接続 (微分幾何学) – Wikipedia

微分幾何学において、接続(せつぞく、英: connection)の考え方により、曲線や曲線の族にそって平行で整合性を持つデータの移動の考え方を詳しく示すことができる。 現代の幾何学には多くの種類の接続の考え方があり、移動したいデータが何であるかに依存する。例えば、アフィン接続は接続の最も基本的なタイプであるが、この接続はある曲線に沿ってある点から別な点へ多様体の接ベクトルを移動することを意味する。アフィン接続は、典型的には共変な微分形式として与えられ、ベクトル場の方向微分、つまり与えられた方向へのベクトル場の無限小移動をとることを意味する。

現代の幾何学では接続は非常に重要である。大きな理由は、接続によりある点での局所幾何学と別な点での局所幾何学を比較することが可能となるからである。微分幾何学は、接続の考え方のいくつかの変形を持っている。大きなグループ分けをすると 2つのグループがあり、局所の理論と無限小の理論である。局所理論は、平行移動英語版ホロノミー英語版の考え方に最初から関係する。無限小の理論は、幾何学的なデータの微分と関係する。このように、共変微分は多様体上のベクトル場を他のベクトル場に沿った微分として特定することである。カルタン接続英語版は、微分形式やリー群を使い接続の理論をある側面から定式化する方法である。エーレスマン接続英語版は、許される場の運動方向を特定することによるファイバーバンドル、あるいは主バンドルでの接続のことを言う。Koszul接続英語版は、ベクトルバンドルへ一般化したときの接続である。(本記事では、ベクトルバンドルについて接続を考えるとき、「Koszul接続」という単語を用いることとする.)

さらに接続は、曲率や捩れテンソルような、幾何学的不変量をうまく定式化することにも使われる(曲率テンソルや曲率形式も参照)。

本記事では、接続の概念を考察する動機について述べ、そのさまざまな定式化について簡潔に触れる。各々の定式化の詳細については個別記事に譲る。

動機:座標の不適切さ[編集]

球面上の(黒い矢印の)平行移動。青と赤の矢印は、それぞれ異なる方向への平行移動を表しているが、右下の同じところで終わっている。2つの矢印が同じ方向を向いて終わっていないことが、球面上の曲率の持っている意味である。

次の問題を考えてみよう。球面 S の接ベクトルが球面の北極で与えられたときに、このベクトルを球面の他の点へ整合性を持って移動、平行移動の意味での移動を定義することである。ナイーブに考えると、これは平行座標系を使ってできそうに見える。しかしながら、特別な注意を払わない限り、ある座標系で定義された平行移動は他の座標系で定義されたものとは一致しない。より適切な平行移動系は、球面の回転対称性を利用する。北極点であるベクトルが与えられると、回転軸方向を持たない曲線に沿って北極が移動するような方法で球面を回転させることで、このベクトルを曲線に沿って移動させることができる。これの平行移動の意味は、球面上のレヴィ・チヴィタ接続である。2つの異なる曲線の始点と終点が一致していて、ベクトル v が正確に回転より作られる第一の曲線に沿っているとすると、終点での結果として現れるベクトルは、第二の曲線に沿って正確に移動した v の結果として現れるベクトルとは異っている。この現象は、球面の曲率を反映している。平行移動を可視化することに使える単純な力学的な装置が、指南車である。

例えば、S に立体射影による座標を入れたとし、S を R3 の中の単位ベクトルからなると仮定すると、S は座標の対を持つことになる。一つは北極の近傍を覆い、もうひとつは南極を覆う。写像

φ0(x,y)=(2x1+x2+y2,2y1+x2+y2,1−x2−y21+x2+y2)φ1(x,y)=(2x1+x2+y2,2y1+x2+y2,x2+y2−11+x2+y2){displaystyle {begin{aligned}varphi _{0}(x,y)&=left({frac {2x}{1+x^{2}+y^{2}}},{frac {2y}{1+x^{2}+y^{2}}},{frac {1-x^{2}-y^{2}}{1+x^{2}+y^{2}}}right)[8pt]varphi _{1}(x,y)&=left({frac {2x}{1+x^{2}+y^{2}}},{frac {2y}{1+x^{2}+y^{2}}},{frac {x^{2}+y^{2}-1}{1+x^{2}+y^{2}}}right)end{aligned}}}

は、北極の近傍 U0 と南極の近傍 U1 をそれぞれ覆う。X, Y, Z を R3 に付属する周りの座標とすると、φ0 と φ1 は、逆写像

φ0−1(X,Y,Z)=(XZ+1,YZ+1),φ1−1(X,Y,Z)=(−XZ−1,−YZ−1),{displaystyle {begin{aligned}varphi _{0}^{-1}(X,Y,Z)&=left({frac {X}{Z+1}},{frac {Y}{Z+1}}right),[8pt]varphi _{1}^{-1}(X,Y,Z)&=left({frac {-X}{Z-1}},{frac {-Y}{Z-1}}right),end{aligned}}}

