この項目では、楽器について説明しています。その他の用法については「フルート (曖昧さ回避)」をご覧ください。 フルートは、木管楽器の一種で、リードを使わないエアリード(無簧)式の横笛である[1][2]。 今日一般にフルートというと、銀色または金色の金属製の筒に複雑なキー装置を備えた横笛、つまりコンサート・フルートを指すが、古くは広く笛一般を指していた。ルネサンス音楽からバロック音楽の時代にあっては、単にフルートというと、現在一般にリコーダーと呼ばれる縦笛を指し、現在のフルートの直接の前身楽器である横笛は、「トラヴェルソ(横向きの)」という修飾語を付けて「フラウト・トラヴェルソ」と呼ばれていた[3]。17世紀後半のフランス宮廷で、ジャック=マルタン・オトテールとその一族が改良した横笛フルートが高い人気を博し、その後ドイツやイタリアにも広まったため、表現力に劣る縦笛は次第に廃れてしまい、フルートといえば横笛を指すようになったのである。かつてはもっぱら木で作られていたにもかかわらず、現在は金属製が主流となっているが、フルートは唇の振動を用いないエアリード式の楽器なので、金属でできていても木管楽器に分類される[1]。 現代のフルート(モダン・フルート)は、バス・フルートなどの同属楽器と区別する場合、グランド・フルートまたはコンサート・フルートとも呼ばれ、通常C管である。19世紀半ばに、ドイツ人フルート奏者で楽器製作者でもあったテオバルト・ベームにより音響学の理論に基づいて大幅に改良され[4]、正確な半音階と大きな音量、精密な貴金属の管体、優美な外観を持つに至った。このドイツ生まれのフルートは、最初にフランスでその優秀性が認められ[5]、ついには旧式のフルートを世界から駆逐してしまった。今日単にフルートと言った場合は、例外なく「ベーム式フルート」のことである。 フルートはキーを右側にして構え、下顎と左手の人さし指の付け根、右手の親指で支える(三点支持)。両肩を結ぶ線と平行に持つのではなく、右手を左手より下方、前方に伸ばす。奏者は正面ではなくやや左を向き、右に首をかしげて唇を歌口に当てる。 発音にリードを用いないため、ほかの管楽器よりもタンギングの柔軟性は高い。運動性能も管楽器の中では最も高く、かなり急速な楽句を奏することも可能である。音量は小さい方であるが、高音域は倍音が少なく明瞭で澄んだ音なので、オーケストラの中にあっても埋もれることなく聞こえてくる。フルートの音色は鳥の鳴き声を想起させることから、楽曲中で鳥の模倣としても用いられる。有名でわかりやすい例として、サン=サーンスの組曲『動物の謝肉祭』の「大きな鳥籠」、プロコフィエフの交響的物語『ピーターと狼』などが挙げられる。 主にクラシック音楽の分野で用いられるが、ジャズやロックなど、他の音楽ジャンルで使用されることもある。しかし、ジャズ専門のフルート奏者は少なく、サクソフォーンなどのプレイヤーが持ち替えるか、クラシックとジャズの両方で活動するというケースが多い。 古代〜ルネサンス時代[編集] フルートを広義にとらえて、「リードを用いず、管などの空洞に向かって息を吹き付けて発音する楽器」とするならば、最も古いものとしては、およそ4万年前のネアンデルタール人のものと推定されるアナグマ類の足の骨で作られた「笛」がスロヴェニアの洞窟で発見されている。また、ほぼ同じ頃現生人類によって作られたと推定される、ハゲワシの骨でできた5つの指穴のある笛が、ドイツの洞窟で発見されている。それほど古いものでなくとも数千年前の骨で作られた笛は各地から出土しており、博物館などに収められている。しかし、世界各地で用いられていた原始的な笛は、ギリシャ神話の牧神パンが吹いたとされるパンフルートのような葦などで作られた縦笛か、オカリナのような形状の石笛(いわぶえ)や土笛がほとんどであった。 それでは、現在我々が使用しているフルートにつながる横向きに構える方式の笛が、いつどこで最初に用いられたのかというと、これも確かなことはわかっていないが、一説には紀元前9世紀あるいはそれ以前の中央アジアに発祥したといわれており、これがシルクロードを経て中国やインドに伝わり、さらに日本やヨーロッパにも伝えられていったと考えられている[5]。奈良・正倉院の宝物の中に蛇紋岩製の横笛があり[6]、東大寺大仏殿の正面に立つ国宝の八角灯籠には横笛を吹く音声菩薩(おんじょうぼさつ)の像がある[7]ことなどから、奈良時代までに日本にも伝わっていたことは明らかである。 『喜びを与えん』作者不詳(1520年頃) 西洋では、現在リコーダーと呼ばれている縦笛が古くから知られており、当初はこちらが「フルート」と呼ばれていた。12-13世紀ごろに東洋から6孔の横笛が入り、縦笛の技術を応用して作られたものが主ににドイツ地方で使われ、「ドイツの笛」と呼ばれていた(ドイツでの呼び名は「スイスの笛」)[8]。13世紀になるとフランスに、「フラウスト・トラヴェルセーヌ(フランス語: flauste traversaine;「横向きのフルート」の意)」といった名称が散見されるようになる[9]。ルネサンス期に入っても、ヨーロッパでは横笛はあまり一般的な楽器ではなく、軍楽隊や旅芸人などが演奏するだけのものであった。16世紀に入る頃から、市民の間で行われるコンソートと呼ばれる合奏の中で、横笛も次第に使われ、教科音楽でも用いられるようになった。左図はオーストリアのローラウ城ハラッハ伯爵家所蔵の『喜びを与えん』と題する絵画で[5][10]、横笛とリュート、歌唱によるブロークン・コンソートの様子が描かれている。この絵の横笛はテナーであるが、マルティン・アグリコラの「Musica instrumentalis deudsch」(1529)[11]にあるように、他にもソプラノ、アルト、バスといった種類があり(ただし16世紀半ばにはアルトはテナーに吸収されている)、これらを持ち替えながら演奏を行い、ホール・コンソートも行われていた。現在では、このような横笛を「ルネサンス・フルート」と呼んでおり[5]、古楽器として今も復元楽器が製作されている。 ルネサンス・フルート(テナー、復元楽器) 少数がイタリアのヴェローナなどに残っているオリジナルの物は、木製の管で、内面は単純な円筒形ではなく、複雑な波型になっており、外面は歌口側がやや太い円錐形である。基本的に一体成型されて分割できないものが多いが、大型のバス・フルートなどには2分割構造のものもある。テナーの横笛の最低音はD4で、D-dur(ニ長調)の音階が出せるように作られており、いわゆるD管である。トーンホールが6つ開いているだけのシンプルな構造なので、キーを必ず右側にして構えるモダン・フルートとは異なり、左側に構えることもできる。軽快によく鳴るが、音域によって音量や音色がかなり変化する[5]。アグリコラの著作に記された運指法では半音は指孔半開で出せると記されているが、通常の演奏で半音を出すのはかなり難しい(内部が円筒形の復元楽器ではなく、オリジナルの物は内径の形状によっては半音が比較的出しやすいものもある[12])。 バロック時代[編集]
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