浅岡肇 – Wikipedia

日本初となる自社製トゥールビヨンムーブメントを搭載した腕時計(2009年発表)

浅岡 肇(あさおか はじめ、1965年 – )は、日本の時計師、プロダクトデザイナー。独立時計師アカデミー(AHCI)所属。東京時計精密株式会社創業者。東京藝術大学デザイン科卒業。神奈川県茅ヶ崎市出身[1]

高級腕時計を革新的な方法で作る日本人初の独立時計師で、日本初となる自社製トゥールビヨンムーブメントを搭載した腕時計を発表した[2][3][4]

浅岡自身の名を関したHAJIME ASAOKA Tokyo Japanの時計は、浅岡自身のアトリエでデザインからほぼすべての部品製造、組み立てにいたるすべての工程が行われる。年間製造本数は数本であり、顧客には王室や世界的な時計コレクターが名を連ねる[5][6][7]

1990年、東京藝術大学デザイン科卒業。その後、プロダクトデザイナーとしてキャリアを歩んだ[8]。1990年代半ばに腕時計セレクトショップTiCTACの依頼によりModernicaとコラボレーションした時計をデザイン。浅岡初の腕時計のデザインであった[9]。また、グラフィックデザイナーとしても活動し、ダンヒルなど多くの大手ブランドの広告のグラフィックを手がけた[10]

2005年、独学で時計製造を学んだ後、時計製作を開始[11]

2009年、日本で初めて自社製ムーブメントにトゥールビヨンを搭載した腕時計を発表(画像参照)、雑誌BRUTUSに掲載される[12]

2011年、2009年に発表したトゥールビヨン腕時計を改良し、時針・分針をセンターに配置したTourbillon#1を銀座・和光で発売(当時税込価格682万5000円[13][14])。このTourbillon#1の一般発売を以て、日本初の独立時計師として活動を開始した[15]

2012年、村上隆とのコラボレーションモデルである Hajime Asaoka × Takashi Murakami TOURBILLONを発表[16]

2013年よりスイスのバーゼルワールドに毎年出展(~2019年)。同年に独立時計師アカデミーの会員候補(Candidate)となる。三針モデルTSUNAMIを発表。ムーブメントの約半分にあたる大きさの15ミリ径(初期は16ミリ径)という大型のフリースプラングテンプが特徴のロービートモデルである[17]

2014年、航空・宇宙産業に携わる由紀精密、工具メーカーOSGとコラボレーションしたProject Tを発表[18]。一部の軸受けにはルビーの代わりにボールベアリングが用いられている。トゥールビヨンキャリッジや輪列には、日本製の世界最小ボールベアリング(当時)を搭載[19]

2015年、独立時計師アカデミーの会員となる。TASAKIの初の腕時計コレクションであるタサキ タイムピーシーズのオデッサトゥールビヨン(当時税込価格 2916万円)を製作[20]

2016年、東京時計精密株式会社設立。同年、トゥールビヨン ピュラを発表。トゥールビヨンの機能美を追求したモデルで、トゥールビヨンキャリッジはA7075ジュラルミンを削り出したものを使用。[21]

2017年、バーゼルワールドで自身の設計によるクロノグラフ[22]を世界3本限定で発表。税込価格は1296万円(当時)。

2018年、HAJIME ASAOKA Tokyo Japanのサブブランド(セカンドライン)として時計ブランド「CHRONO TOKYO」(クロノトウキョウ)を腕時計セレクトショップのTiCTACとのコラボレーションによりスタート。CHRONO TOKYOのコンセプトは「浅岡肇のプライベートウォッチ」であり、浅岡肇がデザインを手がけ、東京時計精密が製造する高級時計ブランドである[23][24]。同年、世界巡回展「Watchmakers:The Masters of Art Horology」に参加し、ローマ、ニューヨーク、ロンドン、香港にてHAJIME ASAOKA Tokyo Japanの時計を展示[25]

2019年、CHRONO TOKYOの海外向けブランドとして、カタカナの「クロノ」のロゴを有するブランド「KURONO BUNKYŌ TOKYO」を開始[26]