を持つので、座標変換の函数は円に関する反転

φ01(x,y)=φ0−1∘φ1(x,y)=(xx2+y2,yx2+y2){displaystyle varphi _{01}(x,y)=varphi _{0}^{-1}circ varphi _{1}(x,y)=left({frac {x}{x^{2}+y^{2}}},{frac {y}{x^{2}+y^{2}}}right)}

となる。

ここで、ベクトル場を導き出された座標系に対する成分として表現しよう。P が U0 ⊂ S の点であれば、ベクトル場は、次のプッシュフォワードで表現される。

v(P)=Jφ0(φ0−1(P))⋅v0(φ0−1(P)).(1){displaystyle v(P)=J_{varphi _{0}}(varphi _{0}^{-1}(P))cdot {mathbf {v} }_{0}(varphi _{0}^{-1}(P)).qquad (1)}

ここに、

Jφ0{displaystyle J_{varphi _{0}}}

は φ0 のヤコビ行列を表し、v0 = v0(x, y) は、vにより一意的に決定される R2 上のベクトル場である。さらに、座標系の交叉である U0 ∩ U1 の上では、φ1 に関して同じベクトルを表現することができる。

v(P)=Jφ1(φ1−1(P))⋅v1(φ1−1(P)).(2){displaystyle v(P)=J_{varphi _{1}}(varphi _{1}^{-1}(P))cdot {mathbf {v} }_{1}(varphi _{1}^{-1}(P)).qquad (2)}

成分 v0v1 を関係づけるためには、連鎖律を等式 φ1 = φ0 o φ01 に適用して

Jφ1(φ1−1(P))=Jφ0(φ0−1(P))⋅Jφ01(φ1−1(P)).{displaystyle J_{varphi _{1}}(varphi _{1}^{-1}(P))=J_{varphi _{0}}(varphi _{0}^{-1}(P))cdot J_{varphi _{01}}(varphi _{1}^{-1}(P)).,}

を得る。これの行列の等式の両辺を v11−1(P)) へ適用し、(1) と (2) を使うと、

v0(φ0−1(P))=Jφ01(φ1−1(P))⋅v1(φ1−1(P)).(3){displaystyle {mathbf {v} }_{0}(varphi _{0}^{-1}(P))=J_{varphi _{01}}(varphi _{1}^{-1}(P))cdot {mathbf {v} }_{1}(varphi _{1}^{-1}(P)).qquad (3)}

を得る。

ここで、曲線に沿って平行にベクトル場をどのように平行に移動するのかという主要な問題へ至る。P(t) を S の中の曲線と仮定する。ナイーブには、曲線に沿ってベクトル場の座標成分が定数であれば、ベクトル場は平行であると考えることが可能である。しかしながら、直ちに曖昧さがでてくる。どの座標系に対して、これらの成分を定数とすべきなのか?

例えば、v(P(t)) が座標系 U1 で定数である、すなわち、函数 v11−1(P(t))) は定数であるあったと仮定する。しかし、積の微分法則を (3) へ適用し、dv1/dt = 0 を使うと次式を得る。

ddtv0(φ0−1(P(t)))=(ddtJφ01(φ1−1(P(t))))⋅v1(φ1−1(P(t))).{displaystyle {frac {d}{dt}}{mathbf {v} }_{0}(varphi _{0}^{-1}(P(t)))=left({frac {d}{dt}}J_{varphi _{01}}(varphi _{1}^{-1}(P(t)))right)cdot {mathbf {v} }_{1}(varphi _{1}^{-1}(P(t))).}

しかし、

(ddtJφ01(φ1−1(P(t)))){displaystyle left({frac {d}{dt}}J_{varphi _{01}}(varphi _{1}^{-1}(P(t)))right)}

はいつも非特異行列であるので(曲線 P(t) は定常でなくなり)、v1v0 は曲線に沿って同時には決して定数ではありえない

問題の解決策[編集]

上に現れた問題は、通常のベクトル解析の方向微分は、ベクトル場の成分へ適用すると、座標系の変換の下ではうまく振る舞わないという問題である。これは、実際にベクトル解析のような考え方が全く意味を持たないとすると、ベクトル場の平行な変換をどのように記述するかは非常に困難な問題となるということである。この問題の解決には、2つの基本的に異なった方法がある。

第一のアプローチは、方向微分を一般化して座標変換の下で「うまく振る舞わせる」には何が必要かを試すことである。このアプローチは接続に共変微分という戦術を使うことである。うまく振る舞うことは、共変性に同じである。ここで、線型作用素の成分はクリストッフェル記号と呼ばれる、ベクトル場自体の上の微分を意味しないある線型作用素による方向微分の変形を考える。座標系 φ での方向 u のベクトル v 成分の方向微分 Duv は、共変微分

∇uv=Duv+Γ(ϕ){u,v}{displaystyle nabla _{mathbf {u} }{mathbf {v} }=D_{mathbf {u} }{mathbf {v} }+Gamma (phi ){{mathbf {u} },{mathbf {v} }}}

