ミニ新幹線 – Wikipedia

初のミニ新幹線車両として開発された400系

ミニ新幹線(ミニしんかんせん)は、新幹線規格(フル規格)の線路を新規に建設することなく、既存の在来線を改軌した上で新幹線路線と直通運転(新在直通運転という)できるようにした方式で[1]、鉄道高速化の一手段である。

この方式を採用した鉄道路線は、旅客案内上「新幹線」と称しているが、全国新幹線鉄道整備法の定義では在来線であって、新幹線ではない。また、当然整備新幹線にも含まれない。あくまで在来線の改軌ならびに高速化改良であり、在来線区間の最高速度もフル規格新幹線区間の200 km/h以上に対して、在来線の一部路線(JR西日本の京阪神地区の新快速など)と同じ130 km/h程度であるが、北海道新幹線開業前の海峡線では140 km/hでの運転が行われていた(JR以外の路線での最高速度は京成成田空港線と、過去の北越急行ほくほく線の160 km/h)。

フル規格による新幹線の運行時間帯は、始発が午前6時以降、終着が午前0時以前(所定ダイヤの場合)となっているが、在来線であるミニ新幹線には山形新幹線つばさ122号のように午前6時よりも前に始発駅を発車する列車もある。

なお、ミニ新幹線に直通する車両をミニ新幹線車両としている。ミニ新幹線は在来線を改軌した区間を指すことが多いが、ミニ新幹線車両はフル規格区間まで乗り入れる車両と位置付けられている[1]

利点[編集]

  • 建設期間が短い。
  • 接続駅での乗り換えが不要となる。つまり、直通運転の実施が可能となることで所要時間短縮や利用者の負担軽減を図ることができる。
  • 並行在来線の経営分離問題が生じない。(在来線#並行在来線、整備新幹線#並行在来線問題を参照)
  • フル規格新幹線では保線および騒音との兼ね合いから深夜帯の運行が禁止されているが、ミニ新幹線は軌間が異なるのみの在来線であるため、午前0時から午前6時の時間帯にも運行可能。

欠点[編集]

  • 建設費用対効果が低い傾向にある。
    • “高規格専用線を改めて建設すること”に比べれば安価である一方で、標準軌化は全く高速化に寄与しないコストである。また、全線を一度に工事しなくてはならないため一度の投資額が大きく金利コストがかさむ。これに対し狭軌のままで同様の線形改良や軌道強化を行えば、さらに安価かつ交通の分断を伴わず高速化を実施できる。また、交通を分断しないため「少しずつ」改良することも可能であり、一度に大きな資金を用意する必要もない。
  • ミニ新幹線区間での速度向上効果は限定的。
    • 最高速度・曲線通過速度ともに当該線区の在来線としての規格に制限されるため、ミニ新幹線区間における時間短縮は改軌に付随して行われる線形改良や軌道強化の度合いに依存する。
    • 改軌後も踏切を残置する場合には、これもまた最高速度を制限する要因となる。
  • フル規格と比較して全長・全幅とも狭小である在来線規格の車両限界を採用しなければならないため、フル規格新幹線に比べて輸送力は低い。
    • フル規格区間ではホームと車両の間に隙間が空いてしまうため、停車時に張り出すステップを車両側に設置するなどの対策が必要となる。
  • 車両に搭載する機材は、フル規格区間とミニ新幹線区間の両方に対応する必要があり、車両コストが増加する。
  • ミニ新幹線への工事期間中は、輸送力の減少が発生する。特に単線区間を改軌する場合は、列車の長期運休が避けられず、代替交通の確保が問題となる。

三線軌条化しない場合(狭軌線路を併設せず、新幹線直通列車が走行する標準軌線路のみを敷設する場合)、以下の点も欠点となり得る。

  • 狭軌在来線のネットワークを寸断するため、改軌区間と非改軌区間で直通列車の運行が不可能となる。
    • 当該区間と隣接する在来線においては、逆に乗り換えが必要となる利用者が発生する恐れがあり、サービスダウンとなる。
    • 災害等が発生した際に、貨物列車などの長距離列車の迂回路として利用することができない。
  • 新幹線車両に加えて、改軌区間用の在来線車両を用意する必要が生じる。

採用された路線[編集]

この方式で新在直通を図った路線として、2020年時点で山形新幹線(奥羽本線福島駅 – 新庄駅間)と秋田新幹線(田沢湖線・奥羽本線盛岡駅 – 秋田駅間)の2路線がある。前述のように「新幹線」と称しているものの、法的には在来線である。

山形新幹線では改軌区間で運転される貨物列車のために一部区間で三線軌条を敷設(後に廃止)し、山形駅 – 新庄駅間の改軌にあたっては山形駅 – 羽前千歳駅間に乗り入れる仙山線や左沢線列車のために狭軌線路を併設のままで残存させた。この区間のローカル列車については、案内上山形線の名称を使用している。

