講談社BOX – Wikipedia

講談社BOX(こうだんしゃボックス)は、講談社が2006年11月から発行している書籍レーベル、及び講談社の部署名。

小説のみにとどまらず、漫画、批評書も刊行しており、「ハイブリッド・レーベル」を標榜している。銀の箱に入った装丁が特徴だったが、2010年11月からは講談社BOX新人賞“Powers”受賞作の専用レーベル「Powers BOX」が異なる装丁で並行して刊行され、末期はソフトカバーでの刊行が主体となっていた。

創刊当初から講談社BOX新人賞を主催し、積極的に新人作家・イラストレーターを世に出していた。また、2008年から2009年にかけて雑誌『パンドラ』を刊行し、2011年2月からは電子雑誌『BOX-AiR』を刊行していた。

講談社文芸図書第三出版部所属で文芸誌『ファウスト』編集長の太田克史が、2006年10月に新設された海外文芸出版部へ異動したことから、特例に近い形で創刊された。キャッチコピーは 「Everything is Boxed, KODANSHA BOX. 開けるのは“あなた”です。」。

初代部長だった太田は2008年12月に部長を退任し、星海社を設立。代わりに講談社ノベルスで島田荘司、竹本健治、綾辻行人、麻耶雄嵩などを担当していた秋元直樹が二代目部長となった(2008年12月〜)。その後、2011年3月の公式メールマガジンで「P」が三代目部長になったことが報告された。「P」こと佐藤辰宣は後に2016年から2019年まで『群像』編集長を務めている。

小説・漫画・批評を「銀の箱」という統一フォーマットで刊行していたが、箱に入っていない「講談社BOXピース」も刊行しており、末期は箱の色や形状が作品ごとに変えられたり、ソフトカバーでの刊行も多かった。また、創刊当初から講談社BOX新人賞を主催し、2008年から2009年は『ファウスト』から枝分かれする形で、雑誌『パンドラ』も刊行していた。刊行冊数は2009年5月の鏡征爾『白の断章』で100冊に到達したが、これは銀の箱に入った刊行書籍のみをカウントしている。

初期から中期にかけては、採算を度外視した特別企画も多く行っていた。これには新人批評家を選考・育成しデビューさせる『東浩紀のゼロアカ道場』(2008年3月〜2009年8月)、参加者16名全員の漫画家デビューを目指す『西島大介のひらめき☆マンガ学校』(2009年7月〜)、クリエーターと読者が集う場所を作る『KOBOCAFE』(2008年5月〜8月)などがあった。また、一時期、amazon.co.jp内に公式コーナーが設置されていた[1]、作家へのインタビューなどが読めるほか、女優の多部未華子や声優の中原麻衣によるレビューを載せるなど、積極的にPRが行われていた。

太田克史部長時代の講談社BOX編集部は、2007年に建設された講談社第1別館(新)にオフィスがあり、本館と隣接しているとはいえ、別の場所にあったことから、「部独自のカルチャーみたいなもの」が次第に生まれつつと太田は述べていた。毎日編集部に作家が遊びにくるようなところは、講談社の他の書籍系の編集部にはなく、そのことを誇りに思っているという。[2]

2010年、2008年に講談社BOXの企画編集から離れていた太田克史が新会社・星海社を立ち上げ、副社長に就任。それに伴い、西尾維新以外の主力作家が流出[3]。上記の特別企画はすべて見直しとなり、『パンドラ』は休刊。編集人員や作家の不足から刊行点数も減少していく。講談社BOXの創刊は2003年創刊の『ファウスト』が成功したことを背景としていたが、ライトノベルとジャンル小説、文学の融合というゼロ年代の文芸ムーブメントが沈静化し、西尾維新、舞城王太郎、佐藤友哉、奈須きのこなどに続くスター作家の台頭もなかったことから、2009年頃から失速しつつあった。そして、講談社BOXと星海社のレーベル分裂は衰退への決定打となった。

創刊時の講談社内での位置づけは、「講談社文芸局 海外文芸出版部 講談社BOX編集部」で、講談社が新設した文芸局海外文芸出版部の中へ入れ子細工のように「講談社BOX」編集部が作られていた[4]。その後は「文芸局講談社BOX」という扱いを経て、2013年10月、文芸図書第三出版部へ統合。文芸シリーズ出版部となったが、2015年8月、新レーベル・講談社タイガ創刊に伴い、作家陣の整理が行われたことが公になる[5]。『パンドラ』休刊後、キングレコードの参画で創刊した電子雑誌『BOX-AiR』も、2015年7月刊の52号を最後に終刊した[6]

