電磁ポテンシャル – Wikipedia
|
この記事のほとんどまたは全てが唯一の出典にのみ基づいています。2019年4月)
( |
電磁ポテンシャル(でんじポテンシャル)とは、電磁場のポテンシャル概念で、スカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルの総称である。
物理学、特に電磁気学とその応用分野で使われる。
以下断りがない限り、古典電磁気学のケースを想定して説明する。
マクスウェルの方程式において、電場の強度
E(t,x){displaystyle {boldsymbol {E}}(t,{boldsymbol {x}})}B(t,x){displaystyle {boldsymbol {B}}(t,{boldsymbol {x}})} 、磁束密度
の拘束条件は
(M1-a) :
(M1-b) :
と書かれる。
時空上のスカラー値関数
A(t,x){displaystyle {boldsymbol {A}}(t,{boldsymbol {x}})} とベクトル値関数
を
(M0-a) :
(M0-b) :
を満たすように選ぶと拘束条件 (M1) はベクトル解析の恒等式により自動的に満たされる。この関数
ϕ,A{displaystyle phi ,{boldsymbol {A}}}ϕ{displaystyle phi } の組が電磁ポテンシャルである。スカラー値関数
A{displaystyle {boldsymbol {A}}} はスカラーポテンシャル、ベクトル値関数
はベクトルポテンシャルと呼ばれる。
電場の強度と磁束密度からスカラーポテンシャル、ベクトルポテンシャルを導入したが、逆にスカラーポテンシャル、ベクトルポテンシャルありきで始めると、上の式(M0)を電場の強度と磁束密度の「定義式」とみなすこともできる。
電磁場は電磁ポテンシャルの一階の微分方程式で定義されるため、電磁ポテンシャルには不定性が生じる。この不定性によりポテンシャルを変化させる操作はゲージ変換と呼ばれる。
電磁場をラグランジュ形式で記述する時、ラグランジアンは電磁場ではなく電磁ポテンシャルを用いてかかれるため、電磁ポテンシャルはより基本的な概念として扱われる。
古典電磁気学では、観測にかかる本質的な物理量は電場や磁場であって、ベクトルポテンシャルやスカラーポテンシャルは便宜的に導入された道具に過ぎないとも考えられている。またゲージ変換も理論の不定性を増すだけの余分な性質のようにも思われている。しかし量子力学などの立場からは、電場や磁場よりも電磁ポテンシャルの方が本質的な物理量である。その最も著しい表れ方がアハラノフ=ボーム効果である。またゲージ変換は、荷電粒子と電磁場との相互作用の形を一意的に決定しているために便利である[1]。
スカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルはローレンツ変換の下で
Aμ(x)=(ϕ(t,x)/c,A(t,x)){displaystyle A^{mu }(x)=(phi (t,{boldsymbol {x}})/c,{boldsymbol {A}}(t,{boldsymbol {x}}))}
として4元ベクトル的に変換する。ここで c は光速で次元を揃える為の換算係数である。
特に4元ベクトルとしての電磁ポテンシャルは4元ポテンシャルと呼ばれ、相対性理論においては、この4元ポテンシャルで記述される。
ゲージ変換から場の量子論へと発展され、ゲージ理論となった。ゲージ理論としてみると、電磁ポテンシャルは U(1) ゲージ対称性に対するゲージ場である。
真空中における電磁場の電磁ポテンシャルによる記述[編集]
真空中でのマクスウェルの方程式のうち、電荷によって生じる電磁場の式は
(M2-a) :
(M2-b) :
である。
この式に電磁場の定義式(M0)を代入すると、
(M2′-a) :
(M2′-b) :
が得られる。したがって電磁ポテンシャルを基本的な量として電磁気的現象を記述する場合には式(M2′)が場の運動を決定する方程式となる。
マクスウェル自身の原著論文『電磁場の動力学的理論』や原著教科書『電気磁気論』はここでの議論と同じくスカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルから始めて、式(M0)により電磁場を定義している。
後にヘルツによって電磁ポテンシャルが消去され、式(M1)を電磁場の拘束条件とするようになった。
ポテンシャルの概念[編集]
電磁ポテンシャルの概念を説明する為に、まずその関連概念である電位の概念を振り返る。
電位(静電ポテンシャルとも称す)とは、電場に対するポテンシャル概念で、
