ハマボウ – Wikipedia

ハマボウ浜朴あるいは黄槿)、学名 Hibiscus hamabo は、アオイ科の落葉低木。西日本から韓国済州島、奄美大島まで分布し、内湾海岸に自生する塩生植物である。夏に黄色の花を咲かせる。方言呼称にはヒシテバナ(鹿児島市喜入)等がある[1][2][3]

形態と生育環境[編集]

樹高は1-5mほどの低木だが、枝はよく分かれ、株の内側はうっそうと茂る。周囲に障害がない所ではしばしば横に広がり、直径5mほどになる。葉は枝に互生する。直径3-8cmほどの円に近いハート形で、やや厚く、縁に細かい鋸歯がある。葉の裏や細い枝には灰白色の細毛が密生する。幹は灰色で多数の皮目がある。根は深くないが、倒れてもすぐ発根する[2][3]

花期は7-8月で、直径7cm程度の、中心が赤褐色の黄色い花を咲かせる。花の形態は同属のハイビスカス、ムクゲ、フヨウ等に似る。5枚の花弁は付け根から回旋して伸び、中心の赤褐色部は船のスクリューのように見える。花は1日でしぼむが、大きな株は夏季に毎日次々と開花する[1][3]。秋には先端が尖った鶏卵形の実をつけ、中には長さ4-5mmの豆のような黒褐色の種子が十数個ほどできる。
種子は海水に浸っても死なずに浮遊し、海を通して分布を広げることができる[2][3]。秋-初冬には紅葉し、葉が赤や黄色に変色して落ちるが、実は翌春まで残ることも多い。

和名は「浜辺に生えるホオノキ」の意にとられ、漢字も「浜朴」と書くが、牧野富太郎は「ホウ」の意味を不明とし、「フヨウ」の転訛ではないかとしている。牧野はまた、もう一つの漢字名「黄槿」(黄色のムクゲ)も誤用であろうとしている[1]

分布域は、太平洋側では千葉県以西、日本海側では韓国済州島-長崎県対馬-島根県隠岐諸島以南、南限は奄美大島である。日本海側の北限は嘗て長崎県対馬市佐護、次いで山口県萩市笠山とされてきたが、隠岐諸島の生息地発見で大きく更新された。群落が多いのは九州西部(長崎県-熊本県)および紀伊半島(和歌山県-三重県)のリアス式海岸の入り江だが、他にも大群落が見られる河口や入り江は多い[2][3][4]

河口や内湾など、汽水域の潮間帯上部-潮上帯に根を下ろす。塩分に強く、満潮時には根元が海水に浸る位置に生えるが、海水が届かない位置にも生える。ヨシ、シオクグ、ハマサジ、メヒルギ等、他の塩生植物とも混生する。人為的なものを除けば海岸から離れて生えることはほぼない。また荒波が打ち寄せる海岸にも見られない。マングローブが発達しない九州以北ではハマジンチョウ、ハマナツメなどと並び特徴的な生態を示す木であり、「半マングローブ植物」とも呼ばれる[2]

人間との関係[編集]

木材はキクラゲ原木栽培のホダ木に使われる。嘗ては木材を水中メガネの枠に、皮の繊維をロープに利用した[3]。園芸用に栽培されることもある。

減少と保全[編集]

現存する個体数は多く、栽培も行われているが、河川改修や海浜部造成のため、良好な群落は減少している。日本の環境省が作成した維管束植物レッドリストでは2012年版に至るまで掲載されていないが、絶滅種、または絶滅危惧種に指定している府県は2014年現在で1府19県に達し、本種の動向が注目されている。このうち大阪府では絶滅したとされている他、嘗て日本海側の北限とされていた長崎県対馬市佐護の群落も河川改修で消滅した[5][6][7]

各自治体の条例により、天然記念物、または許可なき採集等を禁じた「希少野生動植物種」として指定される例もある[5]

市町村のシンボル指定[編集]

シンボルとして指定する市町村もある[5]

オオハマボウ H. tiliaceus L.
屋久島・種子島以南の南西諸島、および小笠原諸島の海岸に生える。高さ4-12mに達する高木で、葉も10-15cmほどと大きい[1]
モンテンボク(テリハハマボウ、テリハノハマボウ) H. glaber (Matsum. ex Hatt.)Matsum. ex Nakai
小笠原諸島の固有種。高さ10m、時に15mに達する高木。別名に「テリハ(照葉)」とある通り、葉に光沢がある。海岸ではなく山の斜面に生える。花はやや小さい[1]
サキシマハマボウ Thespesia populnea (L. ) Sol ex Correa
別属だが、海岸性で黄色の花をつける点ではハマボウ等に似ている。琉球諸島から熱帯アジア一帯に分布する[1]

参考文献[編集]