講談社BOX 西尾維新「〈物語〉シリーズ」

以降は、西尾維新「〈物語〉シリーズ」「忘却探偵シリーズ」とノベライズの刊行レーベルとして名前を残しているが、それ以外のシリーズは刊行されていない。

2020年3月、公式サイトの消滅が確認された。

刊行内容[編集]

小説作品は、当初は講談社の文芸誌『メフィスト』『ファウスト』『群像』などに掲載された作品を刊行していたが、創刊から1年半ほどしてから講談社BOX新人賞受賞者の作品の刊行を開始し、以来、多くの新人作家を輩出した。

また、創刊直後の2007年1月から、作家が12か月連続で単行本を刊行する「大河ノベル」の企画が実施され、2009年まで3年間続けられた。

講談社BOXからデビューした作家一覧
  • 講談社BOX新人賞 大賞、Powers受賞者
鏡征爾、至道流星、杉山幌、ウノサワスバル、新沢克海、神世希、湊利記、森野樹、浅倉秋成、円山まどか、織守きょうや
  • 講談社BOX新人賞 優秀賞、Talents受賞者
小柳粒男、泉和良(小説デビュー以前に、ゲームクリエーターとして活躍している)、黒乃翔、天原聖海、梓、岩城裕明、架神恭介(受賞以前から小説以外の書籍は刊行していた)、手代木正太郎
  • 講談社BOX新人賞 あしたの賞受賞者
小仙波貴幸(あしたの賞受賞後、『パンドラ』の下剋上ボックスよりデビュー)、森川智喜(あしたの賞受賞後、『パンドラ』の下剋上ボックスよりデビュー)
針谷卓史(三田文学新人賞受賞後、講談社BOXより単行本デビュー)、円居挽(『パンドラ』の下剋上ボックスよりデビュー)、藍内友紀(「ササクラ」名義で第5回BOX-AiR新人賞よりデビュー)

漫画作品は1990年代にヤングマガジン系などで一度発売された作品の復刊がほとんどだが、まだ別レーベルで手に入るものを刊行していたケースもあり、海外のウェブコミックを単行本化した『メガトーキョー』などもあった。後年、『パンドラ』や『ファウスト』に掲載された新作漫画は、KCデラックス(講談社の漫画レーベル)として刊行されている。

批評・ノンフィクションでは、東浩紀や渡辺浩弐の著作が刊行されていた。批評・ノンフィクションは、新書がサラリーマン世代の読み物となってしまっている現状では、10代や20代に届くはずの批評も届いていない現状を変えたいという考えで出版されていた。初代部長の太田克史は「『搾取される若者たち―バイク便ライダーは見た!』(阿部真大、集英社新書、2006年)は新書で販売されているから若者に届かないだけで、これが講談社BOXだったら届く」と、講談社BOXが批評を出版する意味を語っていた。

取り扱う作品の作風は、漫画作品も含めて「思春期の自意識」をテーマにした作品が多かったが、雑誌『パンドラ』のキャッチコピーだった「思春期の自意識を生きるシンフォニー・マガジン」という言葉は、2009年4月発売のVol.3から「文芸と批評とコミックが「交差」(クロスオーバー)する講談社BOXマガジン」に変更されており、『パンドラ』Vol.3の編集後記では、今後の出版傾向の変更が示唆されたが、Vol.4を最後に刊行を休止した。

装丁[編集]

銀色の紙ケースにB6判ソフトカバーを収納する、という特徴的な装丁を採用している。カバーなどは無く、通常の帯の代わりに箱に丸いシール(ステッカー)が貼付される。このアイデアは清涼院流水によるもの[7]。シールは、全て職人の手作業で貼られており、斜めになっている理由は、部長の太田克史が斜に構えているからだという[8]

この仕様はコスト高の要因となり、初刷部数が低下した末期は、西尾維新の「〈物語〉シリーズ」以外、シリーズの続編でもソフトカバーでの刊行となった。

世界最強の出版レーベル[編集]

講談社BOX開始時には「世界市場で同時展開する“世界最強の出版レーベル”を目指してスタート」というようにその目的が説明されており、「講談社BOXのラインナップが50点、100点と重なっていったとき、世界の出版社と手を組んで、そのラインナップを世界の“受け手”に同時に届けていきます」[9]とされていた。

創刊の2年後の2008年12月、初代部長の太田克史は「創刊当初からの志でもあった“世界最強の出版レーベルを目指す”世界展開についても、先だってのフランクフルトブックフェアへの参加などの活動が功を奏し、現在、世界各国から順調にオファーが入ってきている」[10]と述べていた。

2008年10月にドイツのフランクフルトで行われた「フランクフルト・ブックフェア」の様子は後日講談社BOX公式サイトで公開される予定だったが、実際には公開されなかった。

講談社BOX新人賞[編集]

出版企画[編集]

大河ノベル[編集]

