19式装輪自走155mmりゅう弾砲 – Wikipedia
2018年に公開された試作車両 |
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性能諸元 | |
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全長 | 約11.21m |
全幅 | 約2.5m |
全高 | 約3.4m |
重量 | 25.0t以下 |
速度 | 90km/h |
主砲 | 52口径155mm榴弾砲 ×1 |
乗員 | 5名 |
19式装輪自走155mmりゅう弾砲(ひときゅうしきそうりんじそう155ミリりゅうだんぽう)は、防衛省が開発し陸上自衛隊が運用予定の装輪式自走榴弾砲である[1]。開発時は火力戦闘車[2]、2013 (平成25)年度からは装輪155mmりゅう弾砲と呼称されていた[3][4]。
陸上自衛隊の野戦特科部隊が装備するFH70 155mmりゅう弾砲の後継として開発された。
射撃及び陣地変換の迅速化や戦術及び戦略機動性の向上を図るため、FH70のような牽引式に替えて装輪式自走砲とし、低コスト化のために、99式自走155mmりゅう弾砲の砲部を活用する。また、火力戦闘指揮統制システム (FCCS)や観測ヘリコプターなどと高度にネットワーク化する。
火砲/車体などに既存技術を活用することから開発総経費は比較的低予算の約99億円とされる。平成24年度 (2012年度)予算での開発開始が見送られた後、平成25年度 (2013年度)予算で開発が認められ、平成30年度 (2018年度)まで開発が続けられた[5]。
2018年5月31日に『装輪155mmりゅう弾砲(試作品)』が日本製鋼所から防衛装備庁へ納入され評価試験が開始された[6]。
2019年(令和元年)8月における富士総合火力演習で初めて試作車両が一般公開された[7][8][9]。
2020年(令和2年)5月における富士総合火力演習では、特科教導隊第4中隊所属車両が参加した。
車体[編集]
近年の砲兵戦では、対砲迫レーダー、火光標定、音源標定、無人偵察機などの各種観測装置と戦術データ・リンクの発達により、砲迫の攻撃を受けると瞬時に射撃位置が標定され、反撃が実施される体制が確立されており、短時間の射撃の後に陣地変換をする場合が多い(シュート・アンド・スクート)。19式装輪自走155mmりゅう弾砲が更新する予定のFH-70は牽引砲だが自走が可能である一方、その能力は限定的であり、また射撃準備や牽引体勢への移行に時間がかかる欠点があった。
本砲は、その問題解決のために火砲を大型のトラックと合体させ、射撃準備と撤去に必要な時間を削減した。ただしこの種の榴弾砲全般の問題ではあるが、ヘリコプターを使った空輸が不可能になる等の欠点が存在する。
火砲は自らの射撃の反動を、砲口制退器、駐退機、駐鋤 (ちゅうじょ)、アウトリガー、自重等で減衰する。大型の装軌式火砲では、反動を自重と接地圧で吸収可能だが、牽引式や装輪式の火砲の場合には駐鋤やアウトリガーを地面にめり込ませる必要がある。各国の装綸自走砲では、カエサルが駐鋤を、アーチャーがアウトリガーを採用した。ただし全周旋回可能な砲塔を持たず(左右各45°程度は旋回可能)、装軌式や補助輪付き牽引砲のようにその場での旋回が不可能なこの方式は、射界の外に敵部隊が出現した場合に車体ごと移動する必要があり、対応に時間がかかる他、地面が舗装された市街地では駐鋤が使用できず運用に難がある欠点が存在する。
試作車両ではMAN社の軍用トラックHXシリーズの8×8輪・右ハンドル仕様をベースとして採用している[9]。一方、19式ではイメージ図の段階では車体後部にドーザー型の駐鋤が描かれていたが、試作車では底にスパイクを設置した平らな台形の駐鋤を接地させている。このため、従来の装輪自走砲と異なり舗装地での射撃が可能となる。
運転席は三人乗りのサイズで、砲手5名のうち残る2名は、車体中央の左右に設けられた開放式の一人用座席に分かれて乗る必要がある。
砲[編集]
