無期刑 – Wikipedia

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無期刑(むきけい)とは、その文字の通り、期限がない刑罰である。有期刑の上限は30年と定められているのに対し、無期刑は最低でも30年間、刑に服しなければ仮釈放の対象にならないと言われている。
終身刑は受刑者が死ぬまで服役し続けるのに対し、無期刑は生きているうちに出所できる可能性がある点で異なる。
無期刑には無期懲役と無期禁錮の2つがある。

行刑理論[編集]

無期刑は刑期を定めない、あるいは刑期の上限を定めないという絶対的不定期刑を意味するわけではなく、刑期の終わりが無い、つまり刑期が一生涯にわたるもの(受刑者が死亡するまでその刑を科するというもの)を意味し[1][2][3]、有期懲役より重い刑罰、死刑に次ぐものとされており、英語では「Life(一生涯の) imprisonment(拘禁)」との語が充てられている[4]

ただし、仮釈放制度との関係で無期刑と終身刑の関係について区別する整理と同一とする整理が見られる[5]。前者は無期刑と終身刑を区別して仮釈放があるものを無期刑とし仮釈放がないものを終身刑とする整理であり、後者は無期刑と終身刑は概念的には同一でこれらと仮釈放制度との組み合わせが多様に存在するという整理である[5]。国際的文脈では無期刑と終身刑は概念的には同一でこれらと仮釈放制度との組み合わせが多様に存在するという整理のほうが混乱を生じにくいとされている[5]。英語のlife imprisonmentやドイツ語のlebenslange Freiheistsstrafeには仮釈放の制度が伴う場合とそうでない場合の双方が含まれているためである[5]

日本の無期刑[編集]

日本の刑法には無期懲役と無期禁錮が定められている[6]

ただし、現在の刑法28条では無期刑の受刑者にも仮釈放(刑期の途中において一定の条件下で釈放する制度)によって社会に復帰できる可能性を認めており、同条の規定上10年を経過すればその可能性が認められる[7]点で、日本の現行法制度に存在する無期刑は、仮釈放による社会復帰の可能性がない無期刑(重無期刑ないし絶対的無期刑ともいう)とは異なる。

法定刑に無期懲役がある主な罪[編集]

*は法定刑に死刑もある罪。

一般刑法の無期懲役[編集]

特別刑法、又はその他の法律の罰則の無期懲役[編集]

無期禁錮[編集]

対象[編集]

法定刑に無期禁錮刑が規定されている罪は、内乱罪(刑法第77条)および爆発物取締罰則第1条及び第2条違反のみである。なお、死刑を減軽する場合は無期の懲役または禁錮もしくは10年以上の懲役もしくは禁錮とすると書いてあるが、これは禁錮に当たる罪と同質の罪(内乱首魁など)について、死刑を選択後に減軽で無期禁錮を言い渡すことが可能であるが、懲役に当たる罪と同質の罪(殺人・外患誘致など)について、死刑を無期禁錮に減軽することはできないと考えられる。

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科刑状況[編集]

少なくとも昭和22年(1947年)以降に無期禁錮刑を言い渡された者はない[8][9]。内乱罪は戦前に2件の訴追例があるのみであり、今日までこの罪によって処断した裁判例はない。また、爆発物取締罰則の適用そのものは時々あるが、これによって無期禁錮刑を言い渡された者は確認されていない。

少年法と無期刑[編集]

現行法では、刑事責任を問える14歳から無期刑を科すことができる。少年法58条1項1号は、少年のとき無期刑の言渡しを受けた者[10]には、7年を経過した後、仮釈放を許すことができると規定し、仮釈放資格を得るまでの期間を成人の場合と比べて緩和している[11]

また、同法51条は、罪を犯すとき18歳未満であった者について、本来死刑が相当であるときは無期刑を科す旨規定し(同条1項)、本来無期刑が相当であるときも、10年以上20年以下の範囲で有期の定期刑を科すことができる旨規定している(同条2項)。ただし、51条2項の規定は、「できる」という文面が示すとおり、同条1項のような必要的緩和とは異なる裁量的緩和であり、本来どおり無期刑を科すこともできるし、裁判官の裁量により刑を緩和して有期の定期刑を科すこともできるという意味である。なお、58条2項は、51条1項の規定によって死刑から無期刑に緩和された者については、58条1項1号の規定は適用しない旨規定している[12][13]

運用と処遇[編集]

未決勾留日数の取扱い[編集]

