学校における働き方改革 – Wikipedia

学校における働き方改革とは、問題が複雑化・多様化する現状と教師の長時間勤務が課題となる日本の学校における、新しい時代の教育に向けた持
続可能な学校指導・運営体制の構築のための働き方改革である[1][2]。2013年のOECDによる国際教員指導環境調査(TALIS)で参加国34か国のうち日本は、教師の勤務時間が最長で、かつ授業時間が短く、学業以外の事務・会議・部活動などでの時間が長いことがわかった[3]。2016年(平成28)の文部科学省調査により、教師の勤務実態が明らかとなり、改革に取り組むこととなった[4]

第4次安倍内閣は2018年(平成30年)に働き方改革関連法を成立させ、2019年(平成31年)4月1日施行、日本の労働慣行は大きな転換点を迎えた[5][6]。平成31年(2019年)1月、中央教育審議会が答申を取りまとめ[7]、文部科学省は、学校における働き方改革の取組を進め、各自治体でも教職員の勤務時間短縮と学校業務改革についての実施計画が策定されている。神奈川県では教員の働き方改革、岐阜県では教職員の働き方改革など、地域によって若干呼び方が異なる。経済産業省においても、効果的な教育活動のためBusiness Process Re-engineering(BPR)の手法でコンサルタントの活用を交えつつ学校現場の実態把握と改善推進を実施している[8][9]

Table of Contents

文部科学省の見解[編集]

また、平成29年4月、文部科学省は、「教員勤務実態調査(平成28年度)の集計(速報値)について」を公表したが、小学校教諭の約3割、中学校教諭の約6割は、1週間当たりの勤務時間が、厚生労働省が過労死の労災認定基準として定める「1か月当たり80 時間以上の時間外労働」に相当する60時間以上に上っていることが明らかになった。増加主要因は、若手教師の増加、総授業時間数の増加、中学校における部活動指導時間の増加と分析されている。このほか、政府の過労死等の防止のための対策に関する大綱では自動車運転従事者、IT産業、外食産業、医療に並び教職員が重点業種として指定されている現状がある[10]

これらのことから、平成29年6月閣議決定の「経済財政運営と改革の基本方針2017」(骨太の方針)では、教員の適正な勤務時間管理の実施や業務の効率化などに触れ、長時間勤務の状況を早急に是正することとし、年末までに緊急対策を取りまとめるとした。

TALIS調査[編集]

第二回TALIS(2013)[編集]

2013年、OECDによる第二回国際教員指導環境調査(TALIS:Teaching and Learning International Survey)に日本は初めて参加した[3]。参加国は34か国で、ドイツ、中国、台湾、ロシア、インド、インドネシア、スイス、サウジアラビア、トルコ、アフリカ諸国などは参加していない。

TALIS(2013)では全般的に、参加国と比べて日本は、授業時間が短く、会議・事務時間・課外活動など学業教育以外の時間が長く、また有資格教員や特別支援能力・職業教育を行う教員が不足していた[3]

  • 1週間あたり平均勤務時間の合計は参加国平均38.3時間であったのに対して、日本は53.9時間で参加国最長であり、日本に続いてカナダのアルバータ州(地域参加)が48.2時間、シンガポールが47.6 時間、イングランドが45.9時間で、参加国最短はイタリアの29.4時間だった[3]
  • 授業時間は参加国平均19.3時間であったのに対して、日本は17.7時間と短かった(アメリカ参考データでは26.8時間、アルバータ州26.4時間、フィンランド20.6時間)[3]
  • 職員会議(学内での同僚との共同作業や話し合い)は参加国平均2.9時間であったのに対して、日本は3.9時間、学校運営に関する時間も参加国平均1.6時間であったのに対して日本は3時間で、書類作成など事務時間も参加国平均2.9時間であったのに対して日本は5.5時間と、課外活動(部活動など)も参加国平均2.1時間であったのに対して日本は7.7時間で、それぞれ参加国最長だった[3]
  • 労働環境以外では、女性教員の割合が参加国平均68%であるのに対して日本は39%にとどまった。
  • 平均教員数は参加国平均45人に対して日本は24人にとどまった。
  • 学級あたり生徒数は参加国平均24人に対して日本は31人だった。
  • 有資格教員不足は参加国平均38.4%に対して日本は79.7%、特別支援能力を持つ教員不足は参加国平均48%に対して日本は76%、職業教育を行う教員不足は参加国平均19.3%に対して日本は37.3%であり、資格・特別支援能力・職業教育を行う教員の不足率はいずれも参加国最低値だった。
  • 一方、日本は、教員の初任者研修、メンター指導を受けている割合や、他校見学の割合が高かった[3]
TALIS(2013)「教員の仕事時間」(単位は残業等含む一週間あたり時間)[3]
合計 授業 授業準備 職員会議※ 採点添削 生徒指導 学校運営 事務 保護者との連絡連携 課外活動(部活動など) その他の業務
参加国平均 38.3 19.3 7.1 2.9 4.9 2.2 1.6 2.9 1.6 2.1 2
日本 53.9 17.7 8.7 3.9 4.6 2.7 3 5.5 1.3 7.7 2.9
アルバータ州 48.2 26.4 7.5 3 5.5 2.7 2.2 3.2 1.7 3.6 1.9
シンガポール 47.6 17.1 8.4 3.6 8.7 2.6 1.9 5.3 1.6 3.4 2.7
イングランド 45.9 19.6 7.8 3.3 6.1 1.7 2.2 4 1.6 2.2 2.3
マレーシア 45.1 省略
アメリカ※ 44.8 26.8 7.2 3 4.9 2.4 1.6 3.3 1.6 3.6 7
ポルトガル 44.7 20.8 省略
オーストラリア 42.7 18.6 省略
スウェーデン 42.4 17.6 6.7 3.5 4.7 2.7 0.8 4.5 1.8 0.4 1.7
デンマーク 40 18.9 7.9 3.3 3.5 1.5 0.9 2 1.8 0.9 2.3
韓国 37 18.8 7.7 3.2 3.9 4.1 2.2 6 2.1 2.7 2.6
フランス 36.5 18.6 7.5 1.9 5.6 1.2 0.7 1.3 1 1 1.1
オランダ 35.6 16.9 5.1 3.1 4.2 2.1 1.3 2.2 1.3 1.3 2.5
フィンランド 31.6 20.6 4.8 1.9 3.1 1 0.4 1.3 1.2 0.6 1
イタリア 29.4 17.3 5 3.1 4.2 1 1 1.8 1.4 0.8 0.7
※「職員会議」とは「学内での同僚との共同作業や話し合い」を指す。空欄値は省略につき原表を参照。数値の太字強調はこの抄出表のなかでの最低値と最高値。抄出表以外のデータは原表を参照。日本の値が平均値よりも大差ない場合は強調しなかった。
※アメリカは回答率がガイドラインに達しなかったので参考データとして記載[3]

第三回TALIS(2018)[編集]

2018年のTALIS第3回調査では48か国が参加したが、ドイツ、中国(上海は参加)、前回参加したマレーシアは参加していない[11]

TALIS(2018)でも、中学校では、1週間あたり平均勤務時間の合計は参加国平均38.3時間に対して、日本は56時間で参加国最長であった。第二回2013が53.9時間だったので、増加したことになる。また、小学校でも54.4時間で参加国最長であった[11]