電場を
で表す時、電位は
E(x,y,z)=−grad ϕ(x,y,z){displaystyle {boldsymbol {E}}_{(x,y,z)}=-mathrm {grad} ~phi (x,y,z)} ….(a)
を満たす関数φ(x,y,z)として定義される。ここで(x,y,z)は空間上の任意の点である。
静磁場の場合はそのようなφが存在する事が知られており、φ(x,y,z)は
E{displaystyle {boldsymbol {E}}}の線積分として計算される。
しかしながら静磁場という条件がない時は、磁場が電場を誘導する関係上、
(a)を満たすφ(x,y,z)は存在せず、電位の概念が一般には定義できない事が知られている。実際、
の線積分をφ(x,y,z)として定義しようとしても、積分経路によって磁場が誘導する電場の大きさが異なる為、積分の値が積分経路に依存してしまう。
電位φ(x,y,z)は空間上の位置(x,y,z)(と時刻t)のみによって一意に決まる事を要請しており、値が積分経路に依存してしまうのでは電位の定義を満たしていない。また電位は電場に対するポテンシャル概念であり、磁場に対するポテンシャル概念ではない。
電磁ポテンシャルは、静磁場とは限らない場合にも定義できるポテンシャル概念である「スカラー・ポテンシャル」と「ベクトル・ポテンシャル」の総称である[2]。
スカラー・ポテンシャルは電場に対するポテンシャル概念で、電位の定義において、磁場から誘導される電場の影響を補正する事で得られる。
スカラー・ポテンシャルは電位と同様、空間上の各点(x,y,z)(と時刻t)に1成分の実数を対応させる関数(ないしその関数値)であり、電位と同じくφ(x,y,z)で表す。一方ベクトル・ポテンシャルは磁場に対するポテンシャル概念で、空間上の各点(x,y,z)(と時刻t)に3成分の実数
を対応させる関数(ないしその関数値)である。
以下紛れのない限り、引数の(x,y,z)は省略する。
静磁場の場合はスカラーポテンシャルは(a)を満たす(ようにもできる)ことが知られており、この場合、スカラーポテンシャルの概念は静磁場の場合には電位の概念と一致する(詳細は後の章を参照)。この意味においてスカラーポテンシャルは電位の概念を静磁場とは限らない場合に拡張したものとなっている。
なお、静磁場において電場に対する電位が一意に定まらず定数分だけの自由度があるように、
電磁場に対する電磁ポテンシャルも一意には定まらない(しかも自由度が大きい為、定数分の差を除いても一意に定まらない)。従って、必要に応じてさらなる条件(ローレンツゲージ、クーロンゲージ等)を課して電磁ポテンシャルを(定数分の自由度を除いて)一意に定める場合がある。
ポテンシャルの導入[編集]
静電ポテンシャルは条件式(M0)を満たす関数として導入される。
そこで本章では、電磁場の拘束条件(M1)から、実際に条件(M0)を満たす関数が存在する事を示す。
以下では特に断りがない限り、関数は全て無限回微分可能であるとする。
ポアンカレの補題から、
3次元ベクトル空間上のベクトル場
に対して
(P1) :
A(x){displaystyle {boldsymbol {A}}({boldsymbol {x}})} を満たすとき、3次元ベクトル空間上のベクトル値関数
X=∇×A{displaystyle {boldsymbol {X}}=nabla times {boldsymbol {A}}} が存在して、
が成り立つ。
(P2) :
ϕ(x){displaystyle phi ({boldsymbol {x}})} を満たすとき、3次元ベクトル空間上のスカラー値関数
X=−∇ϕ{displaystyle {boldsymbol {X}}=-nabla phi } が存在して、
が成り立つ。
さて、1つ目の拘束条件
(M1-a) :
に対して補題(P1)を適用すれば、
(M0-b) :
を満たすベクトルポテンシャル
A{displaystyle {boldsymbol {A}}}
なお、条件式(M0-b)を満たすベクトル値関数は一つではないので、ベクトルポテンシャルは一意に定まらない。(M0-b)を満たす関数の中から任意に選んだ一つをベクトルポテンシャルとして定める。
次に2つ目の拘束条件
(M1-b) :
にベクトルポテンシャルの満たすべき条件式(M0-a)を代入すると、
∇×E+∂∂t(∇×A)=∇×(E+∂A∂t)=0{displaystyle nabla times {boldsymbol {E}}+{frac {partial }{partial t}}(nabla times {boldsymbol {A}})=nabla times left({boldsymbol {E}}+{frac {partial {boldsymbol {A}}}{partial t}}right)=mathbf {0} }
