ソヴレメンヌイ級駆逐艦 – Wikipedia

ソヴレメンヌイ級駆逐艦(ソヴレメンヌイきゅうくちくかん、英語: Sovremennyy-class destroyer)は、ソビエト連邦海軍およびロシア海軍が運用するミサイル駆逐艦の艦級。ソ連海軍での正式名は956型艦隊水雷艇(ロシア語: Эска́дренные миноно́сцы прое́кта 956)、計画名は「サルィーチ」(ロシア語: «Сары́ч»、ヨーロッパノスリの意)であった[1]。完成した艦はすべて現セヴェルナヤ造船所で建造されている。

ソヴレメンヌイ級は中国人民解放軍海軍でも運用されており、中華人民共和国(以下、中国)では「ソヴレメンヌイ」(現代の、最新の)を翻訳した現代級、あるいは ネームシップの艦名から杭州級の名で呼ばれる。

設計作業は、I・ルビス主任設計官によって進められた。設計面では、先行する1134型ミサイル巡洋艦(クレスタI型)および1134A型大型対潜艦(クレスタII型)をもとに発展させたものとなっている。なお、隠顕式のフィンスタビライザーを備えている[1]

主機関も1134型・1134A型の構成がおおむね踏襲されており、ボイラーとしてはスーパーチャージャー付きのKVN-98/64型(圧力64 kgf/cm2 (910 lbf/in2)、温度500℃)、蒸気タービンはTV-12型とされており、合計出力は、最大110,000馬力 (82 MW)、定格99,500馬力 (74.2 MW)となっている[1]。また7番艦以降では、ボイラーは、信頼性を向上させたKVG-3に換装されている。

戦術・技術規則(Оперативно-тактическое задание, OTZ)において、本級の任務は下記のように規定されていた[2]

  1. 水陸両用作戦における対地制圧射撃
  2. 同作戦における火力支援・対空対水上防護
  3. 同作戦およびその他の作戦における敵艦の撃攘

この要求に応じて、本級では、防空戦および対水上戦が重視されている。なお防空については、艦隊防空を補完する艦と位置づけられていた[3]。一方、対潜戦能力は、自衛上の必要最低限とされている[1]

C4ISR[編集]

戦術情報処理装置としては、サプフィール-Uが搭載されている[1]

主センサーとなる3次元レーダーには、初期建造艦3隻ではMR-710「フレガート」を、4・5番艦では改良型のMP-710M「フレガート-M」が搭載されたのち、6番艦以降ではMR-750「フレガート-MA」が搭載された[1]

一方、ソナーとしては、捜索用としては中周波(5キロヘルツ級)のMG-335MS「プラーチナ」(NATO名「ブル・ホーン」)を艦首に装備するほか、対潜ロケット砲の射撃指揮のため、高周波のMG-7(NATO名「ホエール・タン」)も併載している。なお輸出版では、SSN-137曳航式アレイの装備も可能とされている[1]

武器システム[編集]

艦隊防空用としてはM-22「ウラガーン」を備えており、3R90「オレーフ」(NATO名「フロント・ドーム」)火器管制レーダーとMS-196単装ミサイル発射機、艦対空ミサイルによって構成されている。本級では、火器管制レーダーは6基、また単装ミサイル発射機は2基を備えている。艦対空ミサイルとしては、原型艦では9M38(SA-N-7「ガドフライ」)を用いていたが、改良型の956A型では、射程を延伸した9M38ME1(SA-N-12「グリズリー」)に換装されている。単装ミサイル発射機1基につき24発が収容されており、最大発射速度はそれぞれ毎分5発ずつである。なお、単装ミサイル発射機の旋回範囲は、艦首尾線から両舷側30度ずつに制限されているともいわれている[1]