2020年、KURONO BUNKYŌ TOKYOの2モデルが、時計業界において「時計界のオスカー」[27]と呼ばれるジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ2020(GPHG2020)にノミネート。ノミネートされたモデルはクロノグラフ1(クロノグラフ部門)[28]とアニバーサリーグリーン’森:mori’(チャレンジ部門)[29]。日本の漆を文字盤に用いたKURONO BUNKYŌ TOKYOの腕時計「グランド:茜」(価格35万円・世界限定200本)が予約開始後1分半が完売[30]

2021年、KURONO BUNKYŌ TOKYOの腕時計「クロノグラフ2」(価格41万8千円・世界限定500本)が予約開始後3分半で完売[31]

KURONO BUNKYŌ TOKYOの時計「クロノグラフ2」

代表モデル[編集]

1950年代から60年代の腕時計の古典的様式を再現しているのが特徴。先端の曲げられた針や、中心部から外端にかけてなだらかなカーブを描くボンベ文字盤を外観の特徴とする。また時計の心臓部であるテンプは、現行品約1.5倍サイズの15ミリ前後と非常に大型のものを採用している[32]。針、文字盤、歯車など部品の製作から、時計の組立、仕上げに至るまで浅岡のアトリエで行われている[33]

37ミリのケース径をもつ三針時計。浅岡が設計したムーブメントは、ムーブメント直径の約半分に及ぶ直径15ミリ(初期は16ミリ)の大型のフリースプラングテンプを搭載。ゆったりと動くテンプは「出テンプ」と呼ばれる懐中時計に見られるもので、受け (ブリッジ) の一番高いところよりもテンプを高く配置することで、裏蓋とムーブメントの間のデッドスペースを活用している。ムーブメントの地板や受け(ブリッジ)は洋銀製。TSUNAMIはユニークピースも数種類存在[34][35][36]

浅岡が日本の技術力を証明するために世に送り出した作品。浅岡肇の時計製造と、航空・宇宙産業に携わる由紀精密と工具メーカーOSGによる加工技術を採用。一部の軸受けにはルビーの代わりにボールベアリングを用いることで軸の破損を減らし、耐久性を向上させている。日本製の世界最小ボールベアリング(ミネベアミツミ製)がキャリッジの中心に1個、輪列に4個使われている[37]。トゥールビヨンを含む調速装置はモジュールとして独立した構造をしている[38]。この構造は、軸受けにおいてルビーよりも正確な軸の位置決めが要求されるボールベアリングの使用には欠かせない構造である。

トゥールビヨンの機能美を追求したモデル。トゥールビヨンキャリッジはA7075ジュラルミンを削り出したものである。A7075ジュラルミンは航空機やライフルに使用される素材で、比重の低さと耐久性を特徴としている。A7075ジュラルミンをトゥールビヨンキャリッジの素材に用いる利点として、香箱から供給されるエネルギーがトゥールビヨンキャリッジの回転に過度に配分されるのを防ぎ、振り角を高く維持できることが挙げられる。テンプにはトゥールビヨンとしては珍しいフリースプラングテンプを採用、緩急を調整してもテンプの軸が中心からずれない利点がある。「ピュラ」の名のごとく、シンプルなデザインだが、その分、針の丸みを帯びた仕上げや、面取りの施されたトゥールビヨンブリッジ、ゆがみなく仕上げられたケースなどの「高級時計のディテール」が際立っている[39]

1950年代~60年代の手巻クロノグラフを発展させたクロノグラフ。時分針はオフセットに配置し、オープンダイアルでクロノグラフの「複雑なメカがもつ美しさ」を表現。スイス製最高級クロノグラフのごく一部でのみ採用されてきたキャップ付きのコラムホイールを筆頭に[40]、キャリングアームの水平クラッチ、ブレーキレバー、2プッシュボタン、スライディングギア等の機構を省略することなく搭載し、一つ一つの部品に高級時計の伝統的な仕上げが施されている。クロノグラフムーブメントは三針時計TSUNAMIのムーブメントをベースとし、クロノグラフモジュールが載っている。15ミリという大型のフリースプラングテンプを有し、駆動のための香箱も大型である。そのことにより水平クラッチの欠点である、クロノグラフ作動時の振り角の減少を最小限に防いでいる[41]

