入場券 – Wikipedia

入場券(にゅうじょうけん)とは、切符の一種で、入場に何らかの制限が加わっている施設において、その施設に入場するために必要となる切符のことである。

本項では、鉄道駅に入場するための入場券と、鉄道駅以外の各種施設に入場するための入場券を別見出しにて説明する。

各種施設の入場券[編集]

有料施設等における入場券とは、利用入場料金証票、すなわち入場料金を支払ったことを証明する証票のことを言う。なお、無料の施設、催し物などにおいて入場に制限を加える場合においては、発行する整理券の類や招待状などを指す場合もあり、選挙の投票所入場券などがある。

一般には劇場・映画館・コンサート・スポーツ観戦などのものがあり、日本国内でも、英語のチケット(ticket)と呼ばれることも多い。美術館・博物館などに入るための証票は入館券、動物園・植物園・遊園地などに入るための証票は入園券、茶席などに入るための証票は入室券などの呼称がある。公衆浴場や温泉で入浴するための証票は入浴券と呼ばれる。

劇場・映画館・競技施設などの入場券は、ミシン目などによって二つの部分にちぎれるようになっているものが多い。こうして出来た券片を半券といい、座席の確認や、施設へ再入場する際に使われるほか、これが領収書代わりともなる。こうした券をもぎ取る行為やそれを行う係の者を「もぎり」という。確実に来場者の入場券から切り取られていることから、スタッフが1枚1枚券片を数えるのが一番正確かつ簡単に来場者数を把握できる方法としてこの入場券の存在は重宝されている[注釈 1][1]

近年では半券をもぎ取る従来式の入場券に代わって、極小ICチップを組み込んだICカードを用いたものも開発され、2005年の「愛・地球博」などから採用された。また、QRコードを使用するものも順次広まっている。これらは、スマートフォンに組み込むことによって、紙の入場券を発行しない場合もある。

入場券においては、複数回入場するための回数券が設定されている場合がある。

イベントの中止や施設の閉鎖が決定した場合は、入場券は払い戻しとなる。

日本の鉄道駅における入場券[編集]

硬券入場券

軟券入場券

鉄道においては、見送りなど、乗車船以外の目的で駅の改札内に入場する際に発行される。一般には、最低運賃と同額の場合が多い。しかし、最低運賃が異なる複数の会社・路線が同一改札内で利用できる駅(共同使用駅)には低い方の運賃に設定される場合や、各社の異なる料金で発行され、それぞれの収入として扱われながら効力が同一[注釈 2]という例がある。

なお、会社や駅によっては制限時間を設けているところもあり、その旨を説明する目的などから、券売機での発売をせず窓口でのみ入場券を発行する駅も地方の小規模駅を中心に存在する。名古屋鉄道や近畿日本鉄道の一部駅は、窓口でのみの発売である。入場券自体を発売していない事業者(ほとんどの地下鉄など)もあるが、便宜的に最低運賃の乗車券を入場券として利用させる場合もある[2]。過去に北海道地方では、最低運賃の乗車券と入場券が併記されている兼用の券も存在した。

中間改札口を有する駅で、それぞれの駅を管轄する事業者が異なる場合は、原則としてそれぞれの事業者が発行する入場券が必要である。ただし国鉄時代からの慣例として、新幹線と在来線を管轄するJR旅客会社が異なる駅(東京駅など)は、いずれかの事業者が発行する入場券で新幹線・在来線とも入場できる。在来線が第三セクター鉄道に移管された駅では新幹線・在来線それぞれの入場券が必要である[注釈 3]

日本で初めて入場券販売を行ったのは、1897年(明治30年)の山陽鉄道(後の山陽本線を敷設した私鉄)であったとされる。

素材により「硬券入場券」や「軟券入場券」と分けられる。改札の自動化が進んだ現在でも、一部の鉄道事業者では硬券入場券が窓口で販売されている。とりわけ硬券(厚紙を用いた券)によるものは記念品として発行されることが多く、鉄道ファンのみならず旅行客などにも珍重されている。変わった需要としては、年月日が数字並びの時(例:平成12年3月4日)に、特に硬券入場券が記念で多く買われる例がある。一方、新駅開業などで記念入場券も発行されており、切符の一分野でもあることから収集家も存在する。

JRにおいては、みどりの窓口でも入場券を発券している。「軟券」に部類されるが、超耐久感熱紙のため、硬券が廃止された現在でいつでも手に入る入場券としては券売機券よりも保存性に優れており、観光記念に購入する者もいる。ただし、感熱紙のため、いくら耐久性が高いとはいえ、用紙製造メーカーが品質保証しているのは、7年間であり、保存状態によってはさらに短くなる。

一部の駅では定期券に類似した「定期入場券」も発行されている。これは表口と裏口を自由に行き来する通路を持たない駅で、頻繁に通り抜けする人を対象に発行されるものである[注釈 4]

駅構内への入場には「乗車船の目的」と「乗車船以外の目的」の二つに分けられる。前者は乗車券類、後者は入場券が必要となる。JRの旅客営業規則第294条には「次の各号に掲げる者が、乗車船以外の目的で乗降場に入場しようとする場合は、入場券を購入し、これを所持しなければならない。(後略)」と規定されている[注釈 5]

