ヨーゼフ・メルク (Joseph Merk, 1795年1月18日 – 1852年6月16日) は、ウィーン出身のチェリストである。ウィーン宮廷歌劇場で首席チェロ奏者を務め、ウィーン音楽院で教鞭をとった。 1795年1月18日、商人の息子としてウィーンに生まれる。歌、ギター、ヴァイオリンを学んだのちにヴァイオリニストとして活躍していたものの、一家の別荘で休暇を過ごしていた際に左腕を犬に噛まれ、ヴァイオリンの演奏に必要な高さまで腕を上げることができなくなったため、チェロに転向して帝国楽団のフィリップ・シントレッカーに師事した。なお、この時の怪我の影響で一生、左腕が右腕より短かいままとなった。 チェリストになって1年で、ハンガリーの貴族のもとで弦楽四重奏団の一員として演奏するようになり、まもなくオーストリア、ハンガリー、セルビアへの演奏旅行を行って成功を収めた。1816年にはウィーン宮廷歌劇場の首席チェリストとなり、1834年には28歳にして皇帝より「宮廷名演奏家」の称号を与えられた。なお、ウィーン宮廷歌劇場ではヨーゼフ・リンケと同じプルトで演奏した。また、「宮廷名演奏家」の称号は当時、ニコロ・パガニーニ、ジギスモント・タールベルク、ヴァイオリニストのヨーゼフ・マイゼーダー、ジュディッタ・パスタ、ジェニー・ラッツァー、メルクにしか授与されていなかった。 また、1822年からはアントン・クラフトの後を継いでウィーン音楽院で教鞭を取りつつ、公務の間を縫ってプラハ、ドレスデン、ライプツィヒ、ブラウンシュヴァイク、ハノーヴァー、ハンブルク、ロンドンへの演奏旅行を行った。さらに1825年にはヴァイオリニストのヨーゼフ・マイゼーダーと知り合い、1830年にはピアニストのピアニストのK. ボックレットを交え、1808年の初演以来演奏されていなかったベートーヴェンの『ピアノ、ヴァイオリン、チェロと管弦楽のための協奏曲』を再演して喝采をあびた。また、チェリストのニコラウス・クラフトの紹介でベルンハルト・ロンベルクと親交を深め、ロンベルクの作品をたびたび演奏した。 1836年に最後の演奏旅行を行い、1848年に音楽院を引退した。1852年6月16日にウィーンで死去。 演奏スタイル[編集] 同時代のドイツのチェリストであるベルンハルト・ロンベルクやフリードリヒ・ドッツァウアーがスラー・スタッカートを嫌ったのに対し、メルクはしばしば自身の作品に取り入れている。なお、チェリストのヴァレリー・ウォルデンは、この違いは弓の持ち方の違いに起因すると分析している。しかしウォルデンは同時に、ニコラウス・クラフト、ボーラー兄弟、リンドレー父子およびメルクのフィンガリングには、ロンベルクやジャン=ルイ・デュポールの影響が見られるとも述べている。 また、19世紀になるにつれ、より長く、連続するスラーを利用する作品が多く見られるようになったが、メルク自身も『シューベルトの人気ワルツによる序奏と変奏』においてアルペジオにスラーがけをして、その中でアクセントをつけている。 同時代の作曲家たちとの交流[編集] 1825年、マイゼーダーとメルクが組んでいた弦楽四重奏団は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンから『弦楽四重奏曲第12番』の演奏依頼を受けた。特に甥のカール・ヴァン・ベートーヴェンはメルクを高く評価しており、ヨーゼフ・リンケに比べてメルクの方が優れているとルートヴィヒに書き送っている。また、ルートヴィヒもメルクが出演するコンサートについて自身の会話張に書き記した。なお、ベートーヴェンの葬儀の際、メルクは棺のそばで松明を掲げた。 また、メルクは作曲家のフランツ・シューベルトと親交を結んでいた。1822年4月15日、ウィーンのミリノーテン広場にある会議所のホールで開催されたメルクの演奏会に際し、シューベルトはチェロ演奏の合間の曲として男声四重奏曲『精神と愛』を作曲している。なお、この曲はバルト、ティーツェ、ネエブゼ、ヨーハン・ネストロイによって歌われた。 さらに、フレデリック・ショパンは2度目のウィーン滞在中にメルクと知り合い、1829年にチェロとピアノのための『序奏と華麗なるポロネーズ』を作曲し、メルクに献呈した。ただ、作曲家自身はこの曲について「サロンやご婦人たちのための、キラキラ輝く子供だまし以上のものではない」と述べている。なお、ショパンはサロンでメルクと共演することもあり、「ウィーンで1番のチェリスト」などの賛辞を手紙に記したほか、ヴァイオリニストのスラヴィックを交えてピアノトリオを結成したいとも述べた。 また、作曲家・ピアニストのフランツ・リストは、ヴァイオリニストのヨーゼフ・マイゼーダー、およびメルクとともにベートーヴェンの『ピアノ三重奏曲第7番「大公」』を演奏した。なお、リストは演奏会デビューをする前からマイゼーダーやメルクに演奏を聴いてもらっていた。
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