となり、補題(P2)を適用すると、
−∇ϕ=E+∂A∂t{displaystyle -nabla phi ={boldsymbol {E}}+{frac {partial {boldsymbol {A}}}{partial t}}}
を満たすスカラーポテンシャル
ϕ{displaystyle phi }が存在することが言える。
これを移項して
(M0-a) :
が得られる。
スカラー値関数 φ には定数分の自由度があり、一意に定まらない。そこで(M0-b)を満たすものの中から任意に選んだ1つをスカラー・ポテンシャルとして定める。なお、条件式(M0-b)はスカラーポテンシャルだけでなくベクトルポテンシャルにも依存しているので、スカラーポテンシャルは(複数ある)ベクトルポテンシャルのうち1つを定めてはじめて定義できる。従って、スカラーポテンシャルはベクトルポテンシャルと組にして初めて意味をなす概念である。
静磁場における電位の場合と同様の議論により、
- ϕ(x,y,z)=−∫C(E+∂A∂t)⋅ds{displaystyle phi (x,y,z)=-int _{C}left({boldsymbol {E}}+{frac {partial {boldsymbol {A}}}{partial t}}right)cdot mathrm {d} s} +定数
が成り立つ事が言える。ここでC は基点と(x,y,z)とを結ぶ任意の経路である。右辺の値は経路C に依存しない事が言える(電位の項目も参照)。
関数選択の自由度[編集]
前述のようにスカラー・ポテンシャル、ベクトル・ポテンシャルの選び方は一意ではない。
実際、条件式(M0)を満たす関数の組
f(t,x){displaystyle f(t,{boldsymbol {x}})} に対して、任意のスカラー値関数
により、
(G-a) :
(G-b) :
で
(ϕ′,A′){displaystyle (phi ‘,{boldsymbol {A}}’)}
逆に条件式 (M0) を満たす2つの組
(ϕ′,A′){displaystyle (phi ‘,{boldsymbol {A}}’)} 、
f(t,x){displaystyle f(t,{boldsymbol {x}})} に対して、関係式(G)を満たす関数
したがって関係式(G)はスカラー・ポテンシャル、ベクトル・ポテンシャルの選び方の自由度を完全に特徴づけている。
以上のようにスカラー・ポテンシャル、ベクトル・ポテンシャルは一意ではないので、さらに条件(ゲージ固定条件)を課す事で一意に定める事がある。
詳細については後述する。
証明[編集]
上述した自由度の特徴づけを証明する。
前半は簡単な計算から従うので、後半のみを示す。ポテンシャルの満たすべき条件式(M0)を満たす2つの組
(ϕ2,A2){displaystyle (phi _{2},{boldsymbol {A}}_{2})} 、
を考える。
まず
A1{displaystyle {boldsymbol {A}}_{1}}A2{displaystyle {boldsymbol {A}}_{2}} 、
がいずれも(M0-b)式を満たす事から
- ∇×(A2−A1)=∇×A2−∇×A1=B−B=0{displaystyle nabla times ({boldsymbol {A}}_{2}-{boldsymbol {A}}_{1})=nabla times {boldsymbol {A}}_{2}-nabla times {boldsymbol {A}}_{1}={boldsymbol {B}}-{boldsymbol {B}}=mathbf {0} }
であり、(P2)を適用すれば、
- A2=A1+∇g{displaystyle {boldsymbol {A}}_{2}={boldsymbol {A}}_{1}+nabla g} …(1)
となるスカラー値関数 g が存在する事がわかる。
また
(ϕ1,A1){displaystyle (phi _{1},{boldsymbol {A}}_{1})}(ϕ2,A2){displaystyle (phi _{2},{boldsymbol {A}}_{2})} 、
がいずれも(M0-a)を満たす事から、
- ∇(ϕ2−ϕ1)=∂(A2−A1)∂t=∇∂g∂t{displaystyle nabla (phi _{2}-phi _{1})={frac {partial ({boldsymbol {A}}_{2}-{boldsymbol {A}}_{1})}{partial t}}=nabla {frac {partial g}{partial t}}} 。
