『恐喝』(ゆすり、Blackmail)はアルフレッド・ヒッチコックが監督した1929年のイギリスのサスペンス映画。主演にアニー・オンドラ、ジョン・ロングデン、キリル・リチャードを揃えたスリラー・ドラマである。1928年にチャールズ・ベネットが発表した同名の戯曲[1]を下敷きに、暴行されそうになって相手の男性を殺してしまい脅迫されるロンドンの女性を描く。 制作開始時はサイレント映画として企画したブリティッシュ・インターナショナル映画は、本作に音声入りの別版をもうける案を採用、これを封切るとヨーロッパ初の人気トーキーになる。音響設備のない映画館向けのサイレント版(6,740フィート)は音声入り(7,136フィート)の直後に公開した[3]。どちらも英国映画協会が収蔵している[4][1]。 この作品はイギリス初の長編トーキー映画としてしばしば紹介され、公開の1929年にはイギリス映画第1位に選ばれた。『タイムアウト』誌が2017年に映画関係者のアンケート調査を行い、俳優や監督、作家やプロデューサー、評論家150人の投票では、イギリス映画全作品中第59位に入っている[7]。 日本では劇場公開されず、ビデオやDVD、ネット配信においては『恐喝(ゆすり)』『ヒッチコックの ゆすり』『ゆすり』などのタイトル表記が使われることがある[8][9][10][11]。 ストーリー[編集] スコットランドヤードのフランク・ウェバー刑事(ジョン・ロングデン)は1929年4月26日、ガールフレンドのアリス・ホワイト(アニー・オンドラ)を誘って喫茶店に出かけるが、ひょんなことから口げんかになり、ウェバーは席を蹴って店を出て行ってしまう。それでも仲直りをしようと席に戻りかけたとき、アリスが見知らぬ男性と店を出ていくのを目にした。相手は、会う約束があるとアリスから聞かされていた画家のクルー氏( キリル・リチャード )という人物だ。 気が進まないというアリスに、クルーはぜひ自分のアトリエを見せたいと粘る。説得されてアパートの部屋に入ったアリスは笑うピエロの絵を褒めたり、クルーのパレットと絵筆を借りて落書きのような人の顔を描いたりした。するとそこにクルーは筆を数回加えると、裸体の女性像に変えてしまう。クルーはアリスに筆を持たせると、手を添えて「アリス」というサインを書かせる。踊り子のコスチュームを渡されたアリスは言われるがままに着替え、クルーはピアノを弾き「ミス・アップ・トゥ・デート」を歌い始める。 突然、キスされたアリスは腹を立て、もう帰ると言い出し仕切りの向こうで衣装を脱ぎ、自分の服に着替えようとする。ところがクルーはアリスの着るはずの服を隠し、暴行しようと襲いかかる。アリスが助けを求めてどんなに叫んでも、声は建物の外に届かない。身を守ろうと必死のアリスは、そばにあったパン切りナイフをつかむと、クルーを刺してしまう。怒りにまかせてピエロの絵を引き裂いたアリスは、ふと我に帰ると自分がそこに来た証拠をあわてて消し、アトリエを出ていく。部屋にはアリスの手袋が残された。頭が混乱したまま、アリスは夜の街をさまよい歩く。 クルーの遺体が発見され事件の担当に選ばれたフランクは、現場でアリスの手袋の片方を見つけると、被害者の顔を見て誰かわかったのに上司に報告しない。手袋を持ち出したフランクは、アリスの父が経営するタバコ店を訪れるが、アリスはすっかり取り乱していてフランクにきちんと説明ができない。 映画の宣伝用ちらし タバコ店の電話室に入り、他人に聞こえないよう相談するふたりのもとへ、トレーシー(ドナルド・カルスロップ)がやって来る。前日、クルーの部屋へ入っていくアリスの姿を見かけ、アリスのもう片方の手袋を証拠に持ち出していたのだ。フランクも手袋を持っていると知ると、トレーシーはアリスとフランクを脅迫する。些細な要求だったため応じたふたりだが、フランクは警察がトレーシーに事情聴取すると知る。どうやら殺人現場周辺の聞き込み捜査で、前科のあるトレーシーの目撃情報が入ったようだ。フランクはトレーシーに口止め料を払うと約束し、その陰で警官をトレーシー連行に向かわせる。 普段なら明敏なアリスも、何が起きたのかフランクに説明できないまま、だんだん重圧が増していく。そのころ、同行を求めに来た警官と話したトレーシーはシラを切れなくなり、警官を振り切ると大英博物館に逃げ込んでいた。有名な図書室の丸屋根によじ登ったのだが足を滑らせ、天窓を突き破って転落し命を落とす。警察は殺人犯はトレーシーだったと推測する。 そうとは知らないアリスは、やはり自首するほかないと心を決めると、スコットランドヤードに出頭して主任警部を呼び出してもらう。ところが警部は現れず、あらかじめ電話でアリスの話を聞くように命じられていたフランクに話をすることになると、アリスはついに真実 − 説明するのもおぞましい目に遭わされそうになり刺してしまったこと – を語り、フランクは正当防衛だからふたりでロンドンを去ろうと説得する。警察署を出ていくふたりと入れ違いに、例の切り裂かれたピエロの絵とアリスが署名した落書きが運び込まれてきた。
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