Folding@home(フォールディング・アット・ホーム[4]、FAH、F@hとも呼ばれる)は、タンパク質の動的なふるまいをシミュレートすることで、科学者が様々な疾患に対する新しい治療法を開発できるよう支援することを目的とした分散コンピューティングプロジェクトである。 これにはタンパク質のフォールディングやタンパク質の動きのプロセスが含まれており、ボランティアのパソコン上で実行される分子動力学シミュレーションに依存している。Folding@homeは、2000年10月1日にビジェイ・パンデ教授の指揮のもと、スタンフォード大学で発足した。2019年以降は、ワシントン大学セントルイス校医学部に拠点を置き、パンデ教授の元教え子であるグレッグ・ボーマン博士が指揮している。 このプロジェクトは、分散コンピューティングや科学研究を行うために、グラフィックス処理装置(GPU)、中央処理装置(CPU)、Raspberry PiのようなARMプロセッサを利用する。このプロジェクトでは、従来のコンピューティング手法からパラダイムシフトした統計的シミュレーション手法を採用している。クライアント・サーバモデルのネットワーク・アーキテクチャの一環として、ボランティアのマシンはそれぞれシミュレーションの一部(ワークユニット、WU)を受け取り、計算により完成させ、プロジェクトのデータベースサーバに返し、そこでユニットが全体のシミュレーションにまとめられる。ボランティアは自分の貢献度をウェブサイト「Folding@home」上で確認することができるため、参加に競争心を刺激し、長期的な貢献を促している。 Folding@homeは、世界最速の計算機システムの一つである。COVID-19パンデミックの影響でプロジェクトへの関心が高まる中、2020年3月下旬には本プロジェクトの演算能力は約1.22 E(エクサ)FLOPS(フロップス)[5][6]、2020年4月中旬には約2.43 EFLOPSを達成し[7][8][9]、世界初のエクサフロップ・コンピューティング・システムとなり、TOP500の全スーパーコンピュータの合算を上回る能力を獲得した。 研究者は、計算コストのかかるタンパク質の折りたたみに関する原子レベルのシミュレーションを、従来の数千倍の長い時間に渡って実行することが可能となった。Pande Labは、2000年10月1日の発足以来、225の科学研究論文を発表してきた[10]。このプロジェクトのシミュレーション結果は、実験の結果とよく一致している。 タンパク質は、多くの生物学的機能に不可欠な構成要素であり、生物細胞内の事実上すべてのプロセスに関与している。 タンパク質は多くの場合、酵素として機能し、細胞のシグナル伝達、分子輸送、細胞周期の制御などの生化学反応を行っている。 構造要素として、いくつかのタンパク質は、細胞の骨格の一種である抗体として機能し、他のタンパク質は免疫システムに関与している。 タンパク質がこれらの役割を果たす前に、タンパク質は機能的な三次元構造に折りたたまれなければならない。 このプロセスは、しばしば自然発生的に行われ、アミノ酸配列内の相互作用やアミノ酸とその周囲のアミノ酸との相互作用に依存する。 タンパク質の折り畳み(フォールディング)は、タンパク質の最もエネルギー的に有利な構造、すなわち天然状態(立体配座)を見つけるための探索によって推進される。 このように、タンパク質のフォールディングを理解することは、タンパク質が何をしているのか、どのように機能しているのかを理解する上で非常に重要であり、計算生物学の聖杯と考えられてる。 フォールディングは、混雑した細胞環境の中で行われているにもかかわらず、通常はスムーズに行われている。 しかし、タンパク質の化学的性質やその他の要因により、タンパク質が誤って折り畳まれ(ミスフォールディングと呼ばれる)、誤った経路で折りたたまれてしまい、形が崩れてしまうことがある。 誤って折り畳まれたタンパク質を細胞のメカニズムで破壊したり、再フォールディングしたりしない限り、タンパク質はその後凝集し、様々な消耗性疾患を引き起こす可能性がある。 これらのプロセスを研究する実験室での実験は、範囲や原子レベルでの詳細が限られているため、科学者たちは、物理学に基づいた計算モデルを使用して実験を補完し、タンパク質のフォールディング、ミスフォールディング、凝集のより完全な全体像を提供しようとしている。
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