スノスクス – Wikipedia

スノスクス[1](学名:Sunosuchus)は、絶滅したゴニオフォリス科のワニ形上目の属。化石は中国・キルギスタン・タイ王国から発見されており、後期ジュラ紀の層準から産出している。前期白亜紀からも本属の可能性のある化石が報告されている。タイプ種の S. miaoi の他に S. junggarensisS. shartegensisS. shunanensis が分類されている。いずれも中国産の種である。Andrade et al. (2011) ではタイ産の Goniopholis phuwiangensis が本属に再分類された[2]。キルギスタン産の化石は種レベルで同定がされていない。

スノスクスは吻部が細長く頭蓋天井が小さい点が特徴である。標徴形質としては、前頭骨の後方に広い窪み(pit)が存在する点、矢状線の一部に沿って顕著な稜が前頭骨上に存在する点、下顎に長い癒合線が存在していて大部分が歯骨と一部が粘骨で形成されている点、鱗状骨の幅が狭い点が挙げられる[3]

S. junggarensis はスノスクス属で最も知られている種である。本種は1996年に中国の新疆ウイグル自治区に分布する上部ジュラ系のジュンガル盆地から記載された。スノスクス属に割り当てられる他の骨格要素は1980年代にキルギスタンでも収集され、2000年に記載された[3]。数多くの歯の他に、胴椎・椎体・骨盤骨・腓骨と脛骨の一部・中足骨・腹側と頸部の皮骨板が発見されている。頭骨では鱗状骨のみ発見されている。鱗状骨はスノスクス属の他の種に類似する一方で他の属のものとは類似しておらず、この標本がスノスクス属の種に属することが示唆されている。標本は S. junggarensis の骨に酷似しているが、他の種にわりあてられたことはない[3]

第五の種である S. shunanensis は2005年に中国の四川省自貢市に分布する中部ジュラ系から2005年に記載された。頭骨は1983年に沙溪廟層中国語版の Dashanpu Dinosaur Quarry から発見された。S. shunanensis は他の種により吻部が長く、後眼窩領域の長さの約3倍に達している。また頭蓋天井も他の種により幅広である。頭骨は両眼よりも後方で最も広く、これは本種にのみ見られる特徴である。左右それぞれの上顎骨のすぐ後方には顕著な窪みが存在する。頭骨の表面には特異的な稜が存在し、眼窩の前方の涙骨上に1対、頭蓋底部の外後頭骨の下面と基後頭骨の側面に沿って2対存在する[4]

かつて割り当てられていた種[編集]

Sunosuchus thailandicus は1980年にタイ王国北東部から記載された[5]。本種は頑強な下顎のみが発見されており、その先端はスプーン型をしていてすぐ奥側よりも幅広になっていた。Nong Bua Lamphu の近くの Phu Kradung 累層で発見されたこの標本は、当該の層から産出した脊椎動物化石の中では最も保存の良いものであった[6]。Phu Kradung 累層の層序年代は明らかになっておらず、かつては前期ジュラ紀と考えられていたため、S. thailandicus はスノスクス属の最古の種とされた。後の研究でこの層の年代が後期ジュラ紀から前期白亜紀にあたることが判明し、S. thailandicus はスノスクス属で最も新しい種である可能性が浮上した[7]。しかし、新たに発見された S. thailandicus の標本から、本種がスノスクス属の他の種と大きく形態が異なることが示され、独自の属であるチャラワン英語版属に再分類された[8]。なお、下顎の標本はレプリカが2015年に福井県立恐竜博物館の企画展『南アジアの恐竜時代』で日本初公開され、スノスクスの標本として扱われた[9]

スノスクスは吻部が長いことから、当初は一般に吻部の短いゴニオフォリス科ではなく、フォリドサウルス科に分類されていた。本属はフォリドサウルス科と類似していながら、ゴニオフォリス科と形質を共有しており、ゴニオフォリス科に属する。上側頭窓や口蓋骨前方の開口部が小さいことが特徴である[6]

以下は、Marco Brandalise de Andrade et al., 2011 に基づくクラドグラム [2]

キルギスタン産の標本はスノスクスの地理分布のうち最西端の化石記録である。この標本が発見された層準はモンゴルや中国の中部 – 上部ジュラ系に類似している。スノスクスや分椎目の両生類やシンジャンゴケリス科英語版のカメに代表される動物相が共通しており、淡水環境が宏挙がっていたことが示唆されている。キルギスタンの層準からは海棲のヒボドゥス科英語版のサメやハイギョも発見されており、完全な淡水よりはエスチュアリーであったことも示唆されている[3]

  1. ^ 小林快次『ワニと恐竜の共存 巨大ワニと恐竜の世界』北海道大学出版会、2013年7月25日、28頁。ISBN 978-4-8329-1398-1。
  2. ^ a b De Andrade, M. B.; Edmonds, R.; Benton, M. J.; Schouten, R. (2011). “A new Berriasian species of Goniopholis (Mesoeucrocodylia, Neosuchia) from England, and a review of the genus”. Zoological Journal of the Linnean Society 163: S66–S108. doi:10.1111/j.1096-3642.2011.00709.x. 
  3. ^ a b c d Averianov, A.O. (2000). “Sunosuchus sp. (Crocodylomorpha, Goniopholididae) from the Middle Jurassic of Kirghisia”. Journal of Vertebrate Paleontology 20 (4): 776–779. doi:10.1671/0272-4634(2000)020[0776:SSCGFT]2.0.CO;2. 
  4. ^ Fu, Qian-Ming; Ming, S.-Y.; Peng, G.-Z. (2005). “A new species of Sunosuchus from Zigong, Sichuan, China”. Vertebrata PalAsiatica 43 (1): 76–83. http://www.ivpp.cas.cn/cbw/gjzdwxb/xbwzxz/200810/W020090813368654165554.pdf. 
  5. ^ Buffetaut, E.; Ingavat, R. (1980). “A new crocodilianfrom the Jurassic of Thailand, Sunosuchus thailandicus n. sp. (Mesosuchia, Goniopholididae), and the palaeogeographical history of South-East Asia in the Mesozoic”. Geobios 13 (6): 879–889. doi:10.1016/S0016-6995(80)80042-8. 
  6. ^ a b Buffetaut, E.; Ingavat, R. (1984). “The lower jaw of Sunosuchus thailandicus, a mesosuchian crocodilian from the Jurassic of Thailand”. Palaeontology 27 (1): 199–206. オリジナルの2012-03-09時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20120309062325/http://palaeontology.palass-pubs.org/pdf/Vol%2027/Pages%20199-206.pdf. 
  7. ^ Lauprasert, K.; Cuny, G.; Buffetaut, E.; Suteethorn, V.; Thirakhupt, K. (2007). “Siamosuchus phuphokensis, a new goniopholidid from the Early Cretaceous (ante-Aptian) of northeastern Thailand”. Bulletin de la Société Géologique de France 178 (3): 201–216. doi:10.2113/gssgfbull.178.3.201. 
  8. ^ Martin, J. E.; Lauprasert, K.; Buffetaut, E.; Liard, R.; Suteethorn, V. (2013). “A large pholidosaurid in the Phu Kradung Formation of north-eastern Thailand”. In Angielczyk, Kenneth. Palaeontology: n/a. doi:10.1111/pala.12086. edit
  9. ^ FPDM : 展示のご案内 – 2015年度特別展「南アジアの恐竜時代」”. 福井県立恐竜博物館 (2015年). 2021年7月27日閲覧。