス州の固有の言語はアストゥリエス語(アストゥリアス語、伝統的にはバブレと呼ばれた)で、州固有の言語として法律で保護されている[9]。アストゥリエス語の日常的話者はおよそ10万人で[10]、そのほかに第2言語等で言語能力を有する者が45万人以上いるとされる[11]。話者の多くが山間部の集落に居住する。

アストゥリエス語は、バスク語を除くイベリア半島の諸言語同様、俗ラテン語から変化したロマンス語(イベロ・ロマンス語)のひとつで、カスティーリャ語から派生したものではないが、しばしばスペイン語(カスティーリャ語)の方言として扱われているのが現状である。

州西部エオ=ナビア地域ではガリシア語が話されている。

行政区画[編集]

ペニャス岬と大西洋

主な自治体 (2010年)[編集]

アストゥリアス州には78の自治体がある。最大の都市はヒホン。

順位 自治体 人口[7]
1 ヒホン 277,198
2 オビエド 225,155
3 アビレス 84,202
4 シエーロ 51,730
5 ラングレーオ 45,397
6 ミエーレス 43,688
7 カストリジョン 22,832
8 サン・マルティン・デル・レイ・アウレリオ 18,549
9 コルベーラ・デ・アストゥリアス 16,109
10 ビジャビシオーサ 14,840

コマルカと自治体[編集]

司法管轄区[編集]

アストゥリアス州の司法管轄区

州内は18の司法管轄区に分けられる[12][13]

  1. カンガス・デ・ナルセーア司法管轄区カンガス・デ・ナルセーア、デガーニャ、イビアス[14]
  2. レーナ司法管轄区アジェール、レーナ、キロス[15]
  3. カンガス・デ・オニス司法管轄区アミエーバ、カンガス・デ・オニス、オニス、パーレス、ポンガ、リバデセージャ[16]
  4. アビレス司法管轄区アビレス、カストリジョン、コルベーラ・デ・アストゥリアス、ゴソン、イージャス[17]
  5. グラード司法管轄区ベルモンテ・デ・ミランダ、グラード、プロアーサ、サラス、ソミエード、テベルガ、ジェルネス・イ・タメーサ[18]
  6. シエロ司法管轄区ビメーネス、ノレーニャ、サリエーゴ、シエロ[19]
  7. カストロポル司法管轄区カストロポル、エル・フランコ、グランデス・デ・サリーメ、ペソス、サン・マルティン・デ・オスコス、サン・ティルソ・デ・アブレス、サンタ・エウラリア・デ・オスコス、タピア・デ・カサリエーゴ、タラムンディ、ベガデーオ、ビジャヌエバ・デ・オスコス[20]
  8. ヒホン司法管轄区カレーニョ、ヒホン[21]
  9. ラビアーナ司法管轄区カソ、ラビアーナ、サン・マルティン・デル・レイ・アウレリオ、ソブレスコビオ[22]
  10. オビエド司法管轄区ジャネーラ、オビエド、ラス・レゲーラス、リベーラ・デ・アリーバ、サント・アドリアーノ[23]
  11. ジャーネス司法管轄区カブラーレス、ジャーネス、ペニャメジェーラ・アルタ、ペニャメジェーラ・バッハ、リバデデーバ[24]
  12. ミエーレス司法管轄区ミエーレス、モルシン、リオーサ[25]
  13. ラングレーオ司法管轄区ラングレーオ[26]
  14. ティネーオ司法管轄区アジャンデ、ティネーオ[27]
  15. バルデス司法管轄区ボアル、コアーニャ、イジャーノ、ナビア、バルデス、ビジャジョン[28]
  16. プラビア司法管轄区カンダーモ、クディジェーロ、ムーロス・デ・ナロン、プラビア、ソト・デル・バルコ[29]
  17. ビジャビシオーサ司法管轄区カラビア、コルンガ、ビジャビシオーサ[30]
  18. ピローニャ司法管轄区カブラーネス、ナバ、ピローニャ[31]
2011年5月22日の自治州選挙
政党 得票数 得票率 獲得議席
FAC 177,588 29.75% 16
FSA-PSOE 177,714 29.77% 15
PP 118,930 19.92% 10
IU-LOS VERDES 61,513 10.30% 4

政党[編集]

  • アストゥリアス市民フォーラム(FAC、Foro de CiudadanosまたはForo Asturias) – アストゥリアスの地域政党。アストゥリアス国民党が分裂することによって2011年1月19日に結党された。2011年5月22日の自治州選挙で177.588票を獲得(得票率29.75%)16議席を獲得。同州の政治勢力第一党となった。

美術[編集]

文学[編集]

スポーツ[編集]

食文化[編集]

世界遺産[編集]

オビエドなどにはアストゥリアス王国時代の教会が残されている。西ゴートの様式を受け継いだ8世紀から10世紀の建築物で、「オビエドとアストゥリアス王国の建築物」(1985年、1998年拡大、文化遺産)としてユネスコの世界遺産に登録された。

