歌こそは君 – Wikipedia

歌こそは君」(うたこそはきみ)あるいは「ソング・イズ・ユー」(英語: The Song Is You)は、ジェローム・カーン作曲、オスカー・ハマースタイン2世作詞のポピュラー楽曲[1][2]。1932年のブロードウェイ・ミュージカル『ミュージック・イン・ジ・エアー英語版』のために書かれ[2]T・B・ハームズ英語版により出版され[3]、その後1940年代にジャズ曲として定着した[4][5]

解説と評価[編集]

調はハ長調で形式はAABA’であり[3]、Paymer (1999) はリフレインを持つ穏やかなバラードに分類している。

ハマースタインの伝記著者ヒュー・フォーディンは、「ロマンティックなムードと喜劇的なムードを併せ持っている」という点において本楽曲を劇音楽の傑作と位置づけ[5]、Paymer (1999) は「アメリカの伝統の中にまだ残っていたアート・ソング英語版と正当に称しうる数少ないポピュラー作品のひとつ」であると位置づける。作曲家のアレック・ワイルダーは「自意識過剰なまでに優雅なアート・ソング」であるとしたうえで、本楽曲の生まれ持った存在感や作品としての完成度を肯定的に評価する。ワイルダーはブリッジ英語版以降の旋律と和音を称賛しており[5]、Paymer (1999) は目まぐるしく変化する和音が魔法のようであると表現している。またGioia (2021) は、後述のように本作が様々にアレンジできる楽曲であることを評価している。

作曲者本人にとってもお気に入りのメロディーのひとつであり、完成後すぐに電話越しでハマースタインへ弾いて聞かせたとされている[5]

劇中歌として[編集]

『ミュージック・イン・ジ・エアー』[編集]

本楽曲は『ミュージック・イン・ジ・エアー』の第2幕において、歌手のジークリンデ・レッシングSieglinde Lessingに心奪われた作曲家のブルーノ・マーラーBruno Mahlerによって歌われる[6]。Hischak (2013) はこの場面について茶番じみているが歌は愉しいentertainingと述べている。

『ミュージック・イン・ジ・エアー』の劇中歌は、一般的なミュージカルとは異なり、キャラクターの台詞の一部としてではなく物語世界においても実際に歌われているものとして設定されている[1]。「歌こそは君」は一見するとこの設定から外れるかのようだが、数年前のミュージカルのためにブルーノが書いた捨て曲であり、女性を口説く際に度々用いていることが後に明かされる[6]

『ミュージック・イン・ジ・エアー』の初演は1932年11月8日にアルヴィン劇場英語版で行われ、ブルーノ・マーラー役はトゥリオ・カルミナティが務めた[5][7]。なお1934年の映画版英語版では、本楽曲は歌われていない[8]

その他[編集]

2003年の映画『世界で一番悲しい音楽英語版』(ジニー賞オリジナル音楽部門受賞作)では、クリストファー・デドリックドイツ語版の手による9つのバージョンの「歌こそは君」が使用されており、このことは本楽曲が多彩なアプローチに耐えることを示している[4][9]。『夫たち、妻たち』(1992年)でも使われているほか、『ア・ミュージカル・ジュビリーA Musical Jubilee』(1975年、ジョン・レイット英語版による歌唱)、『ジェローム・カーン・ゴーズ・トゥ・ハリウッドJerome Kern Goes to Hollywood』(1986年)、『ネヴァー・ゴナ・ダンス英語版』(2003年)といったブロードウェイ・ミュージカルでも歌われている[3][8]

スタンダード曲として[編集]

1932年のジャック・デニーJack Denny(指揮)、ウォルドルフ=アストリア・オーケストラ英語版、ポール・スモールPaul Small(テノール)による録音は、翌年ヒット・チャートの12位にランクインした[5][10]。その後1940年代にはフランク・シナトラが歌ったほか、グレン・ミラー、トミー・ドーシー、クロード・ソーンヒルらのビッグ・バンドでも演奏されるようになり、ジャズ曲として人気を得るに至った[4][5]

