接続 (主束) – Wikipedia

数学における接続(せつぞく)とは、多様体上に定められた様々なファイバー束について、ファイバーの間の平行移動を与える微分方程式的な概念である。この項では特にリー群を構造群とする主束の接続について解説する。

主束の接続を決めることは、束の全空間の接空間のなかで構造群の作用によって不変な「水平な方向」を定めること同じである。したがって、主束の接続はシャルル・エーレスマンによって導入された[1]エーレスマン接続の特別なものと見なすことができる。

主束上に接続が与えられると、構造群の線形表現に付随するベクトル束に対してベクトル束の接続・共変微分を誘導することができる。また、リーマン多様体のレヴィ・チビタ接続など多くの幾何学的に重要な概念が主束の接続として定式化されている。

接続の歴史[編集]

主束に限らずに接続の歴史を概観する。歴史的には、接続は無限小の視点からリーマン幾何学を扱う際に研究された。クリストッフェルの研究に端を発し、後にリッチ (Gregorio Ricci-Curbastro) とレヴィ・チビタ (Tullio Levi-Civita) が精力的に研究した[2]。彼らはクリストッフェルの意味の接続が平行移動の概念を許容することを確かめている。

レヴィ・チビタは平行移動がその解となるような微分作用素としての接続に注目した。時代が進むのに併せてエリ・カルタンが接続の新しい形式を開発した。彼はクラインのエルランゲン・プログラムにパフィアン (Pfaffian system) に関する技術を応用する手段を探していた。彼はある無限小の接続の概念 (Cartan 接続英語版) が適用できることを発見した。この接続は曲率を許容する(古典的なクライン幾何にはないと思われていた)[3][4]。更に、ダルブーの結果を用いてカルタンは平行移動をカルタン接続にまで一般化することができた。このことは現代でも主要な扱い方の1つである微分形式としての接続を確立した。

微分作用素としての接続と、微分形式としての接続と、接続の理論における二通りの扱いは、現在に至るまで残っている。1950年、Koszul はKoszul 接続英語版を使って微分作用素としての接続について代数的な枠組みを与えた[5]。Koszul 接続はレヴィ・チビタ接続よりも一般的で、かつ接続の形式化において不恰好なクリストッフェル記号を最終的に除去することができた(少なくとも隠すことができた)ので取り扱いが容易であった。付随する平行移動操作は接続の用語を用いた自然な代数的解釈を持つ。Koszul 接続は共変微分と平行移動の概念との解析的な対応を代数的な対応に書き換えるので、微分幾何学のコミュニティに受け入れられた。

同じ年、カルタンの学生のエーレスマン (Ehresmann) は主束、一般にはファイバー束の文脈から微分形式としての接続の多様性を提示した[1]。エーレスマン接続は、厳密にはカルタン接続の一般化ではない。Cartan’s equivalence methodとの関係により、カルタン接続は底空間の微分構造と強く結びついている。エーレスマン接続は陳省身のような当時の幾何学者の基礎的な結果に対して、むしろ強固な枠組みであった。陳省身は当時ゲージ接続と呼ばれることになるものを研究するのにカルタン接続から離れている。エーレスマンの視点からは主束の接続は全空間の「水平な」或いは「鉛直な」ベクトル場の仕様から構成されている。このとき平行移動は底空間の曲線を全空間の水平なベクトル場への持ち上げだと見なせる。この視点は、ホロノミーを考える際に特に有用であることが示されている。

滑らかな多様体 M 上に、リー群 G を構造群とする滑らかな主束 π:PM が与えられたとする。このとき、P 上の G接続 ω とは、G のリー代数 g に値を取る P 上の1次微分形式で、

整合性
xP における G の作用が導く写像 g → TxP (基本ベクトル場) と ω との合成は g の恒等写像になっている
同変性
G の作用の微分写像 d Rg: TxP → Tx gPg への随伴表現 Ad に関して ω(d Rg X) = Adg(ω(X)) が成り立つ

の2つの条件を満たすようなもののことである。

文脈によっては、 G接続 は対 (P, ω) のことを指し、ω 自体は接続形式と呼ばれることもある。

エーレスマン接続としての定義[編集]

多様体 M 上の G-主束 π: PM の接続形式 ω を用いることで、P の接空間を M の接空間に同型な部分空間とファイバーの接空間 ker π との直和に分解することができる。つまり、G の作用によって g からファイバーの接空間の上への同型が得られるが、一方で、ker ωM の接空間に同型な P の接空間の部分空間を定めることができる。この部分空間は TP の部分束をなし、水平な方向および垂直な方向への分解 TP = ker ω ⊕ ker π によってエーレスマン接続が定められている。

反対に、エーレスマン接続

π∗TM≃H⊂TP{displaystyle pi ^{*}TMsimeq Hsubset TP}

であって、G-同変なもの、つまり Hx g = d RgHp を満たすものは ker ω = H となるような接続形式を一意的に定めている。

局所自明化による定義[編集]

