サンプルリターン – Wikipedia

サンプルリターンは地球以外の天体や惑星間空間から試料(サンプル)を採取し、持ち帰る(リターン)ことである。試料は土砂や岩の状態で収集されることもあれば、宇宙塵のように粒子状のものもある。

サンプルリターンの歴史[編集]

20世紀[編集]

初めてのサンプルリターンは、アメリカ航空宇宙局 (NASA) のアポロ計画による「月の石」の採取である。1969年のアポロ11号では約22kg、アポロ12号では約34kg、1971年のアポロ14号では約42kg、アポロ15号では約77kg、1972年のアポロ16号では約96kg、アポロ17号では約111kgの試料を持ち帰った。アポロ宇宙船は有人だった。

一方、ソビエトはルナ計画で無人機による月からのサンプルリターンを行った。1970年のルナ16号では101g、1974年のルナ20号では55g、1976年のルナ24号では170.1gの土を持ち帰った。1996 – 1997年には、宇宙ステーションミールでエアロゲルを使用して地球周回軌道のスペースデブリの収集が18ヶ月間かけて実施された。

21世紀現在[編集]

1976年のルナ24号によるサンプルリターンから25年後に打ち上げられたNASAのジェネシスは、2001年12月から2004年4月にかけて太陽風の試料を収集した。ジェネシスの収集器には超高純度のシリコンや金やサファイヤやダイヤモンドが使われており、それらの異なるウエハーは異なる太陽風の粒子を採取するために用いられた。しかし、回収カプセルは2004年9月に地球の大気圏に再突入したがパラシュートが開傘せず、ユタ州の砂漠地帯の地上に激突した。壊れたカプセルから微量の試料を取り出すことができた。それは月より外側から得られた初めての試料だった。

1999年に打ち上げられたNASAのスターダストは、2004年1月にヴィルト第2彗星のコマから噴出した粒子を収集し、2006年に地球へ持ち帰った。

小惑星探査機「はやぶさ」 再突入カプセル

2003年に打ち上げられた宇宙航空研究開発機構 (JAXA) のはやぶさは2005年に小惑星イトカワの探査を行い、試料の採取を試みた後、2010年6月に地球へ帰還した。サンプル採取装置は設計通りに作動しなかったものの、探査機がイトカワに着陸した時に舞い上がった微粒子が試料容器に到達した可能性があるとして、容器の内壁に付着していた微粒子の一部を回収し分析した結果、大部分がイトカワ由来と判断された。

ロシアでは火星の衛星フォボスからサンプルリターンを行うフォボス・グルント計画が進められ、2011年11月9日に打ち上げられたが、地球周回軌道からの離脱に失敗し、2012年1月15日に太平洋に落下した。

JAXAでははやぶさ2を2014年12月に打ち上げ、イトカワとは異なる組成の小惑星リュウグウからのサンプルリターンを行い、2020年12月に帰還した。

中国は2020年11月23日 (UTC)、現地時間11月24日 に嫦娥5号[1]を打ち上げ、月からのサンプルリターンに踏み出した。同年12月17日(北京時間)に帰還機の回収に成功した。

進行中[編集]

NASAでは、地球近傍小惑星ベンヌからのサンプルリターンを目的とするオシリス・レックス計画を進めており、2016年9月に打ち上げられ、ベンヌを探査中である。地球帰還は2023年を予定している。

ヨーロッパ宇宙機関 (ESA) はNASAと共同で火星からのサンプルリターン「マーズ・サンプル・リターン・ミッション」を計画している。ローバーによるサンプル採取・火星周回軌道への打ち上げ・そして地球までの輸送という3段階を、それぞれ別の探査機を用いて行うという、NASAとの共同計画の一部となっている。最初の探査機はNASAのマーズ2020(探査車パーサヴィアランスを搭載)で、2020年に打ち上げられた。ドッキングや惑星間輸送にはATVやベピ・コロンボの技術が応用される予定[2]。2021年9月6日、探査車パーサヴィアランスがサンプル採取に成功していたことが発表された[3]

将来[編集]

月面からサンプルリターンは中国が嫦娥5号の後も嫦娥6号によって実施する予定である[4]。さらに、地球近傍小惑星 2016 HO3からのサンプルリターン機も2022年の打ち上げを目指しており、サンプルリターン後はエルスト・ピサロ彗星の探査も行う予定[5]

JAXAはかぐや後継機による月からのサンプルリターンを計画している。また火星の衛星からのサンプルリターンは、はやぶさの技術を応用すれば可能と考えており、火星衛星探査機「MMX (Martian Moons eXploration)」[6] が開発段階にある。このほか火星探査機MELOSではミッションの一環として固体表面への着陸を伴わない火星大気のサンプルリターンも構想されている。

NASAは将来的に「ARM (Asteroid Redirect Mission英語版)」と呼ばれる、小惑星の破片を月の近くまで運搬して有人作業により回収するという手の込んだ計画もあるが、こちらは中止される見込み[7]

なおアメリカや中国は有人月探査計画を構想しているため、もし実現すればふたたび有人サンプルリターンの機会も得られることになる。

無人サンプルリターンの一覧[編集]

有人サンプルリターンの一覧についてはアポロ計画および月の石を参照。また宇宙ステーションでの有人作業により、地球近辺の宇宙空間からサンプルを採取するミッションが行われたことが何度かある。

参考資料[編集]