クライスラー・ビルディング – Wikipedia

クライスラー・ビルディングChrysler Building)は、アメリカのニューヨーク市マンハッタン区タートル・ベイにある超高層ビル。その優美な姿はニューヨークの摩天楼のなかでも特徴的なものであり、アメリカ合衆国のシンボルの一つである。

クライスラー・ビルディングはレキシントン・アベニューと東42丁目の角(グランド・セントラル駅のすぐ東)に建つ。ウィリアム・ヴァン・アレン (en) がウォルター・クライスラーによる自動車メーカー・クライスラー本社ビル建設プロジェクトのために設計した[7]。頂部・壁面・内装にアール・デコの装飾が施されている。もともとは自動車メーカーのために建てられたことから、各所に自動車をモチーフとした装飾が施されている。完成した1930年から1950年代半ばまでクライスラー社の本社が所在していたが、建設費はすべてウォルター・クライスラー個人の資産で支払われた[8]

現在はクライスラーの手を離れており、ドイツの投資会社とアメリカの不動産会社、保険会社が所有している。2008年7月にアラブ首長国連邦のファンドが所有権の75パーセントを買収した。2007年度にアメリカ建築家協会より発表されたAmerica’s Favorite Architecture(アメリカの人気建築物)では、第9位に選ばれている。このビルはアール・デコ建築の古典的代表作とみなされている。

18-8ステンレス鋼を最初に大量使用した建築物でもある。

クライスラー・ビルディングは高さ世界一の超高層ビルを目指して1928年9月19日に着工した。当時、ニューヨーク市内では高さ世界一を狙う超高層ビルの建設競争ブームの真っただ中であった[9][10]。この建設は特にウォール街のウォールタワーと世界一の高さを競って、当時としては猛烈なピッチで進められた。平均して1週間で4階分の高さを増していくというペースにも関わらず、この建設工事中に死亡した作業員はいなかった[11]。当初の計画では246メートルであったが[11][12]、ライバルのウォールタワーは高さ260メートルの計画で建設を進めていた。そこで、世界一を目指すウォルター・クライスラーの意向を受けて282メートルへと設計変更された[11]。しかしウォールタワーはさらに急遽計画を変更し、1930年4月に高さ283メートルで完成した。この時点ではいまだ竣工前の282メートルのクライスラー・ビルディングをわずかに上回り世界一のビルとなった。ところがウォールタワーの直前の設計変更を聞いていたクライスラー・ビルディングの設計者ウィリアム・ヴァン・アレンは、ウォルター・クライスラーの許可を得て、ビルの上に追加する38メートルの尖塔の製造を秘密裏に開始していた。この尖塔は4つのパーツに分けてビル内部で製造され、1929年10月23日に尖塔の底辺部分が一度ビルの上のドームに取り付けられ、すぐさまビルの66階の内部に戻された[13]

1930年5月20日に38メートルの尖塔を追加して319メートルとなり、クライスラー・ビルディングは完成した。5月27日にこのビルは一般に開業した。こうしてウォールタワーを上回り、世界一高いビルの座につくことができた。しかし、翌年の1931年にエンパイア・ステート・ビルディングの完成により、世界一の座を明け渡すことになる。それでもアメリカの1920年代の繁栄の歴史を物語るニューヨークの摩天楼の中の傑作である(なおクライスラー・ビルディングは世界一の座こそ僅か1年で明け渡したが、世界2位の座はシカゴにジョン・ハンコック・センターが出来るまで実に38年にもわたって維持している)。また尖塔の追加によりエッフェル塔の312.3メートルも抜き、ビル以外の建築物も含めて世界で一番の高さとなった(エッフェル塔は1957年のアンテナの追加により、現在はクライスラー・ビルディングよりも高い)。

ギャラリー[編集]

関連項目[編集]

登場する作品

  1. ^ Nash, Eric Peter; McGrath, Norman (1999). Manhattan Skyscrapers. Princeton Architectural Press. p. 63.

    ISBN 9781568981819. https://books.google.co.jp/books?id=l3aAA2Di1YkC&pg=PA63&dq=Chrysler+building+number+of+stories&q=&redir_esc=y&hl=ja

     
  2. ^ Chrysler Building”. ニューヨーク市歴史建造物保存委員会. 2020年8月14日閲覧。
  3. ^ Chrysler Building, Ground Floor Interior”. ニューヨーク市歴史建造物保存委員会. 2020年8月14日閲覧。
  4. ^ National Park Service (2 November 2013). “National Register Information System – Chrysler Building (#76001237)”. National Register of Historic Places. National Park Service. 2020年10月12日閲覧
  5. ^ Chrysler Building”. National Historic Landmark summary listing. National Park Service. 2015年2月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年1月15日閲覧。
  6. ^ クライスラー・ビルディングEmporis (英語)
  7. ^ 新建築社『NHK 夢の美術館 世界の名建築100選』新建築社、2008年、222頁。ISBN 978-4-7869-0219-2。
  8. ^ Pierpont, Claudia Roth (2002年11月18日). “The Silver Spire: How two men’s dreams changed the skyline of New York”. The New Yorker. http://www.jayebee.com/discoveries/criticism/silver_spire.htm 2011年10月23日閲覧。 
  9. ^ Emporis GmbH. “Emporis Data “…a celebrated three-way race to become the tallest building in the world.””. Emporis.com. 2010年9月27日閲覧。
  10. ^ The Manhattan Company – Skyscraper.org; “…’race’ to erect the tallest tower in the world.””. Skyscraper.org. 2010年9月27日閲覧。
  11. ^ a b c University of Wisconsin–Madison; School of Engineering – The Chrysler Building[リンク切れ]
  12. ^ Emporis GmbH. “– Chrysler Building”. Emporis.com. 2010年9月27日閲覧。
  13. ^ Stravitz 2002, Pages xiii (Paragraph 10) and 161. Image caption no.39

外部リンク[編集]