搭載砲は、99式自走155mmりゅう弾砲に搭載した155mm52口径榴弾砲の技術を流用すると発表されており、想像図・写真でも反動を低減させる砲口制退器が99式と同じものであることが確認できる。排煙器(エバキュエーター) は排煙の戦闘室への逆流対策をする必要が無く取り外された他、砲身の基部には大型の駐退復座装置が確認できる。
砲塔は全旋回は不可能だが、正確な旋回角は不明ながらも、展開訓練では、片側(左右各) 45°程度(左右合わせて90°程度以内)は旋回でき、車体を動かさずともその場で射撃ができるようになっている。
使用弾[編集]
使用砲弾は未発表だが基本的に99式の砲と同等性能であり、砲弾や装薬も同じものが使用可能であるという[9]。このため、陸上自衛隊で採用されたM107やL15のような榴弾に加えて照明弾や発煙弾と言った弾種が使用可能と考えられる。
射撃に際しては、射撃指揮班 (FDC)による座標、高度、遮蔽物、天候、風向、風速、湿度、気温、コリオリの力、弾薬の状態にいたるまで加味した高度な計算により射撃方位角と射角が算定され、試射・修正射を行った後に効力射が実施されるが、射距離の延長で平均誤差半径 (CEP)は拡大する。近年諸外国では命中精度を飛躍的に高めるGPS誘導砲弾(M982 エクスカリバー等)、レーザー誘導砲弾(M712 カッパーヘッド)、対戦車誘導砲弾 (SADARM)等が開発・配備されたが、そのような砲弾が採用されるのかは不明。
信管については自衛隊が公開しておらず不明だが、諸外国と同じく弾着後に起爆する瞬発式や、曳火射撃に使用する時限式やCVT(レーダー)式を使用すると思われる。
装填装置[編集]
榴弾砲は射距離を細かく調節する関係上、装薬の量を調整する必要があり、砲弾(信管含む)、装薬、火管はすべて別々に装填される。
装薬は袋詰めした装薬を組合せる薬嚢方式や近年諸外国で採用されたモジュラー(連結)方式、105mm砲などに採用された分離薬莢方式、アメリカ軍が開発に失敗した液体装薬方式等が存在するが、19式装輪自走155mmりゅう弾砲がどのような方式を採用しているのかは不明である。
FH70や75式自走155mmりゅう弾砲は特定の射角でのみ装填可能な固定角装填方式を採用したため、射撃毎に装填位置に砲身を動かす必要があったが、99式は射撃の際に砲身を動かしておらず、いかなる角度でも装填が行えると見られる。この方式は射撃速度が速くなるため、近年の榴弾砲でよく見られる1門の火砲の連続射撃によって「同時弾着射撃 (Time On Target, TOTもしくはMultiple Rounds Simultaneous Impact, MRSI)」を実施する際に重要な要素となるが、本砲において採用されるのかは不明。
本砲では装輪式で高い機動性を確保することに主眼が置かれており、車重およびサイズの兼ね合いから全自動装填装置の採用は見送られ、砲弾のみ自動、装薬は手動の半自動装填となっている。このため、操法人員は99式より1名多い5名となっている[9]。
閉鎖機はFH-70では垂直鎖栓式を採用していたが、19式装輪自走155mmりゅう弾砲の試作車では断隔螺式閉鎖機を採用した[10]。
FH70 |
カエサル |
アーチャー |
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閉鎖機 | 垂直鎖栓(させん)式 | 断隔螺式 | 垂直鎖栓式 |
装薬 | 薬嚢式 | モジュラー式 | モジュラー式 |
火管 | 弾倉式 | 弾倉式(リボルバー型) | 弾倉式 |
装填方法 | ①閉鎖機をラチェットで開放する ②砲弾を装填トレイに人力で載せる ③槊杖(さくじょう; ラマー)で薬室に装填 ④装薬を手込し閉鎖機を閉鎖 ⑤レバー操作で弾倉から火管が装填される |
①閉鎖機を自動で開放する ②砲弾を装填トレイに人力で載せる ③自動的に薬室に装填 ④装薬を手込し閉鎖機を閉鎖 ⑤火管が自動装填される |
全自動 |
射撃方法[編集]
榴弾砲は間接照準射撃(目視できない敵に対する射撃)用の砲であり、自衛目的などで行われる直接照準射撃(敵を目視して行う射撃)を除いては基本的に単体で照準を行うことが出来ない。敵および弾着の確認を行う射弾観測部隊、目標の確定と射撃部隊の選択を行う火力調整所 (FSCC)、射撃に使用する方位角や射角を計算する射撃指揮所(FDC)、そしてそれらの部隊と射撃部隊を繋ぐ通信システムが射撃で必要となる。
