つばめ (人工衛星) – Wikipedia

つばめ(超低高度衛星技術試験機:Super Low Altitude Test Satellite、略称:SLATS)は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した、人工衛星の超低軌道飛行技術の確立を目的とした人工衛星。2017年(平成29年)12月23日にH-IIAロケット37号機によりしきさいと相乗りで打ち上げられた[3]

軌道保持運用を2019年9月30日(午前9時42分)に成功裏に終了し、2019年10月1日(午後7時13分)に停波作業を実施、運用を終了した[4]

概要

従来の技術では人工衛星を高度300km以下の超低軌道に投入した場合、通常の地球観測衛星が周回する高度600km-800kmの軌道に比べて約1,000倍以上の大気の抵抗を受けるため、衛星の速度が低下して大気圏に落下してしまい継続的な地球観測が不可能であった。しかし超低高度での継続的な地球観測を実用化することができれば、衛星軌道が従来より地上に近いため、従来と同じセンサを使用しても高分解能化が可能であり(同コストで高性能化)、センサを小型・軽量化しても従来と同様の性能のまま(低コスト化しても同様の性能)で観測ができるようになる。つばめはこの超低軌道飛行技術を実証するために開発された衛星である[5][6]

つばめでは、従来から衛星のエンジンとして一般的に使われているガスジェットエンジン(化学エンジン)に比べて、燃料の使用効率が10倍高いキセノンイオンエンジンを採用することで長期間にわたって軌道高度を維持できるようにする。キセノンイオンエンジンは小惑星探査機はやぶさで使用されたことで有名になったが、つばめでは技術試験衛星きく8号で採用されたイオンエンジンのXIESに改良を加えたものを使用する[2]

つばめはH-IIAロケットにより遠地点643km、近地点450kmの楕円軌道に投入された後に、ガスジェットエンジンを使って高度392kmの円軌道に移行し、太陽電池パドルを立てた「エアロブレーキモード」に入り、大気抵抗を大きくして燃料消費を抑えながら高度を下げていく。高度268kmで「エアロスルーモード」に移行して大気抵抗を最小化してイオンエンジンの噴射による軌道維持を開始する。高度220kmまではイオンエンジンのみで高度の維持が可能であるが、最低高度180kmではイオンエンジンとガスジェットエンジンを併用して高度を維持することになる。設計寿命は2年であり、打ち上げから1年9か月後までに高度271.1km~181.1kmの間で6段階の軌道高度の飛行試験を実施した[4][6]

JAXAは2019年12月24日、つばめが地球観測衛星の軌道としては最も低い高度167.4kmを飛行したとして、ギネス世界記録に認定されたと発表した[7]

また、超低高度での原子状酸素の影響による金色の熱制御材(多層インシュレーション:Multi Layer Insulation)のポリイミドフィルムの劣化をモニタリングする装置も備え、軌道高度300km以下における長期間(6か月)の原子状酸素量の計測や大気曝露による材料劣化のモニタリングを世界で初めて実施し、JAXAが開発した材料が長期間の原子状酸素の曝露に耐えることも実証した[4][2]

仕様

  • 全長 2.5m, 全幅 5.2m, 全高 0.9m, 質量 380kg
  • 設計寿命 2年以上
  • 運用軌道高度 268km~180km
  • 軌道: 太陽非同期軌道。高度268 km以下では, イオンエンジンの電力確保のため, dawn-dusk軌道(早朝と夕方に飛来)に近い軌道(降交点通過地方時刻は16時以降)[8]

搭載機器

  • 小型高分解能光学センサー (SHIROP: Small and High Resolution Optical Sensor)
    • 有効開口径: 20cm, 焦点距離: 2m, 波長: 0.48-0.7μm(モノクロ), 地上分解能(GSD): 高度268kmで1m以下
    • 望遠鏡方式: カセグレン型, 検出器: 2次元CCD, 重量 19.8kg, 電力: 27.8W
    • GPS受信機を搭載しており, 撮像対象の位置情報に対応して撮像時刻を自律的に決定する[8]
  • 小型光学センサ(OPS)
    • 質量 1.9kg, 口径 2cm。空間分解能 30m級のカラー画像。
  • 原子状酸素モニタシステム (AMO): 衛星の材料を劣化させうる原子状酸素(AO)の超低高度域環境及び材料への影響を把握
    • AO計測センサ(AOFS)
    • 材料劣化モニタ (MDM)

脚注

関連項目

外部リンク