ハマスゲ – Wikipedia

ハマスゲ (Cyperus rotundus L.) は、乾地に生えるカヤツリグサの1種。雑草としてよく見かけられ、また薬草として利用される。

ハマスゲは単子葉植物カヤツリグサ科カヤツリグサ属の植物である。スゲと名が付いているがスゲ属ではない。乾燥したところにもよく育つ多年草である。

地下に塊状の茎を持ち、細い縄のような匍匐茎を伸ばして広がる。まばらな群落を作るが、それほど大きな集団を見ることは少ない。

根出葉をよく発達させる。葉は細くて長く、それほど硬くはなくてざらつかない。幅は2-6mm。先端はゆるやかに垂れる。主脈の両側に膝があって断面は浅くM字状。深緑で非常に強いつやがある。

初夏から秋にかけて花茎を出す。花茎はまっすぐに立ち、やや細くて深緑、やはり強い照りがある。その先端に花序を付け、基部の苞は3枚ほど、長いものは花序より長いが、あまり目立たない。花序は1回だけ分枝する。小穂は線形で長さ1.5-3cm程度、互いにやや寄り合って数個ずつの束を作る。小穂の鱗片は血赤色で艶があるが、やや色が薄い場合もある。果実は鱗片の半分程度。

雑草として畑地に生えることも多い。根茎や匍匐茎を持つので引き抜きにくい上に根絶が難しく、その点ではやっかいであるが、背は高くならないので庭などではそれほど邪魔にはならない。

生育環境と分布[編集]

乾燥に強く、日ざしの強い乾いた地によく成育する。砂浜にも出現し、名前もこれによるものであるが、実際には雑草として庭や道端で見かけることの方が多い。強い日射や乾燥にも強く、舗装道路の路傍にもよく出現する。時にはアスファルトを突き破って生えているのを見かける。

本州から琉球列島にかけて、国外では世界の熱帯から亜熱帯域に広く分布する。

薬草としては古くからよく知られたもので、正倉院の薬物中からも見つかっている。生薬としては香附子(こうぶし)と呼ばれ、秋から翌春にかけて肥大した根茎を掘り取って乾燥させたものを用いる。漢方では芳香性健胃、浄血、通経、沈痙の効能があるとされる。成分としては精油0.6-1%を含み、これにはα-キペロン、キペロール、インキペロール、キペレンなどが含まれる。現在は主として中国、韓国、北朝鮮、ベトナムからの輸入によっている。香蘇散、女神散などの漢方方剤に配合される。

2000年前にスーダンで暮らしていた人々の遺骨の分析から、当時の人々はハマスゲを食べていたことがわかった。また、彼らは驚くほど健康な歯を持っており、それはハマスゲの抗菌作用による可能性があることが示唆された[2]

カヤツリグサ属で本土において同様な場所に出現する種としては、カヤツリグサ、イヌクグ、クグガヤツリなどがあるが、これらは根出葉がそれほど発達せず、また小穂もそれほど色づかないので、形も見かけもかなり異なる。八重山には類似のスナハマスゲ (Cyperus stoloniferus Retz.) が自生する。より小穂が太いのが特徴である。

近年の帰化植物にセイタカハマスゲ (Cyperus longus L.) と ショクヨウガヤツリ (別名: キハマスゲ、学名: Cyperus esculentus L.) がある。前者はハマスゲに似てより大型、根本に根茎ができない(右図)。後者は穂が黄色っぽい(左写真)。

なお、屋久島から知られるヤクシマハマスゲ (Carex yakusimensis) はスゲ属である。

参考文献[編集]

  • 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他『日本の野生植物 草本I 単子葉植物』(1982)平凡社
  • 北村四郎・村田源・小山鐵夫『原色日本植物図鑑 草本編(III)・単子葉類(改定49刷)』(1987):保育社
  • 武田薬報編集係編(1994)『薬用植物』武田薬品工業