  • 前回同様、女性教員の割合が参加国最低だった[11]
  • 職員会議はカザフスタンが参加国最長の4.3時間で、日本は二番目に長く3.6時間だった(前回より0.3時間減)。
  • 学校運営に関する時間も参加国平均1.6時間であったのに対して日本は2.9時間で参加国最長だった。最短はフィンランドの0.3時間だった。
  • 事務時間(書類作成など)も参加国平均2.7時間であったのに対して日本は中学5.6時間で参加国最長だった。最短はフィンランドの1.1時間だった。
  • 課外活動(部活動など)も参加国平均1.9時間であったのに対して日本は中学7.5時間と参加国最長だった。最短はスウェーデンとフィンランドの0.4時間だった。
  • 一方、新項目「職能開発」では、日本は最短の0.6時間だった。
TALIS(2018)「中学校教員の仕事時間」(単位は残業等含む一週間あたり時間)[11]
合計 授業 授業準備 職員会議 採点添削 生徒指導 学校運営 事務 職能開発 保護者との連絡連携 課外活動(部活動など) その他の業務
参加国平均 38.3 20.3 6.8 2.8 4.5 2.4 1.6 2.7 2 1.6 1.9 2.1
日本 56 18 8.5 3.6 4.4 2.3 2.9 5.6 0.6 1.2 7.5 2.8
カザフスタン 48.8 15.1 9.1 4.3 4.8 3.5 2.5 3.2 3.2 2.5 3.1 2.2
アルバータ州 47 27.2 7.3 2.6 5 2.3 1.8 2.4 1.5 1.4 2.7 0.7
イングランド 46.9 20.1 7.4 3 6.2 2.5 2 3.8 1 1.5 1.7 2.2
アメリカ 46.2 28.1 7.2 3.5 5.3 3.4 1.7 2.6 1.7 1.6 3 7.1
シンガポール 45.7 17.9 7.2 3.1 7.5 2.4 1.4 3.8 1.8 1.3 2.7 8.2
スウェーデン 42.3 18.6 6.5 3.3 4.1 2.2 0.9 3.2 1.1 1.5 0.4 1.9
ポルトガル 39.6 20.1 省略
デンマーク 38.9 19.4 7 3 2.5 1.5 0.7 1.7 0.8 1.4 0.9 2.3
フランス 37.3 18.3 7 2.1 4.7 1.2 0.7 1.4 0.8 1.1 1 1.8
オーストラリア 37.2 19.2 省略
オランダ 36.4 17.4 4.9 3 3.7 2.5 1 2.4 1.9 1.5 0.9 2
韓国 34 18.1 6.3 2.5 2.9 3.7 1.7 5.4 2.6 1.6 2 1.8
フィンランド 33.3 20.7 4.9 2.1 2.9 1 0.3 1.1 0.8 1.2 0.4 0.9
イタリア 30 16.8 5.1 3.2 3.7 1.4 1.1 1.9 1.8 1.2 1 0.9

※ 合計勤務時間順。空欄値は省略につき原表を参照。数値の太字強調はこの抄出表のなかでの最低値と最高値。抄出表以外のデータは原表を参照。日本の値が平均値よりも大差ない場合は強調しなかった。

過労死と長時間労働[編集]

過労死と認定された公立校の教職員は2016年度までの10年間で63人と報道されている[12]

また、12時間以上保育園に子どもを預け、自身の子どもと向き合えないことを理由に正規職員を退職した教員もいる。また多くの教員が仕事にエネルギーのほとんどを注ぎ、異性との出会いがなく独身という現状もある。教員の不祥事に関して私生活のことであっても激しいバッシングが起こりその対処に教育委員会や学校が追われ現場も一層忙しくなる循環も元教員から指摘されている[13]

2021年6月に千葉県が実施した県内公立学校の教諭らの勤務調査において中学教頭5割、教諭など3割「過労死ライン」だった[14]。月あたりの時間外在校等時間56時間56分であった[15]。このような状況に対する令和2年度給与実態は、千葉県の一般行政職員の手当等も含む月額給与410,794円(平均40.8歳)に対し、小・中学校(幼稚園)教育職の給与は410,313円(平均40.5歳)とほぼ等しくなっている[16]

公務災害[編集]

「平成30年版過労死等防止対策白書」によると、公務災害認定事案の脳・心臓疾患の支給決定(認定)要因は多くが「長期間の過重業務」であり、長時間労働の要因は中・高では部活動に関連するもの、小学校では役職や委員会に関するものが多い。精神障害事案では長時間労働のほか、上司トラブル等の対人トラブルに関するものが多く、教員の公務災害認定事案では、保護者対応等住民等との公務上での関係に関するものが多いと分析されている[17]。2020年8月には「#先生死ぬかも」というハッシュタグがTwitterでトレンド入りしたが、教育研究家の妹尾昌俊は「死ぬかも」ではなく毎年のように教員が実際に過労死等で死亡している事実を指摘している[18]

これら教員のうつ病自殺と公務災害認定については、長時間労働の上、指導困難な子供と対応困難な保護者に対峙し、教員に対する支援体制の不十分が相まってうつ病の発症に追い込まれる現状が現職教諭によって分析されている。特に背景として保護者の教員に対する意識変化について、保護者の立場が、子どもとともに先生(師)から教えを受ける立場から、教育サービスを利用する「顧客」へと変化したことが背景として挙げられ、また教員同士のつながりが希薄になり支え合いが行われなくなったことを指摘している[19]。部活動については内田良によると「無料の保育所状態」を期待され、週末も学校現場から離れられない実情がある[20]

関連事例[編集]

以下、公務災害認定を受けた事例、認定を受けなかった事例も含めて記載する。また、過労死と、公務に起因する自殺とは明確に区別できない境界事例もあるので、年代順に記載する。

  • 1998年8月、仙台市立中学校男性教諭(享年36)は、仙台で開催された全国中学校バドミントン大会に従事している大会期間中、滞在中のホテルの自室において縊死自殺した。地方公務員災害補償基金宮城県支部長は中体連関連業務は公務とは認められず、特に過重な職務に従事したものとは認められず、本件災害と公務との相当因果関係を否定し公務外災害として公務債が認定を却下した。中体連関連業務は公務にあたるものと判断され、長時間労働の事実を認め、自殺は公務に起因するものであるとされた[21]
  • 2004年9月、静岡県磐田市立小学校の新任女性教諭(享年24)が4年生のクラスを担任しクラスで児童が暴れる、暴言を吐くなどで学級崩壊が起こり該当男児の母から登校も考えると言った非難を受けた翌日に自家用車内に火を付け、焼身自殺した。公務災害ではないとの地方公務員災害補償基金静岡支部の認定取り消しを求め両親起こした訴訟の判決で、静岡地裁は公務災害否定の認定を取り消した[22][23]
  • 2007年6月横浜市立中学校の保健体育の男性教諭(享年40)は二泊三日の修学旅行直後にくも膜下出血を起こし、死亡した。朝7時台のサッカー部部活朝練から夜9時までの残業、帰宅後も資料作成があり月208時間の残業が確認されたが、公務災害は97時間分で101時間は自主的活動であり仕事とは認定されなかった[24]
  • 2011年、堺市で教員2年目の市立中学男性教諭(享年26歳)が心臓の急激な機能低下により倒れ死亡した[25]。その後、地方公務員災害補償基金に公務災害(労災)による死亡と認定された。学校内では残業は月61~71時間だったが、残された授業や部活の資料から独り暮らしの自室でも相当数の残業を行ったと認められた[26]
  • 2016年石川県野々市では市立小学校女性教諭(享年51歳)が勤務中に倒れてくも膜下出血で死亡した。学年主任を務め、担任の産休などで残業が重なった中、校内での研究会中に意識不明になり後急逝した。遺族は過重な勤務が原因として公務災害を申請したが、倒れる直前は冬休みの影響か4週間で20時間ほどだったため否認された[27]
  • 2018年、福井県若狭町の公立中学校の新任男性教諭(享年27)が2014年に長時間過重労働で自殺したのは、校長が安全配慮義務を怠ったためだと遺族が県と町に損害賠償を求め提訴したのに対し学校側は「自主的な残業」と主張。地方公務員災害補償基金県支部は長時間労働による精神疾患が自殺の原因として公務災害と認定した[28]。教諭は日記の表紙に「疲れました。迷わくをかけてしまいすみません」と書き残していた。遺族が起こした損害賠償訴訟では福井地裁では県と町に約6500万円の支払いを命じた[29]

