ワルザザート太陽熱発電所 – Wikipedia

1号機と2号機(2019年10月)

ワルザザート太陽熱発電所(ワルザザートたいようねつはつでんしょ)は、モロッコ中部のワルザザート近郊にある太陽熱発電所である。モロッコの公用語であるアラビア語で「光」を意味する「نور」(ヌール)を冠して、地元では単に「ヌール発電所」と呼ばれる場合もある。

ワルザザートは険しいオートアトラス山脈英語版の南側に形成された内陸の町であり、乾燥した気候である。雨は少なく、太陽光を受けるには適した気候である。また、緯度も北緯31度よりも南と、充分に低緯度に位置しており、強い日射が望める[注釈 1]

21世紀初頭の段階でも、モロッコは原油や天然ガスが少しは産出していたものの、特に原油は輸入を行っていた状態だった[1]。2009年の段階で、モロッコの貿易収支は赤字であり、328億ドルの輸入額の6.5パーセントを占めていた[1][注釈 2]

一方で、発電に関しては、2008年の段階で、モロッコの1年間の総発電量は約20300 GW・hであった中で、水力発電が6.7パーセント、風力発電が1.4パーセントで、残りの大部分の91.9パーセントが火力発電によって賄われていた[1]

発電所概要[編集]

この発電所は、太陽熱を利用して汽力発電を行う複数の発電機が備えられており、さらに溶融塩を利用した蓄熱装置も装備している。これらが主力設備であり、2019年4月現在、合計で最大で510 MWの出力を擁する。また、これらとは別に太陽電池による発電パネルも併設して、昼間の電力供給を補っている。つまり、その分で太陽熱発電機の出力に回す太陽熱を、蓄熱装置へと蓄えられる事を意味する。蓄熱装置に蓄えた太陽熱は、夜間など太陽熱が得られない時間帯に利用して、汽力発電を実施する。

なお、2019年4月の段階で、この発電所の敷地面積は、25 km2に達していた。

発電所の建設は、スペインの企業共同体の協力を得て、モロッコ太陽エネルギー庁(MASEN)も関与したワルザザート太陽共同体(Ouarzazate Solar Complex)によって行われた。

パラボリックトラフ式の太陽熱の収集方法の概念図。凹面鏡の焦点にパイプを通して、ここに熱媒体を流し、発電設備の方法へと太陽熱を集める。単に地面に凹面鏡を配置するだけなので、広い土地さえあれば、比較的容易に大規模化できる。

ワルザザート太陽熱発電所の第1期工区として建設された場所である[2]。地面に多数の放物線形状の凹面を有した凹面鏡を並べて、太陽光を集めて熱を得る、いわゆる「パラボリックトラフ式」である。約4.5 km2の敷地に、約50万枚の凹面鏡が並べられており[3]、最大で160 MWの出力が可能である。また、夜間でも約3時間の発電が可能な溶融塩を使用した蓄熱装置も備える[4][5]。1号機は2016年2月5日にモロッコの電力網に組み込まれ、商業運転を開始した[6]。開業までに1号機に費やした費用は、約39億ドルであった[7]。なお、運転開始時点で、1 kW・hの発電を行うために、約0.19ドルの費用を必要としていた[8]

復水器が水冷式[編集]

ワルザザートは乾燥した気候であり、普通であれば、そのような場所で汽力発電を行う場合には、空冷式の復水器を使用する事例が目立つ。しかし、1号機の復水器は水冷式である。さらに、凹面鏡の洗浄にも水を使用し、最大で1年間に1700 kLの水を使用する[9][注釈 3]

これが可能だった理由は、ワルザザート付近にはドラア川が流れており、その水を利用できるからである。ただし、2号機と3号機の復水器は、水冷式ではなく空冷式である。

発電実績[編集]

2017年の1号機の発電実績は、次の通りであった[10][11]

ワルザザート太陽熱発電所1号機、2017年の月別発電実績(電力量、単位:GW・h)
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 合計
30.26144 19.41825 48.60563 40.37602 45.44562 33.36919 42.27652 30.85000 41.20518 31.97398 22.68940 27.62856 414.0998

参考までに、1年間の発電目標としていた電力量の合計は、370 GW・hであった[12]

2号機は、ワルザザート太陽熱発電所の第2期工区として建設された場所の中の1区画である[13]。2号機の建設は2016年2月に開始され[14]、2018年1月に稼働を開始した[15][16]。集光方式は1号機と同じくパラボリックトラフ式であり、約6.8 km2の敷地を使用し、最大で200 MWの出力が可能で、さらに、夜間でも約7時間の発電が行える蓄熱装置を備えている[14]

なお、1号機とは異なり、水の使用量を節約するため、2号機は空冷式の復水器を装備している[17]

3号機の集光タワー。この塔の最上部へと地上に設置した鏡を使用して太陽光を集め、加熱する。そうして集めた太陽熱を利用して、汽力発電を行う。

2号機と同様に、3号機もワルザザート太陽熱発電所の第2期工区として建設された場所の中の1区画である[13]。しかしながら、3号機は2号機と異なり、集光方式は集光タワーを用い、これに約7時間の発電が行える蓄熱装置を組み合わせた[18]。敷地面積は、約5.5 km2であり、2018年3月に太陽光を集光タワーに反射するための地上の鏡の設置を終えた[19]。しかし、その後も集光タワーの建造は続き、さらに改良を行っていった。これにより、最大で150 MWの出力を可能にした[20]。結局、商業運転を開始したのは、2018年11月であった[21]。さらに、2018年12月には、太陽光を10日間にわたって集光タワーに集めない状態にしておき[注釈 4]、その後、10日前までに蓄熱装置へと蓄えておいた熱を利用して、汽力発電する試験にも成功した[22]

なお、3号機も2号機と同様に、水の使用量を節約するため、空冷式の復水器を装備している[17]

2017年に建設計画が発表された[23]。ただし、4号機と番号が振られているものの、これは太陽熱発電設備ではなく、太陽電池を用いた太陽光発電の設備である[24]

太陽電池パネルの増設を行い、72 MWの出力を確保する予定である[7][23]

注釈[編集]

  1. ^ List of solar thermal power stationsを見ると、北緯40度程度までは太陽熱発電所が分布していると判る。中緯度高圧帯の影響で、晴天が望める緯度なども関係する。
  2. ^ 2009年のモロッコの輸出額は、137億ドルだった。
  3. ^ 元来、人名に由来しないリットルは「l」と小文字で書くべきだが、見間違えが起こり易いやめ「L」と大文字で表記した。
  4. ^ 集光タワーを用いる方式は、heliostatと呼ばれる地上で太陽の動き追尾する反射鏡を用いて、太陽光を集光タワーの頭頂部に向けて反射し続け、集光タワーの頭頂部において高温を得る。したがって、太陽の追尾機能を切っておけば良いだけなので、集光タワーに太陽光を集めない事は、簡単に実現できる。

出典[編集]

外部リンク[編集]

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座標: 北緯30度59分40秒 西経6度51分48秒 / 北緯30.99444度 西経6.86333度 / 30.99444; -6.86333 (Ouarzazate solar power station)