栄 (エンジン) – Wikipedia
栄(さかえ)は、第二次世界大戦期に中島飛行機が開発・製造した空冷星型航空機用レシプロエンジンである。
海軍名称は栄、陸軍にハ25として採用された後、性能向上型としてハ105、ハ115。後に陸海軍統合名称としてはハ35と呼称されるようになる。複列14気筒でバルブ駆動方式はOHV。遠心式の過給器で過給された。設計的には、中島がライセンス生産していたプラット・アンド・ホイットニー製エンジンの影響を受けている。
零式艦上戦闘機・一式戦闘機「隼」のエンジンとして有名であり、合計33,233基が製造された。このエンジンを元に18気筒化し、誉(ハ45)が開発された。
時期によっては、当時の日本のエンジンにはメーカー製のマニュアルがなく、現場の整備兵に依存していたなどと記載されている書籍や記述もあるが、欧米並みとまでは行かないまでも、大半の発動機において、整備兵が読解できれば理解できる程度のメーカー製マニュアルが現存している事[1]から、マニュアルがなかったというのは語弊がある。
そのうち、栄の信頼性が比較的高かったのは、零戦や一式戦などの主力戦闘機に使われたことで整備兵側での知識共有が進んでいたことや、同発動機自体の整備性が高かったことなど、結果的に「栄」搭載機の整備が安定して行われていたためと思われる。とはいえ、現場側でも徒弟制度由来の教育方針が根強かったことからマニュアルが活用されない傾向が強く、実際、「誉」発動機の飛行第47戦隊付「整備指揮小隊」の一件のように、日本の整備教育に問題があったことも事実である。
主要諸元[編集]
栄一一型(ハ35-11)[編集]
- タイプ:空冷複列星型14気筒
- ボア×ストローク:130mm×150mm
- 排気量:27.86L
- 減速比:0.6875
- 全長:1,472mm
- 直径:1,150mm
- 乾燥重量:530 kg
- 圧縮比:6.7
- 燃料供給方式:昇流キャブレター式
- 過給機:遠心式スーパーチャージャー1段1速(インペラ直径280㎜ 増速比7.12)
- 離昇馬力
- 1,000 PS/ 2,550 rpm / ブースト+250 mmhg
- 公称馬力
- 980 PS/ 2,500RPM / ブースト+150 mmhg (高度3,000 m)
栄一二型(ハ35-12)[編集]
- 燃料供給方式:昇流キャブレター式
- 過給機:遠心式スーパーチャージャー1段1速(インペラ直径290㎜ 増速比7.53)
- 離昇馬力
- 940 PS/ 2,550 rpm/ ブースト+250 mmhg
- 公称馬力
- 950 PS/ 2,500 rpm / ブースト+150 mmhg (高度4,200 m)
ハ25[編集]
- 全長:1,315mm(二号慣性始動機取付時)1,472mm(四号慣性始動機取付時)
- 燃料供給方式:昇流キャブレター式 (87オクタンガソリン)
- 過給機:遠心式スーパーチャージャー1段1速インペラ直径280㎜ 増速比7.12)
- 離昇馬力
- 990 PS/ 2,700 rpm/ ブースト+225 mmhg
- 公称馬力
- 970 PS/ 2,600 rpm / ブースト+130 mmhg (高度3,400m)
ハ105[編集]
- 全長:1,470mm
- 直径:1,150mm
- 乾燥重量:571kg
- 圧縮比:7.0
- 燃料供給方式:キャブレター式
- 過給機:遠心式スーパーチャージャー1段2速(インペラ直径290㎜ 増速比 1速6.37 2速8.44)
- 離昇馬力
- 1160 PS/ 2,800 rpm/ ブースト+300 mmhg
- 公称馬力
- 一速全開1100 PS/ 2,700 rpm / ブースト+200 mmhg (高度2,200m)
- 二速全開1000 PS/ 2,700 rpm / ブースト+200 mmhg (高度5,450m)
栄二一型(ハ35-21)[編集]
- 減速比:0.5833
- 全長:1,630 mm
- 直径:1,150 mm
- 乾燥重量:590kg
- 圧縮比:7.0
- 燃料供給方式:降流キャブレター式
- 過給機:遠心式スーパーチャージャー1段2速(インペラ直径305㎜ 増速比 1速6.37 2速8.44)
- 離昇馬力
- 1,130 PS/ 2,750 rpm / ブースト+300 mmhg
- 公称馬力
- 一速全開 1,100 PS/ 2,700 rpm / ブースト+200 mmhg (高度2,850 m)
- 二速全開 980 PS/ 2,700 rpm / ブースト+200 mmhg (高度6,000 m)
栄二二型(ハ35-22)[編集]
- 諸元は全て栄二一と同じでプロペラの回転方向のみが逆