東京都内市立小学校では2年担任の新任女性教諭(享年23)が公務に起因してうつ病に罹患して自殺したとして、両親が公務外認定処分の取消を求めた裁判で労働者側が勝訴した事件も起こっている(東京高裁平成29年(2017)2月23日判決)。児童の万引き事件での保護者からの恫喝や同家庭の給食費・教材費の滞納、学級内での度重なる上履きや体操着隠しが起こり心理的負担が増大し、学校内での支援体制についてはトラブルを校長に相談すると「あなたが悪い」と怒られ、言えずにいると後で報告しなかったことを叱責され、どちらにしても怒られると悩み同僚に相談していた[30]。保護者から「結婚も子育ても未経験」と言った批判や、校長から親から信頼できないとの意見があると伝えられ精神的に追い込まれており、「無責任な私をお許し下さい。すべて私の無能さが原因です」とする遺書を残していた。しかし弁護士によると公務が原因とみられる自殺も遺族が公務災害を申請すること自体がまれと報道されている[31]

保護者からの圧力を起因とした自殺[編集]

2018年、兵庫県三木市では、父親から虐待された女児の保護をめぐり、兵庫県三木市立小学校の校長(当時)や市議が、保護にあたった養護教諭のことを父親に漏らしたため嫌がらせを受け休職を余儀なくされ、後に養護教諭が自殺した事件が起こっている。[32]。なお、可能な限り学校としては教育上の対処に係る裁量を行使して対応すべきであるとの前提があるため、学校や教員が保護者に対して民事訴訟を提起した事案は、ごくわずかな件数に留まっている[33]

長時間労働の原因[編集]

給特法の影響[編集]

教職員の長時間労働の根本的な原因には、昭和46年制定の「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)で時間外労働が「自主的な活動」とされている点が指摘されている。この法に基づき公立学校の教員には、時間外勤務手当及び休日給が支給されない代わりに、給料月額の4%に相当する教職調整額が支給されている[34]

戦後に労働法関連の諸法規が制定された際に教師も労働者の一員として基本的には労働基準法が適用されることになり、8時間労働制を定める労基法32条、時間外労働の手続や残業手当について定める36,37 条も適用され残業に対しては手当が支払われるべきものとされたことが影響している。当時国の指導にも関わらず現実には残業手当が支払われなかったことが起こり、残業手当請求訴訟が繰り返し提起され、判決は法律の規定に従って手当の支払いを命じた。これに対応し、文部省は教師の勤務状況を調査し残業の実態を把握し、平均的時間数(月間8時間程度)に見合うものとして「教職調整額」を基本給の4%とし、当時としては平均的な残業分の手当てが含まれた。この法令を研究した萬井隆令は、現代の状況を指し、教師に精神障害が多発しているが、長時間労働も一因と考えられるとの意見がある[35]

また、給特法とは関係なく労働基準法が適用となるはずの私立学校教員も、その多くで残業代が払われていないとの指摘もある[36]

ただし現状でも公立学校教員の勤務時間その他の勤務条件は、一部の規定を除き、労働基準法が適用される。具体的には勤務時間は給与負担者である各都道府県及び政令市の条例等によって定められる。使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならないと規定されており、教育公務員はその制約を受ける[37]

昭和46年制定の「給特法」では、公立学校の教育職員に時間外勤務を命じるには、次の超勤4項目に該当する場合のみ公務のために臨時の必要がある場合、健康及び福祉を害しないように考慮しなければならないとされており、それ以外は労働基準法36条協定を必要とする。「超勤4項目」とは次に該当するもので、「公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令」で定められている[38]

  1. イ 校外実習その他生徒の実習に関する業務
  2. ロ 修学旅行その他学校の行事に関する業務
  3. ハ 職員会議(設置者の定めるところにより学校に置かれるものをいう。)に関する業務
  4. ニ 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務

2019年4月からの労基法改正により、時間外勤務をする場合には上限規制の前提となる36協定締結への対応が各事業所で求められることとなり、地方自治体でも協定が必要となる[39]。なお、日本労働組合総連合会2019年調査では「会社が残業を命じるためには、36協定の締結が必要」の認知率は55%であり改正労基法の4月施行後も課題残り、「勤め先で 36 協定が締結されている」59%に留まるとしている[40]

一方で、昭和23年3月施行の政府職員の俸給等に関する法律に教員はその勤務の特殊性から、一応1週48時間以上勤務するものとして一般公務員より有利に切り替えられ、また同年5月には政府職員の新給与実施に関する法律制定され、ここでは調整号俸という形で一定の基礎号俸の上に1,2号俸を積み上げている。ここで超過勤務は支給されないこととなった[41]

なお、公立学校教員の給与は、市町村立学校職員給与負担法により都道府県が負担し、その半額は国庫が負担となっている。ただし兵庫県明石市では小学校1年生の教員国基準1クラス35人を、市独自基準で人件費を負担して30人学級にしているところもある[42]。更に、昭和49年施行となっている学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法では、一般公務員より教員の給与を優遇する措置が取られてきた経緯がある[43]。しかし現職の教員からは、人材確保法で25%引き上げられた優遇措置も不況による教員への風当たりによって経費削減が行われた結果、文部科学省資料では一般行政職と比較して2021年現在では2%程度高い程度で、それに4%が加わる現状との見解が示されている[44]
現在の教員残業代を実体化すると、国庫負担ベース3,000億円を超え、自治体負担分を合算すると総計では9000億円と文部科学省により試算されている[45][46]。実質、教員1人あたり毎月10万円程度の残業未払との指摘がある[47]

給特法改正と変形労働時間制の導入[編集]

文部科学省は2019年6月、公立小中高校の教員が夏休み中に休日をまとめ取りできるよう、学校の夏季休暇中の業務を減らす指針を出した[48]。なお、2019年の給特法改正参院附帯決議では「2、3年後を目途に教育職員の勤務実態調査を行った上で、本法その他の関係諸法令の規定について抜本的な見直しに向けた検討を加え、その結果に基づき所要の措置を講ずること」(12項)とされている。

2020年12月、給特法が改正され、公立学校教員の勤務時間を年単位で調整する「変形労働時間制」が導入され、自治体の判断により2021年度から、変形労働時間制を活用した「休日まとめ取り」が可能となる[49]

