僕の心のヤバイやつ – Wikipedia

僕の心のヤバイやつ』(ぼくのこころのヤバイやつ、英語: The Dangers in My Heart)は、桜井のりおによる日本の少年漫画。東京都目黒区洗足を舞台に[2]、陰キャの中二病少年・市川京太郎と陽キャの美少女・山田杏奈の2人が織り成す恋模様を描いたラブコメディである[3]。略称は「僕ヤバ」[4]。2022年1月時点で累計発行部数は200万部を突破している[5]

本作の連載は『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)で始まり[1]、2018年15号から18号まで掲載された後、同年4月から、同社のウェブコミック配信サイト『チャンピオンクロス』に移籍[6]。7月、同社が『チャンピオンクロス』と『Champion タップ!』を統合して『マンガクロス』を開設すると、本作もそれに伴って『マンガクロス』に移籍している[7]

あらすじ[編集]

市川京太郎は中二病を患う中学2年生で、日々殺人の妄想を繰り広げていた。彼は自分と対照的な同級生・山田杏奈から見下されていると思い込んでおり、特に彼女を殺したいと思っていた。

ある日、京太郎は山田が学校に食べ物を持ち込み、図書室で食べているのを目撃する。その後も山田は美少女のイメージとはかけ離れた言動をとり、京太郎はそんな彼女を放っておけなくなるが、その理由が分からず煩悶する。そんな折、体育の授業で山田が負傷するアクシデントが起こる。負傷に涙する山田を見ていた京太郎もいつしか泣いており、自分が山田に恋していることを自覚する。

一方の山田も当初は京太郎のことを特に気に留めていなかったが、次第に彼に関心を抱き、お気に入りの漫画を貸すなど自分から積極的に交流を図るようになる。そして2学期最後の登校日、山田は漫画の続巻を貸すという理由で、クリスマス・イブに京太郎と会う約束を取り付ける。

登場人物[編集]

主人公とヒロイン[編集]

市川 京太郎(いちかわ きょうたろう)
本作の主人公を務める男子中学生[8]。作中では家族として父母と姉が登場しており、このうち母と姉からは「京ちゃん」と呼ばれている。
内向的な性格で友達を持たず[9]、休み時間は読書をして過ごしており[10]、昼休みは図書室に入り浸っている。また、同級生を殺す妄想をするという中二病も患っている[8]。中二病ゆえにモノローグでは偉ぶった物言いをすることもあるが、その実、自己肯定感は低い[11]。一方でスマートではないながらも行動力があり[12]、作中では困っている人のために行動を起こす場面がしばしば描かれている。
山田に対しては当初、自分のような陰キャを下に見ているものと決めつけていたが、物語が進むにつれて彼女の意外な姿を目の当たりにするようになり、次第に彼女に惹かれ、遂には恋心を自覚するに至っている[11]。一方で、自己肯定感の低さなどが災いして山田が自分に好意を抱いていることには気づいておらず、山田の言動について見当違いの解釈をしてしまうこともある[13]
山田 杏奈(やまだ あんな)
本作のヒロイン[8]。京太郎の同級生で[10]、雑誌モデルとして活動する背の高い美少女(171.9cm)[14][9]。スクールカーストの最上位にいる陽キャで[3]、校内では友人の小林ちひろ・関根萌子・吉田芹那と行動を共にすることが多い。性格は天然かつマイペースで、間の抜けたところもある[11]。また食い意地が張っており[8]、お菓子の持ち込みを禁止されているにもかかわらず校内で隠れて食べている。
物語開始時点では京太郎のことは特に意識していなかったが、その後、彼が自分を助けてくれていることに気づき、彼女なりに親愛の情を示すようになる[11]。物語が進むにつれて図書室に顔を出すことが増えていき[15]、やがて京太郎より遅れて恋心を自覚するに至る[16]。なお、作中では足立や南条など彼女に言い寄る男子が複数登場しており、その手の男子は友人の助力も得つつかわしているが、京太郎への恋心を自覚してからはボディタッチも厭わないなど積極的に京太郎との距離を縮めようとしている。

その他の人物[編集]

