ドゥムカ (チャイコフスキー) – Wikipedia

ドゥムカ』(ロシアの農村風景[注 1]作品59は、ピョートル・チャイコフスキーが1886年に作曲したピアノ曲。

チャイコフスキーは1885年にクリンに程近いマイドノヴォ(Maidonovo)に住居を借り受け、しばらくその家を住まいとすることにした[1]。そうした折にフランスの出版社であるフェリクス・マッカーから受けた委嘱により、本作は1886年2月に新たに製作されることとなった[2][注 2]。「ドゥムカ」は18世紀ポーランドの叙事詩を基にした民謡に端を発し、その後スラヴ世界に広く伝わっていった形式を指す言葉である。「哀歌」と訳されることもある「ドゥムカ」においては、憂鬱な部分が陽気な部分へと急転換するような展開をたどる[4]。同種の作品でよく知られるのはアントニン・ドヴォルザークのピアノ三重奏曲第4番『ドゥムキー』であろう[4]。チャイコフスキーは「ロシアの農村風景」(Scène rustique russe)という副題を付し、本作をピアノのためのコンサートピースとして仕上げている。表題は掲げられたものの、楽曲の内容にタイトルに沿うような筋書きがあるわけではない[4]

楽譜は1886年にユルゲンソンから出版され、パリ音楽院で教鞭を執っていたアントワーヌ・マルモンテルへと献呈された[2]。ピアニストでもあったマルモンテルは作曲者に対し「あなたの農村風景は美しい」(votre scène rustique est ravissante)と書き送っており、作品を好意的に受け取っていたとみられる[2]。初演は1893年12月にフェリックス・ブルーメンフェルトのピアノで行われた。本作はチャイコフスキーのピアノ独奏作品としては2曲のピアノソナタに次ぐ規模を誇り[2][注 3]、同ジャンルにおける作曲者有数の成功作となっている[4]

演奏時間[編集]

約8分半-9分半[2][4]

楽曲構成[編集]

4/4拍子、ハ短調。冒頭より緩徐部の主題が歌われる(譜例1)。ロシアの民謡にルーツを持つかと思われるようなバラードである[4]

譜例1


relative c' new Staff {
 key c minor time 4/4 tempo

譜例1が中声部で繰り返される中、伴奏音型が複雑に旋律へと絡みつく。高音へ至って静まるとコンアニマとなり、変ホ長調で譜例2が出されて農村の祝祭を連想させる個所へと入っていく[2]

譜例2


relative c' {
 new PianoStaff <<
  new Staff with { consists arpeggio ~ g8[ grace { f16_( [ g] } f) es-.] d( es) c-. d-. bes8-. c-.
g’4-> arpeggio ~ g8[ grace { f16_( [ g] } f) es-.] d( es) c-. d-. bes8-. c-.
stemDown 8-> -> -> ->
-> -> -> ->
-> -> ->
[ -> -> ]
}
\
{
4 arpeggio 8 r8 r4 e,8rest f8
4 arpeggio 8 r8 r4 e,8rest f8
}
>>
}
new Dynamics {
s1^markup dynamic mf s s^markup { dynamic mf italic pesante } s^markup dynamic f
}
new Staff with { remove “Time_signature_engraver” } { key es major time 4/4 clef bass
4 arpeggio sustainOn 8 sustainOff r r4 r8
4 arpeggio sustainOn 8 sustainOff r r4 r8
-> -> -> ->
-> -> -> ->
-> -> ->
[ -> -> ]
}
>>
}
“/>

譜例2が華やかに盛り上がり譜例3を導く。以降、譜例3が装飾的に繰り返される。

譜例3


relative c' {
 new PianoStaff <<
  new Staff with { remove 16
8–^markup italic giocoso 16– bes32( aes g16-. ) f-.
8– ( 16-. ) -.
8– 16– bes32( aes g16-. ) f-.
8– [ — ]
}
new Dynamics {
s8f smp s s4 s8 s s< s! } new Staff with { remove "Time_signature_engraver" } { key es major time 4/4 clef bass << { d,,8-> stemDown
d,16rest ( sustainOn aes’) ( aes’ ) sustainOff d,8rest
d16rest ( sustainOn g) ( g ) sustainOff d,8rest
d16rest ( sustainOn aes’) ( aes’ ) sustainOff d,8rest
d16rest ( sustainOn g) ( g[ ] ) sustainOff
}
\
{ 8-> }
>>
}
>>
}
“/>

ポコメノ・モッソでハ短調の旋律が遠くの教会の鐘の音のように響いた後[2]、華麗なカデンツァが挿入される[4]モデラートコン・フォーコとなって譜例3の変奏を繰り広げ、アンダンテ、メノ・モッソ、アダージョと推移しながらクライマックスを形成して静まっていく。最後は冒頭のテンポとなって譜例1が再びカンタービレで静かに奏され、その終わりでハ短調の主和音の強奏により決然と幕が下ろされる。

注釈

  1. ^ タイトルのロシア語表記は”Думка” (русская сельская сценка)。フランス語を用いて”Doumka”または”Dumka” (Scène rustique russe)とも表記される。
  2. ^ チャイコフスキーへ要望を出したのはマルモンテルであったとする文献もある。
  3. ^ チャイコフスキーのピアノソナタには嬰ハ短調 作品80とト長調 作品37(グランドソナタ)の他に未完成に終わったヘ短調の作品が知られている[5]

出典

参考文献[編集]

  • 井上, 和男『最新名曲解説全集 第15巻 独奏曲II』音楽之友社、1981年。ISBN 9784276010154。
  • CD解説 Naxos, TCHAIKOVSKY: Piano Music (Prunyi), 8.550504
  • CD解説 CHANDOS, Tchaikovsky and his friends, CHAN 9218
  • CD解説 Leslie Howard, Hyperion Records, Pyotr Tchaikovsky (1840-1893) Piano Sonatas, CDA66939
  • 楽譜 Tchaikovsky Dumka, Peters, Leipzig, 1955

外部リンク[編集]