ムジナクグ – Wikipedia

ムジナクグ(学名:Carex x takoensis Endo et Yashiro)は千葉県香取郡多古町と千葉県山武郡横芝光町にまたがる多古光湿原にのみ生育するカヤツリグサ科スゲ属の植物である。
カヤツリグサ科スゲ属のムジナスゲとオオクグの交雑種。

1989年に生育が確認され、1995年に新種として発表された。学名の「takoensis」は多古光湿原の多古町側で発見されたことによる。

多年生草本。湿地性である。葉は単葉で互生。風媒による受粉し、水散布をする。親であるムジナスゲよりも幅広の葉を持ち、葉の裏面はオオクグに似て粉白色を帯びている。茎の先端に雄小穂、その下に雌小穂が出る。雌小穂の果胞はオオクグのように固く、表面に微細な毛が生えている。果胞の毛はムジナスゲの果胞の毛よりも短い。
ムジナクグは地下走出枝により生育範囲を拡げているが、元は1個体だった可能性があるという。

ムジナクグの親にあたるムジナスゲは本来高層の湿地に生育し、オオクグは汽水域に生育する植物である。本来は同じ場所に生育しないムジナスゲとムジナクグが生育する多古光湿原は内陸にあるが、縄文海進とその後の気候変動による海退により湿地化したエリアである。そのため、かつて汽水域だった時代に生育したオオクグと、寒冷だった時代に生育したムジナスゲがこの湿地の中に残り続け、ムジナクグという雑種を生むことになった。
およそ2000年前にムジナクグが形成されたと考えられている。

ムジナクグの親にあたるオオクグ

ムジナクグが自然の状態で生育しているのは栗山川と借当川の合流点に位置する多古光湿原以外に発見されていない。湿原の中央部に点在し、群落を形成する箇所もある。他に、栗山川中流域の湿性植物を保護・育成する目的で作られたふれあい坂田池公園湿性植物園に移植されている。

参考文献[編集]

  • 千葉県史料研究財団 『千葉県の自然誌 別編4 千葉県植物誌』 51巻 千葉県〈県史シリーズ〉、2003年3月、1181p頁。 
  • 千葉県レッドデータブック改訂委員会 『千葉県の保護上重要な野生生物 千葉県レッドデータブック 植物・菌類編』(2009年改訂版版) 千葉県環境生活部自然保護課、2009年3月、487p頁。 
  • 谷城勝弘; 市原通雄 『横芝光町ふれあい坂田池公園湿性植物園の植生 栗山川流域の自然調査会の支援と共に20年』 栗山川流域の自然調査会、2020年3月、11頁。 
  • 谷城勝弘/監修 『多古光湿原 植物と自然』 多古光湿原保全会、2017年6月、120頁。 
  • 堀井研作 (2020年4月6日). “<ふさの国探宝> 多古光湿原(横芝光・多古) 希少な動植物の宝庫 保全会が維持「後世に」”. 千葉日報 (千葉日報社): pp. 2 
  • 千葉県史料研究財団 『千葉県の自然誌 本編5 千葉県の植物2 植生』 44巻 千葉県〈県史シリーズ〉、2001年3月、7,794p頁。 
  • 谷城勝弘 『多古光湿原の植物 識別が難しいスゲ属の見方と季節の花の紹介』 千葉県植物研究所、2021年、7p頁。 
  • 千葉県生物学会/編集 『千葉県いきものかんさつガイド 千葉県生物学会70周年記念』 千葉県生物学会、2018年2月、125頁。ISBN 978-4-925111-57-7。 
  • 馬場秀幸 (2015年10月1日). “<地方発ワイド> 「多古光湿原」の価値知って 世界唯一のムジナクグ自生”. 千葉日報 (千葉日報社): pp. 10 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]