メルヘン、メルヒェン(独: Märchen)は、ドイツで発生した散文による空想的な物語。非常に古くて重要な文学形式の一つであり、英語ではフェアリーテール(fairy tale)、フランスではコント(contes de fée)と呼ばれるものに相当する。そのルーツを説話(おとぎ話)、口承文芸に持つフォルクスメルヘン(Volksmärchen、民話、民間メルヘン)と、それらを元に創作したクンストメルヘン(Kunstmärchen、創作メルヘン、創作童話)がある。 メルヘンの特徴として、動物が話をしたり、魔女や魔法使い、巨人といった魔法の助けを得るなどの空想的な要素がある。 メルヘンにおいて、善悪は、喜びや怒りの形で明確に分離される。その中ではヒーローは、喜びと怒りの対立、自然と奇跡的な強さの中心にいる。ヒーローはしばしば、表面的には末っ子のような弱い人物である。しかし物語の終わりには、善は報いられ、悪は罰せられる(勧善懲悪)。 メルヘンは広汎な民衆文学であり、その全てが子供向けの牧歌的な童話とは限らない。メルヘンが子供にふさわしいかという議論では、近代の市民社会が形成される以前と以後では、子供の概念が変化している事に留意する必要がある[1]。 ドイツではメルヘンの概念はグリム兄弟によって形作られたと言われている。やがてその作品の多くから、ロベルト・ビュルクナー(ドイツ語版)のような、現代で上演されるメルヘン劇が始まった。 日本ではメルヘンは、おとぎ話・童話、あるいは童話的な素朴な空想を含む物語の意味で使われることが多く、それらの雰囲気を指してメルヘンチック、メルヘンタッチといった和製語も使われる。 メルヘンの研究[編集] メルヘンの比較研究は、19世紀のインド学研究者テーオドール・ベンファイによって始められた。1910年にアンティ・アールネが主な物語の内容を分類し、ここから現代でも国際的に重要な研究であるアールネ・トンプソンのタイプ・インデックスが作られた。ロシアの文言学者ウラジーミル・プロップは1928年に、メルヘンの形態論について構造主義的研究—すべてのメルヘンには、その内容と独立した堅固な行動構造がある—で、文学、特にメルヘン研究への重要な貢献をした。この構造は、主人公の元型(ヒーロー、敵役、補助者など)が相互接続された多くの物語に該当する。しかし古い時代では、異なった理論基盤として人類学、異なった単一文献学や心理学、その他の調査が必要となる。 語源[編集] 15世紀に生まれたメーレ(Mär)と呼ばれる詩の文体の短い物語があった。これに「小さい」を意味する語尾chenが付けられてMärchenとなった。 現代ドイツ語の””Mär””は「話」「うわさ」といった意味だが、語源をたどると中世高地ドイツ語で「出来事の知らせ」を意味する””mære””(メーレ)に行きつく[1]。 18世紀にフランスの妖精物語や、アラブ圏の『千夜一夜物語』がドイツ語に訳され、これらをメルヘンと呼ぶようになった。 メルヘンの収集[編集] メルヘン収集によるメルヘンの成立においては、すぐれたメルヘンの語り手が寄与していた。それによって、メルヘン、メルヘン集の伝統が形成されることになった。 ヨーロッパで初めて収集された昔話を本としてまとめたものは、イタリアのストラパローラ(英語版)が1550年から1553年にかけて出版した『愉しき夜』と言われる[2]。 17世紀にはイタリアのジャンバティスタ・バジーレがナポリ方言の民話集『ペンタメローネ(五日物語)』を出版し[2]、そのモチーフのいくつかは、グリム兄弟の収集の中にも見られる。
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