本砲が更新する予定のFH-70は、自己位置の評定に測量が必要で、射撃に必要な方位角の入力(射向付与)には、方向盤(Aiming Circle、方位磁針により正確な方位角を測定する装置)と各火砲に搭載したパノラマ眼鏡の反覘(はんてん)法および照準点となるコリメーターや標桿等の設置が必要となる。またFDCで計算された射角や方位角、信管の調整は無線や有線により音声で各火砲に伝えられていた。
このような人間によるアナログ方式の照準は陣地進入から射撃までの時間がかかり、また諸元の入力ミスや弾着の誤差が発生しやすい欠点がある。北大西洋条約機構や陸上自衛隊で射撃に使用される単位「ミル」は、円周を6400等分した単位で、1ミル間違えるだけで1km先で約1m、10km先では約10mの弾着のズレが生じる。2013年には北海道の矢臼別演習場で訓練を行ったアメリカ海兵隊がパノラマ眼鏡の操作を誤り20度ずれた状態で射撃を行う事件も発生した[11]。
この問題を解決するため、他国では慣性航法装置 (INS)や衛星測位システムを使用する照準システムや射撃諸元の送信機能を有する戦術データ・リンクが開発されており、「カエサル」や「アーチャー」等の自走榴弾砲に関してはパノラマ眼鏡などのアナログシステムを一切搭載していない。
19式装輪自走155mmりゅう弾砲では火力戦闘指揮統制システム (FCCS) 等から得た目標の位置情報や座標などをタブレット端末からタッチパネル入力するだけで照準が可能である[9]。また、システム故障や情報伝達が困難な状況に備えてコリメーターなども装備した[9]。
測量および反覘法 | 慣性航法装置 | 衛星測位システム | |
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仕組み | 観測部隊による測量で自己位置を測定し、パノラマ眼鏡 方向盤、コリメーター等で方位角を入力する。 |
加速度計とジャイロスコープによって 自己位置や方位角を測定する。 |
航法衛星が航法信号を送信し それを受信することで自己位置や方位角を測定する。 |
利点 | ①通信妨害の影響を受けない ②電源や動力装置が不要 |
①通信妨害の影響を受けない ②移動中も測位可能 |
①移動中も測位可能 ②準天頂衛星システムにより更なる精度向上が見込める |
欠点 | ①大量の時間、機材、人員を要する ②使用者の練度が精度に影響を与える |
①移動距離に比例して精度が悪化する ②定期的にGPSや測量による座標更新が必要 |
①通信妨害の影響を受ける ②ASATで衛星が破壊される危険がある |
FH70 |
カエサル |
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照準方法 | ①火砲の座標、高度等を測量で確認する ②方向盤と火砲のパノラマ眼鏡を相互照準させ、正確な方位角を火砲に入力する ③射撃中の照準点となるコリメーターや標桿等を設置する ④FDCから音声で送信された方位角と射角を旋回ハンドルを使って照準する |
①GPS、INSを使ったシステムで自己位置と方位角を測定する ②FDCからデータリンクで送信された方位角と射角を自動的に照準する |
予算計上年度 | 調達数 | 予算額
括弧は初度費(外数) |
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平成31年度(2019年) | 7両 | 51億円(17億円) |
令和2年度(2020年) | 7両 | 45億円 |
令和3年度(2021年) | 7両 | 45億円 |
令和4年度(2022年) | 7両予定 | 44億円 |
合計 | 28両 | 185億円(17億円) |
配備部隊・機関[編集]
注釈[編集]
- ^ a b ベースブリード弾
- ^ 数値実験では73kmも記録
- ^ 数値キャビンのみ
- ^ 数値完全防護はK-I,K2のみ
出典[編集]
関連項目[編集]
- 同種の兵器
外部リンク[編集]
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