しかし、2020年4月からの新型コロナウイルス感染症対策として全国で小中学校の休校が相次ぎ、その代償として学習指導要領のカリキュラムを履行するため、夏休みを返上を表明している自治体も出ていると報道されている[50]。このような場合、夏休みに休日まとめどりを行うことが不可能となって来る。都道府県で条例を制定し21年度から導入することが可能だが、地方議会において反対の動きが出ていると報道されている[51]
2020年12月現在、教職員の勤務時間をタイムカードなど客観的な方法で把握している教育委員会が、都道府県は9割を超えた。教職員の「変形労働時間制」条例の制定は今年度中に予定としたのは12道県で、指定市はゼロと報道されている。ただし、コロナ禍による休校の影響で教職員の残業は減少傾向にあった[52]
学校行事の中止や延期、部活動の自粛によって減った残業は、しかしその後夏休みの短縮と教員による消毒作業などにより再び増加傾向に転じた[53]
精神疾患による休職者数・割合は2009年度のピーク後は減少傾向にあったが近年再び増加傾向に転じ、2019年度は割合は2009年度と同じ0.59%だが数は5478人と上った。その後の2020年度のコロナ禍への対応による残業悪化の影響が懸念されている[54]
残業時間の正確な把握については、超過勤務手当が4項目しか出ないため把握する必要性がないことから長年、ほとんどの学校で勤務時間の正確な把握は行われてこず、把握に努めだした2020年現在でも過少申告や虚偽申告が横行し、ICカードやタイムカード等による勤務時間での把握は都道府県(おもに県立高校や県立特別支援学校等)では66.0%、市区町村(おもに小中学校)では47.4%にとどまっている[55]。日中も多忙であり、教員の1日の休息時間は小学校で平均で6分ほど、中学校で平均8分と報道されている[56]

多忙化要因[編集]

中教審教員養成部会は2019年11月、教員免許更新制の教員の負担軽減策を検討したが、教育新聞の読者投票では77%が更新制度の見直しを望んでいる[57]。多くの時間を費やし費用も自己負担であることで不満が募り、また現職に失効者がでる問題もある[58]。このほか、日常的には、対象教員が全員受講しなければならない悉皆研修も教員の多忙化に拍車をかける場合があり、研修回数を減らす、開催時期をアンケートで意見を聞く[59]などの努力をする取り組みをする市教育委員会もある[60]。また業務時間前の立哨指導については、退職した小学校長は業務時間外に行うほどの教育効果が得られたか自戒を込めて反省している[61]。現職教員からは就業時間前の7時半に校門が開き教員が早出勤を強いられる状況を「スタッフ出勤前に開いているレストラン」になぞらえている[44]。他方で、合理的運営を行っている小学校では校務システムを利用したスケジュール共有による職員朝会議の時間内開催や出欠確認後の体調不良者のみの健康観察の保健室集約、職員会議は年4回限定や99%の保護者メール周知と学校現場での働き方改革を学校単位で成し遂げた校長もいる。ただし、研究授業については良さも認めつつ、時間がかかりすぎることから方向性の改善を提案している[62]。保護者配布物のデジタル化[63]、職員会議ややらされ行事の廃止で残業時間を削減に成功した学校もある[64]

ところで教育多忙の要因は、平成26年11月の文部科学省調査では「国や教育委員会からの調査等への対応」を筆頭に、「研修会や教育研究のレポート作成」、「児童・生徒・保護者アンケートの実施・集計」、「保護者・地域からの要望・苦情等への対応」に多くの時間が費やされ、多忙感を増大させているとの結果となっている[65]。またその対策としては、財務省の見解では教員増ではなく、例えば精神科医や臨床心理士の資格を持つカウンセラー、社会福祉士などのソーシャルワーカー、外国語を教えることができる人材やICTの専門家、不登校児等を専門に扱うNPO・フリースクール、部活動指導ができるコーチ、事務作業の経験者などの学校の周りにいる専門家や専門機関、あるいはシルバー人材や元教員等の地域ボランティアなど、多様な協力者の参画を促すべきと示している[66]。東京都教育庁は学習指導や部活動指導などの学校教育活動を支援する者の情報を、東京都の公立学校に提供する人材バンク事業を行っている[67]

2015年電通の女性社員(24)が過労自殺したが、死亡前に月130時間を超える残業を行っていた。文部科学省「教員勤務実態調査」(2016年実施)の分析により、月120時間以上残業(週65時間以上勤務、持ち帰り残業も考慮)という、過労死ラインをはるかに超えて働く教員は小学校17.1%、中学校40.7%にも上るため、多くの教員が前述の女性社員に匹敵またはより長時間の就労に従事していると指摘されている[68]

このほか、学校現場では、いじめの重大事態や児童虐待相談対応件数が過去最多(2019年4月現在)、障害のある児童生徒、不登校児童生徒、外国人児童生徒等の増加といった複数の課題への対応が日々迫られている[69]

学校でのICT機器の活用は、「アクティブ・ラーニング」や「個別最適化された教材」という効率的な学習を子供に与えると共に教員の業務の効率化にもつながる。大阪市では校務支援システム」で年間約170時間の業務時間を削減できた。評価が困難なアクティブラーニングやグループ学習では、児童や生徒の発言を“可視化”するためのソリューションとしての協働学習支援サービスを活用し、教員の指導や評価を援助する仕組みも始まっている。学習用タブレットの学習ログ、学力テストの結果、児童や生徒から取ったアンケート結果などを統合的に分析し、児童や生徒に個別最適化した指導方法の策定、教員、児童や生徒、保護者に対するフィードバックも可能な「未来型教育 京都モデル実証事業」が京都市と京都大学共同で行われている。新型コロナウイルスによる臨時休校といった事態に対処するため、国、教科書の出版社、端末メーカーやソフトウェアベンダーなどが小中学校へのICT導入が推進されている[70]

学校における働き方改革も関係し長期休業中の世話、病気の時の費用負担、子供のアレルギー問題への対応などから、学校内のうさぎ・ニワトリなどの飼育動物が減少しているという余波も起こっている[71]

教育新聞調査では、公立学校教員の96.6%が少人数学級の実現を求めていた。教員の多忙の問題の抜本的な解決に向けた基本的な対応として、学級規模の見直しが迅速に進めることが求められているとの意見がある[72]

採用試験競争率の低下、人材不足[編集]

現職の教師が前向きに取り組んでいる姿を知らしめ、減少傾向が続く志望者を増やすことを目的として2021年3月末に文部科学省が始めた「#教師のバトン」プロジェクトは、ツイッターで長時間勤務の実態や部活動指導の重い負担を訴える声が溢れ、文科省は2021年4月に訴えを受け止めて働き方改革を加速すると宣言した[73][74][75]。しかし「♯教師のバトン」には、勤務時間を実際より少なく申告させられているという投稿もあり、文部科学省が上司の許可は不要と説明しているにも関わらずNHKの取材では管理職から投稿を止められているとの声が複数あると報道されている。また昨年度の公立小学校の教員の採用倍率は過去最低を記録し人材確保が危機だと言われてる[76]。2021年1月、国家公務員制度を担当する河野太郎規制改革相が、霞が関の各府省が長時間労働のサービス残業を常態化していることについて問題視したことから、残業代の適切な支給を閣僚に要請した。2月には適切な国家公務員給与の支給に踏み切った[77]。一方で2021年7月、萩生田文科大臣は給特法について様々な意見があることを認め、かつ教員の長時間残業を変えないと志望者が増加しないことも認識し改革を促進させることを口にした。これに対し都内の校長は教員に残業代を支給すれば国の財政負担が莫大なものになることに理解を示しながら、人材確保のためとせめて本給の増加を希望している[78]

参議院常任委員会調査室・特別調査室の報告書で、文教科学委員会調査室による教員採用選考試験における競争率の低下の分析で、2次ベビーブームへの対応で大量採用された教員の多くが定年退職時期の影響と学校現場に対する「ブラック」なイメージによる忌避が挙げられている。競争率低下に伴い教員の未配置問題や教育の質の低下が懸念され、学校における働き方改革を進め、教員を取り巻く労働環境を向上させることは急務と述べられており、教員の仕事の崇高さ、やりがいといった魅力の発信については多くの教員が過労死レベルを超えて働いている現状の中で精神論だけでは限界があり、処遇改善が不可欠と指摘されている[79]

