クソニンジン – Wikipedia
クソニンジン |
---|
分類(APG III) |
学名 |
Artemisia annua L. |
シノニム |
Artemisia annua fo. macrocephala Pamp. |
和名 |
クソニンジン |
クソニンジン[2](学名:Artemisia annua、中国名:黄花蒿[3]、英名:sweet annie, sweet sagewort[4])は、キク科ヨモギ属の越年草[5]。和名は、特異な異臭を持つこと、および葉がニンジンの葉に似ていることによる[6]。
全体に強い匂いがある[7][3][4]。茎は直立し、高さ 1 m から 2 m ほどになり[3]、無毛[8]。下部は太さ 1 ㎝ に達し[3]、木質化する[9]。上部ではよく分岐する[8]。若いときは緑色だが後に褐色になる[3][9]。葉は互生し[10]、長さは 2 – 7 ㎝。3回羽状に深く裂け、最終裂片は幅 0.3 mm 程度に細かくなる[8]。表面には微細な毛がある[7]。葉柄は長さ 1 – 2 ㎝ 程度で、基部は半ば茎を抱く[3]。下部の葉は花期に枯れる[5]。日照時間13.5時間を境とする短日植物であり[11]、花期は8 – 10月。大型の円錐花序に多数の頭花が付く[7]。頭花は下向きに付き、球状で直径 1.5 – 2.5 mm 程度[3]。総苞片は3〜4層に並び、外片は細長く緑色、中・内片は長楕円形で周辺は半透明の膜質で中央部が緑色[8][3]。花は黄色の筒状花で腺点があり、頭花の中央部には両性花、周辺部には雌花が付く[8]。雌花は細い筒状で先端部が2 – 3裂し、花柱は花冠の外に伸びだし先端は2裂する[3]。両性花の花冠は5裂し、葯が合着した5本の雄蘂を持ち[9]、花柱は花冠とほぼ同じ長さになる[3]。自然界における受粉は虫媒および風媒である[11]。痩果は長さ 0.6 mm ほどで冠毛が無い[8]。染色体数は、2n = 18[12]。
原産地はユーラシア大陸であり、アジアから東ヨーロッパにかけての広い地域に分布する[8][10]。中国では、道端や荒地から草原や半砂漠地帯まで全土に広く分布し、東部では標高 1500 m 以下、西部では 2000 m から 3000 m まで、チベットでは 3650 m の地点まで分布する[3]。 アメリカやカナダにも導入され、ケベック州やオンタリオ州および合衆国東部および中西部に至る広い地域に分布する[4]。日本には薬用植物として渡来し、現在は野性化して本州以南の畑、牧草地、荒地、市街地の道端などに生える[8]。
伝統的な中国医学では解熱に利用される[9]。1967年に始まった中国人民解放軍の軍事プロジェクトにおいて、クソニンジンのエーテル抽出物がマラリアに驚異的な効果をもたらすことが発見され、1972年にはその主要な有効成分としてアルテミシニンが同定された。その後、いくつかのプロジェクトによりアルテミシニンの合成は成功しているものの、複雑さやコスト高から、現在の所は、植物から分離するのがもっとも経済的とされる[13]。
なお、アルテミシニンの発見者である屠呦呦は、抗寄生虫薬イベルメクチンの発見者であるウィリアム・セシル・キャンベル、大村智と共に、2015年のノーベル生理学・医学賞を受賞している[14]。
2020年4月30日、マダガスカルのアンドリー・ラジョエリナ大統領が、新型コロナウイルス感染症 の予防と治療に効くとして、クソニンジンを煎じたハーブティーCovid-Organics[15]をテレビカメラの前で飲み干してみせたことをきっかけに[16]、クソニンジンは新たな脚光を浴びることになる。
WHOは当初、新型コロナウイルス感染症の治療薬になり得るとうたわれている薬用植物については、効果や副作用、安全性などの試験が必要として、クソニンジンなどを用いた代替医療を巡り警鐘を鳴らしていたが[17]、2020年9月19日になって、一転して新型コロナウイルス感染症の治療法となる可能性があるとして、WHOはクソニンジンを含む薬草を用いた植物療法の臨床試験計画を承認した[18]。
2021年1月8日、コロンビア大学とワシントン大学 、ウースター工科大学の研究者らは、熱湯で抽出したクソニンジンの葉のエキスが新型コロナウイルスに対し抗ウイルス活性を示したことを発表した[19][20]。