一方、対艦兵器としては、956型ではP-270「モスキート」艦対艦ミサイル・システムが採用された。この3M80ミサイルは重量4トン級の大型ミサイルであり、4連装のKT-190発射筒に収容されて、艦橋構造物両脇に配置された。この装備要領は、1134型のURPK-3対潜ミサイル、1134A型のP-35艦対艦ミサイルと同じものであった。また956A型では、射程を延伸したP-100「モスキート-M」の3M82ミサイルに対応した、より長い発射筒が搭載された。これらのための射撃指揮装置として、艦橋直上にMR-331「ミネラル」(NATO名「バンド・スタンド」)を備えている[1]。火器管制レーダーの形式名はME1/ME2とされており、直径3.2 m×高さ4.5メートルという大型のレドーム内に、横長と円形の2つのパラボラアンテナを背中合わせに配置しており、動作周波数はLバンドとされる。アクティブ・モードでは250 km以内の50目標を同時追尾、パッシブ・モードでは450 kmまで探知可能であり、また情報処理装置は200目標を同時に処理可能とされる。またME3データ・リンク装置(NATO名「ライト・バルド」)も連接されている[4][5]

上記の通り、対潜兵器は最低限とされており、RBU-1000「スメールチ3」 6連装対潜ロケット砲2基と魚雷発射管のみを搭載している[1]

上記の要求に基づいて艦砲射撃が相応に重視されたこともあり、主砲としてはAK-130 130mm連装速射砲を2基、ダブル・エンダーに搭載している。射撃指揮には、MR-184M(NATO名「カイト・スクリーチC」)火器管制レーダーのほか、電子光学式の「スクイーズ・ボックス」も用いられる[1]

艦載機[編集]

艦中部の02甲板レベルにヘリコプター甲板が設定されている。その直前にはハンガーが設けられており、中型ヘリコプター(対潜戦用のKa-27PL、または対水上測的用のKa-25/27RT)1機を収容できるが、スペースの制約から一部が入れ子式とされており、発着時など機体を収容していない際にはこの部分を短縮させることになる。これを含めて、他のロシア艦と比して航空艤装は全体に簡素なものであり、哨戒ヘリコプターのための弾庫も設けられていない[1]

956型
1 – 13番艦。他建造中止1隻。原型。ただし、1 – 3番艦および4 – 5番艦はレーダーが異なる。
956-A型
14 – 19番艦。他建造中止1隻[6]
艦対空ミサイルを「ヨーシュ」に換装。対艦ミサイル「モスキート」を射程延長型の「モスキートM」に換装。
956-U型
21番艦以降。計画のみ。
艦後部の130 mm連装砲を廃止し、代わりに対艦ミサイル「オーニクス」の垂直発射機を搭載する改良型。

中国[編集]

956-E型
956-A型の2隻が中国海軍に売却されたもので、「ヨーシュ」ではなく、旧来型の「ウラガーン」を搭載している。
956-EM型
改「杭州」級。中華人民共和国が2001年に2隻追加発注したタイプ。
艦対空ミサイル及び艦対艦ミサイルを射程延長型に換装。艦後部130 mm連装砲塔を廃止し、近接防空システムを「AK-630」4基に替えて「カシュタン(CADS-N-1)」2基を搭載、艦中央部ヘリコプター格納庫を入れ子式から固定式への変更、など改正が施されている。
055型(南昌級) 052D型(昆明級) 052C型(蘭州級) 051C型(瀋陽級) 052B型(広州級)
船体 満載排水量 12,000 – 13,000 t 7,500 t 7,000 t近く 7,100 t 6,600 t
全長 182.6 m 156 m 154 m 155 m 154 m
全幅 20.9 m 18 m 17 m 16.5 m
主機 方式 COGAG CODOG
出力 130,000 shp以上 76,000 hp 48,600 shp
速力 30 kt 29 kt 30 kt 29 kt
兵装 砲熕 70口径130mm単装砲×1基 55口径100mm単装砲×1基
30mmCIWS×1基 30mmCIWS×2基
ミサイル 5860-2006型VLS×112セル
(HHQ-9B,HHQ-16B,YJ-18,CJ-10英語版,Yu-8英語版
5860-2006型VLS×64セル
(HHQ-9,CY-5,YJ-18)
VLS×48セル
(HHQ-9A)
B-203A型VLS×48セル
(リフ-M)
単装発射機×2基
(9M317)
HHQ-10 24連装発射機×1基 YJ-62 4連装発射筒×2基 YJ-83 4連装発射筒×2基 YJ-83 4連装発射筒×4基
水雷 3連装短魚雷発射管×2基(Yu-7)
艦載機 Z-18英語版×2機 Z-9C/Ka-28×1機 ヘリコプター甲板のみ Z-9C/Ka-28×1機
同型艦数 8隻
(2隻艤装中)
25隻
(2隻艤装中、4隻計画中)
6隻 2隻 2隻