ところで、日本育英会が行っていた奨学金制度は小学校・中学校・高等学校の常勤職員になり全額免除に必要な15年の在職期間に達したとき返還特別免除制度により償還免除となっていた。2004年に日本育英会が日本学生支援機構となった際に廃止された[80]。奨学金改革により低所得者層の優秀な学生が教員を目指さなくなる弊害が指摘されていた[81]

2022年1月公表の文部科学省調査では、全国で教員不足2558人上ることが明らかになった。文科省では教員不足によって「授業が停滞するといった深刻な事態は把握していない」としている[82]が、千葉市では免許保有者に教員を確保するため、勤務実績のある人など延べ1000人に電話を掛けたり、福岡県の小学校では担任が不在となり、教頭が一時期、担任を務めるなどの弊害が発生してる[83]。73歳OBまでフル勤務で穴埋めする現状がある[84]。この調査結果について、末松信介文部科学大臣は調査結果について危機をもって受け止め、学校における働き方改革が一番の優先施策であると述べた[85]

部活動指導[編集]

部活動に関して、内田良らが行った2017年の全国の中学校教員に対する質問調査では、平日平均12時間を超え、9割以上が月1度以上休日出勤し、また休日出勤者の77%が週一度以上恒常的な休日出勤をしていた。部活顧問は9割以上の職員が就いており、どの職域でも週10時間程度は部活の立ち合いをしているが、教員の半数は次年度は顧問をしたくないと回答しており、顧問の部活を自分が未経験な場合もストレスを増加させている。そもそも学習指導要領では部活動は教育過程外であり、生徒の自主的、自発的活動と位置づけられている[86]。しかしコロナ禍前では多くの教員が、1年間の全部の教科の授業時間数の1コマ50分の1,015時数より多くの時間を部活動にさいてきたと指摘されている[87]
一方で、部活動は「学校教育の一環として、教育課程との関連が図られるよう留意する」ことが新学習指導要領に定められている。運動部活動は、顧問の教員の積極的な取組に支えられるところが大きいが、学校教育の一環としてその管理の下に行われるものであることから、各活動の運営、指導が顧問の教員に任せきりとならないようにすることが必要であり、校長のリーダーシップのもと、教員の負担軽減の観点にも配慮しつつ、学校組織全体で対応すべきである指針が示されている[88]

1955年の部活活動日数は中学で男子3.8日、女子3.7日で高校が男子4.8日、女子4.2日だったが2001年調査では男女で中学5.5日、高校で5.6日と増加した。生徒自身も負担に感じており2001年調査では中学で20.9%、高校で22.6%が休日が少ないと回答している。教員の責任が問われることもあり、熊本市立中学の1970年7月の柔道部での半身不随事故では顧問と校長、熊本市が注意義務違反で敗訴した。これにより特に熊本県で部活が学校から社会体育化へと移行が推し進められたが、1978年に日本学校安全会の災害共済給付制度が改善されたことにより地域クラブ活動の保証が及ばないことで再度全国的に部活が学校へ回帰した経緯がある。また1989年の学習指導要領で部活動参加を以って必修クラブ活動の履修を認める「部活代替措置」が認められたが、学校5日制の実施で授業数確保を苦慮した現場では必修クラブを授業時間からなくして代わりに生徒の部活動を義務付けた。埼玉県では98.8%が部活代替措置を行った。しかし1999年の学習指導要領で必修クラブ活動が廃止されたため部活代替措置の前提が崩れ、運動部活動の従事が半ば公務と見做される根拠も失われた。しかし一方で東京都教育委員会では2006年に都立学校の部活動を教育課程内に含めるよう制度変更しているなど部活動の位置づけは変遷している[89]。2014年、福岡県の公立中学校に勤務する体育教諭は、長時間化する「ブラック部活」に異を唱え、教員仲間6人で「部活問題対策プロジェクト」を立ち上げ、顧問強制や採用試験で部活顧問の可否を質問すること、生徒の加入強制に反対する署名活動を行い、6万以上の署名を集めた[90]。顧問の強制などの部活動問題の改善を専門に訴える組合「愛知部活動問題レジスタンス(IRIS)」が2021年11月に設立されている[91]

共同通信調査によると、法令で部活による時間外勤務を認めていないため、23府県では土日部活動で練習試合で生徒を引率した教員に対し旅費を支給していない[92]

一方で2020年10月、経済産業省は、少子化による学校単位でのクラブ存続難と教員の働き方改革の必要性の高まり、ボランティア主体による指導の質のバラツキによる弊害により、学校部活動から持続可能なスポーツクラブ産業への移行を探る「地域×スポーツクラブ産業研究会」を発足させた[93]

部活によって私生活がなく、夫が家庭を顧みない状況を「部活未亡人」、それにより起こる離婚を「部活離婚」、結婚に至る私生活を送る時間もない「部活未婚」という言葉もある。しかし部活に奉仕しようとも、平日及び土日も4時間未満は無手当であり、福井県での土日部活動手当は4時間を超えた時間無制限に対し、一律3600円が支給されるのみとなっている[44]

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授内田良はハンマー投げ死亡事故や、競技未経験者が部活顧問を行う問題事案として山岳が「向いていない」と自覚しつつもしていた部活動で教員(29)自らも事故死した那須雪崩事故、時には交通事故も起こる部活遠征でのマイクロバス運転の送迎活動の問題を挙げ、生徒や教員の犠牲のうえに成り立部活の「無理矢理のパッケージ」による弊害だと言及している[94][95]。公立学校では少額の休日手当以外無償奉仕であるが、ハンマー投げでは顧問教諭2名が書類送検され[96]、那須雪崩事故では男性教諭3人を業務上過失致死傷容疑書類送検された[97]うえ、遺族との民事調停では県が3教諭に賠償を求償する意見書が出されている[98]など顧問に重大な責任が課されている。

文部科学省は休日に教員が部活動の指導に関わる必要がない仕組みを整備する改革案をまとめ、今後、各地域にある拠点校で実践しながら研究を進め、2023年度から段階的に実施する予定となった[99]

学校外の対応[編集]

学校の下校時に地域で騒いだ、迷惑行為をした、友人宅でトラブルがあったなど本来学校管理下ではない子供の行動についても、慣習的に謝りに行くのは教師であり、社会の構成員が子供の広範な管理を学校に求めようとする社会を、「学校依存社会」と呼ぶことを内田良は提唱している[100]。学校には時に学校とは無関係であるはずの公園の管理の苦情が持ち込まれたり、学校のプリント以外にも公民館、図書館、教育委員会関係、NPOなどから日々送られてくる営利目的外の大量の配布物を仕分け・配布、及び集金、特別な配慮が必要な子どもの保護者への対応、各種報告書の作成、保護者からの連絡が放課後対応として存在しているため教職員の多忙化に拍車がかかっている[101]

東京都墨田区では学校における働き方改革の一環として、全学校に時間外の留守番電話を導入し、時間外で緊急時の場合は、区役所宿直に連絡するようにとしている[102]。また、同区では保護者の負担軽減や教職員の働き方改革のため、小中学校の出欠席を保護者のスマートフォンやPCから連絡できるシステムを導入した[103]

改革の沿革[編集]

働き方改革関連法成立まで[編集]