無期刑の言渡しをする場合でも、未決勾留日数の一部または全部を刑に算入することができるとされており、実際にも、多くの裁判例において未決勾留日数が無期刑に算入されているが、無期刑は満期が存在しない終生の刑であるため、事柄の性質上、仮釈放が可能になる最低年数からは引かれず、未決勾留日数の算入は、恩赦などで有期刑に減刑された場合にしか意味を持たないものと解されている[14][15]。ただし、実務上は未決勾留が長期に及んだ場合、仮釈放の審理の際にある程度の考慮が払われることもある。

昼夜間厳正独居拘禁者[編集]

受刑者の中には、昼夜間厳正独居拘禁(昼夜を問わず独房から出られない、作業も独房で課されるなど)の処遇を受けている者もおり、2000年の時点で、通算30年以上、昼夜間厳正独居拘禁の処遇を受けている無期懲役受刑者が5名存在することが確認されている[16]

統計[編集]

確定数[編集]

21世紀突入後では、無期刑の確定者数は1990年代までと比較して多くなっている。統計開始以後の各年ごとの無期刑確定者数を見てみると、1990年代までは30-50名程度でほぼ横ばいであったが、2000年に初めて60名に達した後、増加を示し、2003年~2006年の間に100名以上となり、2005年には134名、2006年に136名となった。しかし2007年~2013年は2007年の89名から2014年の26名まで減少し、2014年以降は20名前後で推移している。2014年は26名、2015年は25名、2016年は14名、2017年は18名、2018年は25名、2019年は16名、2020年は19名である。なお、2011年から2020年までの過去10年間における無期懲役確定者は259名である[17][18]

在所受刑者数[編集]

2020年末現在、無期刑が確定し刑事施設に拘禁されている者の総数は1,744人である[17]

仮釈放制度[編集]

仮釈放中の処遇[編集]

日本では、仮釈放中の者は残りの刑の期間について保護観察に付される残刑期間主義が採られており、無期刑の受刑者は、残りの刑期も無期であるから、仮釈放が認められた場合でも、恩赦などの措置がない限り、一生涯観察処分となり、定められた遵守事項[19]を守らなかったり、罪を犯したりした場合には、仮釈放が取り消されて刑務所に戻されることとなる[20]。ただし、少年のときに無期刑の言渡しを受けた者[21]については、仮釈放を許された後、それが取り消されることなく無事に10年を経過すれば、少年法59条の規定により刑は終了したものとされる考試期間主義が採られている。

運用[編集]

無期刑仮釈放者[22]における刑事施設在所期間についての年次別内訳は、法務省「令和3年版犯罪白書」「昭和48年版犯罪白書」[23]「昭和45年版犯罪白書」[24]より、以下の表のようになっている。

無期刑仮釈放者の刑事施設在所期間別内訳(1967年以降)
年 次 総 数 12年以内 14年以内 16年以内 18年以内 18年を
超える
1967年 88 10 24 37 9 8
1968年 82 8 28 34 9 3
1969年 94 11 36 22 19 6
年 次 総 数 12年以内 14年以内 16年以内 18年以内 20年以内 20年を
超える
1970年 88 4 32 37 4 9 2
1971年 84 11 25 25 17 5 1
1972年 49 7 16 16 3 3 4
1973年 63 16 35 10 1 1
1974年 65 13 34 13 5
1975年 105 1 24 50 17 8 5
1976年 54 2 12 25 11 4
1977年 55 1 10 24 11 5 4
1978年 43 1 3 17 11 8 3
1979年 57 5 33 11 5 3
1980年 46 8 22 11 3 2
1981年 57 8 30 14 4 1
1982年 54 12 24 13 3 2
1983年 45 3 7 16 10 5 4
1984年 50 3 11 16 12 3 5
1985年 26 10 6 5 4 1
1986年 28 3 15 6 2 2
1987年 25 2 2 12 7 2
1988年 11 1 5 2 1 2
1989年 13 5 1 3 4
1990年 17 5 3 4 5
1991年 33 1 12 8 6 6
1992年 21 6 1 6 8
1993年 16 1 4 5 4 2
1994年 15 8 3 4
1995年 15 1 5 4 5
1996年 9 1 5 3
1997年 13 1 4 8
年 次 総 数 12年以内 14年以内 16年以内 18年以内 20年以内 25年以内 30年以内 35年以内 35年を
超える
1998年 14 5 8 1
1999年 9 3 5 1
2000年 6 5 1
2001年 14 1 7 5 1
2002年 4 1 3
2003年 13 10 3
2004年 8 2 5 1
2005年 3 2 1
2006年 4 1 2 1
2007年
2008年 4 2 2
2009年 6 3 2 1
2010年 7 2 2 3
2011年 6 5 1
2012年 4 4
2013年 8 8
2014年 4 1 2 1
2015年 11 11
2016年 6 5 1
2017年 9 7 2
2018年 10 10
2019年 15 9 6
2020年 9 3 6
年 次 総 数 12年以内 14年以内 16年以内 18年以内 20年以内 25年以内 30年以内 35年以内 35年を
超える

