南海12000系電車 – Wikipedia

南海12000系電車(なんかい12000けいでんしゃ)は、2011年9月1日より営業運転開始[2]した南海電気鉄道の特急形電車である。

本項では、2017年(平成29年)1月27日から営業運転を開始した泉北高速鉄道が保有する泉北高速鉄道12000系についても記述する。

特急「サザン」に使用されている10000系の置き換えのため、先に登場した2代目8000系をベースに設計・開発された。10000系の後継車種であり、グレードアップした設備などから「サザン・プレミアム」の愛称が付けられた。

「サザン」に2編成導入後しばらく動きは無かったが、2017年に「泉北ライナー」用専用車両としてマイナーチェンジを図った20番台が1編成が導入された。

JRグループ以外の鉄道事業者で、特急形車両にステンレス車を導入している事業者は少なく、大手私鉄での導入は本形式が史上初となった。

車体外観[編集]

南海12000系の愛称ロゴ

車体は20m級軽量ステンレス無塗装車体で8000系をベースに設計されており、車体断面形状は同系列と同一である。

前面部分だけは造形・加工の容易なFRP製である。前面中央部には貫通扉が設置され、他の編成と連結した際にも車内を移動できるように配慮されている。連結した際に通路を覆う幌については難波方向の先頭車にのみ設置している。また、連結器についても作業の容易な電気連結器併設密着式連結器であり、両方向の先頭車に装備されている。貫通扉のワイパーは連結面になることを考慮しMc1車には設置されていない。

灯火類も8000系と共通する配置だが、前面下部に設置されている列車識別灯は同系列のものよりも大きく、端が吊り上がった形状となっており、目を引くものとなっている。この識別灯は尾灯と一体のもので、光源にはLEDを使用する。

側面部分は各車両ともに片側1つの客用扉を持つ。この扉は整備性を考えた1枚引き戸で、従来折り戸やプラグドアを採用してきた南海の特急形車両では初の試みであり、有効開口幅は約900mmとなっている。なお、中間車の2・3号車では将来の客室扉を増設することも踏まえて、その開口部を「ふさぎ構体」により封鎖されている。

屋根上には列車無線のアンテナやクーラーが設置されている。動力車はこれに加えてシングルアーム式パンタグラフPT7144B型を搭載する。

10000系には愛称ロゴはなかったが、本形式では先頭車両の中間腰部に貼付されている。

また、1号車の化粧室部にはNANKAIの文字と南海線、空港線を表現したイラストを組み合わせたステッカーが貼付されている。

内装[編集]

客室はデッキを介して外部と仕切られており、特急形車両としての居住性を満たしている。デッキ部分にはゴミ箱のほか、難波方向の先頭車には飲料自動販売機と多目的室(後述)が設置されている。また防犯を目的に防犯カメラが設置されており、映像が逐一SDメモリーカードに記録されるようになっている。SDメモリーカードは専用のカギがないと取り出せず、専用のソフトがないと再生できない仕様となっており、個人情報の保護に配慮されている。

デッキと客室の仕切り部分には木目調の扉が設置されており、センサーで反応する自動扉となっている。扉中央には窓が付いており、窓の両側には換気のためにルーバーが設置されている。扉上部にはLEDスクロールによる案内表示器があり、停車駅などの情報を流す。また、本系列には特急サザン用車両としては初めて自動放送装置が装備され、日本語と英語による放送が流される。

座席は2+2列の回転式リクライニングシートで、表皮は青地で細かい柄が描かれており、これは南海線沿線の海(大阪湾)の波をイメージしたものだという。座席幅は従来のものより広い460mm、背面にはテーブルを備えており、また、座席の前面ないし側面の壁部分にAC電源コンセントを1名あたり1箇所持つなど、ノートパソコンなどを使うビジネスユーザーを意識したものとなっている。また、各座席の背面には私鉄の特急形車両には珍しくフットレストが設置されている。

鉄道車両では初となるプラズマクラスター発生器を全車両の全ての仕切り扉付近に左右に1台ずつ設置されている。仕切り扉には、プラズマクラスター発生器が作動していることを示すステッカーが貼付されている。

一部の車両にはトイレが設置されている。トイレは車椅子対応の大型のもののほかに、男性用小便器、女性専用トイレが設置されている。男性用小便器は近年、南海の駅でも導入が進んでいる無水タイプで、尿より比重の軽い液体が蓋の役目をすることによって臭いが軽減される。トイレの汚物処理装置も従来の循環式から清水空圧式に変更された。またトイレの隣には洗面所を併設している。

多目的室は難波方向の先頭車両デッキ部分に設置されており、内部には座席の他、非常通報装置や鏡などが置かれている。普段は施錠されているが、授乳やおむつ交換等、他の乗客のいる場面でははばかられる時は乗務員に申し出ることによって使用することができる。

運転・走行機器[編集]

主電動機(走行用モーター)の制御にはVVVFインバーター制御を採用しており、動力車に搭載された1台の主制御器が1両分4台の主電動機を制御するという、いわゆる1C4M制御である。主電動機にはかご形三相誘導電動機のMB-5091-A2型[注 2]を採用した。

車内照明や空調装置の電源用として静止形インバータのSH75-4045C型2レベルインバーター[注 3]をMc1車、T2車に搭載している。

泉北高速鉄道12000系[編集]

泉北高速鉄道12000系(20番台)

泉北高速鉄道12000系は、特急「泉北ライナー」の専用車両として、2017年(平成29年)1月27日から運行を開始した南海12000系のマイナーチェンジ車である[3][4][5][6]。泉北高速鉄道が南海グループに参入して以降初の新型車両でもある。

