火星の水 – Wikipedia

火星の水」(かせいのみず、原題: The Waters of Mars)は、イギリスのSFドラマ『ドクター・フー』の第4シリーズと第5シリーズの間に放送されたスペシャルシリーズの第3話。2009年11月15日に BBC One で初放送された[3][4]。BBCアメリカで2009年12月19日に放送され、イギリスでは2010年1月11日に[5]、アメリカでは2010年2月2日にDVDとブルーレイディスクが発売された[6]

物語の舞台は2059年の火星で[7][8]、10代目ドクター(演:デイヴィッド・テナント)は人間の最初のコロニーであるボーイ・ベース・ワンと出会う。指揮官のキャプテン・アデレイド・ブルック(演:リンジー・ダンカン)は人類の歴史において非常に重要な人物であることが判明する[7]。ドクターは彼女の運命を知っているが、その運命に従うか、歴史を変えるか、ドクターは決断を迫られる。『ドクター・フー』の脚本家兼プロデューサーのラッセル・T・デイヴィスによると、本作は続く2エピソードと密接に関連するが、三部作の第1パートというわけではない[9]。本作は2009年10月に死去したかつての『ドクター・フー』の脚本家兼プロデューサーのバリー・レッツ英語版に捧げられた[10][11]。また、本作は2010年ヒューゴー賞映像部門短編部門でヒューゴー賞を受賞した。

あらすじ[編集]

2059年11月21日の火星に到着したドクター。その頃の火星には“ボーイ・ベース・ワン”という人類初のコロニーが築かれていた。 そのコロニーで研究を続ける人々に危機が訪れる。飲料用にと火星の氷河から切り出した氷がウイルスで侵されていたのだ。研究員たちは次々とそのウイルスに感染し、見るもおぞましい姿となってしまう。ドクターと、コロニーの指揮官アデレードたちはコロニーを捨て、その場から脱出する決意をするが、“水のゾンビ”と化した研究員たちはドクターたちを執拗に追いかけてくる。 一方、この事件でコロニーの全員が死ぬことを知っていたドクターは、彼が研究者たちを救ってしまうと歴史を変えてしまうことになり、彼らを見殺しにするか救うかで苦悩する…。

キャスト[編集]

主人公のドクター及びコンパニオンは太文字で表示。

  • 10代目ドクター – デヴィッド・テナント
  • アデレイド・ブルック – リンジー・ダンカン 子供時代のアデレイド – レイチェル・フューエル
  • エド・ゴールド – ピーター・オブライエン
  • ユーリ・ケレンスキー – アレクサンダー・ミキッチ
  • ミア・ベネット – ジェンマ・チャン
  • マギー・ケイン – シャロン・ダンカン=ブルースター
  • タラク・イタル – チョーク・シブタイン
  • アンドリュー・”アンディ”・ストーン – アラン・ラスコー
  • ステフィ・エルリッヒ – コジマ・ショウ
  • ローマン・グルーム – マイケル・ゴールドスミス
  • エミリー – リリー・ベバン
  • ミハイル – マックス・ボリンジャー
  • アデレイドの父 – チャールズ・デアス
  • ウルリカ・エルリッヒ – アヌーシュカ・ストラッフンズ
  • リゼッタ・エルリッヒ – ゾフィア・ストラッフンズ
  • ウード・シグマ – ポール・ケイシー
「火星の水」の撮影

「火星の水」は元々 “Red Chirstmas” という題でクリスマススペシャルとして考案されていた[12]。本作に対応する『Doctor Who Confidential』のエピソードでは、ボーイ・ベース・ワンが “Life on Mars?” を作曲したデヴィッド・ボウイにちなんで名づけられたことが確かめられた[13]。本作の撮影は2009年2月23日に始まった[2]。2月の下旬にデイヴィッド・テナントやリンジー・ダンカンら俳優たちがニューポートのヴィクトリア・プレイスで撮影している姿が見られており[14]、撮影は都市の通りで行われ、製作チームが作り物の雪をその場に撒いていた[14][15]。温室のシーンはカーマーゼンシャーのウェールズ国立植物園英語版で撮影された[16]。また、”GADGET” という単語を刻まれた小型ロボットや、2008年のエピソード「囚われの歌」に登場したウード・シグマも撮影に姿を現した[17]。『ドクター・フー』公式Webサイトで公開されたプロモーション画像にはそのロボットが姿を見せていた[18]

プロデューサーのニッキー・ウィルソンは女優リンジー・ダンカンの演じるキャプテン・アデレイド・ブルックについて「ドクターのこれまでのコンパニオンで最も賢く最も強い精神を持っている」と述べた[2]。デイヴィッド・テナントは「えーっと、彼女は今までの他の人のようなコンパニオンとは本当に違う。彼女はドクターに対して凄く用心深いんだ。彼と付き合って夕日の中を走り去るような人ではないし、彼女はある種の男性指導者なんだ、本当に。だからドクターは彼女と一緒に居る時、普段とわずかに違う役割を担うことを学ばなくてはならないんだ。」と発言した[19]

