メモリスタ – Wikipedia

メモリスタ (またはメモリスター。英語: memristor) は、通過した電荷を記憶し、それに伴って抵抗が変化する受動素子である。

抵抗器、キャパシタ、インダクタに次ぐ新たな受動素子であるので、“第4の回路素子” と呼ばれる。

過去に流れた電流を記憶する抵抗器であることからメモリスタ (memristor) と名づけられた。

メモリスタの存在は1971年にLeon Chua(en)の論文で指摘されていたが、対応する物理現象が発見されず、メモリスタは長い間実現されることはなかった。しかし、2008年に米ヒューレット・パッカード (HP) 研究所(en)により二酸化チタンの薄膜を用いたメモリスタが開発され、第4の回路素子として注目を集めることとなった。

記憶素子としてはフラッシュメモリより高速・低消費電力であり[1]、DRAMより安価で省電力であるという性質を持っていると言われ、両方を置き換える可能性がある。面積あたりの記憶容量もフラッシュメモリと比べて2倍にでき、また放射線による影響も受けないというメリットがある[1]

2010年4月には、メモリスタが論理演算装置としても使用できることを確認したとHPが発表。演算装置と記憶素子を単一のデバイスに統合できるため、より小型でエネルギー効率の良いデバイスを開発できる可能性が示された[1]

HPは2020年までの完全な形での商品化を目指している。

物理におけるメモリスタ[編集]

抵抗器, キャパシタ, インダクタ, &メモリスタの概念の対称図

メモリスタは、通過した電荷

q(t){textstyle q(t)}

と端子間の磁束鎖交

Φm(t){textstyle Phi _{mathrm {m} }(t)}

が非線形関数関係であるような素子と定義される。すなわち、

f(Φm(t),q(t))=0{displaystyle f(mathrm {Phi } _{mathrm {m} }(t),q(t))=0}

と表わされる[4]。磁束鎖交

Φm{textstyle Phi _{mathrm {m} }}

は、インダクタの回路特性から一般化される。ここでは磁場を表すものではなく、その物理的意味については以下で説明する。 記号

Φm{textstyle Phi _{mathrm {m} }}

はすなわち、電圧の時間積分と見なすことができる[5]

Φm{textstyle Phi _{mathrm {m} }}

q{textstyle q}

の関係において、一方の他方に対する導関数は、一方または他方の値に依存する。そしてそれゆえ、それぞれの導関数は電荷を伴なう磁束の変化の電荷依存率を述べるmemristance関数によって特徴づけられる。

M(q)=dΦmdq{displaystyle M(q)={frac {mathrm {d} Phi _{rm {m}}}{mathrm {d} q}}}

磁束を電圧の時間積分として、電荷を電流の時間積分として代入すると、より便利な形式が得られる:

M(q(t))=dΦ/dtdq/dt=V(t)I(t){displaystyle M(q(t))={cfrac {mathrm {d} Phi _{rm {}}/mathrm {d} t}{mathrm {d} q/mathrm {d} t}}={frac {V(t)}{I(t)}}}

メモリスタを抵抗、キャパシタ、インダクタに関連付けるには、デバイスを特徴付ける項

M(q){displaystyle M(q)}

を分離し、常微分方程式として記述すると便利。

上記の表は

I{displaystyle I}

q{displaystyle q}

Φm{displaystyle Phi _{m}}

、および

V{displaystyle V}

の微分の有意義な比率を全てカバーする。

I{displaystyle I}

q{displaystyle q}

の導関数であり、また

Φm{displaystyle Phi _{m}}

V{displaystyle V}

の積分であるため、

dI{displaystyle dI}

dq{displaystyle dq}

に、または

dΦm{displaystyle dPhi _{m}}

dV{displaystyle dV}

に関連付けることができるデバイスはない。このことから、メモリスタは電荷に依存する抵抗であると推測できる。もし

M(q(t)){displaystyle M(q(t))}

が定数の場合、オームの法則

R(t)=V(t)/I(t){displaystyle R(t)=V(t)/I(t)}

が得られる。ただし、

M(q(t)){displaystyle M(q(t))}

が自明でない場合、

q(t){textstyle q(t)}

M(q(t)){displaystyle M(q(t))}

は時間とともに変化する可能性があるため、方程式は同等ではない。時間の関数として電圧を解くと、

V(t)= M(q(t))I(t){displaystyle V(t)= M(q(t))I(t)}

が得られる。この方程式は

M{textstyle M}

が電荷によって変化しない限り、メモリスタが電流と電圧の間で線形関係を定義することを示している。非ゼロ電流は時間変化する電荷を意味する。

  1. ^ a b c HPが新発見――「memristor」で演算機能とメモリ機能を統合 2010年4月9日”. RBB TODAY. 2014年11月19日閲覧。
  2. ^ Bush, S. (2 May 2008), “HP nano device implements memristor”, Electronics Weekly, http://www.electronicsweekly.com/Articles/2008/05/02/43658/hp-nano-device-implements-memristor.htm 
  3. ^ Kanellos, M. (30 April 2008), “HP makes memory from a once theoretical circuit”, CNET News, http://news.cnet.com/8301-10784_3-9932054-7.html 2008年4月30日閲覧。 
  4. ^ Chua, L. (1971). “Memristor-The missing circuit element”. IEEE Transactions on Circuit Theory 18 (5): 507–519. doi:10.1109/TCT.1971.1083337. 
  5. ^ Knoepfel, H. (1970), Pulsed high magnetic fields, New York: North-Holland, p. 37, Eq. (2.80) 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]