2017年(平成29)6月,松野博一文部科学大臣は、中央教育審議会(中教審)に「学校における働き方改革に関する総合的な方策について」諮問した[7]。同月、中教審は「学校における働き方改革特別部会」設置し、以後会議を重ねた[7]
8月、中教審特別部会は以下の緊急提言を出した[104]

  1. 校長及び教育委員会は、学校において「勤務時間」を意識した働き方を進めること
  2. すべての教育関係者が、学校・教職員の業務改善の取り組みを強く推進していくこと
  3. 国として、持続可能な勤務環境整備のための支援を充実させること

2017年12月中教審は「中間まとめ」を発表、文部科学省では「緊急対策」を取りまとめ、業務の役割分担・適正化に向けた方策などとともに、それらの実施に向け、スクール・サポート・スタッフや中学校での部活動指導員といった人的支援、学校給食費の徴収や管理業務の改善を含む2018年度予算案を示した。

2018年2月、「中間まとめ」や「緊急対策」を踏まえた取り組みを徹底するよう、各都道府県と指定都市の教育長宛に通知が発出。同年3月、スポーツ庁は「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を出した[105]

2018年(平成30年)6月、第4次安倍内閣は働き方改革関連法を成立させ、2019年(平成31年)4月1日施行した[5]。働き方改革関連法の労働基準法等改正では、時間外労働の上限は月45時間かつ年360時間とされ、違反企業や労務担当者には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科すとされた。

第三十六条4
前項の限度時間は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間及び一年について三百二十時間)とする。 — 労働基準法等改正、働き方改革関連法、2018年(平成30年)

中教審答申と文科省通達(2019)[編集]

中教審は2019年(平成31)1月25日に答申をまとめた[7]。中教審は、2018年の働き方改革関連法の労働基準法等改正での「時間外労働の上限は月45時間かつ年360時間」とする規定に準じ、「教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」において、1か月の在校総時間から条例等で定められた勤務総時間を減じた時間が45時間を超えないこと、1年間の在校総時間から条例等で定められた勤務総時間を減 じた時間が360時間を超えないことを制定した[7]

文部科学省は中教審答申[7]を踏まえ、2019年年3月18日、各都道府県知事、各都道府県教育委員会などに対して「学校における働き方改革に関する取組の徹底について」を通知した[106]。文部科学省は同通知において、以下を通知した[106]

  • 自己申告方式ではなく、ICTやタイムカードなどにより勤務時間を客観的に集計するシステムの構築。
  • 適正な時間に休憩時間の確保。
  • 部活動に関して、スポーツ庁「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」及び文化庁「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を踏まえた適切な活動時間や休養日の設定を行うこと、次に、部活動に過度に注力してしまう教師も存在するが、教師の側の意識改革を行い,採用や人事配置等においては,授業能力や生徒指導に関する知見を評価し,部活動の指導力は付随的なものとして位置づけ、一部の保護者による部活動への過度の期待も踏まえ、内申書における部活動に対する評価の在り方の見直し。
  • 各教育委員会は,部活動の数について,生徒や教師数の状況を考慮して適正化し、生徒がスポーツ・文化活動等を行う機会が失われることのないよう複数の学校による合同部活動や民間団体も含めた地域のクラブ等との連携等を積極的に進めること
  • 地域で部活動に代わり得る質の高い活動の機会を確保できる十分な体制を整える取組を進め、将来的には部活動を学校単位から地域単位の取組にし,学校以外が担うことも積極的に進めること(地域のクラブチームなど)
  • 「超勤4項目」以外の業務について,早朝や夜間等,通常の勤務時間以外の時間帯にやむを得ず命じざるを得ない場合には、服務監督権者は、正規の勤務時間の割り振りを適正に行うこと
  • 学校行事の見直し、準備の簡素化を進め,地域行事と学校行事の合同開催等,行事の効果的・効率的な実施
  • これまで学校が担ってきた業務について,域内で統一的に実施できるものにつ いては,できる限り地方公共団体や教育委員会が担っていくこと
  • 学校が直面してきた課題に関係があると思われる福祉部局・警察等関係機関との連携促進
  • コミュニティ・ スクール(学校運営協議会制度)の導入や地域学校協働本部の整備により、学校が保護者や地域住民等と教育目標を共有すること。また、業務委託や指定管理者制度による民間事業者の活用により、学校や教師の負担軽減を図りつつ、地域の財産である学校施設の地域開放を推進すること

令和元(2019)年12月、分科会の取りまとめでは、令和4年度から小学校高学年からの教科担任制度を本格的に導入すべきとしている[107]

2020-[編集]

2020年9月の学校における働き方改革推進本部の会合では、これまで学校の管理下にあった休日の部活動に関する業務を地域に移す方針を示し、2023年度から休日の部活動を段階的に地域移行するとした[108][109]

2020年文科省と財務省の折衝の末、小学校では2025年までに段階的に35人学級を実現することが決まったが、2021年6月18日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」において、公立中学校でも少人数学級導入を検討することが触れられた[110]

中央教育審議会の小委員会が「発展的解消」という表現で事実上の廃止を求める方向性を示したことを踏まえて、現職教員は土日や夏休み期間を使って講習を受ける負担が大きい「教員免許更新制」について、萩生田光一文部科学相は2021年8月、廃止する方針を表明した[111]

2022年1月、文部科学省は各都道府県および各指定都市教育委員長に向けた通知で、「勤務時間管理の徹底等について」「働き方改革に係る取組状況の公表等について」「学校および教師が担う業務の役割分担・適正化について」「学校行事の精選や見直し等について」「ICTを活用した校務効率化について」「教員業務支援員(スクール・サポート・スタッフ)について」「部活動について」の7項目となっている。働き方改革を進めるうえで校長の役割が大きいことから、校長がその権限と責任を踏まえて適切に対応できるよう、必要な指示や支援等に努めるよう明記している[112]

文部科学省における令和4年度(2022年度)概算要求予算では、学校における働き方改革、複雑化・困難化する教育課題へ対応するために教職員定数2,475人(54億円)の改善を要求するとともに、制度改正に伴う既定の改善で3,660人(77億円)について計上要求された。一方で教職員定数の自然減等で6,912人(147億円)の減額があったため、総額では16億円減少となった。このほか、教師と多様な人材の連携により、学校教育活動の充実と働き方改革を実現するため教員業務支援員(スクール・サポート・スタッフ)の配置などので64億円予算が積み増しされたが、国1/3補助率のため、 都道府県・指定都市2/3拠出した場合に実現可能となっている[113]。なお2022年度には、教員の勤務実態調査実施が予定されている[114][115]

改革内容[編集]

業務外行為の明確化[編集]

国は、指針として学校現場でのICTやタイムカードなどにより客観的に把握する。文部科学省の作成した上限ガイドライン(月45時間、年360時間等)の実効性を高めることが重要であり、文部科学省は、その根拠を法令上規定するなどの工夫を図り、学校現場で確実に遵守されるように取り組むべきとされた。労働安全衛生法に義務付けられた労働安全衛生管理体制の整備や教職員一人一人の働き方に関する意識改計画を掲げている。また、学校及び教師が担う業務の明確化・適正化を掲げ、夏休み期間のプール指導、勝利至上主義の早朝練習の指導、内発的な研究意欲がない形式的な研究指定校としての業務、運動会等の過剰な準備など、学校の伝統として続いているが、必ずしも適切といえない又は本来は家庭や地域社会が担うべき業務を大胆に削減すべきとしている[116]

専門スタッフ等の活用[編集]

