天文学における減光[1](げんこう、extinction)とは、天体から放射された電磁波が、その進行する空間に存在する物質によって吸収や散乱を受けることで、観測者に到達する電磁波のエネルギー総量が減る現象、及びその減衰量を表す指標のことである[1][2]。 星間減光(赤化)の概略図 減光の最も重要な要因は、星間物質によるものである。観測する天体によっては、銀河間物質や、天体を取り巻く星周物質、周銀河物質によっても生じる[3]。また、観測者が地上にいる場合には、星間物質に加えて、地球の大気による天体からの電磁波の吸収・散乱の影響も重要となる。電磁波の波長によっては、大気中の分子による減光は非常に強く、ガンマ線、X線、紫外線、一部の波長の赤外線と電波は、地上からは観測できないが、宇宙望遠鏡などの特別な手段による観測では、全ての波長で高感度の観測ができる[3]。 可視光から近赤外線の波長域では、波長が長い(つまり赤い)光ほど減光を受けにくいため、減光が大きいほど天体の色は赤く見える。このことから、減光は赤化とも呼ばれる。 1784年の観測によって、ウィリアム・ハーシェルは、夜空に恒星が全く見えない領域が存在することに言及しており、これが宇宙空間において天体の光が減光を受けた結果が、初めて記録された例とみられる[6][3]。 しかし、ハーシェルの発見後も、なぜ星がみえないかの理解は進まなかった。それから何十年も経過し、今度はヴィルヘルム・シュトルーヴェが、太陽から遠ざかれば遠ざかる程、単位体積当たりにみえる恒星の数が少なくなることに気が付いた。シュトルーヴェはこの現象を、星間空間で何らかの効果により天体の光が暗くなると仮定し、その効果を1kpc(およそ3,260光年)遠ざかるごとに1等級暗くなると見積もった。この推定は、現代の減光則が大まかに1kpc当たり0.7から1等級としているものに近い[7][3]。 20世紀になると、減光は希薄な星間物質が天体の光を吸収・散乱することによって起こると考えられるようになり、その決定的な証拠は、1930年にトランプラーによって得られたとされる。トランプラーは、減光が銀河面付近で主に起きていることや、遠い天体程本来の色より赤くみえることから、減光が選択的に起こり、短い波長の光の方が大きな減光を受ける波長依存性も明らかにした[8][9][3][10]。 星間減光(星間赤化)[編集] 暗黒星雲バーナード68(英語版)の画像にみられる星間赤化の効果。左の画像では、可視光(B、Vバンド)を青と緑、赤外線(Iバンド)を赤に、右の画像では可視光(Bバンド)を青、赤外線(I、Kバンド)を緑と赤に割り当てた疑似色で可視化したもので、波長が長い方が赤い色になるように処理されている。暗黒星雲の背後にある恒星は、長い波長の赤外線(Kバンド)でだけ見通せるので、赤くみえる。出典: ESO[11] 星間減光は、星間空間に存在している微粒子による吸収や散乱によって、宇宙空間を伝播する電磁波がさえぎられて弱められる効果のことである[2]。星間減光においても、波長が長い光ほど減光の効果が弱まるため、減光が大きいほど天体の色は赤く見える。そのため、星間減光は星間赤化ともいう[13]。星間赤化は、波長が短い電磁波が弱められ、波長が長い電磁波はあまり弱められないため、長い波長の電磁波が相対的に強くなり、スペクトルの曲線が本来のものから変化する。一方で、輝線や吸収線といったスペクトル成分の波長そのものは変化しない。この点で、スペクトルの曲線が形を変えずに、全体として波長がずれることで色が変化するドップラー偏移とは異なり、星間赤化が赤方偏移とは全く別の現象であることがわかる[14]。 赤化の度合を示す指標は、色超過と呼ばれる[15]。色超過の量は、スペクトルなどから推定される減光を受ける前の天体の色に対する、実際に観測された減光を受けた後の天体の色の違いとして定義される。測光システムにおいては、天体の色を色指数で表し、例えば1950年代に開発され、以後最も広く用いられているジョンソンのUBVシステムでは、Bバンドの等級 B{displaystyle B} とVバンドの等級 V{displaystyle V} を用いて、色超過を E(B−V){displaystyle E(B-V)}
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