妖術師の宝石 – Wikipedia

妖術師の宝石』(ようじゅつしのほうせき、原題:英: The Sorserer’s Jewel)は、アメリカ合衆国のホラー小説家ロバート・ブロックによる短編ホラー小説。クトゥルフ神話の1つで、『ウィアード・テールズ』1939年2月号に掲載された。幾何学や光学と写真術にオカルトを導入している。結晶体に、コズミック・ホラーの角度が絡む。「セクメトの星」という呪物がキーアイテムとなっており、名に冠されているセクメトはエジプト神話の牝ライオンの頭を持つ女神である。ブロックのエジプトもの作品の一環であるが、起源がエジプトであるだけで、他作品ほどにエジプトを強調していない。

東雅夫は『クトゥルー神話事典』にて、のバリエーションであり、写真術の導入に新味を打ち出していると解説し、また神話大系との関わりは希薄と指摘している。[1]

あらすじ[編集]

宝石「セクメトの星」が、エジプトからローマへと持ち去られる。以後は所有者を転々とし、ルードヴィヒ・プリンは「妖蛆の秘密」に記すも、所有者は非業の最期を遂げていく。帝政ロシア末期、ラスプーチンが所有していた宝石は、さらに流れてアイザック・ヴ―アデンの骨董店へとたどり着く。

語り手のわたしはオカルトの知識を買われて、写真家のデイヴィッド・ナイルズの技術顧問となる。ナイルズが求める幻想写真には、特別なレンズが必要という結論に至り、わたしは友人アイザックからエジプトの水晶「セクメトの星」を入手する。一見すると単なる曇りレンズにしか見えず、ナイルズは使い物にならないと評する。わたしがレンズを覗き込むと、異界の地獄めいた光景が映し出されて驚く。わたしから勧められたナイルズもレンズの中の光景を目にする。

ナイルズは幻覚だろうと言うが、わたしは否定し、オカルト的に説明をつける。ナイルズは理解できずにいたが、素晴らしい物が撮れることがわかったことを喜び、さっそく撮影に臨もうとする。だが、わたしは、見続けたら狂うと警告し、こちらから見えたということはあちらからも察知されたのだと危険性を念押しする。それでもナイルズは撮影をやめようとはせず、わたしには怖いならスタジオを離れているように言う。

ナイルズに言われた通り、わたしはスタジオを離れ、アイザックにレンズの効果を報告に行くが、アイザックは苦しんだ痕跡もなく静かに死んでいた。彼は書きかけの調査メモを残しており、わたしはレンズの歴代所有者が死んでいることを知る。わたしが鍵のかかったスタジオに駆け込んだとき、ナイルズはいなかった。残されたフィルムを現像すると、写真の中心には、首をひきちぎられたナイルズの死体が映っていた。わたしは、シャッターが切られた直後、異界のものどもが「光よりも速い速度で」ナイルズを異界へと引きずり込み、写真が撮られたことを理解し、恐怖する。

主な登場人物[編集]

  • デイヴィッド・ナイルズ – 一流カメラマン。感情的な行動家。リアリストの科学者。幻想写真を撮りたいと渇望する。
  • わたし – 語り手。内向的な夢想家。オカルト研究者。
  • アイザック・ヴ―アデン – 老齢の骨董店主・呪物コレクターで、わたしとは友人関係にある。
セクメトの星
異界の光景を映し出す、呪われた宝石。本作の重要アイテムとして登場する水晶であり、加工されてカメラのレンズに用いられた。一見すると、ただの曇りレンズにしか見えず、カメラに使えそうもない。
作中でアイザックが解説するところによると、もとは、エジプトのセクメト像の王冠に嵌め込まれていたものであるという。文献「妖蛆の秘密」にも記載がある。ローマ人がエジプトから持ち帰り、所有者を転々としていた。月の女神ディアーナの神官が持っていたものを、奪い取った蛮族がカットした。大アクセノス(不明の人物)は賢者の石として用いて、精霊を操ったと伝わる。ジル・ド・レェ、サン・ジェルマン伯爵、ラスプーチンなども歴代所有者であったというが、総じて非業の死を遂げている。その後、アイザック・ヴ―アデンの骨董店へと流れつく。
覗き込むと、超次元の存在が見えてくる。角度や影面によって人間が見えるように変化するが、逆に彼らの方も人間の生命を引きずり込もうと待ち受けている。
セクメトは、エジプト神話の「牝ライオンの頭を持つ女神」である。しかしこのアイテムと逸話は、ロバート・ブロックによる完全なフィクションである。この宝石は、判明している最古の紀元が古代エジプトの神像の宝飾であったという。ブロックのエジプトもの作品の一環であるが、起源がエジプトであるだけで、他作品ほどにエジプトを強調していない。
クトゥルフ神話のアイテムとしては、異界の光景を映し出したりする、宝石・結晶体タイプの呪物であり、類例もある。「セクメトの星」は、当作品以外の作品での再登場例はみられず、単発アイテムとなっている。

関連項目[編集]

注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^ 学習研究社『クトゥルー神話事典第四版』483ページ。