教職員及び専門スタッフ等、学校指導・運営体制の効果的な強化・充実として、事務職員の充実、スクールカウンセラーの全公立小中学校配置及びスクールソーシャルワーカーの全中学校区配置並びに課題を抱える学校への重点配置。部活動指導員の配置促進、授業準備や学習評価等の補助業務を担うサポートスタッフ、理科の観察実験補助員の配置促進、スクールロイヤーの活用促進が提案されている[116]

運動部活動については、顧問のうち、保健体育以外の教員で担当している部活動の競技経験がない者が中学校で約46%、高等学校で約41%となっており、未経験者による指導がなされている。外部指導者だけでは、活動中の事故等に対する責任の所在が不明確であることなどから、大会等に生徒を引率できない問題があるが、「部活動指導員」は校長の監督を受け、部活動の技術指導や大会への引率等を行うことを職務とすることを学校教育法施行規則に新たに規定されている[117]。ただし、質の担保や低収入による人材の確保難について問題提起されている[118][119]

つくば市の公立中学校の校長として部活動改革に積極的に取り組む八重樫通校長は、中学校の働き方改革の本丸である「部活動改革」は校長である自分が取り組むべき課題だと認識し、かつ生徒減少による廃部問題なども解消するため市民団体「洞峰地区文化スポーツ推進協会(DOHO Cultural&Athletics Academy)」を活用し改革を推進した。教師は顧問をしないまたは兼業で有給でやることも選択可能となったスポーツ振興センターによる災害共済給付の代替となる制度や、受益者負担のため経済的困窮者に対する支援制度といった課題の解消必要性が挙げられている[120]

ITの活用[編集]

学校においても、AI 等のテクノロジーの活用が推奨されている。[116]兵庫県教育委員会は、全県立147校に手書きの答案でも採点が可能なデジタル採点システム導入した。小問ごとの集計で正答率を分析、採点ミスや採点時間減に効果を生んでいる。教員からは採点ミス減少や、採点時間が半減したなどの好評価が寄せられている[121]

埼玉県鴻巣市では児童生徒と教職員が1人1台の端末を導入し、2021年度に大学との共同研究によりSINET(学術情報ネットワーク)に直結する古クラウド化を図ることで教員が持ち帰り作業をすることが可能となっている。その作業内容は管理職が把握・管理している。教育委員会では教員のワーク・ライフ・バランスの向上を目指し環境導入を行った。今後デジタル教科書が導入で回線問題が発生する可能性について課題としている[122]

学校運営への支援制度の導入等[編集]

勤務時間管理の適正化や業務改善・効率化への支援として、次の点が問題視されている。登下校の対応などについて地域人材の協力体制整備が不十分、都道府県単位で共通の校務支援システムの導入が必要、業務改善方針等の策定や学校宛ての調査・照会の精選などについて市区町村での取組が不十分、部活動数の適正化や地域クラブとの連携が一層必要、学校給食費や学校徴収金の公会計化が不十分であることの改善が求められている[123]。この対策として、東京都練馬区では2019年度予算において、全国初として、保護者への精算金返金の迅速化を図る学校徴収金管理システムを運用開始する[124][116]

文部科学省は、学校給食費等の徴収に関する公会計化等の推進に関する通知を令和元年7月に発出し、学校給食費を初めとして、教材費,修学旅行費等の学校徴収金学校の負担軽減を図る取組の推進を呼びかけている[125]

学校給食費の徴収についての文部科学省の平成28年度実態調査では、公会計は39.7%[前回30.9%]である。徴収・管理業務は主に自治体が行うが17.8%、主に学校が行うが21.9%となっている。また未納の保護者への督促を行っている者は、学校事務職員47.1%、学級担任46.0%、副校長・教頭41.0%、校長等 20.3%である[126]。学校給食法により給食運営費以外となる食材料費については保護者が負担するが、かつて学校長徴収であった私費会計処理を世田谷区、千葉市、仙台市などで公会計化している。2020年11月の文科省の学校給食費の徴収・管理業務の調査公表では、全国の教育委員会の74.0%が学校に委ねているとの結果となっている。すでに公会計課を導入した千葉市は1校当たり年間で190時間の教職員の業務削減効果があるとしている[127]

部活動の在り方の見直し[編集]

教員の働き方改革を進めるため下呂市の全6中学校が2022年度から、行事の行事のやり方を見直して授業時間を確保し、6限の授業をやめて部活に充てることで生徒の最終下校時間を午後4時半に統一することを決定した[128]

新たな生徒指導の取り組み[編集]

千代田区立麹町中学校では工藤勇一校長の元で、服装や頭髪の指導は行わない、一律の宿題を出さない、中間・期末テストや固定担任制の廃止や朝の会議の短縮化など学校の改革を進めている[129]。また東京都世田谷区立桜丘中学校でも元西郷孝彦校長の元で、生徒の髪形や服装の校則はなく、携帯電話やタブレット端末の持ち込みも可能となった。遅刻、教室から抜け出し自習することもできる。平均学力は区内トップレベルだと報道されている[130]。学業の本分と健全な学校運営に関わらない余計な生徒指導を生む現状があるブラックな「校則の見直し」と「教師の負担軽減」の両立についての指摘がある[131]。服装チェックなどの細かい指導が教員の時間を奪うため教育上より重要なことに時間を割きたいと考える教員から、働き方改革の文脈で声があがっているという事実もあるようだとの指摘がある[132]。教員の長時間労働とブラック校則の問題は根底でつながっているとの意見もある[133]。2021年1月、「校則の改正プロセス明文化」などの提言書を高校生らが文部科学省に提出したが、教職員が児童生徒と対等に向き合い、民主的な学校コミュニティ形成には余裕のある環境が必要とし、教職員の働き方改革と、子どもの「管理」を学校に求めてきた地域社会の現状の見直しを要するとしている。その提言内容には教職員の働き方の改善も含まれている[134]

教師のバトン[編集]

文部科学省によって2021年3月26日にTwitterを活用して現場の声を聞いて現場を支えていくという教師のバトンプロジェクトを開始した[135]。現場の教員から労働環境改善を求める声があがった[136]。末松信介文部科学相は「学校の働き方改革」を推進するためにこの企画を継続すると表明した[137]

時間外勤務手当時間外請求[編集]

公立小中学校教員(正規職員)[編集]

2004年、川口市内の市立小中学校の教員が埼玉県人事委員会に時間外勤務手当の支払いなどを求めて措置要求を行い、要求は2006年3月、いずれも棄却・却下。男性教員3人が決定取り消しを求めて2006年夏、さいたま地裁に提訴、さいたま地裁で請求が棄却され、原告側が上告し2009年教員側の請求が棄却された[138]

公立小中学校教員(正規職員のち再任用)[編集]

教員の時間外労働に残業代が支払われていないのは違法だとして、埼玉県内の市立小学校の男性教員(62)は、2021年現在県に未払い賃金の支払いを求め提訴している。教職員は給特法で時間外勤務を命じることができるのは、生徒の実習、学校行事、職員会議、災害など緊急事態からなる「超勤4項目」に限り、労働基準法37条の時間外労働における割増賃金の規定が適用除外されているため、県は『教職調整額は、超勤4項目以外の勤務についても対価として支払われている』と主張している[139][140][141]

正規の勤務時間外になされた超勤4項目以外の業務について、初めて『労基法上の労働時間』該当性の法律判断を求めている点が過去の敗訴案件と一線を画し、長時間労働を恒常的に強いられたことに対する慰謝料が認められるべきと主張していると報道されている。該当男性教諭が新人だった1981年と比較し、8時半前の朝自習や朝会主席義務付け、歯磨き指導などで昼休憩が恒常的につぶれ、下校指導も始まり、教室管理など過去にはなかった仕事が累積している。このため昔は定時に多くの職員が勤務終了していたが現在は恒常的な残業が発生している[142]