本作の30秒のティーザー広告が前話「死の惑星」の放送直後に流れた[20]。2009年7月9日に本作のショートクリップがオンラインで利用可能となり、同年7月28日に2009年コミコン・インターナショナルにはより長い予告編が上映され、直後にBBCのWebサイトに投稿された[21]。2009年11月8日には BBC One で短い予告編が放送された[22]

放送と反応[編集]

「火星の水」の当夜の視聴者数は910万人で[23]、Appreciation Index のスコアは88(Excellent)を記録した[24]。BARBによる正確な統合された統計では、イギリスでの本放送の視聴者数は1032万人に達し、「火星の水」はその週で5番目に多く視聴された番組であった[25]

「火星の水」はアメリカで比較的高い数字を記録しており、視聴者は110万人を超え、その時点ではBBCアメリカでのゴールデンタイムで最高視聴率であった[26]。日本では放送されていないが、他の2008年から2010年のスペシャルと共に2014年8月4日からHuluで配信が開始された[27]

批評家の反応[編集]

批評家の反応は一般に肯定的であった。ガーディアンのサム・ウォラストンは「優柔不断で混乱していて、時には単純に間違っているという、今まで見たことのないドクターの一面を見せてくれた」と高く評価し、ドクター役のテナントの在任期間については「役に人間性とユーモアをもたらしてくれた」と論評した。彼の唯一の批判は、小さなロボットに苛立ったということであった[33]。デイリー・テレグラフのロバート・コルヴィルは本作とドクターのこれまでの頻繁な歴史介入との間の “明白な矛盾” を批判したが、シナリオについては「キャラクターの論理的な前進の中で、己の良心や好奇心とテナントが格闘する様子を見ることができた」と称賛した。ウォラストンと同様に、コルヴィルは「子どもが本作をどう評価するかは分からないが、テナントの最後の二部作の冒険のために興味をそそるように設定を組み上げた」と高く評価した[34]。Zap2it のサム・マクファーソンは本作を10代目ドクターのエピソードで5番目に良いものとし、楽しく暗いと表現し、ドクターのキャラクターの成長を指摘した[35]

「火星の水」は「もうひとりのドクター」と「死の惑星」を破って2010年ヒューゴー賞映像部門短編部門を受賞した[36][37]

