JR九州キハ72系気動車 – Wikipedia

キハ72系気動車(キハ72けいきどうしゃ)は、九州旅客鉄道(JR九州)の特急形気動車。1999年(平成11年)に登場した[1]

久大本線のリゾート特急「ゆふいんの森」用車両として登場。「新ゆふいんの森」と称される。また、かつて同列車に使用していたキハ183系1000番台が「ゆふいんの森II世」の通称とされていたことや、キハ71系から数えて同列車に使用される3代目の車両であることから「ゆふいんの森III世」、「三代目ゆふいんの森」と称される[1] 場合もある。

製造の背景[編集]

特急「ゆふいんの森」はキハ71系とキハ183系1000番台各1編成を使用した2往復体制で運行されていたが、キハ183系を大村線の特急「シーボルト」に転用し、キハ71系と同等のサービスレベルを持つ車両を新製することとなった[1]。キハ71系のように車体のみの新製ではなく、足回りも含めての完全な新製車となった。最終組み立ては九州旅客鉄道小倉工場である。

初代「ゆふいんの森」専用車として生まれたキハ71系と、「オランダ村特急」から転用されたキハ183系1000番台では外観が大きく異なっていたが、本系列はキハ71系の増備目的ということもあり、その意匠を受け継いでいる[1]

本系列は切り離しての使用や、他系列との併結での営業運転は考慮していない。車内設備は普通車のみのモノクラスで、車両の仕様諸元に関わらず形式はすべて72形(キハ72形・キサハ72形)で統一されており、車両番号が連番となっている。

登場時は下り方(由布院方)からキハ72 1(1号車)- キハ72 2(2号車)- キハ72 3(3号車)- キハ72 4(4号車)の4両編成であったが、2015年(平成27年)7月18日より中間車1両(キサハ72 4)が増備され[2](構体は近畿車輛製[3])、キハ72 1(1号車)- キハ72 2(2号車)- キハ72 3(3号車)- キサハ72 4(4号車)- キハ72 5(5号車)の5両編成となり、キハ72 4はキハ72 5に改番された。

車体[編集]

キハ71系と同じグリーンメタリックの車体塗装をまとうハイデッカー構造であり、前面形状もキハ71系に比べて前照灯が若干小さくなるなどの差異もあるが、ほぼ同じ意匠とされた[1]。LED式の矩形尾灯を採用するなどのアップデートも見られるほか、前面の化粧パネルやワイパーピボットカバーなどにも、同社の787系から883系、そして本系列の後に登場する885系などを手がけた水戸岡鋭治率いるドーンデザイン研究所の共通手法が散見される。側面はキハ71系の広幅窓と異なり、787系や883系などのような1座席ごとの独立した狭幅窓とされている[1]

運転台は低い位置に置かれるが、シアターシート[注 1] ではないこともあり、同じく前面展望構造を採る名鉄1000系ほど極端に低められてはいない。

隣の車両に移る際、キハ71系では一旦階下に下りて移動するようになっていたが、本系列では連結面通路や幌を客室通路と同レベルの高さとした上で、デッキに橋構造の渡り廊下を通し、階下に下りることなく隣の車両に移動できるようになっている[1]。これにより車内販売のワゴンサービスが可能となった(キハ71系はトレイサービス)。デッキと客室や通路の床の間は4段のステップでつながれている。

主要機器[編集]

先述のように、本系列ではディーゼルエンジンと液体式変速機や、台車も含めて新製されている。

エンジンはキハ200系と同じDMF13HZA (450 PS / 2000 rpm) を用いている。これがキハ72 2には2基、他のキハ72形には1基搭載されている。キサハ72 4は発電用エンジンを備えるものの形式が示すように走行用エンジンは搭載していない。

台車はヨーダンパ付き空気ばねボルスタレス台車のDT602K(キハ72 2)、DT603K(キハ72 2以外の動力台車)、TR602K(キサハ72 4および付随台車)を使用している。キハ71系では種車の関係でコイルばねを使用する揺れ枕吊り台車の車両が存在するが、本系列では全車両とも空気ばね台車に統一されている。さらに変速機に爪クラッチを採用し、加速性能を向上させている[注 2][4]。ブレーキシステムは電気指令式である。