一覧表[編集]

同型艦一覧
タイプ 艦名 起工 就役 除籍 配属 備考
956 ソヴレメンヌイ(Современный) 1976年
3月3日
1981年
1月24日
1998年
12月30日
北方艦隊 「同時代の、現代の、近代的な、最新の」。
1989年よりオーバーホールに入るがソ連崩壊後に中断
2003年6月以降解体。
オッチャーヤンヌイ(Отчаянный) 1977年
3月4日
1982年
11月24日
1998年 「絶望的な、向こう見ずの」。
2003年6月解体。
オトリーチュヌイ(Отличный) 1978年
4月22日
1983年
9月30日
1998年 「立派な、優れた」。
オスモトリーテリヌイ(Осмотрительный) 1978年
10月27日
1984年
9月30日
1997年 太平洋艦隊 「用心深い、慎重な」。
ベズプレーチュヌイ(Безупречный) 1981年
1月29日
1986年
1月7日
2002年 北方艦隊 「申し分ない、非の打ちどころのない」。
1993年よりセーヴェルナヤ・ヴェルフィにてオーバーホールに取り掛かるが財政難により工事は進まず
2002年、修理を断念して除籍。
ボエヴォイ(Боевой) 1982年
3月26日
1986年
9月28日
2010年 太平洋艦隊 「戦闘の、戦闘的な、大胆な、度胸のある」。
1998年よりシュトコヴァ17基地に係留、予備役となっていた。2020年6月25日、処分のためにナホトカ近くのコズミナ湾に移送されていた同艦は一部沈没した[7]
ストーイキイ(Стойкий) 1982年
9月28日
1986年
12月31日
1999年 「堅い、持ちの良い、不屈の、頑強な」。
除籍後シュトコヴァ17基地に係留保管されたが、同年4月8日に浸水し沈没。
後に引き揚げられ、スクラップとして中国へ売却。
オクルィリョーンヌイ(Окрыленный) 1983年
4月16日
1987年
12月30日
1997年 北方艦隊 「鼓舞された」。
ブールヌイ(Бурный) 1983年
11月4日
1988年
9月30日
太平洋艦隊 「荒れ騒ぐ、急激な、猛烈な」。2006年7月よりダーリ・ザヴォートにてオーバーホール。
グレミャーシチイ(Гремящий 1984年
11月23日
1989年
5月1日
2007年
12月9日
北方艦隊 「轟く」。建造中にヴェドゥーシチイ(Ведущий)「主動の、先導の、指導的な」から改称された。
ブィーストルイ(Быстрый) 1985年
10月29日
1989年
9月30日
太平洋艦隊 「速い、迅速な、急激な」。
1993年から2002年までダーリ・ザヴォートにてオーバーホール。
ラストロープヌイ(Расторопный) 1986年
8月15日
1990年
2月28日
除籍済 北方艦隊 「敏捷な」。
2002年からセーヴェルナヤ・ヴェルフィにてオーバーホール。
2015年解体開始
ベズボヤーズネンヌイ(Безбоязненный) 1987年
1月8日
1990年
12月28日
2016年 太平洋艦隊 「恐れを知らない、不敵の」。
1999年からダーリ・ザヴォートにてオーバーホール。
2002年、シュトコヴァ17基地に移動。
2005年、ウラジオストクに移動。
ヴヌシーテリヌイ(Внушительный) 1983年
8月30日
建造中止 「深い感銘を与える、印象的な、でかい」。唯一黒海方面の61コムナール記念工場で建造された艦。
1987年建造中止。
956-A ベズーデルジュヌイ(Безудержный) 1987年
2月24日
1991年
6月25日
除籍済 北方艦隊 「抑え難い、止めることのできない」。
1998年にオーバーホール。