  1. ^ Spilsbury, Tom, ed (2009-02-04). “Gallifrey Guardian: Harper confirmed as director for Special 4.16”. Doctor Who Magazine (Royal Tunbridge Wells, Kent: Panini Comics) (404): 6. 
  2. ^ a b c Spilsbury, Tom, ed (2009-04-01). “Gallifrey Guardian: Filming starts on the next Special”. Doctor Who Magazine (Royal Tunbridge Wells, Kent: Panini Comics) (406): 5. 
  3. ^ a b Doctor Who – The Waters Edge Closer”. BBC (2008年3月28日). 2020年4月13日閲覧。
  4. ^ a b Doctor Who ‘Mars’ airdate revealed”. Digital Spy (2009年10月30日). 2020年4月13日閲覧。
  5. ^ Spilsbury, Tom, ed (2009-12-09). “Gallifrey Guardian: DVD box sets galore for 2010!”. Doctor Who Magazine (Royal Tunbridge Wells, Kent: Panini Comics) (415): 9. 
  6. ^ Doctor Who DVD news: Release Dates for The Waters of Mars and Other Specials on DVD and Blu-ray”. TVShowsOnDVD.com (2009年10月30日). 2012年7月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年4月13日閲覧。
  7. ^ a b Network TV Programme Information – Week 46 – Sunday 15 November 2009”. BBC (2004年2月10日). 2020年4月13日閲覧。
  8. ^ “Desert Storm”. Doctor Who Confidential. 11 April 2009. Julie Gardner: …our Autumn episode, set on Mars…
  9. ^ Davies, Russell T (2009年3月). “SFX Magazine”. SFX 
  10. ^ Doctor Who – The Waters of Mars – A Round Up”. BBC (2008年3月28日). 2020年4月13日閲覧。
  11. ^ Doctor Who – A Tribute to Barry Letts (1925 – 2009)”. BBC. 2009年11月4日閲覧。
  12. ^ Doctor Who: The Commentary”. BBC Radio 7 (2009年11月16日). 2020年4月13日閲覧。
  13. ^ ラッセル・T・デイヴィス (2009年11月15日). Doctor Who Confidential episode 61. BBC 
  14. ^ a b Lewis, Tim (2009年3月2日). “Fans gather to see Doctor Who’s new assistant”. Western Mail. http://www.walesonline.co.uk/news/wales-news/2009/03/02/fans-gather-to-see-doctor-who-s-new-assistant-91466-23040383/ 
    Nicholls, Matt (2009年3月1日). “Doctor Who teams up with award-winner Lindsay Duncan”. Wales on Sunday. http://www.walesonline.co.uk/showbiz-and-lifestyle/showbiz/2009/03/01/doctor-who-teams-up-with-award-winner-lindsay-duncan-91466-23035393/ 
  15. ^ Walesarts, Victoria Place, Newport”. BBC. 2010年5月30日閲覧。
  16. ^ National Botanic Garden of Wales : Doctor Who”. Garden of Wales. 2009年10月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年4月13日閲覧。
  17. ^ Anders, Charlie Jane (2009年3月2日). “The Comeback That Brings The Doctor To His Knees”. io9. Gawker Media. 2020年4月13日閲覧。
    Anders, Charlie Jane (2009年3月4日). “The Genesis Of Nero’s Star Trek Quest. Plus Rorschach Opens Up.”. io9. Gawker Media. 2020年4月13日閲覧。
  18. ^ Doctor Who – Tantalizing!”. BBC (2008年3月28日). 2020年4月13日閲覧。
  19. ^ David Tennant unveils Dr Who special, The Waters Of Mars. ITN. (2009-11-14). オリジナルの25 December 2011時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20111225115205/http://www.blinkx.com/watch-video/david-tennant-unveils-dr-who-special-the-waters-of-mars/1v2KA7Vu4Qm3qtbF_ecxaA. 
  20. ^ The Waters of Mars Trailer”. BBC (2009年4月11日). 2012年7月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年4月13日閲覧。
  21. ^ Doctor Who – The Waters of Mars – Videos”. BBC (2008年3月28日). 2020年4月13日閲覧。
  22. ^ Doctor Who – The Waters of Mars – New Trailer”. BBC (2009年11月8日). 2020年4月13日閲覧。
  23. ^ Waters of Mars Ratings”. The Doctor Who News Page (2009年11月29日). 2020年4月13日閲覧。
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  25. ^ Over Ten Million Watched Waters of Mars”. The Doctor Who News Page (2009年11月29日). 2020年4月13日閲覧。
  26. ^ “’Doctor Who’ Special Propels BBC America to Best Prime Ever”. Multichannel News. (2009年12月22日). オリジナルの2009年12月27日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20091227101341/https://www.multichannel.com/article/441535-_Doctor_Who_Special_Propels_BBC_America_to_Best_Prime_Ever.php 2020年7月3日閲覧。 
  27. ^ @hulu_japan (2014年8月4日). “「ドクター・フー」ファンの皆さま、多くのご要望をいただいていたシーズン4と5の間のスペシャルエピソード5話の配信を開始しましたー! 「ドクター・フー」102話を配信中→bit.ly/1rwZTtJ #Huluお願い” (ツイート). Twitterより2020年9月8日閲覧
  28. ^ Phipps, Keith (2009年12月19日). “Doctor Who: “The Waters Of Mars””. The A.V. Club. 2018年12月18日閲覧。
  29. ^ Allen, Andrew (2009年11月15日). “‘Doctor Who’: ‘The Waters Of Mars’ review”. CultBox. 2018年12月18日閲覧。
  30. ^ Parfitt, Orlando (2009年11月16日). “Doctor Who: “Waters of Mars” Review”. IGN. 2018年12月18日閲覧。
  31. ^ Sawdey, Evan (2010年2月3日). “Doctor Who: The Waters of Mars”. PopMatters. 2018年12月18日閲覧。
  32. ^ Mulkern, Patrick (2013年10月15日). “The Waters of Mars ★★★★★”. ラジオ・タイムズ. 2018年12月18日閲覧。
  33. ^ Wollaston, Sam (2009年11月16日). “Review: The Waters of Mars”. ガーディアン. https://www.theguardian.com/tv-and-radio/2009/nov/16/doctor-who-waters-mars-review 
  34. ^ Colville, Robert (2009年11月16日). “Review: The Waters of Mars”. デイリー・テレグラフ. https://www.telegraph.co.uk/culture/tvandradio/6563975/Doctor-Who-BBC-One-review.html 
  35. ^ McPherson, Sam (2010年1月2日). “The Tenth Doctor’s Top 5 Doctor Who Episodes”. Zap2it. 2016年3月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年4月13日閲覧。
  36. ^ 2010 Hugo Award Winners”. 世界SF協会 (2010年9月6日). 2020年4月13日閲覧。
  37. ^ 2010 Hugo Award Nominees – Details”. 世界SF協会 (2010年4月4日). 2020年4月13日閲覧。