算術級数定理 – Wikipedia

算術級数定理(さんじゅつきゅうすうていり、theorem on arithmetic progressions)は、初項と公差が互いに素である算術級数(等差数列)には無限に素数が存在する、という定理である。ペーター・グスタフ・ディリクレが1837年にディリクレのL関数を用いて初めて証明した。そのため、定理はしばしばディリクレの算術級数定理と呼ばれる。

定理の言い換えとして、

gcd(a,b)=1{displaystyle gcd(a,b)=1}

である自然数 a, b に対し、

an+b{displaystyle an+b}

(n は自然数)と書ける素数が無限に存在する、としてもよい。さらに、そのような素数の逆数和は発散し、 x以下の該当する素数の逆数の和は

(loglogx)/φ(a){displaystyle sim (log log x)/varphi (a)}

を満たす。

この定理はガウスが予想したとされるが、証明は1837年にディリクレがL関数を導入して行った。
ユークリッドによる素数が無限に存在するという定理を越えて、近代の数学が大きく進歩したことを示した。

算術級数の素数定理[編集]

公差が a である等差数列は初項を 1 から

a1{displaystyle a-1}

の間に取るときその初項が a と互いに素であるものが

φ(a){displaystyle varphi (a)}

通りある。ここで

φ(a){displaystyle varphi (a)}

はオイラーのφ関数である。これら

φ(a){displaystyle varphi (a)}

個の等差数列に素数はそれぞれほぼ均等に分布している。素数定理の拡張として、次のように書ける。

初項 b と公差 a が互いに素である等差数列に含まれる素数で、x 以下のものの数を

ディリクレが算術級数定理を証明した当時、素数定理もまだ証明されていなかったためこの形は予想に過ぎなかったが、後に素数定理と同様にシャルル=ジャン・ド・ラ・ヴァレー・プーサンフランス語版によって証明された。この定理を算術級数の素数定理と呼ぶ。

素数が無数に存在するということは古代から知られてきた事実であるが、ゼータ関数のオイラー乗積表示にも端的に顕われている。

この左辺のゼータ関数は

s=1{displaystyle s=1}

に極を持つから、右辺も発散しなければならず、そのためには無限個の素数が存在しなければならない。これに倣い、任意の算術級数に含まれる素数で構成された総和が発散することをもってディリクレの算術級数定理が証明される。

記号[編集]

以下の記号を用いる。

ディリクレ指標[編集]

整数から複素数への写像

χ:ZC{displaystyle chi :mathbb {Z} mapsto mathbb {C} }

で下記の性質を満たすものを法

d{displaystyle d}

のディリクレ指標という。

特に、

χ0(n)0{displaystyle chi _{0}(n)neq 0}

ならば

χ0(n)=1{displaystyle chi _{0}(n)=1}

となる

χ0(n){displaystyle chi _{0}(n)}

を自明な指標と呼ぶ。
正の整数

d{displaystyle d}

につき

φ(d){displaystyle varphi (d)}

個のディリクレ指標があり、それらは群を成す。ディリクレ指標には直交性がある。

ディリクレ級数[編集]

次式の形の級数をディリクレ級数という。

ディリクレ級数は、

であるから、

an{displaystyle a_{n}}

が有界であれば

s>1{displaystyle Re {s}>1}

s>1{displaystyle Re {s}>1}

n=NManns=n=NMm=1nam(1ns1(n+1)s)m=1N1amNs+m=1Mam(M+1)s{displaystyle sum _{n=N}^{M}{frac {a_{n}}{n^{s}}}=sum _{n=N}^{M}sum _{m=1}^{n}a_{m}left({frac {1}{n^{s}}}-{frac {1}{(n+1)^{s}}}right)-sum _{m=1}^{N-1}{frac {a_{m}}{N^{s}}}+sum _{m=1}^{M}{frac {a_{m}}{(M+1)^{s}}}}

であるから、

an{displaystyle sum {a_{n}}}

が有界であれば

s>0{displaystyle Re {s}>0}

s>0{displaystyle Re {s}>0}

ディリクレのエル関数[編集]

ディリクレ指標

χ{displaystyle chi }

によるディリクレ級数で定義される関数をディリクレのエル関数という。

右辺のディリクレ級数は

s>1{displaystyle Re {s}>1}

χχ0{displaystyle chi neq chi _{0}}

であれば、指標の直交性により

|χ(n)|φ(d){displaystyle left|sum chi (n)right|{leq }varphi (d)}

であるから、

L(s,χ){displaystyle L(s,chi )}

s>0{displaystyle Re {s}>0}

L(s,χ0){displaystyle L(s,chi _{0})}

については、法

d{displaystyle d}

と素な素数

q{displaystyle q}

を任意に選び、

とすると

|bn|qφ(d){displaystyle left|sum {b_{n}}right|{leq }qvarphi (d)}

であるから、

Q(s){displaystyle Q(s)}

s>0{displaystyle Re {s}>0}

L(s,χ0)=Q(s)1qqs{displaystyle L(s,chi _{0})={frac {Q(s)}{1-{frac {q}{q^{s}}}}}}

s=1+2πin/logq{displaystyle s=1+2{pi }in/log {q}}

に高々位数1の極を持つことを除き

s>0{displaystyle Re {s}>0}

χ(n1)χ(n2)=χ(n1n2){displaystyle chi (n_{1})chi (n_{2})=chi (n_{1}n_{2})}

により

は少なくとも

1<s<2{displaystyle 1

で絶対収束するから、和の順序を交換してテイラー級数

が得られる。テイラー級数は収束円内で絶対収束するから、その収束円の半径を

r{displaystyle r}

とすると、和の順序を交換した左辺のディリクレ級数も

|2s|<r{displaystyle |2-s|

で収束する。しかし、

s=1/φ(d){displaystyle s=1/varphi (d)}

を代入すると、

となって発散する。従って、

r<2{displaystyle r<2}

である。

|2s0|=r{displaystyle |2-s_{0}|=r}

となる特異点

s0{displaystyle s_{0}}

があり、

は発散する。仮りに

s00{displaystyle Im {s_{0}}neq 0}

であるとすれば、

であるから、

logλ(s0){displaystyle log lambda (s_{0})}

が発散するためには

logλ(s0){displaystyle log lambda (Re {s_{0}})}

が発散しなければならない。しかし、

s0{displaystyle Re {s_{0}}}

は収束円の内部にあるから

logλ(s0){displaystyle log lambda (Re {s_{0}})}

は収束する。従って、

s0=0{displaystyle Im {s_{0}}=0}

である。

k,ck0{displaystyle forall {k},c_{k}geq 0}

であるから、級数が収束するかぎり、実軸上では

logλ(s)0{displaystyle log lambda (s)geq 0}

であり、

λ(s)1{displaystyle lambda (s)geq 1}

である。従って、

λ(s0){displaystyle lambda (s_{0})}

は極でなければならず、そのためには

s0=1{displaystyle s_{0}=1}

であり、

L(1,χ0)={displaystyle L(1,chi _{0})=infty }

であり、且つ、他は全て

L(1,χ)0{displaystyle L(1,chi )neq 0}

でなければならない。

算術級数定理の証明[編集]

d,k{displaystyle d,k}

を互いに素な整数とするとき、算術級数

dn+k{displaystyle dn+k}

が無数の素数を含むことを示す。エル函数のオイラー乗積表示の対数を取り、