奈落の底のもの – Wikipedia

奈落の底のもの』(ならくのそこのもの、原題:英: The Thing in the Pit)は、アメリカ合衆国のホラー小説家リン・カーターが1980年に発表した短編ホラー小説であり、1980年に刊行された作品集『Lost Worlds』に収録された。クトゥルフ神話の1つである本作は、全5作から成る連作『超時間の恐怖』の1つで、シリーズ5作のうち唯一ムー大陸の時代を舞台としている。

本作は『墳墓に棲みつくもの』にて言及された神官ザントゥーの視点から、旧神によるムー大陸の崩壊が描かれており、ラヴクラフト作品における「人間と人間に友好的な神々の両方に敵意を持つ宇宙の魔物の仕業で、大陸が海に沈んだ」という言及へのアンサーでもある。同時に、本作はコープランド教授が見つけた古代の銘板「ザントゥー石板」第9石板を翻訳したものという体裁をとっており、『墳墓に棲みつくもの』においてコープランド教授は本内容を発表したことで狂人とみなされたことが触れられている。作中には、翻訳したコープランドによる訳注が添えられている。

もともとは『墳墓よりの石板』『奈落の底のもの』という2つの物語が構想されていたが、前者がほぼ本作品となり、後者は現代物を想定していたが割愛されて要素およびタイトルが本作品へと吸収された[1]

あらすじ[編集]

ガタノソア教団の神官イマシュ=モがムー大陸での権勢を確立してから数千年が経過した。イソグサ教団の大神官となったザントゥーは自分たちの教団の再起を図る。だが、ガタノソア教団はムー全土でガタノソア以外の信仰を禁ずることを宣言し、これを重く見たザントゥーは旧神に封印されているイソグサを解放することを決意する。

イエーの深淵にて、ザントゥーは、異種族ユッギャの長ウブを召喚し、ウブの仲間たちと協力して、旧神がイソグサに施した呪縛を解除する。ところが、ザントゥーは奈落の底から復活したイソグサの姿と大きさに驚き、取り返しのつかないことをしたことに恐れおののく。さらに邪神の復活を察知した旧神たちが天空のグリュ=ヴォから来訪して攻撃を加え、ムーは崩壊し海に沈む。天変地異で人々が大混乱する中、ザントゥーは空中戦車で別の大陸へと逃れるが、邪神イソグサの恐怖を忘れることができなかった。

主な登場人物・神性[編集]

  • 神官ザントゥー – 主人公・語り手。イソグサの大神官・魔術師。ムー最北のグスウ国のヌッコグ=イン王のもと、弱体化した教団を率いる。
  • 神官ヤア=ソッボス – ガタノソアの大神官。クナア国のショモグ王を説き伏せて、九王国全域でガタノソア以外の信仰を禁ずる。
  • 預言者ニッゴウム=ゾグ – 人類以前の種族の、謎の預言者。文献「31の秘められしイエーの儀式」を記した。
  • 神官イマシュ=モ – 数千年前の、ガタノソアの大神官。クナア国のサボウ王を説き伏せて、ガタノソアの権威がクトゥルフを上回ると宣言させる。
  • ガタノソア – ゾス三神の一。。ヤディス=ゴー山の地下要塞に幽閉されている。
  • イソグサ – ゾス三神の二。。イエーの深淵に封印されている。
  • ウブ – ユッギャ種族の長。イソグサとゾス=オムモグに仕え、封印を解こうとしている。
  • 旧神 – グリュ=ヴォ(ベテルギウス)に住まう。イソグサの復活を察知して攻撃を加え、ムーを崩壊させる。名無しの旧神たちだが、描写はダーレスの『潜伏するもの』に近い。
  • 『クトゥルーの子供たち』KADOKAWAエンターブレイン、立花圭一ほか訳

関連作品[編集]

ゾス神話群[編集]

  • 赤の供物 – ザントゥーの若いころの出来事。
  • 夢でたまたま – イソグサの邪神像が登場する。

他作家作品[編集]

  • 永劫より – ラヴクラフトの神話作品。イマシュ=モの時代の出来事。
  • 墳丘の怪 – ラヴクラフトの神話作品。沈んだ大陸から北米地下に移住した民が登場する。
  • 潜伏するもの – ダーレスの神話作品。旧神が登場する。

注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^ KADOKAWAエンターブレイン『クトゥルーの子供たち』解題【奈落の底のもの】410、411ページ。