ディラック共役 – Wikipedia

ディラック共役(ディラックきょうやく, 英: Dirac adjoint)とは、場の量子論においてディラック・スピノールに対して定められる双対操作である。ディラック共役は、スピノールを組み合わせて作った量がよい振る舞いを示すよう、上手く形式化するために作られた。普通のエルミート共役は系のローレンツ対称性を欠くため、代わりにディラック共役が用いられる。

ディラック・スピノール ψ のディラック共役 ψ は、次のように定義される:

ψ¯≡ψ†γ0{displaystyle {bar {psi }}equiv psi ^{dagger }gamma ^{0}}

ここで ψψ のエルミート共役、γ0 はガンマ行列。

ローレンツ変換の下でのスピノール[編集]

特殊相対論のローレンツ群はコンパクトではない。
そのためディラック・スピノール空間におけるローレンツ変換の表現英語版はユニタリーではない。これは一般に

λ†≠λ−1{displaystyle lambda ^{dagger }neq lambda ^{-1}}

として表される。ここで λ は、次のようにスピノールに対して作用するローレンツ変換である:

ψ→ψ′=λψ{displaystyle psi to psi ‘=lambda psi }

.

この時スピノール ψ のエルミート共役 ψ は、次のように変換される:

ψ†→ψ′†=ψ†λ†{displaystyle psi ^{dagger }to psi ‘^{dagger }=psi ^{dagger }lambda ^{dagger }}

.

そのため、通常のエルミート共役を用いた ψψローレンツ・スカラー英語版とならない。また ψγμψ も自己共役にならない。

ここでディラック共役の定義を用いると、ψ は次のように変換されることが分かる:

ψ¯→ψ¯′=ψ′†γ0=(λψ)†γ0=ψ†λ†γ0{displaystyle {bar {psi }}to {bar {psi }}’=psi ‘^{dagger }gamma ^{0}=left(lambda psi right)^{dagger }gamma ^{0}=psi ^{dagger }lambda ^{dagger }gamma ^{0}}

.

ここでガンマ行列の公式 1 = γ0γ0 とローレンツ代数の公式 γ0λγ0 = λ−1 を用いると、ディラック共役の次のような変換性が得られる:

ψ¯→ψ¯′=ψ¯λ−1{displaystyle {bar {psi }}to {bar {psi }}’={bar {psi }}lambda ^{-1}}

.

この結果、ディラック共役 ψ を用いた ψψ

ψ¯ψ→ψ¯′ψ′=ψ¯λ−1λψ=ψ¯ψ{displaystyle {bar {psi }}psi to {bar {psi }}’psi ‘={bar {psi }}lambda ^{-1}lambda psi ={bar {psi }}psi }

とローレンツ・スカラーの変換性を満足する。また ψγμψ も自己共役となる:

(ψ¯γμψ)†=ψ¯γμψ{displaystyle left({bar {psi }}gamma ^{mu }psi right)^{dagger }={bar {psi }}gamma ^{mu }psi }

.

ディラック共役を用いて、スピン1/2の粒子場に関する4元確率の流れ J を次のように表すことが出来る:

Jμ=cψ¯γμψ{displaystyle J^{mu }=c{bar {psi }}gamma ^{mu }psi }

ここで c は光速、J の成分は密度 ρ と3元確率の流れ j を表す:

J=(cρ,j){displaystyle {boldsymbol {J}}=(crho ,{boldsymbol {j}})}

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μ = 0 と取り、再びガンマ行列の公式 1 = γ0γ0 を用いると、確率密度は次のようになる:

ρ=ψ†ψ{displaystyle rho =psi ^{dagger }psi }

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参考文献[編集]

  • B. Bransden; C. Joachain (2000). Quantum Mechanics (2nd ed.). Pearson. ISBN 0-582-35691-1 
  • M. Peskin; D. Schroeder (1995). “Chapter.3 The Dirac Field”. An Introduction to Quantum Field Theory (2nd ed.). Westview Press. ISBN 0-201-50397-2 
  • A. Zee (1995). “Dirac bilinears”. Quantum Field Theory in a Nutshell (2nd ed.). Princeton University Press. p. 97. ISBN 0-691-01019-6 

関連項目[編集]