ワールドラリーカー – Wikipedia

ワールドラリーカー (World Rally Car) とは、市販車両をベースとして大幅な改造を行った、FIA世界ラリー選手権(WRC)用の競技専用車両である。通称はWRカー

本項では便宜上、2022年以降のWRCに導入されているラリー1(Rally 1)規定の車両についても解説する。

1997年にグループAの特例として登場。国際自動車連盟(FIA)の規定するラリー車両クラスの最上位である「RC1」に分類され、WRCの競技クラス最上位で使用される車両である。グループAが市販車に近くなった結果、ホモロゲーション取得にあたっての各メーカーの負担が大きくなり、三菱、スバル、トヨタ、フォード以外のメーカーの衰退を招いた反省から、年間2,500台以上生産されている市販車を大幅に改造することを認めている。規則上はグループE (フリーフォーミュラレーシングカー群) のカテゴリーIであり、「WRCキット変型」と称される。

市販車がベースだが全くの別物で、高出力のターボエンジンにシーケンシャルトランスミッションを組み合わせる。ベース車がFFの場合は4WDに変更されるほか、ボディにオーバーフェンダー取り付けや大型の空力パーツが取り付けられ、サスペンションなども変更されている。

ベース車両は従来はCセグメント車が採用されていたが、2011年の規約改訂をもってBセグメントハッチバックへ移行した[1]

2022年からはハイブリッドカー規定が導入されるとともに、市販車の骨格を用いないパイプフレームのマシンも許可されることが決定している[2]

1997年 – 2010年[編集]

1987年にWRCのメイン規定として昇格したグループA規定下では、改造範囲は限定されており、エンジン・補機・空力パーツなどの変更が認められていないほか、改造元のベース車種は連続する12ヶ月間に5,000台以上(93年に2,500台以上に緩和)の生産義務が条件となっていた。その結果4WDの需要が高い市場を母国に持つ日本のメーカーが有利となり、欧州メーカーとの格差が拡大。世界不況も重なったため、最盛期には10社以上を数えたメーカーも5年で4社にまで減少した。そこで市販車を大規模に改造する新規定『WRカー』が誕生した。WRカー規定では、年間に25,000台以上が生産されたモデルの派生車種であれば駆動方式の変更やターボ装着の有無などを自由とし、直接的なベース車が2,500台以上生産されていれば良いという条件に緩和された[3][4]

2006年、アクティブサスペンションが禁止されたほか、フロントとリアのディファレンシャルギヤが機械式となるなど、電子制御の介入が規制された[5][6]。2008年時点ではエンジンの搭載位置と搭載角度は自由、年間で使用出来るエンジンの数は最大5基、最大排気量は2.0 L、車両の最低重量は1,230 kg、車幅は1,800 mmまで[注 1]、FF車の4WD化、空力パーツの付与が認められていた[7]。なお導入前はフランス車メーカー(プジョー、シトロエン、ルノー)のロビー活動により2WDのみの予定であったが、既存メーカーの猛反発により4WDへの換装が可能となった経緯がある。

WRカー規定により、これまでグループAの生産台数規定の関係で参戦しなかったヨーロッパの自動車メーカーが相次いでWRCに参戦し、一時は7つのワークスチームが参戦した他、競技用4WDのノウハウを持たないメーカーが多くの独立系コンストラクターを頼ったため、ラリー界が活性化した。しかしその後の不況による自動車メーカー自体の経営悪化やマシンの開発・価格の高騰、イベント数の増加などの様々な要因もあり、2009年にはシトロエン、フォードの僅か2社となった。

2011年 – 2016年[編集]

WRカーのコスト高騰により新規ワークスの参入が事実上不可能な現状を打開するため、既に世界ツーリングカー選手権(WTCC)で導入されていたスーパー2000規定の導入案が浮上する[注 2]。2008年、FIAはスーパー2000をベースとしてWRカーに仕様変更可能な“スーパー2000プラス”を提案、スーパー2000車両を持たないスバルや三菱には不利となるが、最終的にWTCCや他のカテゴリーと共通の規定の元に製作される1.6 L直噴ターボエンジンをスーパー2000車両に搭載したスーパー2000 WRCとすることが決定された。

新規定では、トランスミッションが電子制御6速セミATを機械式6速シーケンシャル、ディファレンシャルギヤはセンター・フロント・リアが全て機械式となった。その他には純粋なスーパー2000車両との差別化のため、最低重量は1,200 kg[注 3]、全長は4,000 mm→3,900 mm、車幅は1,800 mm→1,820 mm、エアリストリクター径は34 mm→33 mmとされた[8][1]。なお2014年のみパドルシフトが禁止された。

この新規定によりMini、ヒュンダイ、フォルクスワーゲンが参戦するが、2017年規定までにMiniは組織の紛糾、フォルクスワーゲンはディーゼル排ガス不正問題が原因で撤退している。

2017年 – 2021年[編集]

WRCの人気低下に対する危機感から、WRカーをより魅力的なものにするため、スーパー2000 WRCのコスト削減路線から方向を転換し、大幅な規制緩和を行った[9]

変更は以下の通り。

  • エアリストリクター径を拡大(33 mm→36 mm)し、エンジン最大出力を315馬力から380馬力へ向上。
  • 最低重量の緩和。(1,200 kg→1,175 kg)
  • 全幅の拡大。(1,820 mm→1,875 mm)
  • リアディフューザーのオーバーハングを50 mmまで認可、ウィングの開発も大幅緩和。
  • アクティブセンターデフの解禁。

この新型WRカーは高性能すぎてジェントルマンドライバーには危険であるとして、プライベーターの新型WRカーの運用は禁止されていたが、2018年には解禁された[10][11]。マニュファクチャラーとしてはトヨタや、「Mスポーツ・フォード」としてフォードが復帰している。

しかしシトロエンは2019年を持って撤退し、フォードも有力ドライバーの引き抜きが相次いだため、事実上トヨタvsヒュンダイのアジアンブランドの2強という、かつてのグループAのと同じ様相を呈している。

FIAは自動車メーカー参戦を促すため、昨今の環境意識の高まりに合わせてハイブリッドシステムとバイオ燃料を採用し、加えてBセグメントハッチバックを持たないメーカーでもパイプフレームボディによるスケーリングで参戦を可能とする『Rally1』規定を2022年から導入する。

主な変更点は以下の通り。

  • 新たにエネルギー回生システム(ERS)が導入され、パワーユニットがハイブリッド化される。ERSはドイツのコンパクト・ダイナミクス製のワンメイク。
  • シャシーはパイプフレームの導入が認められる。
  • アクティブセンターデフの使用が禁止。
  • パドルシフトの使用が禁止され、トランスミッションが従来の6速から5速になる。
  • エンジンは従来のGRE規定(1.6リッター4気筒の直噴ターボ)から変更はないが、使用する燃料がP1レーシング・フューエルズ製の「化石を含まない炭化水素ベース燃料」に統一される。

マニュファクチャラーは、2022年時点ではトヨタ、ヒュンダイ、Mスポーツ・フォードの3者が継続の予定である。

注釈[編集]

  1. ^ ベース車の全長が4,200 mm以上の場合。
  2. ^ 2.0 LのNAエンジンを使用し、ボディ補強など最低限の改造のみで競技車両を製作するものでプロダクションカー世界ラリー選手権(PWRC)規定と近い。
  3. ^ ドライバーとコ・ドライバーを含めた総重量は1,350 kg。

出典[編集]

関連項目[編集]