小林 ちひろ(こばやし ちひろ)
京太郎と同じクラスの女子生徒。山田の親友で、彼女からは「ちぃ」と呼ばれ、関根からは「ばやしこ」と呼ばれている。よく山田の世話を焼いており、京太郎からは密かに「彼氏さん」と呼ばれている[3]。一方で抜けているところもあり[17]、異性には弱い[3]
関根 萌子(せきね もえこ)
京太郎と同じクラスの女子生徒で、山田の友人。見た目は派手で言動は軽く、京太郎からはビッチ扱いされているが、その実、学業成績は学年上位を誇る[3]。また、根は友達思いであり、山田と京太郎の関係についても薄々気付いており、気遣うこともある。
吉田 芹那(よしだ せりな)
京太郎と同じクラスの女子生徒。山田の友人で、彼女からは「にゃあ」と呼ばれ、関根からは「芹にゃ」と呼ばれる。気が強く、情に厚い[3]
足立 翔(あだち しょう)
京太郎と同じクラスの男子生徒。クラスメイトの神崎・太田とともにしょっちゅう猥談をしている。山田に惹かれており[3]、彼女がいる女子グループにモーションをかけているが、卑猥な下心を見抜かれてしばしば冷たい視線を向けられている。下の名前は単行本6巻特装版付録のトリビュートイラスト集のQ&Aにて判明した。
神崎 健太(かんざき けんた)
京太郎と同じクラスの男子生徒。足立や太田とともにしょっちゅう猥談をしている。素朴な見た目に反して異性に関する発言はマニアックで、京太郎からはブス専扱いされている[3]。下の名前は単行本6巻特装版付録のトリビュートイラスト集のQ&Aにて判明した。
太田 力(おおた ちから)
京太郎と同じクラスの男子生徒。肥満体系。足立や神崎とともにしょっちゅう猥談をしている。下の名前は単行本6巻特装版付録のトリビュートイラスト集のQ&Aにて判明した。
原 穂乃香(はら ほのか)
京太郎と同じクラスの、ぽっちゃりした女子生徒[12]。神崎に好意を抱かれており[15]、作中では2人で出かけたりしている。また山田とも交流があり、彼女と京太郎が互いに想い合っていることに感づいている。下の名前は単行本6巻特装版付録のトリビュートイラスト集のQ&Aにて判明した。
南条 ハルヤ(なんじょう ハルヤ)
京太郎の1学年上の先輩[3]。山田との交際を狙って幾度となくアプローチをかけているが、そのたびに山田の友達に阻まれている。京太郎からは「ナンパイ」と呼ばれ、嫌われている。
市川 香菜(いちかわ かな)
京太郎の姉。軽音楽部所属の女子大生[18]。京太郎からは「おねえ」と呼ばれる。サバサバした性格に反して弟のことは溺愛しており[18]、京太郎からは鬱陶しがられてはいるものの仲は悪くない。

先述したように、本作は陰キャ少年・京太郎と陽キャ少女・山田の恋物語である。ストーリーは京太郎の視点で描かれており[10]、彼が恋に落ちていくさまが事細かに描かれている[19]。他のキャラクターについても表情の些細な変化などから心情をうかがい知ることができるようになっており、総じてキャラクターの感情や関係性の変化が丁寧に描かれた作品となっている[10]

一方で、京太郎と山田は互いに好き合ってはいるものの、相手に惚れた決定的瞬間がいつなのかは明確にされていない[13]。これは意図的なもので、作者の桜井は、中学生の初恋は恋愛感情とそれ以外の感情の境目が曖昧であり、恋に落ちたタイミングと恋を自覚したタイミングが違うという面白さを本作で表現したかったのだと発言している[12]。この意図はタイトルにも表れており、桜井曰く「僕の心のヤバイやつ」というタイトルは「自分の中にある、恋心なのか何なのかわからない感情」を表現したいという思いから生まれたものだという[17]

