モーロックの巻物 – Wikipedia

モーロックの巻物』(モーロックのまきもの、原題:英: The Scroll of Morloc)は、アメリカ合衆国のホラー小説家リン・カーターによる短編ホラー小説。クトゥルフ神話の1つで、『ファンタスティック』1976年8月号に掲載された。

ハイパーボリアを舞台に、ヴーアミ族の祈祷師イエーモグを主人公として、ノフ=ケーとヴーアミの歴史と因縁を描いている。人類以前の種族の歴史であり、ハイパーボリア史でも古代にあたる。ツァトゥグァとラーン=テゴスの敵対が、配下の奉仕種族同士の関係にも持ち込まれている。

カーターは本作にて、ラヴクラフトが創造したラーン=テゴス&ノフ=ケーと、スミスが創造したツァトゥグァ&ヴーアミを、因縁で結び付けた。ラヴクラフトの設定では、ノフケーは太古のグリーンランドを支配したとされ、本作では北の大陸ハイパーボリアにアレンジする形で掘り下げが行われた。また、フランシス・レイニーとオーガスト・ダーレスはラーン=テゴスとノフ=ケーを結び付けており、カーターは踏襲した上で作品に盛り込んだ。ノフ=ケー/ノフケーのハイフン有無の表記ぶれは、ラヴクラフト自身統一していないブレである。

実書籍「エイボンの書」に収録されており、同書の解説ではラヴクラフトの『永劫より』の神官トヨグの物語のアレンジバージョンであると指摘されている。[1]

あらすじ[編集]

蛇人間の奴隷であったヴーアミ族は、主人が滅びたことで解放される。それまでハイパーボリア極北地域はラーン=テゴス神を崇拝するノフケー族によって支配されていたが、ヴーアミ族は彼らを追い払い領土を奪い取る。このとき、ノフケーの「モーロックの巻物」が、ヴーアミ族の手に渡る。以後ノフケーとヴ―アミは敵対をくり返していたが、あるときヴーアミ族は弱体化して地底へと逃れ、また太祖ヴ―アムによりツァトゥグァ崇拝が広まる。

祈祷師イエーモグは、己を最高のツァトゥグァ信徒と自負し、大祭司に立候補するも、七たびに渡り拒否される。選ばれなかったイエーモグは離反して、同胞への意趣返しのために、ツァトゥグァの神殿に厳重に封印されているモーロックの巻物を盗み出すことを企てる。イエーモグは魔術で門番を眠らせ、神殿へと侵入し、巻物の入手に成功するが、そこでさらなる冒涜行為を思いつく。それは聖なるツァトゥグァの神殿で、敵対する神の儀式を行うということであった。

イエーモグは巻物に書かれた呪文を読み上げる。呪文はヴーアミ族の発声器官には向いていないものであったが、読んでいくうちに発声が容易になっていき、イエーモグが気づいたときには、彼はノフケー族そっくりの姿へと変わり果てていた。イエーモグが予想外の事態に絶叫すると、目覚めた門番たちがやって来る。ノフケーに成り果てたイエーモグは、賊として捕まり処刑される。

主な登場人物・用語[編集]

ヴーアミ族[編集]

  • ツァトゥグァ – 大地のオールド・ワン。地中の闇の洞窟に棲まうと信じられている。イエーモグが見たことがあるのは粗雑な岩像ばかりであったが、地下神殿の聖なる最奥には見事な黒曜石の像が祀られている。
  • ヴーアミ族 – ハイパーボリアの亜人種族。ツァトゥグァを崇拝する蛮族だが、この時期は弱体化していた。
  • 太祖ヴ―アム – 古代ヴーアミ族の族長・司教。己を神ツァトゥグァとシャタクの子と称し、ヴーアミ族にツァトゥグァのように地下に棲まうという教理を提唱した。
  • イエーモグ – 主人公。ヴーアミ族の祈祷師。大司祭に選ばれないことに憤り、己の神を侮辱する。

ノフケー族[編集]

  • ラーン=テゴス – 大気のオールド・ワン。宇宙の猥褻神。
  • ノフケー – 毛むくじゃらで四腕の獣人種族。共食いすら行う。ヴーアミとは敵対している。
  • モーロック – 古代の、ノフケー族の祈祷師。神ラーン=テゴスの化身とも伝わる。
  • 『エイボンの書 クトゥルフ神話カルトブック』新紀元社

関連作品[編集]

注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^ 新紀元社『エイボンの書』56ページ。