従前においては、十数年で仮釈放を許可された例が少なからず(特に1980年代までは相当数)存在しており、1967年~1989年の間で在所期間18年以内で仮釈放された無期刑仮釈放者は1,136人おり、約89%を占め、早い者では在所期間12年以内に仮釈放された者が64人いた。更には、昭和48年版犯罪白書によれば、少なくとも1970年~1972年の間に13人が在所期間10年以内に仮釈放されていた。

しかし、1990年代に入ったころから次第に運用状況に変化が見られ、2003~2006年では仮釈放を許可された者の中で刑事施設に在所していた期間が最短の者で20年超え25年以内であった。そして、2008年~2010年は最短の者で25年超え30年以内となり、2011年以降は2014年を除いて、最短の者が30年超え35年以内となっている。それに伴って、仮釈放を許可された者における在所期間の平均も、1980年代までは15年-18年であったものの、1990年代から20年、23年と次第に伸長していき、2004年には25年を超えていった。そして2007年以降、2008年を除いて、現在までのところ一貫して30年を超えるものとなっている[25][18]。そして、仮釈放された者の中に、50年を超えた者が2019年で2人、2020年で1人いた。更に、2019年に仮釈放された無期刑受刑者の内、仮釈放審査による判断時の最長在所年数が61年(1957年に起こした強盗致死傷の罪状で熊本刑務所で服役していた80歳代無期刑受刑者)になる者がいた。日本国内において最も長い在所期間であった。また、この受刑者は5度にわたって仮釈放申請をしていたが、受け入れ先がないという理由で却下されていたが、2009年に導入された「特別調整」(高齢者や障害のある受刑者を福祉施設で受け入れる制度)により、福祉施設で受け入れることで、仮釈放の許可が下りたという経緯がある。その後、出所から1年で亡くなっている[26][27]

許可基準[編集]

仮釈放が許可されるための条件については、刑法28条が「改悛の状があるとき」と規定しており、この「改悛の状があるとき」とは、単に反省の弁を述べているといった状態のみを指すわけではなく、法務省令である「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則」28条の基準を満たす状態を指すものとされており、そこでは「仮釈放を許す処分は、悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがなく、かつ、保護観察に付することが改善更生のために相当であると認めるときにするものとする。ただし、社会の感情がこれを是認すると認められないときは、この限りでない」と規定されている[1][28]

さらに詳細な規定として「悔悟の情」「改善更生の意欲」「再び犯罪をするおそれ」「保護観察に付することが改善更生のために相当」「社会の感情」について、次のような事項を考慮して判断すべき旨が通達により定められている[1]。「悔悟の情」については、受刑者自身の発言や文章のみで判断しないこととされており、「改善更生の意欲」については、被害者等に対する慰謝の措置の有無やその内容、その措置の計画や準備の有無、刑事施設における処遇への取組の状況、 反則行為等の有無や内容、その他の刑事施設での生活態度、釈放後の生活の計画の有無や内容などから判断するとされる[1]。また、「再び犯罪をするおそれ」は、性格や年齢,犯罪の罪質や動機、態様、社会に与えた影響、釈放後の生活環境などから判断することとされ、「保護観察に付することが改善更生のために相当」については、悔悟の情及び改善更生の意欲があり、再び犯罪をするおそれがないと認められる者について、総合的かつ最終的に相当であるかどうかを判断することとされる[1]。「社会の感情」については、被害者等の感情、収容期間、検察官等から表明されている意見などから判断することとされる[1]

被害者保護の社会的要請(国民世論)の高まりを受け、2005年の更生保護法の成立を契機に、被害者が希望すれば仮釈放の審理の際に被害者側が口頭や書面で意見を述べることが可能となり[29][30]、2009年度からは被害者側が拒否しない限りにおいて必要的に調査を行なう方針が取られるようになった。

実際の運用では2011年~2020年の間までに、仮釈放の審査で仮釈放が許された無期刑受刑者は、審査された無期受刑者全体の約26.5%である。特に、仮釈放に対する検察官の意見と懲罰回数により仮釈放になるかどうかで左右されている。前者は反対の場合、仮釈放になる確率が2割満たないのに対して、反対でない場合は3分の2近くが仮釈放される。また、後述の「マル特無期」(指定の対象は死刑求刑に対して無期判決が確定した場合や、特に悪質と判断した事件、再犯の可能性がある場合など)に指定された場合は、検察官意見は反対となる。そして、検察官の意見が「反対でない」と判断された仮釈放審査対象となった無期刑受刑者は全体で約20.3%(310人中63人)である。後者は懲罰回数が無しの場合は、約45.1%が仮釈放となるが、懲罰回数が増えるにつれ低下していき、10回を超えた場合は1割に満たなくなる[17]