本作以前の桜井の作品は主に1話完結型のギャグ漫画であったが、本作は人間の心の機微を描くストーリーものと、それまでの作品とは異なる作風になっている[20]。一方で、一時期本作と並行して執筆された『ロロッロ!』とは、陰キャの子供を主人公に据えているという共通点もある。これは当時の桜井が陰キャの子供とその周りの人間との関係性に関心を抱いていたことに起因しているが、他方で主人公の性別は異なり、その結果、『ロロッロ!』では主人公が同性の女子グループに馴染めるかが描かれているのに対し、本作では主人公が異性の女子と親しくなれるかという点に主眼が置かれるという、異なる観点を持つ作品に仕上がっている[17]。加えて本作は『ロロッロ!』よりもリアリティを追求した作品となっており[17]、陰キャ男子の自意識がリアルに描かれているほか[21]、作中に登場する下ネタも男子中学生の性欲を生々しく描いたものになっている[12]

また、本作は桜井曰く「サラッとも読めるけど、何度も読み返すことでも発見がある」作品になるよう作られており[2]、隅にあるコマや一見すると特に意図もなさそうなセリフにまで伏線と思しき描写が仕込まれている[22]。作中に散りばめられた謎は読者の考察意欲を刺激しており、本作では新しい話が公開されるたびに、謎の存在に気づいた読者がインターネット上で考察を繰り広げるのが恒例となっている[23]

制作背景[編集]

桜井によると、自分の元担当編集者が漫画編集部に復帰した際、また一緒に漫画を作りたいと思って桜井が本作のネームを持ち込んだことが、本連載が生まれたきっかけだという[2]。なお、この編集者の当時の配属先はヤングチャンピオン編集部であったが[2]、本作は『週刊少年チャンピオン』での連載を経てウェブコミック配信サイトでの連載に移行するという経緯をたどった。これについて桜井は、本作はもともとウェブコミック配信サイトでの連載を予定しており、その上で作品を知ってもらうため序盤の話のみ『週刊少年チャンピオン』に掲載する形を採ったと発言している[2]

先述したとおり、本作以前の桜井のギャグ漫画が主であった。このような中で本作がラブコメディとなったのは、当時の桜井にラブコメディを好きになるという変化が起きていたからだといい、「どうしたら女子が魅力的に見えるか、男子はどうコミュニケーションを取るのか」を考え続けた結果、編集者にネームを見せたときには既に序盤の7話分のネームができていたという[24]

男子を主人公に据えるというアイディアは、『ロロッロ!』で少女型ロボットが男子化する回を描いたことがきっかけで生まれた。この回では男子化したことで女子を見る目が変化するという話が描かれており、桜井曰く、そこから「男子目線から女子を描くと、魅力的に見えるんじゃないか」という着想を得たという[17]。一方で、ヒロイン・山田のモチーフは元アイドルの亀井絵里であり、亀井のパーソナリティの一部が山田に反映されている[12]

社会的評価[編集]

以下の表にあるように本作は複数の漫画賞にノミネートされており、このうち一般投票型の漫画賞で好成績を収めている。特に2019年には『このマンガがすごい!』のオトコ編で3位に入っており、これを記念して実写プロモーションビデオが公開されている[25]

本作がこうした人気を獲得するに至った要因として、当時の世相の影響を指摘する声がある。ライターの古澤誠一郎は、作者の桜井の実力が人気獲得の最大の要因としつつ、本作には従来のラブコメと比べて男女の役割が逆転している側面があり、この点が男性観・女性観が変わりつつある世相と合致しており、支持を広げることに一役買っていると分析している[16]

また、産経ニュースの書評では、作中の京太郎と山田のやり取りは、読む者に中学生のときを思い起こさせる力があると評されている[22]。ライターの小林聖曰く特に京太郎と似た気質を持っていた者には京太郎の挙動が生々しく感じられるといい[21]、実際に小説家の谷津矢車は、学生時代の自分が京太郎と似ており、それゆえに京太郎と山田のやり取りを見ていると「やきもきさせられる」と述べている[33]

書誌情報[編集]

第3巻以降は通常版に加えて特装版もリリースされ、3巻では作中人物のプロフィール帳やアンソロジーコミックなどを収録した小冊子『僕らの心のヤバイやつ』が[34]、4巻ではカレンダーつきイラストカードセットが、5巻では描きおろしカラーイラストおよび単行本未収録のショートエピソードを収録した小冊子『僕らの心のアルバム―これまでとこれから―』がそれぞれ同梱された。

秋田書店公式サイト[編集]

以下の出典は『秋田書店公式サイト』内のページ。書誌情報の発売日の出典としている。

外部リンク[編集]