陸上自衛隊高等工科学校 – Wikipedia

第56期生徒入校式(2010/4/8)

陸上自衛隊高等工科学校(りくじょうじえいたいこうとうこうかがっこう、英語:JGSDF High Technical School; HTS)は、陸上自衛隊武山駐屯地(神奈川県横須賀市御幸浜2番1号)に所在する防衛大臣直轄の教育機関の一つ。将来、陸曹となるべき者の養成を目的とする[1]3年制の「自衛隊版の高校[2][注釈 1]」。全寮制の男子校。略称は「高工校」。

高等工科学校生徒(旧 陸上自衛隊生徒)の教育を行なう施設として、2010年(平成22年)3月26日に陸上自衛隊少年工科学校から改編された。施設の位置づけ(陸上幕僚長の指揮監督を受ける防衛大臣直轄の機関)及び所在地は旧校と変わらない。例年1学年あたりの生徒数は約320人だが、陸幕の通達により約350名ほどに増加。倍率は減少傾向にあり生徒全体の質の低下の声も聞く[3]

中学校を卒業し、採用試験を経て高等工科学校生徒に任命された者が入校する。一条校ではないので、生徒が高等学校卒業資格を得るために通信制高等学校である神奈川県立横浜修悠館高等学校と技能提携している[2]

学費や寮費は無償であり、所定の給与が生徒に支給される[2]

原則的に、本校卒業後の4月1日に陸上自衛官となり、陸士長の階級を与えられ、約1年間の教育を経た後に3等陸曹に昇任する[1]。本校に在校中の身分は自衛官ではなく[注釈 2]「定員外の防衛省職員」たる自衛隊員[1]である。

生徒制度の改編に際しては生徒の募集を停止しなかったため、当初は旧制度の生徒と新制度の生徒が混在していた[注釈 3]。旧生徒の身分は自衛官であった[4]

少年期から専門的な軍事教育を施し、卒業後は早々に曹に任官して自衛隊の業務を正式な職業とする者となり、また多くの出身者が幹部候補生制度を通し幹部を目指すなど共通点が多いことから、本校は帝国陸軍における陸軍少年飛行兵学校・陸軍少年戦車兵学校・陸軍少年通信兵学校(陸軍少年飛行兵・陸軍少年戦車兵・陸軍少年通信兵)に類似する。

教育内容[編集]

本校の教育内容は、一般の普通科高校に相当する「一般教育」、専門分野を教育する「専門教育」、自衛官としての素地を作る「防衛基礎学」の3分野に分けられ、それぞれの専門教官が授業を行う[1]

一般教育
学習指導要領に準拠した内容で、普通科高校と同様のカリキュラムのもとで教育を行う。この一般教育とレポート作成など通信制の教育により、生徒は本校卒業と同時に横浜修悠館高等学校卒業の資格を得る。
3学年では選択科目の違いによって「教養」「理数」「国際」「システム・サイバー」の四つの専修コースに分かれる。「システム・サイバー」は、サイバー防衛の専門家の養成を目的として、2021年度から設けられたコースである[3][5][6]
専門教育
現在の陸上自衛隊で使用される高度に高機能化・システム化された装備品の能力を発揮させるため、その素地を養う。内容は「電子機械(メカトロ)工学」「情報工学」および「ロボット制作等を通じての教育」に大別される。
防衛基礎学
陸上自衛官として必要な基礎的事項の教育。法令等を学ぶ「服務及び防衛教養」と野外における基礎的な行動を学ぶ「戦闘及び戦技訓練」に大別される。射撃訓練と戦闘訓練は2学年・3学年で行う。

学生生活[編集]

週休二日制[2]。外出は原則的に休日のみであり、定められた時間と行動範囲内に限り許可される[1]が、現在コロナにより原則外出禁止となっている。携帯電話は2学年から持てる[注釈 4]

クラブ活動の体育クラブは横浜修悠館高校の名義で対外試合を行っており、軟式野球部の全国大会優勝(2013年)[7]、剣道部の定通制全国大会25連覇(1990年-2014年)[8]などの実績がある。各生徒は特定クラブ(ドリル部・吹奏楽部・和太鼓部)か、もしくは体育クラブと文化クラブの両方に所属しなければならない。

教育理念・校風・制服[編集]

教育理念
「技術的識能を有し、知徳体を兼ね備えた伸展性ある陸上自衛官としてふさわしい人材を育成する」
校風
「明朗濶達・質実剛健・科学精神」
制服
防衛大学校の制服に酷似した、詰め襟の短ジャケット型の制服に一新された。陸上自衛隊91式制服以前にあった赤ラインが復活し、伝統を継承する形となっている。生徒の服制の詳細は、自衛隊法施行規則(防衛省令)によるが冬服は濃灰色でえんじ色の飾線を入れた二つポケット、前面ファスナー留めの詰め襟短ジャケットの上下。ズボンはサスペンダー使用。夏服1種上衣は冬服同様、2種上衣は白のスタンドカラーで襟にえんじ色の飾線のシャツ。帽章は、飛桜馬及び若葉の組み合わせたものと独自のデザインのものになる。制服着用時の靴下は黒。それ以外は白。

組織編成[編集]

  • 企画室
  • 総務部
  • 教育部
    • 教務課
    • 第1教官室(一般教育を担当。旧第2教育部)
    • 第2教官室(専門教育を担当。旧第1教育部)
  • 生徒隊(防衛基礎学を担当)

主要幹部[編集]

陸上自衛隊生徒出身の著名人[編集]

高級幹部自衛官(将官)のほか実業家や作家なども輩出している。陸上自衛隊生徒を参照。

注釈[編集]

  1. ^ 文部科学省が管轄する「高等学校」には該当しないが、後述のように高等学校卒業資格の取得が可能。
  2. ^ 少年兵を禁止する国際条約との関係。高等工科学校生徒#制度改編の経緯を参照。
  3. ^ 学校改編時点での生徒は3学年(54期)及び2学年(55期)が旧生徒、1学年(56期)が新生徒。
  4. ^ 校則ではなく、生徒会による不文律
  5. ^ 昭和57年卒(防大26期相当)
  6. ^ 防大31期相当
  7. ^ 防大33期相当
  8. ^ 防大37期相当

出典[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

座標: 北緯35度12分34.3秒 東経139度37分43.8秒 / 北緯35.209528度 東経139.628833度 / 35.209528; 139.628833