大河ノベル(たいがノベル)とは、ある作家が一年間、12か月連続でシリーズ作品を刊行する企画である。12か月連続刊行という試みは日本文芸界[11]、そして世界出版界でも史上初とされる。12か月連続刊行にあたって「書き溜め」を禁止していた。

2007年の清涼院流水・西尾維新、2008年の島田荘司、2009年の定金伸治と、3年間で計4人の作家がこの企画に参加した。ただし、当初の予定通り12か月連続刊行を成功させたのは、2007年の清涼院と西尾のみである。2008年の島田荘司作品は、第1部が2008年1月からの3か月連続刊行、第2部が2008年10月からの4か月連続刊行となり、2010年に第3部・第4部の刊行が予定されていた[12]。2009年の定金伸治作品は、1月からの4か月連続刊行ののち、作者の体調不良を理由に刊行が中断した。

大河ノベル2007

大河ノベル2008

  • 島田荘司『Classical Fantasy Within』
    • 第1部が2008年1月から3か月連続刊行。第2部が2008年10月から4か月連続刊行。2009年末までに、計7巻が刊行されている。
    • 2008年に12か月連続刊行が予定されていたが、その後「2008年1月 – 3月、2008年10月 – 2009年6月」と刊行予定が変更された。その後再度変更となり、2010年に第3部と第4部の刊行が予定されている。
    • 当初は、奇数月・偶数月で2作品を各6巻とされていたが、刊行開始直前に偶数月刊行の作品(「進々堂世界一周」)を単独作品とし、奇数月予定だった作品を全12巻に変更することが発表された。
    • また、『進々堂世界一周』を『Classical Fantasy Within』の空白期間に充てることがパンドラvol.1 SIDE-B(袋綴じ)で発表された。
    • 島田荘司、士郎正宗の他の仕事との折り合いの関係上、2008年1月〜3月に3巻まで刊行され、そこで一旦中断。2008年10月から4巻以降の刊行が再開され、2009年1月の第7巻までで再度中断、2009年9月より再開するという計画に変更になる事が発表された。
    • 「進々堂世界一周」は、特別に2作品のみ『Anniversary50 カッパ・ノベルス創刊50周年記念作品』(光文社、2009年12月)、小説新潮9月号(新潮社、2010年9月)に先行掲載され、2011年4月に『進々堂世界一周 追憶のカシュガル』(ISBN 978-4103252320)が新潮社より発売された。
    • 島田荘司の公認サイトで、島田荘司の大河ノベル開始前の打ち合わせの様子などが分かる[13]

大河ノベル2009

  • 定金伸治『四方世界の王』
    • 当初、2009年1月から12か月連続刊行予定だったが、著者の体調不良を理由に4月発売の4巻以降は刊行休止となった。
    • 2010年6月、刊行再開された。大幅なボリュームアップに伴い、刊行ペースは不定期となり、刊行数は全12巻予定から全14巻予定へと変更となった。
    • 2015年08月24日付の著者ブログでシリーズ打ち切りが発表され、講談社タイガ創刊に伴う講談社BOXの作家陣整理が公になった。また、担当引き継ぎも行われなかったことから、特典小冊子を個人配布した。

LINK! project[編集]

講談社BOXとゲームソフト会社チュンソフトが協力し、2009年秋に開始された出版企画。チュンソフトが発売したゲームソフトの小説版を刊行する。

雑誌『パンドラ』[編集]

Powers BOX[編集]

電子書籍雑誌『BOX-AiR』[編集]

イベント・企画[編集]

KOBOCAFE[編集]

渡辺浩弐が中野ブロードウェイに所有していた事務所を改築し、講談社BOX編集部が運営していたブックカフェ。1930年代のアメリカ、ニューヨークあたりの私立探偵事務所みたいな講談社BOXの持っているイメージの危なっかしい、危険な匂いのするブックカフェと、気軽に立ち寄れる「編集者や作者」と「読者」が繋がれる場所をクリエイトする、がコンセプト。

オリジナルブレンドコーヒーとセットの限定小冊子の販売があり、渡辺浩弐、松原真琴、滝本竜彦、西尾維新、佐藤友哉、北山猛邦の作品が販売された。

8月2日には北山猛邦の限定小冊子『KOBO CAFE殺人事件』を基に、紛失した原稿を探すというミステリーイベントが行われ、北山猛邦以外にも佐藤友哉、乙一などが参加した。

その後、KOBOCAFEは、渡辺浩弐が経営する「Kカフェ」として不定期に営業されていた[14]

東浩紀のゼロアカ道場[編集]

西島大介のひらめき☆マンガ学校[編集]

ファン倶楽部『KOBO』[編集]

