キックスケーター – Wikipedia

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キックスケーター(和製英語kickskater)またはキックスクーター(英語: kick scooter)とは、地面を蹴って進むハンドル付きの乗物の総称。

キックスケーターの多くは自転車に似た感覚で乗る事ができ、ローラースケートやスケートボードよりも扱いが簡単な事からレジャー用途の他、スポーツとして使われる、公園等で自転車代わりの手軽な移動手段としても使われる。

元々スクーター (Scooter) やスクート (Scoot) と呼ばれていたが、2000年代に折り畳みスクーターの登場で市場が広がった頃からキックスケーターの呼称が使われる様になった。キックボードという名称で呼ばれることも多いが、これはK2社の製品(キックボード)を指す登録商標であることから注意が必要である[1][2]。またキックスクーターとされることもあるが、こちらもJD社の同名の製品と混同されることがあるため、「キックスケーター」普及に貢献するために設立された日本キックスケーター協会では総称としては「キックスケーター」を用いるよう主張している[2]

なお、電動機や内燃機関付きのキックスケーターは原動機付自転車または自動車扱いとなる[3](#日本における法的な扱い参照)。

ローラースケートを流用した木製スクーター(制作時期不明)

1817年、両足で地面を蹴って進む二輪車「ドライジーネ」がドイツで発明される。19世紀後期にはローラースケートが登場し、その部品で作ったスクーターもあったと言われている。1914年、アメリカで二輪スクーターにエンジンを取り付けたAutoped英語版が登場している。

1974年、日本でペダル推進式三輪スクーター「ローラースルーGOGO」をホンダが開発し、子供たちに流行する。

1990年代後期、スイスでWim Ouboterが小型折り畳みスクーターを開発し、Micro Mobility Systemsを設立してヨーロッパで発売する。同じものが日本やアメリカではRazorの名で販売されて流行した[4]。更にRazor USAの共同設立者である台湾のJD Corporation(久鼎金屬實業股份有限公司)[5]が自社でもJD Bugとして販売を開始し、同製品は大阪のジェイディジャパンからJD Razorのブランドで日本でも販売されている[6]

1999年頃に折り畳みスクーターが日本に入ってくると、鉄道利用の際にも持ち込める手軽な移動手段として都市部の若者から広まって行き、子供にも流行した。それに伴って非常識な利用者も出て来たため、使用禁止を明示する施設も現れている。

事故など[編集]

2000年2月には、前年11月に東京の歩道上で歩行者と衝突した利用者が重過失傷害罪で書類送検され[7]、同年7月には神奈川で転倒による死亡事故も起きた[8]

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また、2014年10月17日の消費者庁は、9歳までの幼児・児童がキックスケーターを使用していて転倒などにより負傷する例が2010年(平成22年)以降53件発生し、死亡事故も1件発生していると発表している[9]

電動キックスケーターを巡っては、利便性の高さから普及が進む一方、事故や交通違反が相次いでいる事が報道されており、2021年6月には東京都内で電動キックスケーターを無免許運転し、赤信号を無視して交差点に進入。タクシーと衝突し、乗客男性の頭に軽傷を負わせるなどした疑いが持たれている女性(自身も骨折している)を、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷行為処罰法)違反などの容疑で東京地方検察庁に書類送検する方針を固めた事と同年8月に報じられた[10]。福岡県においては、2021年7月までに計18件の交通違反が確認されている。最も多いのは歩道通行(13件)で、違反者は「ヘルメットがなく、怖くなって歩道を通行した」などと話しているという[11]

折り畳み型 (ポリウレタンウィール装着型)[編集]

折り畳んだ状態のRazor初期型

1990年代後半に登場し、その後主流となった二輪スクーター。アルミニウム合金の多用で総重量3Kg程度に抑えられ、小さく折り畳んで持ち歩く事もできる。舗装路のみでの走行を前提にローラースケート同様のポリウレタン製ウィール(車輪)[12]を持つ。初期のウィールは直径98mmだったが[13]、大径化が進んで200mmの製品も登場し、中には空気タイヤを備えた製品も存在する。後輪のフェンダー(泥除け)がブレーキを兼ねており、これを踏んで後輪の回転を抑えることで減速を行う。