サブブランド(セカンドライン)[編集]

CHRONO TOKYO(クロノトウキョウ)
2018年に設立された腕時計セレクトショップTiCTACとのコラボレーションブランド。CHRONO TOKYOの時計は浅岡肇が設計・デザイン、浅岡が代表を務める東京時計精密株式会社が製造。ムーブメントには国産汎用ムーブメントが使用されている。コンセプトは「浅岡肇のプライベートウォッチ」であり、浅岡は本ブランドの時計を機械式時計の入門機と位置付けている[42]
KURONO BUNKYŌ TOKYO(クロノ ブンキョウ トウキョウ)
2019年にCHRONO TOKYOの海外向けブランドとして設立。カタカナの「クロノ」のロゴを持つ。ブランド名の由来は浅岡肇が代表を務める東京時計精密株式会社が東京都文京区にあることから。2020年に「時計界のオスカー」にあたるジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ2020(GPHG2020)にクロノグラフ1(クロノグラフ部門)[28]とアニバーサリーグリーン’森:mori’(チャレンジ部門)[29]がノミネートされた。2022年現在、クリスティーズ[43]やアンティコルム[44]などの世界的なオークションにおいて高値で取引されている。

海外出展歴[編集]

  • 2013年~2019年 バーゼルワールド(スイス、バーゼル)
  • 2018年 Watchmakers: The Masters of Art Horology(ローマ、ニューヨーク、香港、ロンドン)[45]

家族・親族[編集]

  • ジャパン・メイド トゥールビヨン 超高級機械式腕時計に挑んだ日本のモノづくり(編著)-日刊工業新聞社、2015年、ISBN 978-4526074646
  1. ^ 手作りとハイテクの融合から生まれる「理想の機械式時計」現代の独立時計師、浅岡肇、VISIONARY MAGAZINE BY LEXUS、2018年4月9日
  2. ^ 〝独立時計師・浅岡肇のプライベートウォッチ〟がコンセプト––「クロノトウキョウ」の魅力に迫る”. webChronos (2021年12月30日). 2022年1月6日閲覧。
  3. ^ LEXUS NEWS”. LEXUS (2018年4月9日). 2021年10月8日閲覧。
  4. ^ 東京時計精密株式会社公式Facebookページ”. 東京時計精密 (2021年11月12日). 2021年11月15日閲覧。
  5. ^ 独立時計師・浅岡肇がデザイン・設計する機械式腕時計「クロノトウキョウ」”. チックタック. 2021年4月8日閲覧。
  6. ^ Why I Bought It: Hajime Asaoka Tsunami”. QUILL & PAD. 2021年4月8日閲覧。
  7. ^ 堀 聡 (2021年10月17日). “国産時計の小宇宙”. 日本経済新聞社: p. 10 
  8. ^ 『ART BOX international 現代日本の家具』ART BOX international inc、20070401、14-15頁。