2007年1月より1年ごとに会員を募集している。募集要項には「かつてない読者体験を“あなた”にお届けする」と書かれている。ファン倶楽部の始動に当たって、「KOBO宣言文」[15]が、清涼院流水により、講談社BOXファン倶楽部“KOBO”総長として出されている。2010年より無料化されることが告知されていた。

特典は、会員証・会報誌『KOBO』(オールカラー32ページ。年2回発行。Vol.00〜04まで冊子形式、Vol.05より新聞形式)・バースデイカード・サマーグリーティングカード・会員限定イベントご招待・会員限定プレゼントなど。

太田克史によると、ファンクラブKOBOは、会費の三倍リターンしているという[2]

  • 2007年
    • 講談社BOXメールマガジン「ファンタスティック講談社BOX」2006年vol.1が2006.11.01.0:00に到着。メルマガより、講談社BOXファン倶楽部「KOBO」が2007年1月にスタートしファン倶楽部入会受付が2006.11.01付けでスタート。初年度の会員は5000人限定と決定された。先着5000名に会報誌『KOBO Vol.00』が無料でプレゼントされた。[16]
    • 会員限定プレゼントは、真鍮製の栞。[17]
    • 2007年9月15日、会員限定イベント「講談社BOXファンクラブ(KOBO)総会」が行われた。参加出来たのは、会報誌『KOBO』に載っていた募集に応募した人の中から150人ぐらいだった模様。[18]
  • 2008年度
    • KOBO ファンクラブ会員証(番号固定制度に変更)の送付。
    • 会員限定のプレゼントは、総勢13名のイラストレーターによるカレンダー。
    • KOBO CAFE 先行営業に招待。コーヒー代100円割引(会員証提示)。
    • 会員限定イベント「講談社BOXファンクラブ(KOBO)総会」開催。
  • 2009年度
    • KOBO総会(8月22日)
会報誌
  • KOBO Vol.00 (2006年12月1日)
  • KOBO Vol.01 (2007年6月1日)
  • KOBO Vol.02 (2007年11月1日)
  • KOBO Vol.03 (2008年5月1日)
  • KOBO Vol.04 (2008年12月18日)
  • KOBO Vol.05 (2009年6月25日) – この号より新聞紙形式に変更
  • KOBO Vol.06 (2010年1月1日)
    • Vo.5,6には講談社BOX新人作家たちの小説が掲載されている。

講談社BOX作品一覧[編集]

小説[編集]

漫画[編集]

2009年4月の安達哲『幸せのひこうき雲』以降、銀の箱に入った形態では漫画は刊行されていない。2009年12月より、漫画はKCデラックスとして刊行されている。

再刊作品の場合は、初刊行年を示す。出版社を記していないものはすべて、講談社からの再刊。

批評・ノンフィクション[編集]

著者 タイトル 備考
東浩紀 文学環境論集 東浩紀コレクションL 2冊組
東浩紀 情報環境論集 東浩紀コレクションS
東浩紀 批評の精神分析 東浩紀コレクションD イラスト:西島大介
西島大介&さやわか 西島大介のひらめき☆マンガ学校 マンガを描くのではない。そこにある何かをそっとマンガと呼んであげればいい。 西島大介のひらめき☆マンガ学校の講義録
村上裕一 ゴーストの条件 クラウドを巡礼する想像力 イラスト:minoa 東浩紀のゼロアカ道場 最終選考通過者
渡辺浩弐 ひらきこもりのすすめ2. 0 再刊。イラスト:西島大介
講談社BOX編、道場主:東浩紀 東浩紀のゼロアカ道場 伝説の「文学フリマ」決戦 文学フリマで販売された同人誌の再録

Powers BOX[編集]

講談社新人賞Powers受賞者の作品、及びBOX-AiR掲載作品を出版する専用のレーベルとして2010年11月よりスタート。銀の箱では無く、講談社ミステリーランドの様な箱のデザインも作品ごとに違い、かつ表紙の一部が箱の穴から見えるデザインの箱に入っている。一部、穴の空いていないデザインの作品も存在する。

BOX-Air BOX[編集]

BOX-AiR新人賞受賞者専用レーベルとして、2012年3月よりスタート。Powers BOXと非常に似たデザインだが、こちらは穴の形が丸ではなく、たまご型である[19]。一部穴のデザインが違う作品も存在する。

その他[編集]

以下の作品は銀の箱で無く、黒い箱に入っている。

以下の作品は、Powers BOXの様に各作品独自のデザインの箱に入っているが、Powers BOXと違いイラストが箱の全面に配されている。

その他の刊行作品[編集]

講談社BOXピース作品一覧[編集]

小説
批評

KCデラックスから刊行の漫画作品[編集]

その他担当作品一覧[編集]

外部リンク[編集]