スケートパークなどでスタントを行うフリースタイルスクータリング英語版も欧米やオセアニアを中心に広まり、2008年、2009年には折り畳み機構を廃した本格的なスタント専用スクーターが発売された[14]

空気タイヤ装着型[編集]

フットバイクのレース

BMX型スクーターを使用したドッグスクータリング

折り畳み型以前から使われている、12インチ程度の自転車用タイヤとリムブレーキを備えた二輪スクーター。上述のポリウレタンウィール装着型と区別する際にはニューマチックスクーター (Pneumatic scooter) 、ビッグスクーター (Big scooter) 等と呼ばれる。より安価で手軽な折り畳み型の登場で減少したが、乗り心地や安定性を重視する分野での需要がある。

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ヨーロッパではフットバイク (Footbike) と呼ばれる大型のものを使ったレースが行われている他[15]、犬を動力にするドッグスクータリング英語版等の用途もあり、ニューマチック専門のメーカーもなお存在する。

BMXが盛んだったアメリカでは1980年代後期にフリースタイルBMXの要素を取り入れたスクーターが各BMXメーカーから発売された[16]。これらは従来のスクーターと区別してスクートと呼ばれ、その雪上版としてスノースクートが誕生した。なお、折り畳みスクーターでもスタントの世界ではスクートと呼ばれる事が多い。

三輪式、四輪式[編集]

デッキに固定されたハンドルを掴んで乗る「キックボード」、「スケータ」、「スティックボード」など。二輪式より安定する他にも自立する、片手で乗れるといった利点がある。

幼児向け[編集]

幼児向けスクーター二態。右側はMini Micro

まだ自転車に乗ることができない3 – 5歳程度の幼児を対象とした、主として三輪車風のもの。鋼鉄製のフレームにプラスチック製の外装を持った製品が多い。この他にも、バランス感覚の育成をうたった三輪式(前二輪)のものが販売されている。

動力付き[編集]

通常の折り畳みスクーターの前輪にモーターを装着して立ち乗りスクーターとした製品がある他[17]、個人で自作ジェットエンジンを取り付けた例まである[18]

なお、日本の道路交通法において電動キックスケーターは原付または自動車の扱いとなる(#日本における法的な扱い参照)

日本における法的な扱い[編集]

動力なしのもの[編集]

道路交通法76条4項3号では『交通のひんぱんな道路において、球戯をし、ローラー・スケートをし、又はこれらに類する行為をすること。』を罰則付きで規制している。この条文では車両または遊具の指定はないため、「ローラー・スケートまたはこれに類する行為と」されれば規制を受ける。なお、この「ひんぱん」の基準に関しては明確な基準はないが、おおよそ、他の歩行者や車両等との交通の危険が生じうる程度の交通量がある場所と解される[19]

動力なしのキックスケーターは、道路運送車両法上では軽車両に分類される。また、力を伝達するペダル等を備えない事から自転車には分類されない[2]。ただし、道路交通法では軽車両ではなく遊具とされ、「交通のひんぱんな道路」での使用が禁止されるとする解釈もある[2]

2021年6月14日、経済産業省のグレーゾーン解消制度において、動力なしのキックスケーターを製造する業者からの道路交通法に対する取扱いの照会に対し、国家公安委員会が以下の回答を示した。[20][21][22]

  • キックスケーターは現に広く一般的に人又は物の運送の用に供されておらず、そのように用いられることが想定されない、
  • キックスケーターを道路交通法上の「車」として規制を行う必要性が認められず、「車」には当たらないと解される
  • キックスケーターを用いている者は、道路交通法上の歩行者になると解される
  • 従って、キックスケーターは道路交通法第2条1項11号イに規定する軽車両には該当しない