ジャズにおいては爽やかに演奏されることが多いが、ジューン・クリスティによる物憂げなバラードからアート・ブレイキーによる高速スラロームのような演奏まで、幅広いムードにより解釈されている[4]

主な録音[編集]

リーダー/ヴォーカル 収録アルバム 録音年 解説 推薦者 音楽外部リンク
フランク・シナトラ(Vo.) 1942 Gioia (2021) YouTube Music
チャーリー・パーカー(A.Sax.[11] 1952 Gioia (2021) YouTube Music
クリフォード・ブラウン(Tp.) The Clifford Brown Quartet in Paris 1953 Gioia (2021) YouTube Music
ベニー・カーター(A.Sax.) コスモポライト〜オスカー・ピーターソン・セッション[注 1] 1954[13] Baerman (n.d.) YouTube Music
ジミー・ジュフリー(T.Sax.) ジミー・ジュフリー3英語版 1956[14] Baerman (n.d.) YouTube Music
アニタ・オデイ(Vo.) アット・ミスター・ケリーズ英語版 1957 Gioia (2021) YouTube Music
リユニオン・ウィズ・チェット・ベイカー英語版 1958 Gioia (2021) YouTube Music
テリー・ソーントン(Vo.) デヴィル・メイ・ケア英語版 1961 Maycock (n.d.) YouTube Music
アート・ブレイキー(Dr.) ア・ジャズ・メッセージ英語版 1963[16] Maycock (n.d.) YouTube Music
ナンシー・ウィルソン(Vo.) Yesterday’s Love Songs/Today’s Blues 1963 YouTube Music
リー・コニッツ英語版(A.Sax.[17] ローン・リー英語版 1974 39分に及ぶソロ演奏。 Gioia (2021) YouTube Music
アート・ブレイキー(Dr.) キーストン・コーナーの夜英語版 1978 Gioia (2021) YouTube Music
キース・ジャレット(Pf.) 枯葉Still Live 1986 ゲイリー・ピーコック(Ba.)、ジャック・ディジョネット(Dr.)とともに、17分以上に及び活力を維持したアップテンポな演奏をおこなっている[18][19]
ウィントン・マルサリス(Tp.) スタンダード・タイムVol. 1英語版 1986 Baerman (n.d.) YouTube Music
ウォルター・ノリス英語版(Pf.) Live at Maybeck Recital Hall, Volume Four 1990 Maycock (n.d.) YouTube Music
アローン・トゥゲザー英語版 1997 Maycock (n.d.) YouTube Music
ビル・オコンネル英語版(Pf.) Monk’s Cha-Cha 2013 Gioia (2021) YouTube Music

そのほかHischak (2013) は、以下のミュージシャンによるものを録音の例として挙げている。

参考文献[編集]

  • Paymer, Marvin E. (1999). “The Song Is You”. Sentimental Journey — Intimate Portraits of America’s Great Popular Songs, 1920-1945. Noble House Publishers. pp. 244f..

    ISBN 1-881907-09-0

     
  • Hischak, Thomas S. (2013-06-05). “The Song Is You”. The Jerome Kern Encyclopedia. Scarecrow Press. p. 198. ISBN 978-0-8108-9167-8 
  • Dietz, Dan (2018-03-29). “Music in the Air”. The Complete Book of 1930s Broadway Musicals. Rowman & Littlefield. pp. 227ff.. ISBN 978-1-5381-0277-0 
  • Gioia, Ted (2021). “The Song Is You” (英語). The Jazz Standards — A Guide to the Repertoire (2nd ed.). Oxford University Press. pp. 424-426. ISBN 9780190087173 
  • The Song Is You”. JazzStandards.com. 2021年11月13日閲覧。
    • Tyle, Chris. “Origin and Chart Information”.
    • Baerman, Noah. “Recommendations for This Tune”
    • Maycock, Ben. “Recommendations for This Tune”
  • ソング・イズ・ユーとは”. コトバンク. VOYAGE MARKETING. 2021年11月11日閲覧。(出典『デジタル大辞泉プラス』小学館。)

外部リンク[編集]