M の開集合 U 上で主束 P を自明化することは U 上で P の切断 s を選ぶことと同じである。P に接続形式 ω が与えられているとき、s によって ω を引き戻すことで g に値をとる U 上の1次微分形式 s*ω を定めることができる。この微分形式と自明化写像 U × GP|U によって、P|U 上での ω を復元することができる。

また、U 上の任意の切断は、U から G への関数 g(x) によって s(x) g(x) と表すことができるが、この新たな切断による ω の引き戻しは

(sg)∗ω=Adg−1(s∗ω)+g−1dg{displaystyle (sg)^{*}omega ={rm {Ad}}_{g}^{-1}(s^{*}omega )+g^{-1}dg}

を満たしている。M の開被覆 (Ui)i 上で P の自明化が与えられていれば、Ui j = UiUj 上での自明化の差 gi j が定めるコサイクルによって P を復元することができる。さなり、このコサイクルに関して上記のような貼り合わせ条件を満たす g-値の1次微分形式の族 (ωi j)i jによって P 上の接続 ω を定めることができる。

接続の集合のアフィン構造[編集]

ωη とがともに主束 P の接続形式であるとき、差 ωηG-同変な g-値の1次微分形式であるが、さらに、各ファイバーの接ベクトルに対して 0 を与えるようなものになっている。したがってこれは P 上の basic (基本的) 微分形式であり、または、M 上の、ベクトル束 P ×Gg を係数とする微分形式と見なすこともできる。

反対に、ξP 上の G-同変な基本的微分形式であれば、ω + ξ も再び P の接続形式となることが分かる。したがって、P の接続形式の空間は、P 上の G-同変な基本的微分形式たちがなすベクトル空間上のアフィン空間になっていることが分かる。

接続により誘導される微分作用素[編集]

G-主束 PG の線形表現 W が与えられたとき、それらによって誘導される M 上のベクトル束 P ×GW を考えることができる。さらに、P の接続形式 ω が与えられれば、このベクトル束上の共変微分が

∇Xωσ=X~σ{displaystyle nabla _{X}^{omega }sigma ={tilde {X}}sigma }

によって定まる。ただし、ここでは P ×GW の切断 σ を P から W への G-同変な関数と同一視し、ω により定まる M のベクトル場 XP への持ち上げ

X~{displaystyle {tilde {X}}}

を作用させている。この共変微分は、垂直方向の接ベクトルに対して消えている作用素 dσ + ω Λ σ と表すこともできる。

より一般的に、式 dα + ω Λ αP 上に定められた W を係数とする G-同変基本微分形式 α に対する作用素と考えることができる。こうして、P ×GW を係数とする M 上の微分形式に関する外微分が定められる。

曲率形式[編集]

G-束の接続 ω に対して、その曲率形式 Ω は g に値を取る2次の微分形式

Ω=dω+12[ω,ω]:(X,Y)↦ω([X,Y])−X(ω(Y))+Y(ω(x))+[ω(X),ω(Y)]{displaystyle Omega =domega +{tfrac {1}{2}}[omega ,omega ]:(X,Y)mapsto omega ([X,Y])-X(omega (Y))+Y(omega (x))+[omega (X),omega (Y)]}

として定義される。この微分形式は G-同変かつ水平的であるため、P ×Gg を係数とする M 上の2次微分形式に対応する。この式は第二構造方程式ともよばれる。

G の線形表現 W により誘導されるベクトル束 P ×GW 上に ω が定める共変微分の曲率は Ω によって誘導される P ×G W の自己準同型によって表されている。

  1. ^ a b Ehresmann, Charles (1950), “Les connexions infinitésimales dans un espace fibré différentiable”, Colloque de Toplogie (Bruxelles): 29–55 
  2. ^ Levi-Civita, T., Ricci, G. (1900), “Méthodes de calcul différential absolu et leurs applications”, Math. Ann. B 54: 125–201, doi:10.1007/BF01454201
  3. ^ Cartan, Élie (1924), “Sur les varietes a connexion projective”, Bulletin de la Société Mathématique 52: 205–241
  4. ^ Cartan, Élie (1983), Geometry of Riemannian spaces, Math Sci Press, ISBN 9780915692347
  5. ^ Koszul, J. L. (1950), “Homologie et cohomologie des algebres de Lie”, Bulletin de la Société Mathématique 78: 65–127

参考文献[編集]

  • 野水 克己、1981、『現代微分幾何入門』、裳華房〈基礎数学選書〉 ISBN 978-4785311278
  • Kobayashi, Shoshichi; Katsumi Nomizu (1996). Foundations of Differential Geometry. Vol. 1 (New ed.). Wiley-Interscience. ISBN 0471157333