美人 – Wikipedia

美人(びじん)とは、気高く女性美を備え容姿・声・印象共に美しい成人しているシスジェンダー女性及びトランスセクシャル女性をさす言葉。別嬪(べっぴん)・麗人(れいじん)・美女(びじょ)・佳人(かじん)・シャンなどと同義。
未成年者の場合に用いる場合は美少女と呼ばれるのが一般的である。男性に対して用いる際は美男子、未成年者の場合は美少年という。

女性の何をもって美とするかは、主観的なものであり、個人の嗜好によって美人の基準は異なる。ある共同体において一般的とされる美人像がその共同体内の全ての個人に共通して美人と見なされるとは限らず、価値観の多様化が進んだ社会であれば美の基準においても個人差が大きくなる。

一方、美人とは多くの人が一致して美しいと見なす女性を指すものであり、ある女性に対する美的評価において、不特定多数の個人の嗜好が一致する場合があることも確かである。後述の平均美人説や黄金比率美人説などに見られるように、多くの人が美と感じる容姿を科学的に説明しようという試みも行われている。

ただし、美は社会的に共有されるものでもあり、時代や文化によってその基準も変動しており、形質に対する科学的な分析だけでは説明のつかない要素もある。ある時代や文化において多くの人に美と認識される要素が、他の時代や文化でも同様の評価を受けるとは限らない。同様に、ある社会で一般的に美とされる要素がすべての個人の嗜好を全面的に規定するわけではないが、その社会固有の文化として多かれ少なかれ個人に影響を与えることもまた事実である。日本でも特定の女優や芸能人が時代を代表する美人として扱われ、それに似せたファッションが流行することがある[注 1]

このように、美人という審美的判断は、判断主体個人の嗜好・その文化的背景・対象の客観的形質という複数の要素によって総合的に形成され、いずれか一つの要素によって排他的に決定されるものではない。

また、「美人コンテスト」や「世界で最も美しい顔ランキング」など、容姿の美しさを基準にして人を評価することは、ルッキズム批判者やフェミニストから問題視される傾向にあるが、こうした批判は美を礼賛するという自然な欲求を抑圧し党派的議論を押しつけるものとして反発も強い[1]

黄金比率美人説[編集]

カナダのトロント大学のカン・リー(Kang Lee)が視覚研究の専門誌「Vision Research」で白人女性のみを対象にした研究結果を発表した。そこで女性の見た目の美しさは両目の間隔や目鼻と口の距離が顔全体に占める割合によって決まるという研究結果が発表されている。その研究結果は目と口の距離は顔の長さの36%のときに一番美しいと感じられ、両目の間隔は顔の幅の46%のときに一番美しいと感じられることが分かった[2]
これを数学理論における「黄金比」と関連付けて論じられることが多く、容姿の美しさの指標としての黄金比は美容業界でもよく用いられ、身体において足底から臍(へそ)までの長さと臍から頭頂までの長さの比が黄金比であれば美しい、また、顔面の構成要素である目、鼻、口などの長さや間隔、細かな形態も黄金比に合致すれば美しいとされている。
なお、黄金比に近い容貌はコーカソイド(白人)に多く[3]、日本人を含むアジア人は黄金比とはかけ離れてることが多いため[4]、日本においてはアジア人に近い「白銀比」(別名「大和比」)という比率で美しさを論じる審美観が存在する[5][6][7][8]

平均美人説[編集]

Judith LangloisとLori Roggmanは、無作為に抽出した顔写真の合成写真を被験者に示した時に、その写真が魅力的であると判断されることが多いとする研究結果を発表した(Psychological Science 1990)。この事から、美人とはそのコミュニティにおいて最も平均的な容姿を持つものであるという仮説が提唱された。この説によると、美人像の変遷は、そのコミュニティの構成員の変化を背景としているものと考えられる(鼻が高い人が多くなれば、鼻が高いことが美人の要素となる)。このように平均的な女性が美しいと感じられる理由としては、平均的であるということが、当該コミュニティで失敗のない生殖を行う可能性が高いことを示している(繁殖実績が多い)と考えられるためと説明されている。