ただ、本研究においては、抗マラリア薬であるアルテミシニン加工薬のアーテスネート、アルテメター、ジヒドロアルテミシニンは、いずれも新型コロナ・ウイルスには効果がなかったとされており、抗ウイルス活性を示したのはクソニンジン乾燥葉の熱湯抽出物であった[20]。このことから、研究グループのパメラ・ウェザーズ代表は、クソニンジンはおそらくアルテミシニンの効力によって新型コロナウイルスに効果を示しているのではなく、自ら含有するなにか別の成分の組み合わせによって作用を及ぼしていると指摘する[19]。今後の動向が注目される。
注釈[編集]
- ^ 以上のリストはTropicosによる[1]。
出典[編集]
参考文献[編集]
- 中国科学院中国植物志編輯委員会編「黄花蒿 Artemisia annua (PDF) 」第76-2巻、科学出版社、1991年。
- Artemisia annua Linnaeus. Missouri Botanical Garden, St. Louis, MO & Harvard University Herbaria, Cambridge, MA. (2006-06-30) .
- 江蘇新医学院『中葯大辞典』江蘇新医学院、上海科学技術出版社、上海、1978-10 1977、港一次印刷(中国語)。
- 『日本の野生植物 草本(III)』佐竹義輔、大井次三郎、北村四郎、亘理俊次、冨成忠夫、平凡社、1982-05-10 1981、初版第6刷。
- 清水, 矩宏、森田, 弘彦、廣田, 伸七『日本帰化植物写真図鑑』全国農村教育協会、2001年9月10日、第二刷。全国書誌番号:20195235。ISBN 4-88137-085-5。NCID BA52859356。OCLC 675268653。ASIN 4881370855。
- 長田, 武正『原色日本帰化植物図鑑』保育社〈保育社の原色図鑑 53〉、1989-06-01 1976、初版第8刷。全国書誌番号:69002928。ISBN 4-586-30053-1。NCID BN00799898。OCLC 703738103。ASIN 4586300531。
- 『中国雑草原色図鑑』中華人民共和国農業部農薬検定所、(財)日本植物調節剤研究協会、全国農村教育協会、2000年3月27日、第一刷(zh, ja, en)。全国書誌番号:20061473。ISBN 4-88137-078-2。NCID BA46540928。OCLC 676421797。ASIN 4881370782。
- 牧野, 富太郎『牧野日本植物圖鑑』北隆館、1951-08-15 1940、10版(改訂版)。
- Ferreira, J.F.S.; Janick, J. (October 1, 1996), “Distribution of artemisinin in Artemisia annua”, in Jules Janick, Progress in New Crops, ASHS Press, pp. 579-584, ASIN 0961502738, ISBN 0-9615027-3-8, OCLC 37015428
- Ferreira, J. F. S.; Laughlin, J. C.; Delabays, N.; de Magalhães, P. M. (August 2005). “Cultivation and genetics of Artemisia annua L. for increased production of the antimalarial artemisinin” (PDF). Plant Genetic Resources (CABI publishing) 3 (2): 206-229. doi:10.1079/PGR200585 .
- Miller, Louis H.; Su, Xinzhuan (September 9, 2011). “Artemisinin: Discovery from the Chinese Herbal Garden”. Cell 146 (6): 855-858. doi:10.1016/j.cell.2011.08.024. PMC 3414217. PMID 21907397 .
- Rotreklová, Olga; Bureš, Petr; Grulich, Vít (2004). “Chromosome numbers for some species of vascular plants from Europe” (PDF). Biologia, Bratislava 59 (4): 425-433 .
外部リンク[編集]
Recent Comments