2021年10月1日、埼玉地裁で上記訴訟は教員側の請求が棄却された。判決では労働基準法上の法定労働時間の規制を超えた労働があったと認定されたが、残業しなければ業務が終わらない状況が常態化しているとは必ずしも言えないとし賃金や賠償金の支払いについても認めなかった。ただし給特法についてはもはや現状に合わず、現場の教職員の意見に真摯に耳を傾け、働き方改革による業務削減を行い、見直しを進め教育現場の環境改善が図られることを切に望むとの裁判長の付言があった[143][144]

本地裁判決については、文科省が既に必須としている超勤4項目以外も含めた労働時間を「在校等時間」として労働時間管理の対象とすることを明確にしている点も考慮していないことが日本労働弁護団常任幹事、ブラック企業対策プロジェクト事務局長を務める嶋﨑量弁護士によって疑問を呈されている[145]

教員の働き方は携帯の定額プランになぞらえて、「定額働かせ放題」とも表現されている[146]

公立小中学校教員(非常勤講師)[編集]

名古屋市では、2020年11月、公立中学校非常勤講師が、残業代が支払われていないとして労働基準監督署に申告し、その後、市の教育委員会は、講師の労働時間を適正に把握していないとして是正勧告を受けたため、130万を支払った[147]

私立高校教員(非常勤講師のち事務職員)[編集]

私立においても、2020年には長崎県内の私立高校について、陸上競技部顧問を務める女性が非常勤として雇用、後に事務職員として勤務したが、部活動強化のため自宅に選手を下宿させることを余儀なくされ時間外勤務が未払いとなっているとして提訴している[148]

公務災害否認決定取り消し訴訟[編集]

熊本県天草市立小の教諭だった男性(発症年齢44)は、研究主任を務め2011年12月に100時間以上の長時間残業の果てに脳出血で寝たきりになった。公務災害と認めなかった決定取り消し訴訟の控訴審判決で、福岡高裁は2020年9月熊本地裁判決(2020年1月)を取り消した[149][150][151]

愛知県の元豊橋市立石巻中学校教員の男性(発症年齢42)が発症直前残業時間は100時間を超え、朝練や部活指導後の教材研究、学校祭の準備学校祭のさなかに脳内出血で倒れ高次脳機能障害になったのは公務災害だとして、地方公務員災害補償基金の公務外処分の取り消しを求めた。名古屋地裁で判決は、教育労働の特性から部活動などの自発的な活動についても包括的な職務命令と認められた[152][153]。2015年2月に最高裁が地公災側の上告を棄却する決定を下し、教職現場の「包括的命令」は判例として確立した。最終判決まで10年以上係争した[154]

労働基準法(労基法)は1日8時間労働を基本とし、例外的に8時間以上働く場合、会社と労働者の代表が協定を結び、役所に届け出る必要があることが労基法の36条で義務づけられ「36(サブロク)協定」と呼ばれている。教職員にも適用すべきとする学者もいる[155]

長時間勤務による健康被害損害賠償請求[編集]

2019年、授業準備や部活指導などで長時間労働を強いられ、適応障害を発症し休職となったとして大阪府立高校教員(31)が大阪府に過重な業務負担に対し、学校側が適切な軽減措置をとるのを怠ったとして実名を公表し提訴した。クラス担当ほか運動部顧問や生徒の海外語学研修の引率も担当し月120時間を超える時間外労働があったとしている[156]

改革以降の動向[編集]

休暇取得状況[編集]

労働基準法改正により、2019年4月より年間10日以上の年次有給休暇を付与される労働者には1年間に5日以上の有給取得が義務付けられた。しかし現場では体調不良以外の休暇について保護者苦情があり、管理職より叱責される事態も起こっている[157]。東京都の令和2年度学校職員の有給は平均15.5日となっていて、最低の警視庁7.9日や知事部局14.3日、行政委員会13.2日等より多く取得されている。しかし一方で、病休取得も1,689 人と他局より桁違いに多くなっている。
[158]

日本弁護士連合会の意見書[編集]

日本弁護士連合会は2021年10月20日、憲法・教育基本法等の要請である、子どもの学習権を保障するという観点から、「学校における働き方改革の在り方に関する意見書」を取りまとめ、文部科学大臣、各自治体長等らへ提出した[159]

意見書では、以下が提言された[159]

  • 教員の長時間労働を抜本的に改善するための少人数学級実現
  • 教員の持ち時間数削減、教員数増員と非正規の正規化についての予算措置。
  • 労働基準法の定める最低基準を厳守するための給特法抜本的見直し。
  • 部活動について部活動の関係団体と協議しながら改革を促進させることと部活動の顧問担当を教員に強制しない制度改革。
  • 自治体条例により導入できるとされた1年単位の変形労働時間制については現在の長時間勤務の現状の下での実施否定。
  • 教員の教育内容や方法にまで及ぶ管理統制や競争主義的教育手法についての緩和に向けた是正。

現在の超勤4項目以外の残業内容の時間外勤務は現在「自主的・自発的」なものと見做され時間外労働としては存在しないものとして扱われ、「在校等時間」として管理されていることについて疑問が呈された。

憲法第27条に基づき労働条件の最低基準を定める労基法の労働時間規制は、教員にも当然に適用されるものとして超勤4項目以外も客観的に見て労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価され労働基準法第37条の割増賃金の支払対象となるべきと指摘している。実質的に労基法の最低基準をも下回る教員の長時間労働の現状に関しては、教員の労働者としての健康の阻害と、子どもの教育条件にも深刻な悪影響を懸念し、その解消について喫緊の課題と断言してる。

また、部活動の顧問業務が特に中学校の教員の多忙化の大きな要因であり、その早急な改善が不可欠であり、少なくとも部活動の顧問就任を強制しないため人事や労務、財政面からの取組が必要としている[159]

国立大学法人による残業代未払い[編集]

  • 2021年11月30日、三重大学(2004年に国立大学法人)が付属の小中学校などの教員らに残業代を十分に支払っていなかったとして、津労働基準監督署は是正勧告をし、過去2年間分の勤務実態を確認して改善するよう求めた[160]。同校では現職教員約90人には1月中旬に計約1億6000万円を支給し、異動や退職者にも追加支給する方針で、計数千万円に上る見込みと報道されている。付属中学校などの校長2人は辞任した[161]

出典[編集]

参考文献[編集]

文献案内[編集]

  • 樋口修資編著「学校をブラックから解放する~教員の長時間労働の解消とワーク・ライフ・バランスの実現~」学事出版 2018
  • 神林寿幸・樋口修資・青木純一『背景と実態から読み解く教育行財政』2020,明星大学出版部
  • 内田良、斉藤ひでみ共編著『教師のブラック残業~「定額働かせ放題」を強いる給特法とは?!』内田良、学陽書房、2018年
  • 内田良、広田照幸、高橋哲、嶋﨑量『迷走する教員の働き方改革 変形労働時間制を考える』岩波書店、2020年
  • 前屋毅『ブラック化する学校』(青春出版社、平成 29 年)
  • 小川正人『日本社会の変動と教育政策ー新学力・子どもの貧困・働き方改革』左右社 2019
  • 妹尾昌俊『「先生が忙しすぎる」をあきらめない』(教育開発研究所、平成29年,2017)

関連項目[編集]