当系列の車体や走行機器は、南海12000系を基本とするが、形式番号の下2桁が20番台となるなどの点が異なる。2016年10月29日から31日にかけて、製造元の総合車両製作所横浜事業所[注 4]を出場し、JR線経由で南海本線の和歌山市駅まで甲種輸送され、その後光明池車庫まで自力回送された[7]

2017年1月21日には、デビューを記念して計200名限定で、南海本線を経由して羽倉崎車庫へ向かい、到着後に車両撮影会を行うイベントが実施された[8][9]

南海12000系と共通設計のため、併結列車の設定がない「泉北ライナー」専用車両でも貫通扉や電気連結器などの併結設備が予め備わっている。イベントでの運転ではその特性を生かして、特急サザンの運用に就いた実績がある[10][11]

特急「サザン」運用時の泉北高速鉄道12000系(2018年8月20日)

デザイン・内装[編集]

基本は南海12000系と同様であるが、こちらも各所に独自仕様が加えられている。変更内容は以下の通り。

  • 車体外観を金色を基に青色と黒色のラインを配置とした塗色に変更。金色を採用した理由はアメリカのゴールドラッシュ時に人が殺到したように、泉北地域へ人が集まるようにという願いから[12]
  • 落ち着いた車内空間にするため、客窓ラッピングシールの使用[注 5]
  • 和泉中央方先頭車(12121)車体側面に4色を持つ丸[注 6]を配置した泉北ライナーシンボルマークを設置
  • 車内の座席とカーテンは1号車が黄色・2号車が緑色・3号車が紫色・4号車が赤色の4色のシンボルカラーに変更 
  • 「非日常」を演出するため、客室扉があるデッキ・洗面所・男子小便所・女性専用の洋式便所・車椅子専用の大形便所の内装色を、外観と同じく金色に変更
  • 4カ国語表示が可能な液晶ディスプレイ式の車内案内表示装置の採用[注 7]
  • 車両の室内灯にLED照明を採用
南海12000系の自由席車に用いられる8000系
南海12000系と併結する9000系
南海12000系と併結する8300系

最初の編成は2011年(平成23年)2月に横浜市の東急車輛製造で落成し、和歌山市駅までJR線を輸送されて南海の路線に入った[13]。その後南海の車籍を得て、3月末から南海本線・高野線[注 8]で試運転が行われた[14][15]

同年7月4日には女性と子供を対象にした試乗会が[16]、8月20日には大手私鉄の車両では同系列が初採用となるプラズマクラスター技術の広報を目的とした親子向けイベント(試乗会)がシャープと共同で開催された[17]

原則として、南海本線の難波駅 – 和歌山港駅間で運行されている特急「サザン」の指定席車両として使用され、10000系と同様に自由席車両となる8000系、9000系、8300系4両と併結しての運用となっている[18][19][注 9]

抑速ブレーキを新造当初より装備しているため、2011年の営業運転開始前の試乗会では、通常走行しない小原田検車区(高野線の御幸辻駅 – 橋本駅間)や多奈川線に入線したことがある[20]。また、2014年10月11日に光明池車庫で行われたイベントに合わせて、難波駅 – 光明池車庫間で臨時列車が運行され、泉北高速鉄道線で初の運転となった[21]

2017年8月現在、南海本線所属の12000系は、平日ダイヤでは10000系との共通運用、土休日ダイヤでは1日12便体制で限定運用されているが、「泉北ライナー」に運用されることもある。その際には12000系の「サザン」運用を減便する必要があり、10000系での運用に変更される[22]。なお、南海12000系が泉北ライナーで運用する場合には、12000系単独での運用となる[23][注 10]

2017年1月時点で、4両編成2本(12001F、12002F)が南海電気鉄道に、4両編成1本(12021F)が泉北高速鉄道に所属している。難波寄りに一般車両を4両繋げて運行するため、南海12000系のモハ12001型は営業運転では「泉北ライナー」の代走でしか先頭に立つことはない。

 

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和泉中央・和歌山港 →

形式 4号車
モハ12001
(Mc1)
3号車
サハ12801
(T1)
2号車
サハ12851
(T2)
1号車
モハ12101
(Mc2)
搭載機器 CONT
SIV
  SIV CONT
定員
(着席)
97人
(60人)
107人
( 68人)
108人
(64人)
95人
(50人)
設備 多目的室
自販機
    トイレ
車椅子スペース
自重(t) 41.5 30.5 32.0 40.5

注釈[編集]

  1. ^ 難波 – 岸里玉出間は、線路名称上は南海本線。
  2. ^ 定格出力180kW。
  3. ^ 入力側が直流1500V、出力側が三相交流220V・60Hz。
  4. ^ 泉北高速鉄道では初めての総合車両製作所製車両であり、東急車輛製造時代を含めると5000系(5509F)以来25年ぶりとなる。
  5. ^ 真横からは見えないが、斜めから見ると透けて見える構造になっている。
  6. ^ 京都オパールを使用して装飾されている。
  7. ^ 『サザン』の運用にも対応している。
  8. ^ 後述の試乗会では小原田検車区まで入線した実績がある。
  9. ^ システム上は1000系との併結も可能ではあるが、営業運転での併結実績はない。8300系との併結は2020年12月から開始された。
  10. ^ 例外として、2018年8月20日から9月22日まで南海と泉北の12000系同士を交換して、両社の特急を運行する企画が行われた[10]。このため、泉北車両が史上初めて営業運転で和歌山県内に入線している。

出典[編集]

参考文献[編集]

  • 鉄道ジャーナル2011年8月号(通算538号)「南海の新型サザン12000系特急形電車の概要」(山田健太郎 著)
  • 鉄道ファン2017年4月号(通算672号)「泉北高速鉄道12000系」

関連項目[編集]

外部リンク[編集]