法律上の扱いが明確化される以前より、キックスケーターの製造・販売においては「公道での使用は控えてください」との但し書きがされることも多い[23]。機種によってブレーキの有無など設計も異なるため、公道での使用についてはメーカーや販売店への確認が推奨されている[2]

動力ありのもの[編集]

電動機や内燃機関付きのキックスケーターは、法令上、道路交通法および道路運送車両法の双方で、原動機付自転車または自動車扱いとなる[3]。よって、様々な規制法令に不適合となる電動機や内燃機関付きのキックスケーターをそのまま公道で運転すると、法律上は原動機付自転車または自動車を運転した事になり、そのままの状態では様々な法令により処罰される事になる。同法の保安基準に適合するようミラーなどを備え、ヘルメットの着用も義務付けられている。

公道走行可能なキックスケーター[編集]

2019年時点、パルウェイ(Palway)やエアホイール(Airwheel)といったブランド名で、道路運送車両の保安基準に適合する製品の販売が始まっている。製品には最高速度が原付の制限速度30km/h程度出るものもある一方、最高速度が20km/h未満のものもある。最高速度が20km/h未満の場合には、道路運送車両の保安基準の適用が若干緩和されている。

市販されている製品にはおおむね次のような特徴がある。

  • 構造上はキックスケーターだが、十分な剛性のある車体フレームを持つ。駆動はリチウムイオン等のバッテリーによる電動。空気式小インチタイヤを装備。
  • フレームの左右に両足を乗せるステップを装備。車体上に立位で乗車する。
  • ハンドル部分は折りたたみにできる構造。ブレーキ、警音器、前照灯、後部反射器、番号灯を備える。ウィンカー、尾灯、制動灯を備えるものもある。
    • なお、保安基準によりブレーキは2系統である必要がある。最高速度が20km/h未満のものの場合は、基準緩和され尾灯、制動灯、方向指示器、速度計は不要[24]だが、夜間などの安全上、尾灯、制動灯、方向指示器の装備が望ましい。

2019年3月から埼玉県の浦和美園駅周辺で、実験的にシェア電動スクーターの事業が行われている[25][26]。このスケーターは約20cm径のタイヤを備え、右グリップ直近のレバーがアクセル、左グリップ直近のレバーがブレーキとなっている。各レバーを押し下げると加速、制動する。ウィンカー、制動灯は無いため手合図が義務である。[25]

法令上は原動機付自転車となるため次の義務等が課される。

また、自動車損害賠償保障法に基づき人身事故に対する損害賠償につき無過失責任が適用される。よって、自動車任意保険にも合わせて加入する事が望ましい。

産業競争力強化法に基づく特例電動キックスケーター[編集]

Luup社の特例(2021)電動キックスケーター

2021年(令和3年)4月23日、経済産業省は産業競争力強化法に基づいて「新事業特例制度」を利用し、特定の事業者に対して、一部地域(後述)における公道での実証実験としての電動キックスケーターのシェアリング・サービス計画を認定した。この実証実験では、認定された事業者の貸し出す電動キックスケーター(以下、特例電動キックスケーターと呼ぶ。)に対して、以下に掲げるような従来とは異なる走行条件(太字)が適用される。[28][29][30][31]

あくまで上記の走行条件は特例電動キックスケーターのみに適用されるのであって、未認定事業者や個人所有の電動キックスケーターに関しては全くの適用外であることに注意する必要がある。

認定事業者ごとの実証実験対象地域[28]は次に示した通りである。事業者の並びは初めて認定を受けた日が早い順で、同日の場合は出典掲載順。市町村は出典掲載順で、追加認定があった場合、既認定市町村は省略。

実証実験の対象地域内であっても特例対象外となる道路等が存在する[28][29]。そのような区間・区域を通行するには、特例電動キックスケーターから降りて押しながら歩行しなければならない[31]

関連項目[編集]

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