欧米における美人像[編集]

欧米社会における理想の美人像は、ヨーロッパ系の白人女性であることが多い[9][10][11]。そのことを確認する方法の一つとして、インターネットで「beauty」「beautiful wonan」などのキーワードで検索し、それにヒットする不特定多数のイメージを確認する方法がある。Google英語版の画像検索でファッション雑誌のモデル写真などを幾つか見れば、「美人」のイメージを売ることが白人女性の写真を撮ることを意味していることが多いことがわかる。また、世界最大のファッションイベントの一つであるニューヨーク·ファッションウィークの2014年のレポートによると、参加モデルの内訳は、白人82.7%、アジア系9%、黒人6%、ラテン系2%であり、白人モデルが圧倒的多数を占めており[12]、国際的なファッションウィークでは今日でもその傾向は根強い。

日本における美人像[編集]

日本の平安時代には、肌理(きめ)の細かい色白の肌、ふっくらした頬、長くしなやかな黒髪が典型的な美人の条件として尊ばれた。ただし、一定以上の身分のある女性は近親者以外の男性に顔を見せないものとされたため、男性はめあての女性の寝所に忍んで行き、ほの暗い灯火の下で初めてその姿を見るということが普通であった。化粧は、顔に白粉を塗り、眉を除去して墨で描き(引眉)、歯を黒く染める(お歯黒)といったもので、健康美よりはむしろ妖艶さが強調された。当時の女性の成年年齢は初潮を迎える12~14歳であり、30代はすでに盛りを過ぎた年齢とみなされていた。ちなみに、しばしば言及される引目鉤鼻は源氏物語絵巻等の平安絵画において高貴な人物を描く際に用いられた表現技法の名称である。六歌仙の一人である女流歌人小野小町は、当時の美人像からして絶世の美女であったとされている。

戦国時代に日本に30年以上滞在した西洋人ルイス・フロイスは「ヨーロッパ人は大きな目を美しいとしている。日本人はそれを恐ろしいものと考え、涙の出る部分の閉じているのを美しいとしている。」[13]と、当時の日本人が大きな目よりも絵巻物や美人画に描かれるような涼しい目を理想としていた様子を記している。

江戸時代には、日本では色白できめ細かい肌、細面、小ぶりな口、富士額、涼しい目元、鼻筋が通り、豊かな黒髪が美人の典型とされた(浮世絵で見られる女性は、当時の理想的な美人を様式化した作品である。詳しくは美人画を参照)。当時最も売れた化粧指南書『都風俗化粧伝』において「目の大なるをほそく見する伝」という項が存在し、目に関しては現在とは異なる美意識だったことを表している。井原西鶴の『好色五人女』には、低い鼻を高くしてほしいと神社で無理な願いことをする、との記述があり[14]、当時鼻の高さを好んだ傾向が伺える。こうした美意識は、明治時代から大正時代に至るまで美人像の基調となった。

一方で、明治時代に入ると欧化主義とそれに伴う洋装化の動きが起こり、大正時代の関東大震災後からパーマネントや断髪、口紅を唇全体に塗るなど、従来の美意識と相容れないような西洋式の美容が広まり[15]、欧米の影響を強く受けて、白人に近い顔立ちが美人とされ、白人の特徴であるブロンドや茶髪、大きな眼や碧眼(青い目)、薄い唇、高い鼻、スマートな体型などが憧れの対象となった[16]

戦後では雑誌やマスメディアを通じて化粧品やメイクに関する情報が広く共有され、白い肌[17][18]美肌・小顔・細面・大きな目・二重まぶた・細長くて程良く高い鼻・曲線美[19]・脚線美・人気のある平均身長・痩せ型など、ファッションモデル産業と密接に結びついた審美観が普及している[16]。特に印象全体に可愛さも兼ね備えている童顔の白人や白人ハーフが人気の傾向にある[20]