ハ115(ハ35-23)[編集]
- 減速比:0.6875
- 全長:1,470 mm
- 直径:1,150 mm
- 乾燥重量:585 kg
- 圧縮比:7.0
- 燃料供給方式:キャブレター式(92オクタンガソリン又は87オクタンガソリン+メタノール)
- 過給機:遠心式スーパーチャージャー1段2速(インペラ直径305㎜ 増速比 1速6.37 2速8.44)
- 離昇馬力
- 1,077 PS/ 2,800 rpm / ブースト+300 mmhg(92オクタン)
- 1,142 PS / 2,800 rpm / ブースト+300 mmhg(87オクタン+メタノール)
- 公称馬力
- 一速全開 1,070 PS/ 2,700 rpm / ブースト+200 mmhg (高度2,800m)(92オクタン)
- 一速全開 1,150 PS/ 2,700 rpm / ブースト+200 mmhg (高度2,800m)(87オクタン+メタノール)
- 二速全開 940 PS/ 2,700 rpm / ブースト+200 mmhg (高度5,400m)(92オクタン)
- 二速全開 990 PS/ 2,700 rpm / ブースト+200 mmhg (高度5,400m)(87オクタン+メタノール)
栄三一型(ハ35-31)[編集]
- 減速比:0.5833
- 直径:1,150 mm
- 乾燥重量:671 kg
- 圧縮比:7.0
- その他:水メタノール噴射装置
- 燃料供給方式:キャブレター式
- 過給機:遠心式スーパーチャージャー1段2速(インペラ直径305㎜ 増速比 1速6.37 2速9.00)
- 離昇馬力
- 1,110 PS/ 2,800rpm / ブースト+300 mmhg
- 公称馬力
- 一速全開 1,180 PS/ 2,800 rpm / ブースト+300 mmhg (高度2,100 m)
- 二速全開 1,090 PS/ 2,800 rpm / ブースト+300 mmhg (高度5,950 m)
栄三一甲型(ハ35-31甲)[編集]
- その他:製造済の栄三一型から水メタノール噴射装置を撤去
- 燃料供給方式:キャブレター式
- 過給機:遠心式スーパーチャージャー1段2速(インペラ直径305㎜ 増速比 1速6.37 2速9.00)
- 離昇馬力
- 1,100 PS/ 2,800 rpm / ブースト+300 mmhg
- 公称馬力
- 一速全開 1,080 PS/ 2,700 rpm / ブースト+200 mmhg (高度2,700 m)
- 二速全開 950 PS/ 2,700 rpm / ブースト+200 mmhg (高度7,000m)
- 離昇馬力
栄三一乙型(ハ35-31乙)[編集]
- 設計・製造段階で水メタノール噴射装置を廃して生産された栄三一型、又過給機増速比を栄21型と同じに変更
- 燃料供給方式:キャブレター式
- 過給機:遠心式スーパーチャージャー1段2速(インペラ直径305㎜ 増速比 1速6.37 2速8.44)
- 離昇馬力
- 1,050 PS/ 2,800 rpm / ブースト+300 mmhg
- 公称馬力
- 一速全開 1,020 PS/ 2,700 rpm / ブースト+200 mmhg (高度2,550 m)
- 二速全開 910 PS/ 2,700 rpm / ブースト+200 mmhg (高度6,850)
栄三一丙型(ハ35-31丙)[編集]
- 栄三一乙に水メタノール噴射装置を取り付けた型
ハ115-II(ハ35-32)[編集]
- 減速比:0.6875
- 圧縮比:7.0
- その他:水メタノール噴射装置
- 燃料供給方式:降流キャブレター式
- 過給機:遠心式スーパーチャージャー1段2速(インペラ直径305㎜ 増速比 1速6.37 2速9.00)
- 離昇馬力
- 公称馬力
- 一速全開 1,230 PS/ 2,700 rpm(高度2,800 m)
- 二速全開 950 PS/ 2,700 rpm (高度6,800 m)
主な搭載機[編集]
現存する栄[編集]
参考文献[編集]
- 中川良一・水谷総太郎『中島飛行機エンジン史』(酣灯社、1985年5月)
- エイ出版社編集部 栄発動機二〇型取扱説明書 完全復刻版 ISBN 978-4777954537
- アジア歴史資料センター「九九式950馬力発動機説明書送付の件」Ref.C01004945200
- 零式艦上戦闘機 取扱説明書 昭和19年10月 海軍航空本部 発刊
- 発動機教程(案)二式1150馬力発動機 昭和19年9月 所沢陸軍航空整備学校
外部リンク[編集]
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