ピアノソナタ第1番 (スクリャービン) – Wikipedia

ピアノソナタ第1番 ヘ短調 作品6 は、アレクサンドル・スクリャービンが初めて公表したピアノソナタである。1892年に完成された。ヘ短調という暗い調性が選ばれており、過度のピアノの練習によって右手を傷めた後の心痛が充溢する楽曲となっている。

スクリャービンは、(一説によるとミリイ・バラキレフの《イスラメイ》の練習のし過ぎによって)右手を痛めるが、医者に匙を投げられてしまう。《ピアノ・ソナタ第1番》は神に対するスクリャービンの個人的な申し立てであり、神の計画した気紛れな運命に対して、超絶的なピアニストの喪失という悲劇を叫んでいるのである[1]。こうして負傷している間に作曲されたのが、《左手のための2つの小品》作品9であった。しかしながら、いずれにせよ右手は快癒したのである。

構成と内容[編集]

以下の4つの楽章からなり、演奏に19分前後を要する。

  1. アレグロ・コン・フォーコ Allegro con fuoco
  2. アダージョ  Adagio
  3. プレスト  Presto –
  4. フネーブレ  Funebre

ソナタ形式による第1楽章は、非常に暗く、情熱的に開始する。これは、やや楽観的なクライマックスに至るが、終結部は再び絶望に落ち込む。これに続いて変イ長調による憂鬱な第2主題が登場し、やがて呈示部を非常に壮麗に締め括る。不穏な展開部の後で再現部で2つの主題が再登場するが、形はやや変化しており、転調を経て第2主題はヘ長調に移調される。たいへん静かな楽章終止は、最後に引き伸ばされた和音がヘ長調の主和音に落ち着くまで、ヘ短調とヘ長調の間を逡巡して定まらない。

ハ短調の第2楽章は、三部形式による非常にうら悲しい緩徐楽章であり、ハ長調の主和音によってひっそりと終わる。

急速な第3楽章は、再びヘ短調に戻り、圧縮されたロンド形式を採る。昂奮冷め遣らぬ楽章であり、変イ長調によるより甘美な中間部によって束の間解放されるものの、解決されない終結部に向かって怒りに満ちた連打が響くと、やはりヘ短調の緩やかな最終楽章に至る。ショパンの《葬送ソナタ》の第3楽章に雰囲気の似た葬送行進曲である[1]。暗闇は、ヘ短調による寒々とした楽章終止でも晴れることがなく、最終和音は、ヘ音とハ音だけからなる空5度を両手のオクターヴで響かせており、短調か長調なのかが曖昧な楽章終止となっている。

ちなみに、スクリャービンは、1887年から89年に作曲した《ピアノソナタ変ホ短調》(未完)の第3楽章において、本作第3・4楽章と類似した構成を取っている。当楽章では、激しいソナタ楽章の最後に第1楽章・第1主題がコラール風に回想され、重々しく終結する。

  1. ^ a b (1997), Ashkenazy notes, p5

参考資料[編集]

  • Scriabin, Alexander. Complete Piano Sonatas. 1964 Muzyka score republished in 1988 by New York: Dover Publications. ISBN 0-486-25850-5.
  • (1997) “Alexander Scriabin: The Piano Sonatas”, 5–7 [CD liner]. Album notes for Scriabin: The Piano Sonatas by Vladimir Ashkenazy. Decca.

外部リンク[編集]