により置き換えることができる。ここに Γ は座標系 φ に依存し、uv について双線型である。特に、Γ は u あるいは v のいかなるをものも含んではいない。 この方法では、Γ は異なる座標系へ φ が変更されたときにも、所定の方法で変換される必要がある。この変換は、座標変換の一階の微分だけでなく二階の微分も含んでいないので、テンソルではない。Γ の変換法則を特定するだけでは、Γ を一意的に決定するには充分ではない。他にも正規化条件を導入する必要があり、導入すべき正規化条件は、通常は考えている幾何学のタイプに依存する。リーマン幾何学の場合は、レヴィ・チヴィタ接続を導入すると、(ある対称性条件と同様に)リーマン計量と整合性を持つクリストッフェル記号が必要となる。これらの正規化を行うと、接続は一意に定義される。

第二のアプローチは、空間の対称性の痕跡を捉えようとするリー群を使うアプローチである。これが、カルタン接続英語版のアプローチである。上記の球面上のベクトルの平行移動を特定する回転を使った例は、これに非常に良く似ている。

レヴィ・チヴィタ接続[編集]

アフィン接続[編集]

ベクトル束の接続[編集]

主束の接続[編集]

エーレスマン接続[編集]

カルタン接続[編集]

接続の歴史[編集]

接続は、歴史的にはまずリーマン幾何学において見出された。接続の概念のはじまりをどこに置くかについては諸説あるが、クリストッフェルの研究をその淵源とする見方がある[注釈 1]。クリストッフェルは1869年の論文で、座標変換の導関数が満たす関係式の研究を通じ、現在クリストッフェル記号とよばれる量を発見した。これを用いて、リッチはその学生であるレヴィ=チヴィタとともに、彼らが絶対微分学英語版とよんだ、共変微分を用いる今でいうテンソル解析の計算の手法をつくりあげた。

レヴィ=チヴィタはまた、1916年に、リーマン幾何学における接ベクトルの平行移動の概念を発見し、これが共変微分によって記述されることをみつけた(レヴィ=チヴィタ接続の名前はこのことによる)。1918年にワイルはそれを一般化して、アフィン接続の概念に到達した[注釈 2]。ここで「接続」にあたる語(独: Zusammenhang)がはじめて使用された[要出典]

それからすぐに、エリ・カルタンによって、さらなる一般化が行われた。カルタンはクラインのエルランゲン・プログラムの局所化を試みていたのである。1920年代にカルタンは、微分形式を用いた記述によって、現在カルタン接続英語版と呼ばれるものを発見していった。カルタンのこの仕事により、リーマン幾何学だけでなく、共形幾何学英語版、射影幾何学などのさまざまな幾何学を研究するための基礎が築かれた。

しかしカルタンの記述は、微分幾何学の他の基本的概念の整備が進んでいない当時、理解されづらいものだった。その仕事をよりわかりやすいものにして発展させるために、カルタンの学生にあたるエーレスマン英語版は、1940年代から主束やファイバー束を研究した。1951年の論文でエーレスマンは、主束の接続を、接分布英語版を用いる方法と微分形式による方法の両方で定義した(エーレスマン接続英語版)。

その一方で、1950年にコシュル英語版は、ベクトル束の接続の代数的定式化を与えた(接続 (ベクトル束)英語版)。コシュルの定式化によると、クリストッフェル記号を明示的に用いる必要は必ずしもなくなり、接続の取り扱いは容易になった[要出典]

可能なアプローチ[編集]

関連項目[編集]

注釈[編集]

  1. ^ これはFreemanの立場。ほかには、たとえば岩波数学辞典は後出のレヴィ=チヴィタによる平行移動の発見を接続の概念のはじまりとしている。
  2. ^ 正確には、現在の言葉でいう捩れのないアフィン接続。

出典[編集]

参考文献[編集]

  • 『岩波数学辞典』日本数学会編、岩波書店、2007年、第4版。ISBN 9784000803090。
  • Cartan, Élie (1926), “Les groupes d’holonomie des espaces généralisés”, Acta Math. 48: 1–42, doi:10.1007/BF02629755 
  • Christoffel, Elwin B. (1869), “Ueber die Transformation der homogenen Differentialausdrücke zweiten Grades”, Journal für die reine und angewandte Mathematik 70: 46–70 
  • Ehresmann, Charles (1950), Les connexions infinitésimales dans un espace fibré différentiable, Colloque de Toplogie, Bruxelles, pp. 29–55 
  • Freeman, Kamielle (2011). A Historical Overview of Connections in Geometry (MSc). Wichita State University.
  • Koszul, Jean-Louis (1950), “Homologie et cohomologie des algebres de Lie”, Bulletin de la Société Mathématique 78: 65–127 
  • Levi-Civita, Tulio; Ricci, M. M. G. (1900), “Méthodes de calcul différential absolu et leurs applications”, Math. Ann. B 54: 125–201, doi:10.1007/BF01454201 
  • Levi-Civita, Tulio (1916), “Nozione di parallelismo in una varietà qualunque e conseguente specificazione geometrica della curvatura riemanniana”, Rendiconti del Circolo Matematico di Palermo 42: 173–204, doi:10.1007/BF03014898 
  • Weyl, Hermann (1918), “Reine Infinitesimalgeometrie”, Mathematische Zeitschrift 2: 384–411, doi:10.1007/bf01199420 

関連文献[編集]

外部リンク[編集]