また、秋田新幹線では大曲駅 – 秋田駅間は奥羽本線の狭軌線路と単線並列の形とし、一部区間を三線軌条とするなどして運転の自由度を確保している。同区間では、営業列車としては新幹線直行特急のみ(非営業の回送列車として田沢湖線用のローカル列車用の車両が運転される)が標準軌の線路上を運行され、この区間のローカル列車は狭軌の線路を運行している。

これらの路線で運転される特急列車「つばさ」や「こまち」は、新幹線直行特急と呼ばれる。

構想された路線[編集]

北陸新幹線の敦賀以南のルートについて、暫定的にフリーゲージトレインによる湖西線への乗り入れが計画されたこともあった[2][3]

九州新幹線西九州ルート 新鳥栖駅 – 長崎駅間は一部在来線の長崎本線を挟む関係でスーパー特急方式で建設され、後に武雄温泉駅 – 長崎駅間がフル規格に変更。さらにフリーゲージトレイン導入の計画、試験まで行われたが頓挫し、武雄温泉駅で乗り換えるリレー方式で暫定開業する予定となった。

山形新幹線が具体化した頃に、香川県は、瀬戸大橋線をミニ新幹線(四線軌条)化できないかと考えた。しかし、交直流型車両は値段が高く、採算レベルに乗らないという調査結果が出たため、断念した経緯がある。なお瀬戸大橋とその前後に限っては四線軌条化せずとも本四備讃線と四国横断新幹線の複々線を敷設できる空間が確保されている。

山形新幹線機能強化として、羽越本線高速化や陸羽西線ミニ新幹線化があがり、山形新幹線の酒田・大曲延伸が具体的に構想されている。

群馬県では、上越新幹線高崎駅から両毛線前橋駅への乗り入れ構想が浮上した。1990年に県とJR東日本との間で調査検討委員会を設置したが、進展は見られなかった。

三重県は、三重新幹線構想として鳥羽・新宮までミニ新幹線敷設を構想している。

和歌山県でも、地元選出の代議士二階俊博を中心に、ミニ新幹線の導入構想がある[4]

ミニ新幹線に用いる車両は在来線の車両限界で設計され、フル規格の新幹線車両よりも小型であるため、この呼び名がある。車長は、フル規格新幹線の25mに対して、ミニ新幹線では20 – 23mであり、車幅は、3380mmに対して、2945mmとなっている。そのため、新幹線区間では、乗降口とホームとの間隔が開いてしまうため、折り畳み式のステップを車両の乗降ドアの下部に備える。また、東北新幹線で使用されている東京側の先頭車には開閉カバー・電気連結器付き密着連結器・赤外線距離センサーで構成された自動分割併合装置が搭載されており、迅速かつスムーズな分割併合を可能としている。

台車は、最新の新幹線車両と同じボルスタレス台車を採用しているが、在来線区間での急曲線の対応と新幹線区間での直進安定性を確保するため、前後の車輪の車軸の間の距離である軸距を、フル規格新幹線の2500mmに対して、2250mmとしており、車輪の踏面形状も同じ理由で両者に対応できる踏面形状となっている。なお、E6系の場合では東北新幹線での320km/h運転に対応するために軸距を2500mmとしている。

電気方式も新幹線区間が交流2万5000Vに対して在来線区間は従来通り交流2万Vとなっているため、搭載されている主変圧器と主制御器は両電圧に対応した複電圧仕様である。また、補助電源装置などの補機用の電源となる主変圧器の三次巻線では、電圧変動が発生するため、三次巻線に三次電源タップ切替方式を採用して、架線電圧が切替わった際に、地上側に設置された地上子を受信後に切替用タップを作動させて三次巻線の電圧変動を抑えている。

保安装置についても新幹線区間の自動列車制御装置 (ATC) と在来線区間の自動列車停止装置 (ATS) の両方を搭載している。

営業用車両[編集]

  • E3系:1000番台と2000番台が山形新幹線で東北新幹線と直通する営業運転を行っている。また、秋田新幹線用に使われていた0番台のR18編成が700番台に改番、観光列車「とれいゆ」として改造された。「とれいゆ」は山形新幹線内のみで営業運転を行っており、福島駅では在来線ホームに発着する。
  • E6系 : 秋田新幹線で使用されている。
  • E8系 : 山形新幹線で導入を予定

過去の営業用車両[編集]

  • E3系:0番台が秋田新幹線で使われていた。2013年4月から2014年3月まで順次E6系に置き換えられた。
  • 400系:山形新幹線専用として使用していた。ミニ新幹線用として最初に投入された形式。2008年12月から2010年春までに順次E3系2000番台に置き換えられた。

試験車両など[編集]

関連項目[編集]