よってある時間の関数 C(t) が存在して、
- ϕ2=ϕ1+∂g∂t+C(t){displaystyle phi _{2}=phi _{1}+{frac {partial g}{partial t}}+C(t)} …(2)。
となる。ここで
- f(x,y,z,t)=g(x,y,z,t)+∫dtC(t){displaystyle f(x,y,z,t)=g(x,y,z,t)+int dtC(t)}
とすれば
gradCt=0{displaystyle mathrm {grad} Ct=0}より」(1)、(2)は(G-a,b)に一致する。
静的な場のポテンシャル[編集]
電磁場が静的な場合には、それぞれの方程式から時間微分の項が消えるので方程式が簡単になる。
E=−∇ϕ{displaystyle {boldsymbol {E}}=-nabla phi } : (M0-a)
∇2ϕ=−ρε0{displaystyle nabla ^{2}phi =-{frac {rho }{varepsilon _{0}}}} : (M2′-a)
B=∇×A{displaystyle {boldsymbol {B}}=nabla times {boldsymbol {A}}} : (M0-b)
−∇(∇⋅A)+∇2A=−μ0j{displaystyle -nabla (nabla cdot {boldsymbol {A}})+nabla ^{2}{boldsymbol {A}}=-mu _{0}{boldsymbol {j}}} : (M2′-b)
静的な場の方程式は、電場と磁場についてそれぞれ独立な式になる。
(M0-a)と(M2′-a)によって記述される系は静電気学の系そのものである。直ちに、静的な電磁場におけるスカラーポテンシャルφは電位と一致する事が分かる。ここでさらに、後述するゲージ変換によって
∇⋅A=0{displaystyle nabla cdot {boldsymbol {A}}=0}
と言う条件を付け加えると(M2′-b)は
∇2A=−μ0j{displaystyle nabla ^{2}{boldsymbol {A}}=-mu _{0}{boldsymbol {j}}}
となり、スカラーポテンシャル、ベクトルポテンシャル共にポアソン方程式の形になる。
積分で表すとゲージの不定性を除いて以下のように書ける。
ϕ(x)=14πε0∫ρ(x′)|x−x′|d3x′{displaystyle phi ({boldsymbol {x}})={frac {1}{4pi varepsilon _{0}}}int {frac {rho ({boldsymbol {x}}’)}{|{boldsymbol {x}}-{boldsymbol {x}}’|}}d^{3}x’}
A(x)=μ04π∫j(x′)|x−x′|d3x′{displaystyle {boldsymbol {A}}({boldsymbol {x}})={frac {mu _{0}}{4pi }}int {frac {{boldsymbol {j}}({boldsymbol {x}}’)}{|{boldsymbol {x}}-{boldsymbol {x}}’|}}d^{3}x’}
ただし、積分領域としては電荷密度、電流密度が存在する範囲全てである。
この方法を用いてポテンシャルを求める場合には、電荷・電流密度の全領域における分布を知る必要がある(境界条件など、他の条件がある場合にはこの限りではない)。
相対論的な記述[編集]
相対論的には4元ベクトル
Aμ=(ϕ/c,A), Aμ=ημνAν=(−ϕ/c,A){displaystyle A^{mu }=(phi /c,{boldsymbol {A}}),~A_{mu }=eta _{mu nu }A^{nu }=(-phi /c,{boldsymbol {A}})}
となる。これを用いれば電磁場の定義式(M0)は
Fμν=∂μAν−∂νAμ{displaystyle F_{mu nu }=partial _{mu }A_{nu }-partial _{nu }A_{mu }}
となる。左辺に現れた電磁場テンソル
Fμν{displaystyle F_{mu nu }}の各成分は
(E1,E2,E3)/c=(F10,F20,F30), (B1,B2,B3)=(F23,F31,F12){displaystyle (E_{1},E_{2},E_{3})/c=(F_{10},F_{20},F_{30}),~(B_{1},B_{2},B_{3})=(F_{23},F_{31},F_{12})}
