セベクの秘密 – Wikipedia

セベクの秘密』(セベクのひみつ、原題:英: The Secret of Sebek)は、アメリカ合衆国のホラー小説家ロバート・ブロックによる短編ホラー小説。クトゥルフ神話の1つで、『ウィアード・テイルズ』1937年3月号に掲載された。ブロックは独自のエジプトもので、(ラヴクラフトが創造した)ナイアーラトテップをアレンジして多用する一方で、エジプト神話の神をクトゥルフ神話へと組み込むことも行った。恒例の「妖蛆の秘密」の「サラセン人の儀式」の章への言及がある。

世界最大のカーニヴァルであるニューオーリンズ・マルディグラを舞台に、鰐神セベクを題材とする。ラヴクラフトのランドルフ・カーター事件(銀の鍵の門を越えて)の数年後となっており、ド・マリニーが登場する。

あらすじ[編集]

過去[編集]

暗黒のファラオ・ネフレン=カは没落し、忌まわしいナイアーラトテップ信仰は葬られた。一方で鰐神セベクの信仰は力をつけ、毎年1回メンフィスの神殿でセベクが高位の神官たちの前に降臨すると信じられていた。エジプト人は未来に復活することを願ってミイラを作るが、神官たちはセベクの強大な力でミイラを守ってもらおうと、生贄を捧げる。ミイラの護符には、墓荒らしを呪う文言が書き連ねられる。

セベクの神官のミイラは四体発見されるが、発見者は全員死ぬ。オカルト結社「柩クラブ」はミイラの一体を入手するが、運輸中に死者が発生したことで、呪いを信じない者とミイラを処分しようという者で意見が別れる。

193X年の謝肉祭[編集]

謝肉祭(カーニヴァル)の最終日マルディグラ(懺悔火曜日)、世界最大のカーニヴァルが開かれているルイジアナ州のニューオーリンズにて、わたし(語り手)は、古代エジプトの神官の仮装をした男ヘンライカス・ヴァニングに出会う。彼はわたしが雑誌に連載しているエジプトの話の読者であり、2人は意気投合する。

彼の邸宅では仮装舞踏会が開催されており、わたしが招かれたときは奇怪な衣装を身にまとった者達が詰めていたが、彼らはヴァニングがカモフラージュの一環として舞踏会に呼び寄せた一般人だった。ヴァニングは自分が秘密結社「柩クラブ」の会員であることを明かすと、残りの4人のメンバーをわたしに紹介する。

舞踏会のさなか、わたしはクロコダイルの頭をしたエジプトの神官を目撃する。仮面のリアルな造形に感服するも、目を離した隙にいなくなっており、酒の酔いによる白昼夢かと片付ける。

そこへ、ヴァニングが真剣な様子でわたしに協力を要請し、セベク神の神官のミイラの柩と、禁断の書物を持ち出してくる。彼は、ミイラを運輸する過程で本当に死人が出たことで、どう扱うべきか意見が別れていることを話し、わたしに意見を求める。わたしは先ほどのセベクの神官を思い出し、「正に彼を呼ぶべきだろう」と提案する。それを聞いたヴァニングは、そのような人物は見ていないと、恐怖に震える。事態を重く見た4人がその人物を捕まえるために部屋から出て行き、わたしとヴァニングの2人が残る。すると、戸口にあの鰐男が現れ、おびえるヴァニングに素早く近づき、顎を開いて、喉に噛みつく。わたしは殺人者の仮面を引っ張ろうとするが、実際に触れたことで、仮面などではなく「生きた皮膚」だということを理解する。殺人者は姿を消し、ヴァニングの亡骸が残され、わたしは悲鳴を上げて屋敷から飛び出し、ニューオーリンズからも去る。

主な登場人物[編集]

  • わたし – エジプトの研究者・作家。似非オカルティストを嫌う。仕事明けで着の身着のままで、仮装はしていない。
  • ヘンライカス・ヴァニング – 有閑紳士。オカルト、特に古代エジプトに興味を持つ。カーニヴァルで古代エジプトの神官の装いをしている。手に入れたミイラで儀式を行うことを主張し、ウィールダン教授と意見が別れる。
  • デルヴィン博士 – 民族学者[注 1]。聖書時代バビロニアの神官の装いをしている。
  • エティエンヌ・ド・マリニー – 有名なオカルティスト。アドニスの祭司の装いをしている。本来はラヴクラフト作品に登場する人物[注 2]
  • ウィールダン教授 – エジプト学者。イスラム教スンニ派のターバン僧の装いをしている。ミイラの呪いを理解し、死にたくないとミイラを処分すべきと主張する。
  • リチャード・ロイス – ヴァニングの助手。眼鏡をかけた若い学者が、修道僧の頭巾をかぶっている。
  • セベク – ナイル川の豊穣神。クロコダイルの神。神官の墓を荒らした者に呪いをかけるという。
  • ミイラ – セベクの神官の、四体目のミイラ。ウィールダン教授とヴァニングが入手したが、運輸中にキャラバンの人足9人が死ぬ。神官は神にあやかってクロコダイルの仮面をつけるが、このミイラは頭部がむき出しになっている。
  • パーティントン – 三体目のミイラの発見者。ウィールダン教授の知り合い。ロンドンの動物園で、クロコダイルの穴に落ちて惨死した。

関連作品[編集]

  • 暗黒のファラオの神殿 – 暗黒のファラオ・ネフレン=カの時代に、セベクも信仰された。
  • 生きながらえるもの – ダーレスの神話作品。爬虫類に着目している。
  • Curse of the Crocodile – リチャード・L・ティアニーの短編小説。「セベクの秘密」の記述を踏まえた神話作品。ただしメンフィスでセベクが崇拝されていたというのは史実ではないため、実は秘密の神殿があったという設定で辻褄を合わせている。

注釈[編集]

出典[編集]