判断過程[編集]

仮釈放は法務省管轄の地方更生保護委員会の審理によってなされ、そこで「許可相当」と判断された場合に初めて実際の受刑者の仮釈放が行なわれるものであって、全ての受刑者に仮釈放の可能性はあっても、将来的な仮釈放が保証されているというわけではない。このため、本人の諸状況から、仮釈放が認められず、30年を超える期間、刑事施設に在所し続けている受刑者や刑務所内で死を迎える受刑者も存在しており、2020年12月31日現在では刑事施設在所期間が30年以上となる者は297人(内、50年以上になる者が10人いる)、また2011年から2020年までの刑事施設内死亡者(いわゆる獄死者)は225人となっている[17]。1985年の時点では刑事施設在所期間が30年以上の者は7人であったため[31]、このことから、当時と比較して仮釈放可否の判断が慎重なものとなっている。

マル特無期[編集]

「特に犯情悪質等の無期懲役刑確定者に対する刑の執行指揮及びそれらの者の仮出獄に対する検察官の意見をより適正にする方策について(平成10年6月18日付の次長検事依命通達)」(通称「最高検マル特無期通達」)より、検察に死刑を求刑された無期刑受刑者が事実上の対象者となっている。また、死刑の求刑に対し無期懲役が確定した場合などで、指定事件の対象者は少なくとも380人に上る。この通達により、検察はマル特無期刑受刑者の仮釈放に対して、反対意見となり、仮釈放される可能性が低くなる。

但し、検察の意見は絶対ではなく、仮釈放の決定権は、地方更生保護委員会であること、法務大臣の一般的指揮権(検察庁法14条本文)に基づき、法務省限りでその運用を変えられる可能性がある為、マル特に指定されたからといって、仮釈放されないとは限らない[32]。2011年~2020年、検察官意見が仮釈放に反対であったもの(190件)のうち、仮釈放を許されたものは37件(19.5%)であった[17]。しかしながら、検察官意見が反対でないと判断される(68.7%)のと比べて、仮釈放のハードルが約3.5倍高くなっている事実がある。

風説[編集]

前述のように、現在の制度上、無期刑に処せられた者も、最短で10年を経過すれば仮釈放を許可することができる規定になっており、この規定と、過去において10数年で仮釈放を許可されたケースが前述にあるように実際に相当数存在していたこと(1967年~1989年の間で在所期間18年以内で仮釈放された無期刑仮釈放者は、全体の約89%を占めていた)、また、仮釈放の運用状況が1990年代から次第に変化したものの最近になるまであまり公にされてこなかったことから、無期刑に処された者でも、10年や10数年、または20年程度の服役ののちに仮釈放されることが通常であるといった風説が光市母子殺害事件の加害者が、7年程度で出られると勘違いする程[33]、1990年代から2000年代において広まりを見せていった[要出典]。更に、2015年6月13日の「教えて!ニュースライブ 正義のミカタ」にて弁護士にて大渕愛子が「無期懲役でも15年くらいで仮釈放になる」と、後述する法務省による情報公開があったにも関わらず放送当時の運用実態と異なる発言をして、批判されている[26][34][35][36]。しかし、このとき既に仮釈放の判断状況や許可者の在所期間などの運用は変化を示しており、法務省は、2008年12月以降、無期刑受刑者の仮釈放の運用状況等について情報を公開するようになった[17]

また、同時に運用・審理の透明性の観点から、検察官の意見照会を義務化[37]、刑執行開始後30年を経過した時点において必要的に仮釈放審理(刑事施設の長の申出によらない国の権限での仮釈放審理)の実施[38]、および前述の被害者意見聴取の義務化という4つの方針が採られることとなった[39][40]

しかしその一方で、近年、無期刑受刑者における仮釈放について困難性を強調しすぎる意見も見受けられる。たとえば、「千数百人の無期刑受刑者が存在するにもかかわらず、近年における仮釈放は年間数人であるから、仮釈放率は0%台であり、ほとんどの受刑者にとって仮釈放は絶望的である」「2005年の刑法改正で、有期刑の上限が20年から30年となったため、無期刑受刑者は仮釈放になるとしても30年以上の服役が必定である」といったものがそれである。