2007年12月9日、グレミャーシチイに改名。グレミャーシチイの艦名はグレミャーシュチイ級フリゲート1番艦に継承されている。
ベスポコーイヌイ(Беспокойный) 1987年
4月18日
1991年
12月28日
バルト海艦隊 「びくびくした、不安な、面倒な、厄介な」。
2004年よりカリーニングラード市ヤンターリ造船所でオーバーホール。
2016年9月には博物館の展示物とする改修が開始された[8]
ナストーイチヴイ(Настойчивый 1988年
4月7日
1993年
2月5日
「根気強い、粘り強い、執拗な」。モスコーフスキイ・コムソモーレツ(Московский комсомолец、「モスクワのコムソモール員」)。より建造中に改称。バルト海艦隊旗艦。
ベスストラーシュヌイ(Бесстрашный) 1988年
5月6日
1993年
12月30日
北方艦隊 「恐れを知らない、豪胆な、勇敢な」。
2004年6月、アドミラール・ウシャコーフ(Адмирал Ушаков)に改名。
956-E 杭州(Hangzhou) 1988年
11月4日
1999年
12月25日
東海艦隊 当初の艦名はヴァージュヌイ(Важный)で「重要な、尊大な、地位の高い」。のちエカテリンブルク(Екатеринбург:「エカテリンブルク」)に改称。
建造途中(完成率65%)で中華人民共和国に売却され、1999年12月25日にサンクトペテルブルクで引き渡し後、杭州(Hangzhou)と改称、人民解放軍海軍で使用中。
福州(Fuzhou) 1989年
4月22日
2000年
11月20日
当初の艦名はヴドゥームチヴイ(Вдумчивый)で「思慮深い」。のちアレクサンドル・ネーフスキイ(Александр Невский:「アレクサンドル・ネーフスキイ」)に改称。
建造途中(完成率35%)で中華人民共和国に売却、2000年12月に回航、翌2001年1月に引き渡され福州(Fuzhou)と改称された。
956-A 20番艦[6] 1992年 建造中止 工場番号第880号艦。
工事進捗率20 %で技術的問題から作業中止。
956-EM 泰州(Taizhou) 2003年
11月15日
2005年
12月28日
東海艦隊 ロシア海軍名ヴヌシーテリヌイ(Внушительный)。
2004年7月23日進水。
2005年12月28日、サンクトペテルブルクにて中華人民共和国に引渡された。
寧波(Ningbo) 2002年
11月15日
2006年
9月8日
ロシア海軍名ヴェーチュヌイ(Вечный:「永久の」)。
建造中の2005年4月27日に火災発生、第二甲板が600平米に渡って焼失。
2006年9月28日、サンクトペテルブルクにて中華人民共和国に引渡された。

登場作品[編集]

アニメ[編集]

『エヴァンゲリオンシリーズ』
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
ヴィレ艦隊の所属艦として登場。
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』
ヴィレ所属艦として同型艦が登場。ヤマト作戦時に無人艦隊の構成艦として使用されネルフ本部を破壊する。

小説[編集]

『ピノキオ急襲』
「ビストリィ」ら数隻が日本海に展開し、海上自衛隊の第3護衛隊と睨み合いを続ける。

ゲーム[編集]

『World in Conflict』
マルチプレイなどに収録されているシアトル市街戦において、シアトル沖に2隻停泊している。砲門をシアトルに向けているが一切攻撃はしてこない。
『エースコンバット5』
ユークトバニア海軍の艦艇として登場。
『鋼鉄の咆哮シリーズ』
敵艦として登場。
『大戦略シリーズ』
ロシア、中国の駆逐艦ユニットとして組み込まれている。

外部リンク[編集]