  1. ^ http://www.asturias.es/Asturias/descargas/imagen_institucional/estatuto.pdf
  2. ^ ガリシア語の東部方言のひとつで、エオ川とナビア川で挟まれた地域で話されている。アストゥリアス州の言語政策に関する法律である「1998年3月23日の法律第1号バブレ/アストゥリアス語の使用と奨励」では、アストゥリアス・ガリシア語(gallego/asturiano)という名称が使われているが、近年エオナビア語という名称も提唱されている。これらの名称を巡って一部政治問題化している。
  3. ^ DRAE: asturiano, na.
  4. ^ a b Contabilidad Regional de España.(スペイン国立統計局)
  5. ^ Ley 5/1984, de 28 de junio, por la que se instituye el Día de Asturias
  6. ^ Poblaciones de hecho desde 1900 hasta 1991. Cifras oficiales de los Censos respectivos.
  7. ^ a b c Cifras oficiales de población resultantes de la revisión del Padrón municipal a 1 de enero.
  8. ^ スペイン1978年憲法では序文第3条第1項に公用語の規定があり、”El castellano es la lengua española oficial del Estado.”。訳文は「カスティーリャ語は国家の公的なスペインの言語である。」という記述で、言語名としては“el castellano”(カスティーリャ語)が使用され、“el español”(スペイン語)という語は使われず、また表現もかなり持って回ったような表現が使われている。また、同条第2項では”Las demás lenguas españolas serán también oficiales en las respectivas Comunidades Autónomas de acuerdo con sus Estatutos.”とあり、「そのほかのスペインの言語も自治憲章での決定(合意)に基づきそれぞれの自治州内において、公用語とすることができる(表現は未来時制が使われ、~なるであろうとある)」とある。アストゥリアス州ではアストゥリエス語に対してそのような手続きをとっていない。原文については以下で見ることができる:Agencia Estatal Boletín Oficial del Estado, Ministerio de la Presidencia, Gobierno de España (スペイン語), Constitución española, オリジナルの2013年2月28日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20130228042513/http://www.boe.es/legislacion/enlaces/documentos/ConstitucionCASTELLANO.pdf 2013年5月12日閲覧。 
  9. ^ アストゥリアス自治州憲法ではアストゥリエス語(アストゥリアス語)はバブレという名称で序文第4条で言及されている。同条第1項では、「バブレ(アストゥリエス語のこと)は保護を受けるであろう。」とあり、同第2項では「州の法律がバブレの保護、使用と奨励を規定するであろう」とある。原文は以下で見ることができる:Junta General del Principado de Asturias (スペイン語), El Estatuto de Autonomía, オリジナルの2009年1月16日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20090116020349/http://www.jgpa.es/portal.do?TR=C&IDR=45 2013年5月12日閲覧。 1998年3月23日の法律第1号バブレ/アストゥリアス語の使用と奨励(Ley 1/1998, de 23 de marzo, de uso y promoción del bable/asturiano)の第1章一般的規定(総則)第1条伝統言語で「バブレ/アストゥリアス語はアストゥリアスの伝統言語として保護を受けるであろう。アストゥリアス自治州(政府)はその使用と普及、教育を促進(奨励)するであろう」と定められた。原文は以下で見ることができる: (スペイン語) Boletín oficial de Principado de Asturias, Principado de Asturias, (1998-03-28), http://www.asturias.es/bopa/1998/03/28/19980328.pdf#search=”Ley+1%2F1998%2C+de+23+de+marzo%2C+de+uso+y+promoci%C3%B3n+del+bable%2Fasturiano” 2013年5月12日閲覧。 
  10. ^ Asturian, Language of the World” (英語). Ethnologue. 2013年5月12日閲覧。
  11. ^ Lengua Asturiana” (スペイン語). PROEL. 2013年5月12日閲覧。
  12. ^ Partidos judiciales de la provincia de Asturias
  13. ^ 第16管轄区は自治体ソト・デル・バルコと、それ以外の自治体とに分けられる下位区分が存在する
  14. ^ Cangas del Narcea, partido judicial nº1 de Asturias
  15. ^ Lena, partido judicial nº2 de Asturias
  16. ^ Cangas de Onís, partido judicial nº3 de Asturias
  17. ^ Avilés, partido judicial nº4 de Asturias
  18. ^ Grado, partido judicial nº5 de Asturias
  19. ^ Siero, partido judicial nº6 de Asturias
  20. ^ Castropol, partido judicial nº7 de Asturias
  21. ^ Gijón, partido judicial nº8 de Asturias
  22. ^ Laviana, partido judicial nº9 de Asturias
  23. ^ Oviedo, partido judicial nº10 de Asturias
  24. ^ Llanes, partido judicial nº11 de Asturias
  25. ^ Mieres, partido judicial nº12 de Asturias
  26. ^ Langreo, partido judicial nº13 de Asturias
  27. ^ Tineo, partido judicial nº14 de Asturias
  28. ^ Valdés, partido judicial nº15 de Asturias
  29. ^ Pravia, partido judicial nº16 de Asturias
  30. ^ Villaviciosa, partido judicial nº17 de Asturias
  31. ^ Piloña, partido judicial nº18 de Asturias

参考文献[編集]

  • 『新訂増補 スペイン・ポルトガルを知る事典』平凡社、2001年、7-8頁

関連項目[編集]

外部リンク[編集]