たしかに、2020年末時点において、1744人の無期刑受刑者が刑事施設に在所しており、同年における新たに仮釈放された者は8人であったため、これらの数字を使えば仮釈放率が0%台は真実ではあるが、これらの数字を使うことに問題があるとの指摘もある。法務省の「無期刑受刑者の仮釈放の運用状況等」[17]によれば、無期刑受刑者の内、約15.4%は仮釈放が可能となる10年を経過していない。また、仮釈放の対象になりにくい20年を経過していない者を加えると全体の約65%にあたる。そのため、これらの者を対象に加えるのは計算手法的に問題があるとの指摘である。また、ある受刑者がその年に仮釈放とならなくても、その受刑者が生存する限りにおいて連続的に、仮釈放となる可能性は存し続けるため、単純な計算手法によって算定できる性質のものではないことを留意しなければならない。

また、参考までに2011年~2020年の間までに、仮釈放の審査で仮釈放が許された無期刑受刑者は、審査された無期受刑者全体の約26.5%である。前述の「2.6.3 許可基準」より、仮釈放に対する検察官の意見と懲罰回数により仮釈放になるかどうか左右されている。

更に、刑法改正によって有期刑の上限が30年に引き上げられたといえども、前述のように現制度における懲役30年も絶対的な懲役30年ではなく、許可基準に適合すれば、30年の刑期満了以前に釈放することが可能であり、刑法の規定上はその3分の1にあたる10年を経過すれば仮釈放の「可能性がある」ことを留意しなければならない。仮に、重い刑の者は軽い刑の者より早く仮釈放になってはならないという論法を採れば、30年の有期刑は、29年の有期刑より重い刑であるから、29年未満で仮釈放になってはならないということになり、その場合、仮釈放制度そのものの適用が否定されてしまうからである。無期懲役と懲役30年の受刑者において、両者とも仮釈放が相当と認められる状況に至らなければ、前者は本人が死亡するまで、後者は30年刑事施設に収監されることになり、片方が矯正教育の結果仮釈放相当と判断され、もう片方はその状況に至らなければ、片方は相当と判断された時点において仮釈放され、もう片方は刑期が続く限り収監されることになるし、両者とも顕著な矯正教育の成果を早期に示せば、理論的にはともに10年で仮釈放が許可されることもありうるのであり、矯正教育の成果や経緯において場合によっては刑事施設の在所期間が逆転しうることは仮釈放制度の本旨に照らしてやむをえない面もある。もっとも、有期刑の受刑者については、過去では長期刑の者を中心として、刑期の6-8割あるいはそれ未満で仮釈放を許可された事例も相当数存在していたが、近年においては多くが刑期の8割以上の服役を経て仮釈放を許可されており、このことからも、当該状況の継続を前提とすれば、将来において、無期刑受刑者に対して過去のような仮釈放運用は行い難いという間接的影響は認められるが、それ以上の影響を有期刑の引き上げに根拠づけることは理論的に不十分といえる。

仮釈放のない無期刑の導入の議論[編集]

恩赦[編集]

戦後、無期懲役が確定した後、個別恩赦により減刑された者(仮釈放中の者を除く)は86人記録されているが、1960年に実施されたのを最後に記録されていない。また、政令恩赦による減刑も、1952年のサンフランシスコ平和条約の発効に伴って実施されたのを最後に記録されていない[41]

ヨーロッパの無期刑[編集]

ドイツ
ドイツでは1949年にボン基本法で死刑が廃止され、最高刑は無期刑(仮釈放付き終身刑)となった[5]。1977年6月に連邦最高裁は仮釈放規定を立法上の義務と判断し、1981年に刑法に仮釈放規定が加えられた[5]
フランス
フランスでは1981年に死刑が廃止され、最高刑は無期刑となった[5]。服役後15年が経過したとき(保安期間を除く)は受刑者からの仮釈放申請ができることとされている[5]

無期刑のない国[編集]

スペイン、ポルトガル、ノルウェーなど無期刑のない国がある[42]

スペイン
スペインでは1978年に死刑が廃止され、最高刑は有期刑の40年となった[5]。ただし、2015年に有期刑の40年を裁判所の判断により延長できる制度が設けられた[5]
ノルウェー
ノルウェーでは最高刑は禁錮刑21年の有期刑である(ただし収監を延長する制度がある)[42]

参考文献[編集]

  • 森下忠「刑事政策大綱 新版第2版」成文堂、1996年7月。ISBN 4-7923-1411-9。
  • 森下忠「刑事政策の論点Ⅱ」成文堂、1994年9月1日。ISBN 9784792313456。

関連項目[編集]

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