哄笑する食屍鬼 – Wikipedia

哄笑する食屍鬼(こうしょうするグール、原題:英: The Grinning Ghoul)は、アメリカ合衆国のホラー小説家ロバート・ブロックによる短編ホラー小説。クトゥルフ神話の1つで、『ウィアード・テイルズ』1936年6月号に掲載された。ブロックの比較的初期の作品の1つ。ブロックのクトゥルフ神話は、エジプトものと食屍鬼ものが多くみられるが、本作は後者である。ブロックはラヴクラフトの食屍鬼物語『ピックマンのモデル』を読んだことで心酔して、文通を始め、ついに作家となったというエピソードがある。

東雅夫は『クトゥルー神話事典』にて、「地底への下降と異形への変身、悪夢の顕現というラヴクラフトが得意としたテーマを、自己流のグロテスク・ショッカーに応用した、ブロックの才気を感じさせる食屍鬼譚」と解説している[1]。東はまた、食屍鬼譚を「師匠ゆずり」と評し、エジプトものの方で「独自の神話世界を開いた感がある」とも述べている[2]

文献『屍食経典儀』が登場する、数少ない作品でもある。この文献は、後に名前と設定が有名になるものの、内容まで踏み込んだ作品は少ない。削除版という設定で、語り手であるダウンタウンの精神科医が、食屍鬼について調査する目的で読んでいる。

また、ブロック自身が創造した神性「バイアグーナ」の初出作品なのだが、名前の言及のみであり、ブロックがこの神を他作品で使うこともなかった。バイアグーナについては、リン・カーターがナイアーラトテップと結び付け、さらに後にジェームズ・アンビュールがルー=クトゥの魔神たちに位置付けることになる。

あらすじ[編集]

精神科医である語り手(わたし)の診療所を、やつれた男が診察に訪れる。男はニューベリイ大学に在籍するチョービン教授と名乗り、毎晩見る悪夢について語り出す。彼は夢の中で、町はずれにある墓地の地下に降りて食屍鬼たちの宴を目撃したと言い、さらに目覚めた後に現実に同じ場所に赴いて実在の場所だったことを確認したと主張する。
わたしは混乱して順序を取り違えているのだろうと判断するが、チョービンは実際にこの目で見たとして譲らない。そして証明すると言い出し、2人で実際に夜の墓地を訪れるよう約束を取り付ける。わたしは彼の悪夢の内容に興味を抱きつつも、論文を書き、また誤りを正して治療もすぐできると確信を持つ。

その夜、二人は実際に深夜の地下納骨堂を訪れる。チョービンが特定の場所を押すと秘密のトンネルが現れ、本当に通路があったことにわたしは驚きながらも、二人でトンネルを進む。そして教授は、証拠を持ち帰ると言い残し、穴の奥に消える。ただ一人残されたわたしに向かって、暗闇から足音と哄笑が近づいてくる。チョービンの話が事実だったと理解したわたしは、死に物狂いで逃げ出す。入口までたどり着いて扉を閉じる間際、わたしは追いついてきた魔物達の先頭に、今や変貌して食屍鬼になってしまったチョービンの姿を見た。

このことを口外したわたしは、狂っていると診断され、精神療養所に収監される。チョービンが本当に大学教授として在職しているのか、立証することもできない。食屍鬼を目撃したことで、土葬が恐ろしくて自殺もできない。食屍鬼チョービンの記憶を消すことができるためなら、魂を投げ出してもいいと思いつつ、わたしは物語を締めくくる。

  • 『クトゥルー13』青心社、三宅初江訳「哄笑する食屍鬼」
  • 『真ク・リトル・リトル神話大系』国書刊行会、加藤幹也訳「嘲笑う食屍鬼」
  • 『新編真ク・リトル・リトル神話大系』国書刊行会、加藤幹也訳「嘲笑う食屍鬼」
  • 『暗黒界の悪霊』ソノラマ文庫、柿沼瑛子訳「嘲笑う食屍鬼」

注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^ 学習研究社『クトゥルー神話事典第四版』346、347ページ。
  2. ^ 学習研究社『クトゥルー神話事典第四版』484ページ。