したがって、定期乗車券を入場券代わりに使用することはできない。定期乗車券は乗車券の一種であり、乗車券は乗車券類に含まれるため、「乗車船の目的」に限り使用でき、「乗車船以外の目的」(送迎等の入場目的)には使用できないからである。同規則第147条第6項には「乗車券類は、乗車船以外の目的で乗降場に入出する場合には、使用することができない。」という規定があり、他の多くの鉄道事業者においても同様の規定がある。

SuicaなどのICカード式乗車券についてもあくまで乗車券類であることから、原則として入場券代わりに使用することはできない。ただし、JR東日本では2021年3月13日から交通系ICカードを入場券と同等に扱うサービス「タッチでエキナカ」を開始した[6]

入場券に係る料金(入場料金)は、駅構内の秩序や安全に対する対価とされており、異常時の入場制限などへの配慮のため、また、車船内への立入禁止は、出発時のドア付近の混雑や誤乗防止のためとされている。なお古いタイプの券売機では乗車券と入場券の購入ボタンの区別が付きにくく、入場券を乗車券と間違えて購入して目的地までそのまま乗車してしまうケースも見受けられた。 厳密に規定を適用すると入場した駅から改めて運賃相当額を支払う必要がある。

経理面では、乗車券・定期乗車券・入場券のいずれも、鉄道会社の経常収入(売上高)のうちの「鉄道事業営業収益」に当たるが、乗車券や定期乗車券は「旅客運輸収入」として、それぞれ「定期外運賃・料金」と「定期運賃・料金」に分類されるが、入場料金は「運輸雑収」のうちの「旅客雑収」として、乗車券払戻手数料金、携帯品一時預り料金、手回品料金等と同じく「旅客に係る諸料金」に分類される[7]

また、近くに踏切や通路がない、「開かずの踏切」となっているといった事情から、通行者の便宜を図るため「構内通行券」などと称した券を発行して駅改札内を通行させている場合もある。これは実質的な無料の入場券と言える。例えば北陸新幹線開業直後、高架化完成前の富山駅で在来線(あいの風とやま鉄道管理)を対象に実施された例がある[8]。現在でも神戸電鉄の志染駅で発行されており、駅改札内の踏切を無料で通行できる。

記念入場券[編集]

駅の開業などを記念して記念入場券が発売されることがある[9]

「縁起もの」としての入場券[編集]

鉄道の駅の中には、特に駅名の字面で縁起の良さを感じさせるものがあり、これらの駅では縁起物として入場券を発行しているところがある。この効果を狙って、命名を行った駅もある。無人駅も多く、この場合は近隣の有人駅で発売されている。

駅名に因むもの[編集]

人物に因むもの[編集]

なお、乗車券における例については縁起物乗車券の欄を参照。

「駅ナカ」施設との関係[編集]

近年、大都市圏の主要駅では「駅ナカ」と呼ばれる改札内の飲食・商業施設が開業するケースが増えている[注釈 6]。ほとんどの事業者では、改札内に立ち入るだけで入場券は必要となるが、小田急電鉄では商業施設やコインロッカーの利用が証明できれば入場料を払い戻している[10][11]。近鉄の大和西大寺駅では、券売機での購入時に入場券と割引券が発券され、店舗で割引券を提示すると入場券代金分の割引と、場合によっては差額分の返金が受けられる[12]。またJR西日本新大阪駅では、入場後に入場券を構内の書店に呈示して割引券を受取り、500円以上の買い物をすると入場券分の代金が値引きされる[13]

なお、入場券には不正乗車防止のため多くの場合時間制限(JRの場合は発売から2時間)があり、超過した場合は再度入場料金が加算される。

世界各国の鉄道駅における入場券 [編集]

世界各国の鉄道駅で、入場券による駅構内への入場規制を行っている国は、イギリスやインド、パキスタンなどがある。

イギリスの鉄道駅における入場券[編集]

ナショナル・レール駅の入場券[編集]

イギリス国鉄の駅では、20世紀中盤まで入場券(Platform ticket)が広く用いられ、民営化後に国鉄の路線網を引き継いだナショナル・レールでもほとんどの駅窓口で発券可能である。近年は大都市近郊や主要駅を中心に改札口が設けられており、その結果入場券に対する新たな需要が生まれている。なお、入場券は通常自動券売機では購入できず、出札窓口での購入となる。価格は1枚10ペンスで1時間有効の駅が多い。改札業務を行わない駅では入場券を購入する必要はない。

一部の列車運行会社は管轄下にある駅で入場券の発売を中止している。そのような駅で本来入場券を必要とする利用者は、改札係員に申し出、許可を得てから入場(無料)することになる。収集目的など実際に使用しない場合、出札係員の裁量により、無効であることを了解のうえで発売することもある。その一方で、発売を正式には中止していない会社の駅でも、係員が入場券の存在を知らないなどの理由で発売を拒否する場合があるなど、入場券の発売可否に関する方針は徹底されていない。