    ISBN 9784872987713。

  9. ^ 世界が注目する独立時計師、浅岡肇の時計遍歴をたどりながら「プロダクトとして時計を作る、その原点」”. 時計Begin. 2021年4月8日閲覧。
  10. ^ HIGHFLYERS/#16 Vol.2”. HIGHFLYERS. 2021年4月16日閲覧。
  11. ^ HAJIME ASAOKA”. AHCI. 2021年4月8日閲覧。
  12. ^ 『BRUTUS No.666』マガジンハウス、2009年7月1日、134頁。
  13. ^ 日本人独立時計師の手によるトゥールビヨンウオッチ「Tourbillon#1」、itmedia.jp、2011年7月4日
  14. ^ Hands-On With The Hajime Asaoka Tourbillon #1: High-End Independent Watchmaking, From Japan”. HODINKEE (2012年10月17日). 2021年11月11日閲覧。
  15. ^ 和光イベント案内”. 和光 (2011年3月1日). 2022年3月11日閲覧。
  16. ^ Takashi Murakami x Hajime Asaoka “Death Takes No Bribe” Tourbillon Watch”. Hypebeast (2013年1月23日). 2022年3月18日閲覧。
  17. ^ ツナミ”. 公式サイト. 2021年4月8日閲覧。
  18. ^ プロジェクトT”. HAJIME ASAOKA. 2021年4月8日閲覧。
  19. ^ 日本の独立時計師が語るジャパンテクノロジー(浅岡肇編)、web Chronos、2019年9月17日
  20. ^ TASAKIが高級腕時計市場に参入 浅岡肇によるトゥールビヨンも、fashionsnap.com、2015年6月3日
  21. ^ トゥールビヨン ピュラ”. HAJIME ASAOKA. 2021年4月8日閲覧。
  22. ^ クロノグラフ”. HAJIME ASAOKA. 2021年4月8日閲覧。
  23. ^ CHRONO TOKYOクロノグラフをデザイン・設計した独立時計師・浅岡肇氏の腕時計へのパッションとは?、TiCTAC、2020年12月22日
  24. ^ CHRONO TOKYO”. 東京時計精密株式会社. 2021年4月8日閲覧。
  25. ^ watchmakers”. Maxima Gallery. 2021年4月13日閲覧。
  26. ^ Hajime Asaoka: Chrono and Kurono, Bunkyō Tokyo”. Grail watch. 2021年4月8日閲覧。
  27. ^ 「ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG)」はいかにして時計業界の黄金律になったのか?”. シムサムメディア (2020年11月21日). 2021年10月18日閲覧。
  28. ^ a b KURONO TOKYO BY HAJIME ASAOKA KURONO CHRONOGRAPH 1”. GPHG. 2021年4月8日閲覧。
  29. ^ a b KURONO TOKYO BY HAJIME ASAOKA KURONO ANNIVERSARY GREEN ‘森:MORI’”. GPHG. 2021年4月8日閲覧。
  30. ^ 堀 聡 (2021年10月17日). “国産時計の小宇宙”. 日本経済新聞社: p. 11 
  31. ^ Chronograph2 post”. Kurono by Hajime Asaoka. 2021年4月8日閲覧。
  32. ^ 堀 聡 (2021年10月17日). “国産時計の小宇宙”. 日本経済新聞社: p. 10 
  33. ^ 堀 聡 (2021年10月17日). “国産時計の小宇宙”. 日本経済新聞社: p. 10 
  34. ^ TSUNAMI”. HAJIME ASAOKA. 2021年4月9日閲覧。
  35. ^ TSUNAMI UNIQUE PIECE”. 時計Begin. 2021年4月9日閲覧。
  36. ^ TSUNAMI”. 時計Begin. 2021年4月9日閲覧。
  37. ^ 日本経済新聞”. 日本経済新聞社 (2014年8月16日). 2021年10月8日閲覧。
  38. ^ Project T”. HAJIME ASAOKA. 2021年4月9日閲覧。
  39. ^ TOURBILLON PURA”. HAJIME ASAOKA. 2021年4月9日閲覧。
  40. ^ Precision Watch Tokyo Co., Ltd. 東京時計精密株式会社Facebookアカウント” (2021年10月14日). 2021年10月15日閲覧。
  41. ^ Chronograph”. HAJIME ASAOKA. 2021年4月9日閲覧。
  42. ^ 独立時計師・浅岡肇氏のこだわりを凝縮した「CHRONO TOKYO」#1”. TiCTAC (2018年10月5日). 2021年10月8日閲覧。
  43. ^ Christie’s Kurono Mori”. Christies (2021年12月11日). 2022年1月6日閲覧。
  44. ^ Antiquorum Kurono Chronograph2”. Antiquorum (2021年11月7日). 2022年1月6日閲覧。
  45. ^ watchmakers”. Maxima Gallery. 2021年4月13日閲覧。
  46. ^ 東京時計精密株式会社Facebookアカウント” (2021年6月26日). 2021年10月13日閲覧。
  47. ^ 東京時計精密株式会社Facebookアカウント” (2021年6月26日). 2021年10月13日閲覧。
  48. ^ 東京時計精密株式会社Facebookアカウント” (2021年6月26日). 2021年10月13日閲覧。
  49. ^ 東京時計精密株式会社Facebookアカウント” (2021年6月26日). 2021年10月13日閲覧。
  50. ^ 東京時計精密株式会社Facebookアカウント” (2021年6月26日). 2021年10月13日閲覧。

外部リンク[編集]