である。
電磁場の拘束条件(M1)は
∂ρFμν+∂μFνρ+∂νFρμ=0{displaystyle partial _{rho }F_{mu nu }+partial _{mu }F_{nu rho }+partial _{nu }F_{rho mu }=0}
となる。
電磁場の運動方程式(M2)、或いは式(M2′)は
∂νFνμ=−μ0jμ{displaystyle partial _{nu }F^{nu mu }=-mu _{0}j^{mu }}
∂ν∂νAμ−∂μ(∂νAν)=−μ0jμ{displaystyle partial _{nu }partial ^{nu }A^{mu }-partial ^{mu }(partial _{nu }A^{nu })=-mu _{0}j^{mu }}
である。
ラグランジュ形式[編集]
電磁場をラグランジュ形式により記述するときの力学変数は、電磁場ではなく電磁ポテンシャル φ, A である。電磁場 E,B は力学変数の微分であり、一般化速度に相当する。また、電磁ポテンシャルに共役な一般化運動量に相当するのは媒質中の電磁場 D, H である。マクスウェル方程式は力学変数 φ, A に対するラグランジュの運動方程式として導かれ、「運動量」の微分である一般化力に相当するのは電磁場の源となる電荷 ρ, j である。
ゲージ変換[編集]
任意のスカラー場
u(x){displaystyle u(x)}に対し、変換
Aμ(x)↦Aμ′(x)=Aμ(x)−∂μu(x){displaystyle A_{mu }(x)mapsto A’_{mu }(x)=A_{mu }(x)-partial _{mu }u(x)}
に対して電磁場は変化しない。
実際に定義式(M0)に代入すると、
Fμν↦Fμν′=∂μAν′−∂νAμ′=∂μ(Aν−∂νu)−∂ν(Aμ−∂μu)=∂μAν−∂νAμ{displaystyle {begin{aligned}F_{mu nu }mapsto F’_{mu nu }&=partial _{mu }A’_{nu }-partial _{nu }A’_{mu }\&=partial _{mu }(A_{nu }-partial _{nu }u)-partial _{nu }(A_{mu }-partial _{mu }u)\&=partial _{mu }A_{nu }-partial _{nu }A_{mu }end{aligned}}}
となり、元の電磁場に一致する。
電磁場を不変に保つこの変換をゲージ変換と言う。
スカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルを分けて書けば
ϕ↦ϕ′=ϕ+∂u∂t{displaystyle phi mapsto phi ‘=phi +{frac {partial u}{partial t}}}
A↦A′=A−∇u{displaystyle {boldsymbol {A}}mapsto {boldsymbol {A}}’={boldsymbol {A}}-nabla u}
となる。
スカラーポテンシャルは常にゲージ変換によって φ = 0 とすることが可能である。しかしベクトルポテンシャルは一般には A = 0 とすることは不可能である。
ローレンツゲージ[編集]
ゲージ変換によって以下の条件式を満たすような電磁ポテンシャルを作ることが可能である。
∂μAμ=0{displaystyle partial _{mu }A^{mu }=0}
この条件式をローレンツ条件という[4]。ローレンツ条件は連続の方程式の形をしており、ローレンツ変換に対して不変な形になっている。この条件式を満たす電磁ポテンシャルを用いてマクスウェルの方程式を書き換えると、以下の非斉次の波動方程式が得られる。
∂ν∂νAμ=◻Aμ=−μ0jμ{displaystyle partial _{nu }partial ^{nu }A^{mu }=square A^{mu }=-mu _{0}j^{mu }}
ここで
∂ν∂ν=◻=−1c2∂2∂t2+∇2{displaystyle partial _{nu }partial ^{nu }=square =-{frac {1}{c^{2}}}{frac {partial ^{2}}{partial t^{2}}}+nabla ^{2}}
はダランベール演算子である。
スカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルを分けて書けば、ローレンツ条件は
1c2∂ϕ∂t+∇⋅A=0{displaystyle {frac {1}{c^{2}}}{frac {partial phi }{partial t}}+nabla cdot {boldsymbol {A}}=0}