  • 管轄下にある駅で入場券を発売する列車運行会社

イースト・コーストイースト・ミッドランズ・トレインズノーザン・レール、ファースト・スコットレール、サウスイースタン、サザン、ヴァージン・トレインズ

  • 入場券の発売を中止した列車運行会社

アリーヴァ・トレインズ・ウェールズ、ファースト・グレート・ウエスタン、グレーター・アングリア、サウスウェスト・トレインズ

  • 上記にかかわらず発売しない駅

ロンドン・ヴィクトリア駅、チャリングクロス駅、キャノンストリート駅、ユーストン駅、エディンバラ・ウェイバリー駅

ロンドン地下鉄駅の入場券[編集]

ロンドン地下鉄の各駅では、全ての駅窓口で入場券を1枚1ポンド(サザーク駅は20ペンス[14])で発売している。しかし駅構内へ入場する正当な理由がない場合、発売を拒否される場合がある。

パキスタンの鉄道駅における入場券[編集]

イギリスの植民地であったパキスタンにおいても入場券(Platform ticket)による駅構内への入場規制が行われている。

韓国の鉄道駅における入場券[編集]

韓国鉄道公社(KORAIL)の駅(広域電鉄除く)では、かつて入場券を有料にて発売していた(発売当時500ウォン)。しかし信用乗車方式の導入などがあり発売が中止された後、現在は駅券売機にて無料で発券可能となっている。また、一部の駅において、記念入場券目的の入場券を発売している(1枚1,000ウォン)。

台湾の鉄道駅における入場券[編集]

台湾鉄路管理局では、かつて入場券を有料にて発売していた(発売当時6元)。2013年6月1日に廃止され、身分証との交換で通行証を貸与する形式に変更された。

道の駅記念きっぷ[編集]

多くの道の駅では来訪記念のお土産として鉄道の記念入場券にヒントを得た「記念きっぷ」を発売している。当初は「記念入場券」としていたが、改札やプラットホームのない道の駅には入場という概念が存在しない事から、誤解を与えないよう現在の名称に改められた。

料金は1枚180円(税込)。特定の駅で販売されるか、市町村合併記念や購入特典の無料配布などをして対応している。

入場券が不要な施設[編集]

入場料が不要な施設では原則としては、入場券が不要である。鉄道の駅において改札口がない場合(例:フランス国鉄やタイ国鉄など)では入場券がなく、乗車を目的としない場合の駅構内への立ち入りは自由であるほか、日本の鉄道駅においても無人駅の場合、係員がおらず、基本は自動券売機でも入場券は売っていない[注釈 7]。扉付きの改札機のように入場を物理的に制御する機械もない場合がほとんどのため、駅構内やホーム上まで入場券を持たずに入ることが事実上黙認されている。ただし駅集中管理システム導入駅のように自動改札機が設置されている場合は、入場券を発売していることがある[15]

また、遊園地においては、入場無料で入場券が不要であり、個々の遊戯施設に対する利用料金のみが発生する場合があり[16]、富士急ハイランドのように入場無料に切り替えた施設もある。

注釈[編集]

  1. ^ かつては主催者がこの半券を税務調査のために取っておく必要があり、主にクラシックコンサートの主催者がこれを行なっていた。半券そのものに入場券の値段が書いてあることから、それを枚数と掛け合わせることによって当日のコンサートの収益がわかる仕組みだったため、合理性を求める上では必要不可欠なものであった。
  2. ^ 改札分離前の和歌山市駅の場合、窓口では業務を受託していた南海電気鉄道の様式ながらJR西日本の料金で発売された一方、自動券売機では南海電気鉄道により同社の料金で発売され、それぞれの収入として扱われていた。
  3. ^ 2021年現在、新幹線がJR旅客鉄道会社の管轄、在来線が第三セクター鉄道会社の管轄である駅において、新幹線・在来線それぞれの改札内を直接接続する連絡改札口が設置されている駅は存在しない。例えば、八戸駅にはかつて連絡改札口が設置されていたが[3]、在来線の青い森鉄道移管に伴い閉鎖されている[4]。例外的に在来線がJR西日本管轄である金沢駅はIRいしかわ鉄道も入場券を発売しているが、この入場券で新幹線改札内には入ることはできない[5]
  4. ^ 改札内店舗の従業員が購入し利用することも見られたが、近年では自社の従業員証での入場を認めることが多い。
  5. ^ JR四国では、例年10月の鉄道の日前後に開催される多度津工場の一般公開イベントで、来場者のアクセスとして多度津駅から工場内に直通するシャトル列車を運行しているが、多度津駅からの乗車の場合は多度津駅の入場券での乗車を便宜的に認めている(多度津工場は多度津駅の構内とみなす。多度津以外の駅からの利用の場合は多度津駅発着の乗車券で乗車可能)。
  6. ^ かつて、JR東海の名古屋駅では改札内の飲食店のみの利用客が非常に多く、入場券専用の自動券売機が設置されていたことがあった。
  7. ^ 「#記念入場券」「#「縁起もの」としての入場券」で述べたようにコレクション用の入場券としては発売することがある。

出典[編集]

外部リンク[編集]