また、プリクラや加工アプリなどの画像加工による美の追求も盛んに行われている。その反面、容姿の美醜が従来以上に女性の幸福感を左右するようになり、こうした傾向は摂食障害や美容整形への過度の依存など、身体的・精神的健康をむしばむ新たな問題を生じている[21]

ただ、ここ最近になって外見だけにとらわれずに女性本人の印象や人間性・所作などの内面性に焦点を当てて「雰囲気美人」や「性格美人」などの言葉が最近になり派生し注目されはじめている[22][23]。反対に外見だけが秀でていても内面性がよくないと「美人」として認知されないケースもある。

日本における美人の比喩表現[編集]

日本では木花咲耶姫になぞらえて、正真正銘の美人を比喩する際に花が多く用いられる。たとえば、日本の美しくしたたかな女性たちを撫子の花に見立てて大和撫子と称する他、古来より和歌などのさまざまな場面で「花の比喩」が登場する。

花の色は移りにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに―小野小町

これは日本の文化(大和民族の文化)における伝統的美意識による発想である。たとえば金田一京助は、アイヌに「お前、桜の花きれいだと思わないか」と訊いたところ「きれいだ」と答えたので、「じゃ美人のときに、花のようだと言ったら」と重ねて問うと、「だって全然違うじゃないか。花はこんな形をしているし、顔とは全然違う」と笑われたと記している[24]

また、日本や中国では、美人を比喩したことわざ・四字熟語が多数存在

  • 別嬪 –

    「別品」(特別に良い品)から転じて美しいを表すようになり、のちに美人を表すようになった。
    「えらい別嬪」「別嬪さん」

  • 名花 – 美人を花でたとえた比喩的表現。周囲から華やかで際立って美しる女性のこと。
    「舞踏界の名花」「社交界の名花」
  • 小町 – 平安時代の美人で有名な小野小町の名が由来で、美しいと評判の名高い若い女性をいう語。
    「秋田小町」「小町娘」
  • シャン – ドイツ語のschön(美しい。の意)から美人をいう語。
    「バックシャン」(後ろ姿が美しい女性のこと)
  • マドンナ – 多くの男性からあこがれの対象となる女性。美人。
    「クラスのマドンナ」「会社のマドンナ」
  • 傾城(けいせい) – 。蠱惑的で妖艶な美人、美女。
    「傾城の美女」
  • 色女 – 魅惑的で色気のある美人、美女。
    「色女の艶姿」「婀娜っぽい色女」
  • 美人には容姿端麗、美男子には眉目秀麗。
  • 佳人薄命 – 美人は薄幸であるという意味。美人薄命、美女薄命ともいう。
  • 八方美人 – どこから見ても美人という意味から、誰からもよく思われようとする人を表す言葉
  • 明眸皓歯 – 杜甫の哀江頭で楊貴妃について書かれた表現
  • 雲鬢花顔・雲鬢花顔金歩揺 – 白楽天の長恨歌で楊貴妃について書かれた表現
  • 朱唇皓歯 – 微笑む女性の口紅と白い歯を表した表現
  • 仙姿玉質 – 仙女の様な優雅な姿と玉のように滑らかな肌を表した表現

日本における美人統計[編集]

日本国内において、特に美人が多いのは日本海側であるとする主張がある[25][26]。具体的には、秋田美人をはじめ、津軽美人、庄内美人、越後美人、加賀美人、越前美人、京美人、出雲美人、博多美人などである。

また、本州日本人と遺伝的に異なる沖縄美人は芸能界で多く活躍しており、県民自体も美人の多さを自負している傾向にある[27]

美人の呼称[編集]

注釈[編集]

出典[編集]

参考文献[編集]

関連項目[編集]