  1. ^ a b c d e f 牧野富太郎, 2008. モンテンボク, オオハマボウ, ハマボウ, サキシマハマボウ, 新牧野日本植物図鑑, 437-439p. 北隆館 ISBN 9784832610002
  2. ^ a b c d e 中西弘樹「半マングローブ植物3種の分布と生態」『日本生態学会誌』第35巻第1号、日本生態学会、1985年、 85-92頁、 doi:10.18960/seitai.35.1_85、 ISSN 0021-5007NAID 110001881757
  3. ^ a b c d e f g 鹿児島の自然を記録する会, 2002. ハマボウ, 「川の生きもの図鑑」66p, 南方新社 ISBN 493137669X
  4. ^ a b 島根県環境生活部自然環境課, 2013. 改訂しまねレッドデータブック2013 植物編 -島根県の絶滅のおそれのある野生植物-, 維管束植物 絶滅危惧I類, 56p.2014.1.8閲覧
  5. ^ a b c 中西弘樹「ハマボウの保全の歴史と現状(保全情報)」『保全生態学研究』第15巻第1号、日本生態学会、2010年、 153-158頁、 doi:10.18960/hozen.15.1_153ISSN 1342-4327NAID 110007618303
  6. ^ 中西弘樹, 2012. 海岸植物の保全 ハマユウとハマボウを例にして, NPO法人OWS 会報「季刊エブオブ」No.45. 2014.1.8閲覧 [リンク切れ]
  7. ^ a b [1]. 2014.1.8閲覧
  8. ^ 大阪府 環境農林水産部 みどり・都市環境室みどり推進課 自然環境グループ. 大阪府レッドリスト(3)107p. 2014.1.8閲覧
  9. ^ 千葉県環境生活部自然保護課, 2009. 千葉県レッドデータブック -植物・菌類編(2009年改訂版)-115p.2014.1.8閲覧
  10. ^ 神奈川県自然環境保全センター/神奈川県立生命の星・地球博物館 ハマボウ 神奈川県レッドデータブック2006 WEB版. 2014.1.8閲覧
  11. ^ 兵庫県農政環境部環境創造局自然環境課, 2010. ハマボウ, 兵庫県版レッドデータブック2010(植物・植物群落). 2014.1.8閲覧
  12. ^ 岡山県環境文化部 自然環境課, 2009. 岡山県版レッドデータブック2009, ラセンソウ、ハマボウ. 2014.1.8閲覧
  13. ^ 香川県環境森林部 みどり保全課, 2004. ハマボウ, 香川県レッドデータブック. 2014.1.8閲覧
  14. ^ 徳島県県民環境部環境総局環境首都課, 2001. 維管束植物285p. 徳島県版レッドデータブック(レッドリスト). 2014.1.8閲覧
  15. ^ 高知県林業振興・環境部環境共生課 高知県レッドリスト(植物編)2010年改訂版23p. 2014.1.8閲覧
  16. ^ 愛知県環境部自然環境課, 2009. ハマボウ, 「レッドデータブックあいち2009」388p. 2014.1.8閲覧
  17. ^ 三重県環境森林部自然環境室 ハマボウ, 三重県レッドデータブック2005. 2014.1.8閲覧
  18. ^ 山口県野生生物保全対策検討委員会, 2002.ハマボウ, レッドデータブックやまぐち. 2014.1.8閲覧
  19. ^ 愛媛県自然保護課生物多様性係, 2003.ハマボウ, 愛媛県レッドデータブック. 2014.1.8閲覧
  20. ^ 福岡県自然環境課, 2011. ハマボウ, 福岡県レッドデータブック2011. 2014.1.8閲覧
  21. ^ 和歌山県環境生活部環境政策局環境生活総務課, 2012. 保全上重要なわかやまの自然-和歌山県レッドデータブック2012改訂版320p. 20141.8閲覧
  22. ^ 佐賀県くらし環境本部有明海再生・自然環境課, 2010. レッドデータブックさが2010. 20141.8閲覧
  23. ^ 長崎県環境部自然環境課, 2011. 長崎県レッドリスト(2011), 維管束植物(23.6.30修正版)19p. 20141.8閲覧
  24. ^ 大分県生活環境部生活環境企画課, 2011. ハマボウ, レッドデータブックおおいた2011. 2014.1.8閲覧
  25. ^ 宮崎県環境森林部自然環境課, 2007. 宮崎県版レッドリスト(2007年改訂版). 2014.1.8閲覧
  26. ^ 長崎県環境部自然保護課, 2013. 希少野生動植物種保存地地域の指定状況. 2014.1.8閲覧
  27. ^ 福岡県糸島市経営企画課, 2011.糸島市「市の木、市の花、シンボルカラー」が決まりました. 2014.2.12閲覧