このようにキハ71系に比較すると車両性能の向上が図られており、キハ71系では最高速度が95 km/hであったのに対し、本系列では120 km/hとされた[1]。ただし、検査等での運休時はキハ185系を使用した「ゆふ」として運転されるため、120 km/h対応のダイヤは組まれていない。遅延したときなどに限り、120 km/h運転が行われることがある。

運転席はやや中心線寄りに配置され、L字形のコンソールで囲まれている。マスター・コントローラーは左手操作の横軸式、ブレーキは電気指令式で、右手操作の縦軸ハンドルとなっている。

保安装置は登場時にはATS-SK形であった。のちの省令により『パターン連続照査機能』等を装備し、SK形と互換性のある、ATS-DK形に変更され、専用のコンソールが設置された。

接客設備[編集]

室内の床材や天井内張りを初め、各座席の肘掛やボックス席とビュッフェのテーブル、化粧台まわりなどにも、同社の新幹線800系や特急用車両でおなじみの難燃木材がふんだんに使われており、同社らしさを表現している[注 3]

座席はシートピッチ1000 mmの回転式リクライニングシートとされ、近年の同社特急形普通車と同等の仕様となっている。現在この種の座席では、前席背面収納式の大型テーブルが主流となっているが、この場合、座席を向かい合わせのボックス席とするとテーブルが使えない欠点がある。そこで、グループ旅行などの需要も重視される本系列では、1人用大型テーブル2組を中央肘掛内に収納し、向かい合わせでの使用時にボックス中央に4つのテーブルが集合する設計となっている[注 4]

3号車の中程には同社787系と類似の、それぞれの区画の背面がガラスのパーティションで仕切られた4人用簡易コンパートメントが4組ある[注 5]。ボックス席ながら若干のリクライニングも可能となっているほか、中央の木製大型テーブルは、脚のないカンチレバー構造で壁面に取り付けられ、天板も前後が4分割の折りたたみ式となっており、出入りと使用時の利便性を両立している。窓際には卓上照明も備わる。

2015年に増備された4号車には乗降扉が設けられていないため、4号車の乗客は隣の車両などから乗り降りする必要がある。ただし、4号車は発電用エンジンを備えるものの走行用エンジンが搭載されていない付随車のため、他の車両よりは静粛である。

供食設備としては、キハ71系では2号車にカフェテリアを設けているが、本系列では3号車に売店併設のビュッフェを設けた。ビュッフェカウンターはラウンドタイプで、通路窓側にも立席用のカウンターが備わっており、どちらの天板も難燃木製である。また、この立席部分には床から幕板にまで達する大型窓が3つ並んでおり、本編成のアクセントともなっている。

そのほか車椅子対応トイレの設置など、バリアフリー対策がなされている。また、全車両でWi-Fiが利用できる。

落成以来、筑豊篠栗鉄道事業部直方車両センター(本チク)に配置されており、久大本線特急「ゆふいんの森」(由布院・別府方面行き)の1・2・5・6号(博多駅 – 由布院駅間運転)の2往復に使用されている。運休日には、キハ185系で「ゆふ」71・72・75・76号として同じ時刻・停車駅で自由席を設けて運転される。

注釈[編集]

  1. ^ 座席を階段状に配し、後方席からの視界を良くしたもの。
  2. ^ 同じ機構を採用しているのは他に「ゆふいんの森」キハ71形、一般形のキハ200形・キハ220形がある。いずれも本系列と同型の機関・変速機を持つ(71系は機関換装による)。
  3. ^ 同社は内装に和を意識した天然素材を多用するとともに、「鉄道ルネサンス」を標榜している。
  4. ^ ただし、回転式座席と片持ち支持のテーブルの組み合わせなので、それぞれの天板は完全な面一とはならない[5]
  5. ^ 通路側には仕切りや扉はない。

出典[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]