根粒菌 – Wikipedia

根粒菌(こんりゅうきん、Rhizobia)はマメ科植物の根に根粒を形成し、その中で大気中の窒素をニトロゲナーゼによって還元してアンモニア態窒素に変換し、宿主へと供給するいわゆる共生的窒素固定を行う土壌微生物。根粒内には宿主から光合成産物が供給されることにより、共生関係が成立している。

リゾビウム属、ブラディリゾビウム属、シノリゾビウム属、メソリゾビウム属などに分類される。

1888年にマルティヌス・ベイエリンクは、根粒菌を単離し、生物窒素固定を行うことを報告し、Bacillus radicicolaと名付けた。その後、アルバート・ベルンハルト・フランクはRhizobium leguminosarumと名前を付け直した[1]。ほとんどの研究は、ウマゴヤシ、ミヤコグサ、クローバー、アルファルファ、ダイズなどの作物および飼料豆類について行われてきた。

植物との共生関係[編集]

根粒菌は主にマメ科植物の根に侵入し、根粒という新しい器官を形成して、共生窒素固定を行う[2]

根粒形成[編集]

まず宿主植物の根が分泌した特定のフラボノイドを根粒菌内のNodDが感知すると、ノッド遺伝子群が発現し、ノッド因子が合成・分泌される。

宿主植物は共生相手特有のノッド因子を受容すると宿主植物の根毛先端に肥大化やブランチングなどが観察される[3]。細胞質のカルシウムスパイキングも根毛の基部で起きる[4]。次に、根毛でカーリングが起き、根粒菌は根毛に包み込まれる[5]。さらに、植物細胞壁の局所的な破壊や原形質膜の陥入などが起き、感染糸がつくられる。根粒菌が内部に入ると宿主植物根では皮層細胞の一部が脱分化、細胞分裂し、根粒原基ができあがる[6]。根粒原基に入った根粒菌は根粒原基内の植物細胞に取り込まれ、根粒原基が発達して成熟根粒となる[7]

根粒中で根粒菌はニトロゲナーゼにより大気中の窒素をアンモニアに固定する。その後、アンモニアはグルタミンやアスパラギンのようなアミノ酸に変えられて、植物に送られる。植物は根粒菌に炭水化物を供給[2]する。また、植物はレグヘモグロビンを使って酸素を供給する。これらにより、ニトロゲナーゼ活性の阻害防止のために根粒内の酸素を低く保ちながら、根粒菌の呼吸が促される。

根粒の種類[編集]

マメ科植物に形成される根粒には根粒内の細胞の発達段階が均一の有限型根粒と、根粒内が発達段階でわかれている無限型根粒がある[8]

宿主特異性[編集]

宿主植物と根粒菌の関係は、一部の例外をのぞいて厳密な宿主特異性に支配されている。たとえば、S. melilotiはアルファルファに、B. japonicumはダイズに根粒を形成し、それらが交雑することはない。こうした宿主特異性の認識は植物根から分泌されるフラボノイド等の化学物質を認識して根粒菌nod遺伝子群が活性化しノッド因子を合成・分泌する段階と、そのノッド因子を植物が認識・受容して根粒形成と感染のプロセスが開始する段階の、少なくとも2段階ある[9]

農業上の利用[編集]

1960年代の緑の革命により作物生産量は飛躍的に増加した。その作物生産量の増加に大きな役割を果たしたのが化学肥料であり、現代農業において窒素肥料は不可欠なものとなっている。化学肥料は、二酸化炭素や一酸化窒素の排出、あるいは河川の富栄養化などが問題になっている[10]。一方、地球上での生物による空気中窒素の固定の総量[11]の約半分が農業用地で固定されているため、窒素固定生物の利用は、温室効果ガス排出削減や河川の生態系への影響抑制に繋がる。

  1. ^ 横山正. (https://www.gene.affrc.go.jp/pdf/misc/event-NIAS_WS_20130128_abs03.pdf)ジーンバンク MAFF 根粒菌株の再分類からみた温故知新. 
  2. ^ a b M., Martinko, John; 1977-, Bender, Kelly S.; Hezekiah), Buckley, Daniel H. (Daniel; 1949-, Stahl, David Allan. Brock biology of microorganisms. ISBN 9780321897398. OCLC 857863493 
  3. ^ Cárdenas, Luis; Thomas-Oates, Jane E. (2003-4). “The role of nod factor substituents in actin cytoskeleton rearrangements in Phaseolus vulgaris”. Molecular plant-microbe interactions 16 (4): 326–334. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12744461. 
  4. ^ Shaw, Sidney L.; Long, Sharon R. (2003-8). “Nod Factor Inhibition of Reactive Oxygen Efflux in a Host Legume”. Plant Physiology 132 (4): 2196–2204. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC181303/. 
  5. ^ Ridge, R. W. (1993). “model of legume root hair growth and Rhizobium infection”. Symbiosis. http://agris.fao.org/agris-search/search.do?recordID=US201301769891. 
  6. ^ Yang, W. C.; de Blank, C. (1994-10). “Rhizobium nod factors reactivate the cell cycle during infection and nodule primordium formation, but the cycle is only completed in primordium formation”. The Plant Cell 6 (10): 1415–1426. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7994175. 
  7. ^ 共生のしくみ-植物と土壌微生物の遺伝子ネットワーク
  8. ^ Pawlowski, K; Bisseling, T (1996-10). “Rhizobial and Actinorhizal Symbioses: What Are the Shared Features?”. The Plant Cell 8 (10): 1899–1913. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC161323/. 
  9. ^ Nod-factorを介したマメ科植物・根粒菌の相互作用 1999年9月15日著
  10. ^ “化学肥料と地球の未来”. ナショナルジオグラフィック. (2013-05). https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20130419/348186/. 
  11. ^ 横山正 (2003). 土壌微生物生態学. 朝倉書店 

関連項目[編集]