となり、マクスウェルの方程式は
◻ϕ=−ρε0{displaystyle square phi =-{frac {rho }{varepsilon _{0}}}}
◻A=−μ0j{displaystyle square {boldsymbol {A}}=-mu _{0}{boldsymbol {j}}}
となる。
クーロンゲージ[編集]
∇⋅A=0{displaystyle nabla cdot {boldsymbol {A}}=0}
この条件式を満たす電磁ポテンシャルを用いてマクスウェルの方程式を書き換えると、
∇2ϕ=−ρε0{displaystyle nabla ^{2}phi =-{frac {rho }{varepsilon _{0}}}}
−∇1c2∂∂tϕ+(−1c2∂2∂t2+∇2)A=−μ0j{displaystyle -nabla {frac {1}{c^{2}}}{frac {partial }{partial t}}phi +(-{frac {1}{c^{2}}}{frac {partial ^{2}}{partial t^{2}}}+nabla ^{2}){boldsymbol {A}}=-mu _{0}{boldsymbol {j}}}
クーロンポテンシャルは静電場の場合と同様のポアソン方程式を満たす。
放射ゲージ[編集]
電荷密度、電流密度がともに0の場合、
ϕ=0{displaystyle phi =0,}
∇⋅A=0{displaystyle nabla cdot {boldsymbol {A}}=0}
を同時に満たすゲージを選ぶことが可能である。
このゲージはローレンツゲージであり、かつ、クーロンゲージである。このとき、電磁ポテンシャルの満たすべき方程式は、
◻A=0{displaystyle square {boldsymbol {A}}=0}
である。
波動方程式の解として
A(x,t)=eAexp[i(k⋅x−ωt)]{displaystyle {boldsymbol {A}}({boldsymbol {x}},t)={boldsymbol {e}}Aexp[i({boldsymbol {k}}cdot {boldsymbol {x}}-omega t)]}
を考える。ただし、 c2k2 = ω2 である。
すると、
∇⋅A=ik⋅A=0{displaystyle nabla cdot {boldsymbol {A}}=i{boldsymbol {k}}cdot {boldsymbol {A}}=0}
従ってベクトルポテンシャルは波の進行方向(k の方向)と直交している。
さらにこのとき、電磁場は、
E(x,t)=−∂A∂t=iωA(x,t){displaystyle {boldsymbol {E}}({boldsymbol {x}},t)=-{frac {partial {boldsymbol {A}}}{partial t}}=iomega {boldsymbol {A}}({boldsymbol {x}},t)}
B(x,t)=∇×A=ik×A(x,t){displaystyle {boldsymbol {B}}({boldsymbol {x}},t)=nabla times {boldsymbol {A}}=i{boldsymbol {k}}times {boldsymbol {A}}({boldsymbol {x}},t)}
である。電場の方向はベクトルポテンシャルと平行なので、やはり波の進行方向と直交している。磁場の方向は電場の方向と波の進行方向の両方に直交している。
電磁波は電場と磁場が互いに直交して進む横波である。
- ^ 光物性の基礎と応用
- ^ 「スカラーポテンシャル」、「ベクトルポテンシャル」という言葉はそれぞれスカラー、ベクトルを用いて表せるポテンシャル概念一般を表す場合もある。本項目では特に断りがない限り、これらの言葉は電磁ポテンシャルのものを表すものとする。
- ^ 条件式(M0-b)には ∇ が登場するので、A は空間方向には可微分であるが、時間方向については何も言っていないので、原理的には時間方向には不連続になるように選ぶ事も可能である。しかし後述するスカラーポテンシャルを導入するとき、時間方向の可微分性を必要とする。以下、空間方向・時間方向双方に対して無限回可微分な A を選んだものとして議論を進める。
- ^ 名称はルードヴィヒ・ローレンツに由来する。
参考文献[編集]
- 光物性研究会組織委員会『光物性の基礎と応用』オプトロニクス社、2006年。ISBN 4902312166。
Recent Comments